第35話 光の魔法(挿絵有り)
「学園ヲ、マ……守らなケレ、バ……。ヴ……ゥ」
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
サフラン生徒会長の体に横線がビリビリ入って、昭和の古いテレビみたいになってる!
これ、ヨド先生の時と同じ!!
『また、プログラムのバグですわね』
ティア――――――!!
……は、ヘンリー王子と一緒に、先生に呼び出されたんだった。ヨド先生のときはティアが浄化してくれたのに、いない!!
うぅ……。
ダメ元で、1度だけティアを真似て、光の妖精を喚び出せるかやってみよう。
光の魔法を使う時、ティアはどうしていたっけ?
思い出せ、思い出せ……。
大きな声でも、可愛い声でもなかった。かすれても、強くもなく、強弱でもなくて……。
そうだ! 綺麗だった!!
語尾が跳ねたり伸びたりしてなかった。うねってもいなかった。
“本当にそれを心から願っている”
そういう喋り方だった。
スタンダードな話し方……「。」までの一文を緩やかな山のように話す――。
『待ちなさい。
あなた今、「“本当にそれを心から願っている”そういう喋り方だった」と言いましたわ。
なら、心から願って言えば良いのではなくて?』
頭の中でロザリーの声が響いて、私の思考を中断させた。
それはね、ロザリー……。
天才がすることなのよ!
『そ、そうなんですの!?』
“心から演じればいい”
それは、そう。
もちろんそうする。
……けど!!
“心からそう演じているのに他の人にそう見えない”
ということもあるのよ!!
演じている人を《《よく》》知っていれば、まさに〔心から〕に見えるけど、知らない人から見たら〔どっちなのかな?〕と取られる事が……!
だから、どう見えてほしいかのイメージも大事なのよ。
……って、説明しながら泣けてきた。
そう。
私は天才ではないので、全てを感情だけでこなせなかった。だから、感情表現の他に〔そのように聞こえる言い方〕も考えてたわ。
それにしても、普通に生活してて語尾をキレイにしゃべるなんて、そうそうない。ティアって凄いわね。さすが聖女!(まだ聖女認定されてないけど)
今回はナレーションの基本に近い話し方……。
ストレートナレーションってね、結構お腹使うの。力の加減を間違えたら、語尾が干からびた声になっちゃう。
私は息を吸いながら、お腹の中の内臓を浮き輪状態に回りによせた。それによって出来た隙間に、丹田を引っ張る!(こうすると肺が下に広がってたくさん空気が入るの。たまに「腹に空気を入れろ!」って聞くけど、お腹に空気は入らないのよ。イメージとして伝わりやすいからそう言うだけ)
よし、息は吸った!
お腹の緊張をキープ!
最初の音が肝心。
日本語は基本、話し始めは〔ド〕から〔ミ〕に音が上がる。(西日本は〔レ〕からだったかな?)この〔ド〕の音をしっかり取らないと、語尾がブレるから最初の音〔ひ〕に気をつけつつ……
〈《光の精霊よ……》〉
そして、さらに、ここからが大変。
〔この者を癒やせ〕の〔このものを〕は同じ母音(「あいうえお」ね)が続いてる部分がある!!
ローマ字で表すと、
〔Konomonoo〕
「を」は〔wo〕とは言わなくて、発音するときは「お」〔o〕。だから〔o〕が二つ続いてる。
今回みたいに同じ母音が続くと、後の母音の方がフワ〜ってなりやすく、聞き取りにくくなるのよ。(実際の現場でダメ出しされるときは、「今、ちょっと音が甘かったですね〜」というふうに言われたりするわ)
フワ〜っとなってしまったり、だらしがなく聞こえたり、「ぐしゃっ」としたように聞こえたりして、単語によっては音がしっかり聞こえなかったせいで言葉が変わって聞こえたりする。
それをふせぐために、あとの方の母音を発音するとき、お腹をさらに一段階下げると聞こえやすくなるの。
(今回は気をつける程度でいいんだけど、「その重さ」〔sonoomosa〕とか、前の単語から次の単語の頭に〔o〕続く時に特に注意が必要よ)
「あいうえお」の中で、「お」が一番腹筋使うの。
だから、〔者を〕の部分に気をつけつつ、続きを唱える!!
〈《……この者を……》〉
そして、ここから先はキレイに語尾を落とすため、さらにお腹を落としていく。下におろすにも限界があるので、お腹の下を通って後ろに引っ張るような感じで、グ〜ッ、って落としていくわよ。
〈《……癒やせ!!》〉
短い文章なのに、色々と気を使ったわ!!
私、頑張った!
頑張ったから、光の精霊よ出てきて!!
出てこなくてもいいから、魔法を発動させて!!
サフラン生徒会長が、黄緑色の何かに乗っ取られるのを止めて!!!!
『ちょっ……、ちょっと待って。
あなたが全力で魔法を発動させようとしたとき、今までろくなことにならなかった気が――――』
ロザリーが何かに気付いたとき、私のすぐ後ろの地面から光があふれ出した。
後ろからなのに、光が強くて眩しい。
何とか振り向いて見てみると、地面から〔紫色の髪〕の大きな頭が出てくるところだった。
不気味!!
見てはいけないものを見た気がした。
悪魔!?
悪魔なの!?
悪魔が出てくるの!?
怖いよ――――――――!!!!
『やはり、ろくな事になりませんでしたわね。
今度は【悪魔】ですの?』
うぅぇぇぇぇぇぇぇん!
そうは言っても仕方ないじゃない!!
ロザリーと、頭の中でパニックになっていると、【紫の悪魔】にしか見えない巨大な何かが地面から出てきた。三階建の校舎と同じぐらいの大きさ。でかい!
キレイな女性の姿なのに、全身〔紫〕!
光の妖精を喚び出そうとしたのに、【悪魔】が来るなんて!!
《闇ノ、属性ノ者ガ、私ヲ喚ビ出ストハ……》
「しゃべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
しかも、何か不機嫌!
『言葉が通じるなら、話は早いですわ!
まずは、サフラン生徒会長に取り付いた黄緑色の何かを取り除いてもらいなさい!!』
は! そうね!!
急がないなと、ヨド先生の時みたいに黄緑色の炎で燃やされちゃう!
あの時は、皆がいたから助けてもらえたけど、今回は一人!!
私は叫んだ。
「あの!
生徒会長に取り付いた〔黄緑色の何か〕を取り除いてもらえませんか!?」
すると、巨大な【紫の悪魔】は、静かに目を私の方に向けた。
う……、視線を向けられただけで怖い。
《良イデショウ》
そう言って、悪魔はサフラン生徒会長を両手で包み込んだ。それはとても美しい動きだった。
悪魔の手の中が紫に輝き、悪魔が手を広げると生徒会長の体の中から、黄緑色のモヤが出て来て空に飛んでいった。
『燃やしなさい!!』
そうね、ロザリー!
また誰かに取りつかれては困るもの。
全力でいくわよ!!
〔火の魔法〕は大きな声!!!!
〈《燃え上がれ! 炎よ!!》〉
思いっきり叫んだら、広がり始めた黄緑色のモヤを〔紫の炎〕が「ボゥワン!!」と燃やし尽くした。
それは、打ち上げ花火を失敗したら、こんなふうになるのかな? というような、いびつな燃え方だった。
「……やった」
ロザリーの仇、討てたよ……。
少し息を切らしながら、達成感に浸っていると、巨大な【紫の悪魔】が言った。
《本来、私ハ〔光ノ精霊〕ナノデ、金色ニ輝ク精霊デス。
ナノニ紫ニナッテシマッタ……》
あ……【悪魔】じゃなくて、〔光の精霊〕だったの!?
私が魔法を使うと全部、紫になる……。そんな私が喚び出したから、体が紫に光って【悪魔】のようになってしまったのね……。もうしわけな……!!
ここで私はあることに気がついた。
「あ――――!!
あなた、前にティアがよんだ〔光の精霊〕じゃないの!!
あの時はありがとう。
そして、今も来てくれてありがとう」
ティアが喚び出した時は白い服だったのに、紫になって、他にもアクセサリーとかの色が濃い紫に変わっててイメージが凄く変わった。
前に助けてくれた精霊だなと思ったら、何だか気が抜けた。
《私モ女デアルガ故、タマニハ色ガ変ワルノモ悪クナイ。
コノ辺モ綺麗ニシテアゲマショウ》
「この辺? この辺ってどこ?
特に散らかったり、汚れたりはしてないと思うけど……?」
もしかして、少し離れた所にあるサフラン生徒会長が壊したプリンセス馬車のことを言ってるのかな?
悪魔にしか見えない〔光の精霊〕は、私の言葉に返事をすることなく飛んで行った。
すると……、
ズサァァァァァァァァァ!!
ゴーレムがまるで引きずられるように浮かび上がった。その後を追って、水の精霊もついて行っている。
《皆サン。行キマスヨ》
紫色の〔光の精霊〕は、《マタ呼バレテモイイ……》と言い残して、〔水の精霊〕と〔ゴーレム〕を連れて飛んでいった。
イメチェン出来て嬉しかったみたい。
精霊も女の子なのね。
「ついに【悪魔】を呼び出したぁ!!」
「【暗黒令嬢】ひぃえぇぇぇ!」
「【悪魔】さえも味方につけるなんて!!」
木の影から生徒が何人か現れ、叫びながらこの場から逃げていった。
ね、皆、話を聞いてたでしょ?
今のは〔光の精霊〕よ。【悪魔】じゃないわよ。
と、思いつつ、訂正するのは諦めた。
もう、慣れたわよ。
この誤解ラッシュにね。
ため息をついていると、サフラン生徒会長が目を覚ましていた。
「なるほど。
こうやって誤解されていったのか」
「え?
生徒会長、記憶があるのですか?」
黄緑色のモヤに取りつかれてたのに、意識があったの?
「あれだけ強烈な事が起こればね。
上級生だって、精霊に会う機会は無いんだ。
ましてや、精霊と会話をするなんて、初めて聞いたよ」
理解者が現れた!
何て嬉しい事なのかしら!!
私の胸は踊った。
「助けてくれてありがとう。
そして、すまなかった。
剣を持ってない女性に、剣で決着をつけようなどど、紳士としてあるまじき行為。しかも、君が剣が苦手と聞いていながら……だ」
「いえ、誤解が解けて良かったです」
攻める気にはなれなかった。
黄緑色のモヤに取りつかれたせいかもしれないもの。パーティーでのサフラン生徒会長はまともそうな人だった。
「皆の誤解も解いてあげたいけれど、紫に光る〔光の精霊〕に魔法をかけられた僕の話を誰も信じてはくれないかもしれない」
「……そうですね。
きっと、“悪魔に洗脳された”って皆は言うでしょうね」
その光景が簡単に想像できて、気が滅入った。
でも……
「いいですよ。
誤解だと知ってくれてる人がいるだけで、心強いですから」
「〔光の精霊〕は魔法の技術だけじゃなく、〔光の妖精〕と心を通わせる人物でないと喚び出せない。
君が邪悪な人間ではないと、今回のことでよくわかったよ」
え! そうなの!?
私、光の妖精と心なんて通わせてないけど?
まさか、毎回夢に出てくるあの妖精!? こ……心は、通わせられてるのかしら……?
「宮廷魔法騎士のこと、考えてから断ったんだな。
今回はロザリーの奇抜な戦い方と、女性だからということで君を甘く見ていたが、次は負ける気がしない。君は腕力が足りない。
魔法騎士とはいえ、〔騎士〕は、やはりある程度の腕力が必要だ」
「あはははは……。
ご理解いただけてよかったです」
サフラン生徒会長の誤解がとけて良かった。会うたびに目くじらをたてられては、疲れそうだもの。
「では、誤解が解けた所で……聞きたいことがあるのですが……」
私はサフラン生徒会長の機嫌をうかがいながら聞いた。言いにくいけど、これだけは言わなければならない。
「うちの馬車の修理代金。
サフラン生徒会長に請求してもいいですか?」




