第33話 嘘でしょ!?(挿絵有り)
ラーチ先輩に落とし物を渡したし、さぁトイレに行こう。
クルッと向きをかえて、登ってきた階段を降りようとしたとき、聞き慣れない声がした。
「み、見つけたぞ! 【暗黒令嬢】!!」
振り向くと、知らない男子生徒がへっぴり腰で私を指差している。その斜め後ろにいた男子生徒を見て驚いた。
昨日のパーティーで出会った、宮廷魔法騎士志望のサフラン先輩! ヨド先生とアイザック先生のことを、めっちゃ尊敬している人だ!
「昨日と髪型が違うが……ロザリー?
嘘だろう? まさか、君が【暗黒令嬢】だったのか……?」
クラスの人にはそう言われるけど、私は〔暗黒な人〕ではありませんと説明しようとしたら、サフランさんの斜め前にいる人が、力説しだした。
「サフラン生徒会長! ヤツこそが、登校1日目にして学園の木という木を燃やし尽くし、2日目には校庭を〔毒の沼〕に変え、更に一部の生徒に〔人体実験〕をした【暗黒令嬢】です!!」
酷い言われよう。
改めて自分のウワサを聞いてみると、「誰がそんな話を信じるの?」という、大袈裟な内容だと思った。
「何度聞いても信じられない。
本当にロザリーが一人でそんなことを?」
驚くサフラン生徒会長。
そうでしょ? おかしいと思うでしょ?
普通、女の子が一人でそんなこと出来るわけないですよね?
サフラン生徒会長は、もしかしたら変なウワサを消してくれる、よき理解者になってくれるかもしれない!
期待で胸が高まった……のに、あの男子生徒、更に力説した。
「間違いありません!
ヤツの悪逆非道ップリに、あの温厚なヨド先生が激怒し、自ら【暗黒令嬢】を葬ろうとしたのです!!」
「いや、だが、ロザリーがそんな事をするとは思えない……。
でも、私が調べて回っても、皆、君と同じ事を言う……」
「そうでしょうとも! 真実なのですから!!
ヨド先生に燃やされた【暗黒令嬢】は、復讐のため、地獄の底から舞い戻って来たのです!
しかも、この国の王子であるヘンリー様を惑わした恐ろしい女!! 次はいったい何を企んでいるのかわかりません!
気を付けて下さい!!」
言いたい放題……。
そんなの、真実なわけないじゃない。
それに、事実が歪められている。
これは一つずつ説明をするしかないわね。
「学園の木を燃やし尽くしたと仰いましたけど、校庭以外の所は燃えてないじゃ……」
「「「暗黒令嬢ロザリー様に何の用ですか!」 」」
誤解を解こうとした私の前に、クラスメイト数名が集まった。たぶん、たまたま通りかかったんだと思う。
サフラン生徒会長はショックを受けていた。
「ロザリーが【暗黒令嬢】……。
パーティーでの人柄の良さに騙される所だった」
せっかく、あとちょっとで誤解が解けそうだったのに……!!
「だが、1人で学園の木を燃やし尽くしたり、校庭を〔毒の沼〕に変えるなど出来るはずがない」
そうです! サフラン生徒会長!!
出来るはずがありません!
やはり、この人はわかってくれそう!!
「大方、クラスメイトに手伝ってもらったのだろう。“地獄の底から舞い戻った”というのは狂言だ。
クラス一丸となって【暗黒令嬢】という人物を作り出して盛り上がっているのだろうが、イタズラが過ぎる。
もう、やめたまえ」
その推理間違えてる!!
けど、それで良い!
この際それで良いから、皆が私を【暗黒令嬢】と呼ぶのを止めさせてください!!
と、私は心の中で願った。
その時、
「「ロザリー様は狂言など仰いません!」」
今度は下の階からマリーとスピカが現れた。
優しさからくる言葉なんだろうけど、今じゃない。今はやめておいて。
っていうか、一人足りなくない?
「あれ? ティアは?」
「ティア様とヘンリー様は、お手洗いを出た所で『近々行われる野外実習について、確認しておきたい事がある』と先生に呼び出されました。
お二人の護衛の方々もついて行きました」
あ、マリーとスピカの中では、ゼアはティアの護衛という認識のままなのね。
それより、ヘンリー王子にも会ったのか。男性はお手洗い早いものね。
「お二人と別れた後に、上の階からロザリー様の話し声が聞こえたので、急いでまいりました」
「この人達、ロザリー様をウソつき呼ばわりするなんて、許せません!!」
この二人、絶対、話を全て聞いてない!
信じてくれるのはありがたいけど、そうじゃない。
今までの話の流れで、私が“ウソつき”ではないとするならば、私は〔学園の木〕を燃やし尽くし、校庭を〔毒の沼〕に変え、一回死んだのに〔地獄〕の底から舞い戻ってきたってことになる!!
「マリー、スピカ、ちょっと待っ……」
「ならば、ロザリーの力、見せてもらおう!
出でよゴーレム!!」
サフラン生徒会長が叫んだ。
え?
この学園って二年制なんだけど、二年になると〔ゴーレム〕出せるの?
私のクラスは、まだ〔水の魔法〕使えない人が多いわよ? 〔火の魔法〕だって、使えても小さい炎の人ばかりよ? まだその程度なのよ? 1年たったら、めちゃくちゃ成長するの!?
ヨド先生! どんだけ魔法教えるのウマいのよ! そりゃ、サフラン生徒会長も尊敬するわよ!!
『この魔法学園に、他国からも生徒が来る理由の一つがそれですわ。伸びない人は伸びないけれど、伸びる人はとことん伸びますの』
ロザリー、ご説明ありがとね!
校舎の外で「ボコボコ」と土が盛り上がる音が聞こえてるんだけど、出るの? 出るの!?
ゴーレム出るの!?!?
微かな地響きと、「ボコボコ」いう音に嫌な予感がした。すると、窓の外に三階建の校舎と同じぐらいのゴーレムが現れたので驚いた。
「そっちがそうくるなら! 私達も呼ぶわよ!!
スピカ!」
「えぇ! マリー!」
マリーとスピカは目配せをすると、〔水の精霊〕
を呼んだ。
「「出でよ! 水の精霊」」
すると、校舎の外のゴーレムの近くに、またまた同じぐらいの大きさの精霊が現れた。
水でできた体をもつ、女性の姿の精霊。
私がヨド先生に焼かれた時、マリーとスピカが喚んだ〔水の精霊〕……。
本当にデカいわね。
校舎ぐらいのゴーレムと水の精霊が向かい合っている。校舎の中から見てるから安心して眺めていられるけど、激しい戦いになりそう。
コの字型の校舎の外側に二体。内側だったら他の生徒も気付いて大騒ぎね。
「サフラン生徒会長!
私は会長の出したゴーレムと共に【暗黒令嬢】の手下の相手をしますから、会長は剣で【暗黒令嬢】を倒してください!」
「わかった。
暗黒令嬢ロザリー、勝負だ!」
私が〔ラスボス〕みたいな空気やめてよね。
しかも、私は状況がよくのみこめないでいるのに、マリーとスピカは「キリリ」とした顔をしている。
「ロザリー様! おまかせください!!
ゴーレムと生徒会の手下の男は、私とスピカとクラスの皆で相手します!」
「え? マリー……?」
「ロザリー様は、ボス同士の戦いに集中してください!」
「ス……スピカ!?」
何故生徒会と戦わないといけないのか、よくわからない。なのに、クラスの皆も「さ、早く!!」と言ってせかす。確かに急がないなとお昼休み終わっちゃうけども……。
サフラン生徒会長に「校庭でゴーレムと精霊が戦うだろうから」と、校門から校舎までの広い道で戦おうと提案されたので、校門の方に移動した。
すると、遠くにロザリーの白い馬車が見えた。
曲線を多く取り入れた、まるでお伽噺のヒロインが乗るようなプリンセス馬車。
今日はヘンリー王子の馬車で来たけど、念の為迎えに来てくれたみたい。そのまま、馬車の待機場に向かってる。
あ、この際どさくさに紛れて早退するのもアリだね。この戦い意味がないもの。
「お前の相手は私だ!
暗黒令嬢ロザリー!!」
サフラン生徒会長が剣を抜きながら、私を呼び止めた。
「話に聞いた所、剣は使えないそうだな。
せっかく、あのアイザック様から宮廷魔法騎士に勧められたのに、剣が使えないから断るような根性なしに私は負けない!」
「誰から聞いたの!? その情報!!
その話をしていたとき、私達以外は他に誰もいなかったのに!
しかも、相手の苦手な分野で勝負しようだなんて、男として最低ですよ!」
「生徒会には優秀な者がいるのだ。
それに君は、クラスメイトを使う詐欺師じゃないか!
卑劣な手を使う者に、正々堂々《せいせいどうどう》と向かうわけがないだろう!!」
丸腰の相手に剣を抜くなんて、最悪だ。
サフラン生徒会長と話をしても無駄。
さっき、校門の所にロザリーの白い馬車が来てたのを見つけたし、全て無視して帰ってはどうかしら? とチラッと馬車の方を見たら、風が刃のようになって飛んできて、私をすり抜けていった。
「どこへ行くんだ! ロザリー!!」
サフラン生徒会長が〔風の魔法〕を使ったみたい。あてる気はなかったみたいだけど、危ないわね!
『そうでもないみたいよ?』
?
ロザリー。何を言ってるの?
私、あたってないよ?
ロザリーが何を言っているのかよくわからないけど、ロザリーって私の頭の中にいるのに、やたら目がきくのよね。
同じ視界を共有してても、ロザリーの方がよく見てる気がする。私は〔風の魔法〕の行方を探した。
すると、〔白い棒〕が飛んできた。
少しカーブがかかってるこの棒に、見覚えがあるような……。
〔白い棒〕が飛んできた方向に、ロザリーの白い馬車がある。
少し遠いので、目をこらして見る。
白い馬車の屋根から扉の下までザックリと亀裂が入っていた。
どうやら飛んできた〔白い棒〕は、馬車の一部らしい。御者が「うわぁ!」と言いながら飛び降りている。
いゃぁぁぁぁぁぁぁ!
プリンセス馬車――――――――!!!!
私は頭を抱えて嘆いた。
「人にあたらないように、ちゃんと避けた」
と、サフラン生徒会長は、問題ないと言っている。それどころか「逃げずに戦え!」と正義の味方気分で叫んでる。
「……人んちの馬車、壊しといて……何を言っているのですか」
サフラン生徒会長の相手をせずに(帰ろうかな)と、一瞬考えたけど、私はまだ逃げてないのに! ちょっと馬車を見ただけなのに!!
『……そうは言っても、あなた、帰る気満々でしたわよ?』
そうだけど、まだどうするかは決めてなかった!
【暗黒令嬢】と言われる日々の中で、私の数少ない楽しみがプリンセス馬車での“プリンセスごっこ”だったのに――――!!
『あぁ……。馬車の窓は閉まっているのに、道行く人に“ごきげんよう”って、お姫様のように声をかけるアレね……。
でもあなた、この世界に来てまだ一週間もたってないのに、その言い方だと何ヶ月もいるようよ?』
うぅ……。
ロザリーうるさい!!
サフラン先輩と戦う理由、今できたわ!
「プリンセス馬車の敵討ちのため、私はサフラン生徒会長と戦います!!」




