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悪役令嬢にとりつかれました!  作者: 葉桜 笛
恋の罠

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38/92

第34話 受け流し(挿絵有り)

 私はプリンセス馬車の部品を両手でにぎり、かまえた。


 ゆるやかな曲線きょくせんをえがいた白いぼうの先を、サフラン生徒会長の喉元のどもとの高さに合わせる。

 そして、全身の力をき、すぐ動けるようにかかと半紙はんしが一枚入るぐらいかし、足の親指のけ根あたりに体重をかけた。

 さらに、前後左右どちらにも移動いどうしやすいように、ひざゆるく。こしを落ち着かせて、上半身の体重をしっかり腰に乗せる。

 肩の力は特にき、ぼうにぎるのは右手が上、左手が下。薬指くすりゆび小指こゆびで棒をにぎる。親指、人差し指、中指はぼうるときに力を入れるので、今は軽くそえるだけ。

 まばたきの回数をらすため、目は半目はんめ。冷静に対応できるように、呼吸を落ち着かせる……。




「ちょっ……、ちょっと待て!

 素人しろうとに見えないかまえなんだが、剣は苦手なんじゃなかったのか!?」




 何故なぜかサフラン生徒会長があわてだした。「剣で勝負」と言い出したのは会長の方なのに、なぜおどろいているのだろう?




「はい。()()き方がよく分からないし、重そうなので苦手です。1キログラムなら、私もれますけど……、それ以上の重さですよね?

 それに、両刃りょうばの剣は、り上げたときに自分を切ってしまいそうで怖いです」




『あ、あなた、剣を使えますの?』



 頭の中のロザリーまで、おどろいている。

 私が使えるのはかたなだけどね。


 なかなか声優事務所に所属できなかったころ、『大人のきがりないのかな?』と思って習ったの。それがやくにたったかと言われると、よくわからない。今、役にたちそうだから、習ったのが無駄むだにならなくて良かった。


 ……でもね、ロザリー。

 仮想の敵をたおす練習だけしかしてないの。



『と、言いますと?』



 “敵がこう仕掛しかけてくる”と想定したかたを習っただけで、実際じっさいに人と戦う〔実践じっせん〕は初めてなの。

 死んだらゴメンね? ロザリー。



『!!!!!!!!!!

 何を言ってますの! 頑張がんばりなさい!!

 せっかくクッキー対決を生きのびたんですのよ!』



 ……。

 私が練習で使ってた模擬刀もぎとうは900グラム。1キロもれるけど……、サフラン生徒会長の剣を見て? 2キロはありそう。力では負ける。 

 女性がれるのは、だいたい700グラムと聞いたから、900グラムの刀でも私は頑張がんばってると、当時は思ってた。


 う”……。


 稽古けいこを受けてると、腕撓骨筋わんとうこつきんあたりが盛り上がって、ゴツいうでになるのが嫌だなんて思ったりせずに、1キロの刀で練習すればよかった。



『いざとなったら得意とくいの〔火の魔法〕で、あたり一面いちめん火の海にして逃げるのですわ!』



 ロザリー……。

 そんなことしたら、私も逃げられないんじゃないかしら?


 私は勇気を持ってかまえを一度()いて、右を向いて正座した。

 校内とはいえ、道の真ん中に座ったので、ロザリーもサフラン生徒会長も驚いたみたい。




「これから戦おうというときに、あらぬ方を向いて座り込むとは、バカにしてるのか!!」


『どうして突然とつぜんあきらめるんですの!?』




 あきらめてない。

 プリンセス馬車のかたきは必ずとる。


 私は集中した。

 白いぼうを持った左手をおヘソのあたりにもっていく。右手は白いぼうに軽く手をかけ、いつでも抜刀ばっとうできるように。

 背筋せすじはまっすぐ。正座していてもすぐ立てるように、つま先に少し力を入れ、肩の力をく。

 



「よくわからないが、それが君のかまえだと理解した。ならば、私も真面目まじめに攻撃を開始しようじゃないか!!」




 そう言って、サフラン生徒会長が剣をりかぶって、まっすぐにろしてきた!




『逃げなさい!』というロザリーの言葉を無視して、私は振り下ろされてくるサフラン生徒会長の剣に向きをかえた。




 行くわよ! 古流こりゅう、〔受け流し〕!!




 なるべく相手の剣を引きつけてから、体を左に回転させる流れで左足を素早すばく立てつつ、足に力を入れ、一気いっきに立ち上がる!!

 右手はサフラン生徒会長に向かってきだす!




『きゃぁぁぁぁぁぁ!

 右手が切られてしまいますわ!!』




 大丈夫よ。ロザリー。

 このわざうでをのばすのに勇気がいるけど、力がいらない技なの。


 私はサフラン生徒会長の剣を、右手から8センチぐらい離れた部分で受け、その剣をそのままななめ下にすべらせた。

 私の体の左側で、サフラン生徒会長の剣が〔白いぼう〕を滑り落ちていく。「シュャャャャャャャャッ!!」と、金属が木を滑り落ちていく高い音が左耳近くで聞こえて、背筋せすじがゾクッとした。





 おもいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!





 このわざならった時、「力のいらない殺傷力さっしょうりょくの高い技です」って聞いたのに、重たい!!

 こんなの片手でさばけないと心の中でなげきつつ〔白い棒〕をさら垂直すいちょくにして、相手の力を流しやすくした。





 重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い重い!!




 白い木の棒が手から離れそう!

 ほんのわずかの時間なのに、サフラン生徒会長の剣を受けて流すのが長く感じた。




「スパンッッ!」




 サフラン生徒会長の剣が〔白い棒〕をすべり落ちて、木から離れたとたん私の右腕がとても軽くなった。剣が〔白い棒〕から離れた反動で、〔白い棒〕が「フワッ」とを描きながらね上がる。

 右腕だけでなく、私の体も軽くなった感じがした。


 ここからは、サフラン生徒会長の力を使ってね上がった〔白い棒〕を、ただ冷静にり下ろすだけ。


 背筋せすじはまっすぐ。上半身の体重は腰にしっかり乗せる。あごを引いて、目は半目はんめ



 私は両手の親指、人差ひとさし指、中指に少しだけ力を入れて方向転換ほうこうてんかんさせ、〔白いぼう〕をり下ろした。






 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 サフラン・クロッカスは、剣をかまえたまま驚いていた。“【暗黒令嬢】は剣を使えない”と書紀のクロノ・レンジは言っていた。

 しかし、今、【暗黒令嬢】ロザリーは、少しがった白い棒をまるで剣のように持ち、かまえている。何となくそれっぽいかまえなどではなく、これから戦うために集中しているかまえ。予想外の事態じたいあせった。




「ちょっ……、ちょっと待て!

 素人しろうとに見えないかまえなんだが、剣は苦手なんじゃなかったのか!?」


「はい。()()き方がよく分からないし、重そうなので苦手です。1キログラムなら、私もれますけど……、それ以上の重さですよね?

 それに、両刃りょうばの剣は、り上げたときに自分を切ってしまいそうで怖いです」




 貴族令嬢が、自分がれる剣の重さを知っている。サフランは、この事にとても驚いた。

 クラスメイトを使って、架空かくうの“恐ろしい生徒”を作り出し、魔法学園を思いのままにあやつろうとしているのだと思っていたが、それはちがうのかもしれない。



(剣を“使える”“使えない”ではなく、“れる”“れない”で話している。そんな言い方をするのは、稽古けいこをつけてもらったことがあるからにちがいない)



 勝負と言っても、ちょっとロザリーの喉元のどもとに剣を寸止すんどめさせれば、すぐにけの皮をがすと思っていた。

 これは真剣に勝負をしなければと、気持ちを切りえようとしたところで、突然とつぜんロザリーがかまえをといて座った。しかも自分とは全然違う方向ほうこういて。


 これにははらがたった。


 命をかけた戦いではないにしろ、勝負ごとである。

 敵を前にして、どこを向いているんだと思った。

 よく見れば彼女はとても集中しており、勝負を放棄ほうきしたわけでもなさそうだったので、さっさと終わらせることにした。



(ロザリーが剣の経験者だろうが問題ない。

 私はアイザック様のような宮廷魔法騎士になるため、剣の修行もしている。

 ごちゃごちゃ考えたりなどせず、彼女の喉元のどもとで剣を寸止すんどめさせれば全て終わりだ)



「よくわからないが、それが君のかまえだと理解した。ならば、私も真面目まじめに攻撃を開始しようじゃないか!!」




 りかぶった剣をぐにおろす。



(これで終わりだ!)



 すると、ロザリーが〔白い棒〕を持った手をこちらにき出してきた。



剣先けんさきでなく、こぶしの方を私に!?)



 これには驚いた。



(彼女には恐怖心がないのか!?

 まさか、ロザリーは【暗黒令嬢】だから、みずからのこぶしをも犠牲ぎせいにして、勝利をようとするのか!!!!)



 予想外のロザリーの行動に困惑こんわくしたとき、サフランの剣がロザリーの〔白いぼう〕をすべり落ちていった。

 


挿絵(By みてみん)



(正面から剣を受け止めずに、私の力を外に流してかわすのか!)



 大勢を立て直そうにも、この〔白いぼう〕はよくすべって立て直せなかった。「シュャャャャャャャャ」っと剣が下にすべり落ちて、白い棒から離れた途端とたんガクッと体がぐらついた。

 ふと見上げると、りかぶったロザリーが見えた。

 太陽が背にあるため、顔が影になりとても不気味に見えた。目がするどく光っているようにも見える。

 振りかぶった〔白い棒〕は、何の躊躇ためらいもなくり落とされた。




(切られた!!)




 ロザリーが持っているのは剣ではなく、ぼうなのにそう思った。

 実際じっさい、〔白い棒〕はサフランの右の首元くびもとから左脇腹ひだりわきばらまで、ななめにすべっていった。




「ガッガガガガガガガリガガガガガガッッッッ!」





(私を殺す気だ!!!!!!!!)





 死んだと思った。

 実際じっさい、ロザリーが手にしているのが〔白いぼう〕でなく、剣だったら確実に死んでいた。 



(私と同じように、寸止すんどめをしろとはいわない。私の体のどこかに当たれば、ロザリーの勝ちじゃないか。なのに彼女は体に当たっただけでは手を止めなかった)



 ――――――キケン。




さやから剣を抜くということは、命をかけるということですよ?

 ぼうを持った相手に、剣で向かってくるなんて卑怯ひきょうな事をしておいて、何を驚いているのです?」



 何かをさっした彼女がそういった。

 彼女が言うことはもっともだった。

 だがこちらは元々《もともと》本気で戦う気はなかった。寸止すんどめでおどせば終わりと思っていた。

 絶対に彼女を傷つけない自信があったから、おたがいが何を手にしてても大差たいさないと思っていた。


 ――――――――カノジョハ、キケン。



 しかし、女性が〔白い棒〕で、剣を持った男性と戦わねばならなくなると、あきらかに不利ふり

 必死になるのもわかる。


 ――――――――キケン。



 だけど、白い木の棒をりかぶった彼女が不気味ぶきみに見えて、確かに【暗黒令嬢】だなと思った。



 ――――――――学園ニ、危害ヲ加エル可能性。



 頭が……、痛い…………。






 学園ノ平和ノタメニ、彼女ヲ排除ハイジョスル。





 サフランの頭の中に声が響いた。

 頭が痛い。

 そう言って頭をかかえると、体が〔黄緑色の光〕につつまれた――――――――。


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