第32話 5人目(挿絵有り)
「ね、ロザリーの出す条件を全部呑むと約束するよ。だから、二人で愛を探そうね」
グハッ。
キュン死にしそう。人を抱きしめて、耳元でなんてこというのかしら? 王子って恐ろしい生き物ね。
ここで流されたら骨抜きにされて、何も考えられなくなりそうだから、しっかりしなくちゃ!
私はドキドキして力が入らない両手で、必死にヘンリー王子を押し戻した。
「……王子。わ、私達は〔婚約〕はしても、こ、〔恋人〕になったわけではありません……。
そ、それに……が……学園でベタベタするのはどうかと……思います」
自分でも何を言ってるのかよくわからないのだけど、普通にしてくださいと必死に伝えた。
「そっか、僕達は複雑な関係なんだね……。
うん。
学園ではベタベタしない」
そういって、離れてくれたけど…………なんで嬉しそうなの?
「学園から出たらベタベタしていいのか〜」
「え!? そんなこと、言ってない!!」
「冗談だよ」
それから、私はヘンリー王子に「放課後ゼアにお断りの話をするので、それまではいつも通りにしてて」とお願いすると、静かにうなずいてくれた。
話が終わって、少し離れた所にいたジェイクとフォスターをよんで、先にお手洗いに向かったティア達と合流すべく急いだ。
「では、女性用のお手洗いはこっちなので、また後で校庭に集合しましょう」
校舎に入って、ヘンリー王子と別れた。
結局ティア達とは合流できなかったので、多分トイレにもう入ってると思われる。
この学園、男性用と女性用のトイレが離れているんだよね。
『うちの別荘もそうですわよ?』
そうなの? 魔法学園に通うために、住んでいるあのお屋敷も?
『この世界の貴族の間では、トイレに出入りする所を見られるのは、恥ずかしいとされているのです』
ふ〜ん。そうなんだね。
でも、トイレが別々にあると、パーティーとかにおよばれしたときわからないんじゃ……?
男性用トイレは見つけたけど、女性用がわからない場合、男性用に飛び込む人いるんじゃない?
『それは大丈夫ですわ。
男女のお手洗いは対角線上に作るようになっておりますの。男性用トイレを見つけたら、斜め前のはしの方に女性用トイレがありますわ』
へぇ。「きらめき☆魔法学園」のゲームの世界では、トイレはそういう設定なんだんだね。
トイレの豆知識を聞いていたら、男性の歌声が聞こえてきた。
♪あ〜〜!
た〜い、よ〜〜うは〜、光輝く〜〜〜〜!!♪
童話に出てくる王子様みたいな歌声。歌声の主は、この近くの階段を登って行ったみたい。
貴族向けの学園にも、変わった人がいるんだなと思ったら、その人、杖を落として行った。
「あの! 杖を落としましたよ」
声を掛けたけど、気付かない!
魔法学園で杖を無くしたら大変じゃない? 授業受けられなくなるのでは? と思って、もう一回声をかけても、歌に夢中で気付いてくれない。
追いかけて階段を上がるけど、王子っぽい歌声の人は足が長くて追いつけない。速い!
ウェーブのかかった長い金髪をなびかせて、斜め上に手を伸ばし、まるでここが舞台の上のように優雅に階段を登っていく。
仕草も姿も、まさに〔ゴージャス〕な感じの人だった。
『あ、』
あ〜!
この人、5人目の攻略対象の人だ!!
確か、歌が上手い先輩!
ロザリーも反応してたけど、知ってるの?
『彼、グイマツ王国の、ラーチ王子ですわ。
もうすぐ彼の国で、夏をむかえるためのお祭りがありますの。その練習ですわね。
王族が歌を納めますのよ』
ご、5人目の攻略対象も王子なの?
ヘンリー王子と、ゼア王子と、ヨド先生と、ラーチ王子? ……この学園は王子が多いわね。
『近くの国の王族も通いますからね』
う〜ん。それにしても、このままでは追いつけないまま、お昼休憩が終わってしまう。何とかラーチ王子に気付いてもらわないと……。
そこで私は考えた。
こっちも、歌えばいいんじゃないかしら?
気付いてもらえなかったら、すんごく恥ずかしいし、自信ないけど……勇気を持って、歌ってみることにした。
ミュージカルっぽく!
♪杖を、つ〜え〜を〜!
落、と、さ、れ、ま〜し〜たぁ〜よ〜〜♪
あくまで“ミュージカルっぽい”だけで、音もリズムもメチャクチャだと思う。
でも、他に良い案を思いつかなかった。
♪杖がないと、授業を受、け、ら、れ、な、い、のではな〜い〜かし〜ら〜♪
「え? それ、僕の杖!」
気付いてもらえた!!
ふぅ、これでティア達と合流できると思ったら、両手をガシッと掴まれた。
♪ど〜ぉぉ、もぉぉぉ〜、ありがと〜ぅ〜ぉぉお♪
「いや、歌わなくていいから、早く杖を受け取ってくれませんか?」
さっき普通に話してたから、歌わずに普通に話してくれればいいのに。祭事の練習とか関係なく、この人はただ歌が好きなのでは?
う〜ん。どうしようと思っていると、
♪これは、“運命”の、出会い、だろうか?♪
と、歌いだしたので慌てて否定した。普通に話して聞いてくれるか怪しいので、歌って答えた。
♪いぃ〜い〜え〜。
私には、こ、ここ……こん、婚約者がいるのぉ〜よぉぉぉ〜♪
〔婚約者〕とかって、言い慣れてないから詰まっちゃった。
ホントについさっき出来たばかりの婚約者ですけどね。ホントに婚約したのかな? とも思う。
「そうか。婚約者がいたのか。それは残念。
でも、今日のこの出会いがステキな事にかわりはない。僕の話し方に合わせてくれたのは、君が初めてだ。君に出会えて良かった。
僕は、〔ラーチ・グイマツ・スプ〕2年生だよ」
「私は、1年生の〔ロザリー・バードック〕です」
「〔ロザリー〕か……ステキな名前だね。
また、会ったとき一緒に歌おう!!」
ラーチ王子は去っていった。
マイペースな先輩だわ。




