第30話 ウワサの後で……(挿絵有り)
馬車に群がり始めた生徒達を、クラスメイトが追い払ってくれたからとても助かった。
私はヘンリー王子とティアとゼアと、それから、少し離れてヘンリー王子の護衛のジェイクとフォスターと6人で校舎へと向かった。
馬車が着く所は半円になっていて、乗り降りする姿は他の生徒から見えにくい。
なのに、注目を浴びたっていうことは、皆がウワサの真相を知りたくてヘンリー王子の馬車を待ち構えていたから……。
こうなる事も見越して、ヘンリー王子は「一緒に学園に行こう」と誘いに来たのかな……?
疑いの目で見ていると、ヘンリー王子が口を開いた。
「ロザリー。
いちおう説明しておくけど、僕の〔恋の罠〕は、君とパーティーに行けるように屋敷に手紙を書いた所までだからね?」
えっ!?
ヘンリー王子の教育係を取りまとめている人にパーティーで紹介したのも、今日一緒に登校したのもワナだったんじゃないの?
どうも信じられなくて、さらにヘンリー王子をジロジロ見た。
「ロザリーを紹介した彼は、最近お妃候補の肖像画を僕に送ってくるんだ。
だから、『僕には好きな人がいるからもう送って来ないように』という意思表示をしただけだよ」
「すっ……!!」
“好きな人”って言った!
思わず「好きな人!?」って叫びそうになったので慌てて両手で口を覆う。
それって私の事!?
私は、自分の耳が熱を持ってきたのを感じた。
『あらぁ。
ヘンリー王子は、“僕の好きな人です”って、あなたを紹介したんですのね。フフフフフフ』
ロザリー!
からかわないで!!
ドキドキするのを止められなくなるでしょ?
たぶん今の私、また顔が赤いからどこかに隠れたい……。
「だから、ロザリーを紹介した事は罠じゃない。
僕のシャツに口紅がついてしまったのも、罠じゃない」
「う……」
確かに口紅は私のとっさの反応のせいでついただけ……。ヘンリー王子のせいではない。
「まして、『他国の王子が……』なんて僕にはどうしようもない」
それを聞いて、今度は後ろを歩いているゼアが「う……」と、唸った。
「どんな内容か詳しくわからなかったけど、パーティーで噂が立ち始めたみたいだったから、『噂されるならロザリーとがいいな〜』『一緒に学園に行けばもしかして……』と心の底で少し期待しただけだよ。噂の操作なんて、とてもとても……」
そういって、ヘンリー王子が肩をすくめた。
“一緒に噂になれば良いな”と思いながら、「一緒に登校しよう」と誘った……。
「それって、つまり罠なんじゃ……?」
「え〜。
確信が持てなかったのに、罠なのかな?
それに、一緒に学園に行く1番の理由は、ロザリーが心配だからよ?」
う〜ん。
ニコニコ話す横顔がしらばっくれているように見えて、ヘンリー王子が腹黒く思える。
それに、“罠にはめられた”というのが悔しいのか、イライラする。
私は右手の拳を握りしめ、右隣りを歩いているヘンリー王子の左脇に拳をグリグリ埋めこんで、抗議した。
『もっと、ねじ込むように繰り出してはどうかしら?』
それは名案ね!!
ロザリーも、ヘンリー王子の罠にハメられたのが悔しかったらしく、アドバイスを送ってきた。
ふぅんおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
と拳に力を入れて、(更にグリグリしてやる!)と私は力を入れた。
だけど、どんなに頑張っても私の力は弱いらしく、ヘンリー王子はニコニコしていたから、悔しさが増すだけだった。
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後ろでは……。
ティアがボソッと、「フッ。ロザリー様が怒っていらっしゃいます」と微笑み、ゼアが「……うらやましい」と呟いていた。
そして、さらに後ろでジェイクとフォスターが「おぉ! ヘンリー王子がまたロザリー様といちゃついている!!」「良かったですね! 殿下!!」と熱い視線を送っていた。
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びっくりしたのは魔法の実技の授業。
「「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
ヨド先生がパーティーの時と同じように、爽やかな姿で現れたので、女生徒から黄色い声援を浴びることになった。
いつもは長い前髪、メガネにマントで授業してたのに、顔がよく見えるようになっている!
昨日は気が付かなかった。
メガネをかけず前髪をわけているヨド先生は、太陽の下で見るとダークブルーの瞳が神秘的!!
ヨド先生の神秘的なカッコよさに、クラスの女子は目がハートマークになった。が、ヨド先生だとは気がついていないようだった。
「新任の先生ですか?」
「臨時でいらしたのですか?」
「もしかして、今日は特別授業ですか?」
「アイザック様の代わりの方ですか?」
女の子達がヨド先生に詰め寄った。
確かに、今日は私の家庭教師のアイザック先生がいない。それは、今日の授業は“おさらい”だから。
初めての魔法に挑戦するときに、私が何かやらかすのを防ぐために来るみたい。(申し訳ないやら、ありがたいやらだわ)
「皆、落ち着いて。彼はヨド先生だよ?」
ヘンリー王子が説明すると、皆ビックリした。
女の子達は「うそ〜!」「わかりませんでした!」と大興奮しながら、さらにヨド先生に詰め寄った。
その間に男子は、〔水の魔法〕を発動しやすくする〔かわいい声〕に挑戦した。
女子がヨド先生に夢中になっているから、可愛く呪文を唱えるのも、失敗してしまうのも恥ずかしくないみたい。
マリーとスピカは〔水の精霊〕を安定的に呼び出せるように、皆から少し離れた所に広く場所をとって練習すると言っていた。
出会った時はイジメっ子だと思ったけど、本当はマジメで優しい良い子たちなんだよね。
そのうちクラスの女子も叫び疲れて落ち着いてきたので、ヨド先生は桶に水を出す〔水の魔法〕の練習をする皆の様子を見て回った。
私の所に来たとき、ヨド先生が声をかけてきた。
「そうだ。ロザリーさん」
「?」
「噂は聞きました。
ヘンリー王子と大恋愛中だったのですね。
でも、この先もし気が変わったらいつでも僕の所にお嫁に来てくださいね」
「え!?」
ヨド先生の言葉にビックリしたけど、すぐ気がついた。
「先生! 私のこと、からかってますね?」
ヨド先生はニコニコしている。
間違いない。
私はからかわれている。
「ヨド先生! 大丈夫です。
クラスメイトが協力してくれたので、もう噂を聞かなくなりました」
「そうですか。
アルムス王国は大きいですから、その国の王子とのウワサはプレッシャーになるかと心配しました。
気にならないなら、何よりです」
爽やかに微笑むヨド先生に負けじと、ヘンリー王子も爽やかに微笑みながら話に割って入ってきた。
「そうですよ、ヨド先生。心配ご無用です。
それに僕がロザリーを離さないので、ヨド先生のお世話になることはありません」
は、離さない!?
『まぁ!
まだプロポーズの返事をしていないのに、もう婚約者扱いされてますわね。ふふふ』
……なんか、私が答えを出す前に、どんどん選択肢がなくなっていっている気がするのは気のせいかしら?
考え事をしている間も、ヘンリー王子とヨド先生の会話は進んでいった。
「ヘンリー王子。
しかし、人の心はわからないものです。
いつ、何がきっかけで気が変わるかわかりませんよ?
そもそも、ロザリーさんの方ではなく、あなたの方が心変わりするかもしれない」
「……僕が?
ヨド先生。それは絶対ないですね」
「いいえ。ヘンリー王子。わかりませんよ?」
すると、今度はゼアも会話に入ってきた。
「ロザリーはまだ返事をしてないのに、二人とも話を進めすぎだ」
「ゼアの言う通りです!
ロザリー様はまだ答えを出しておりません」
ティアまで!
悪役令嬢の心配をするなんて、何ていい子なの!!
「あなた達、全員ふられるかもしれないのに、今からそんな話をしても不毛です!!」
「ティア嬢……言うね。
君は〔光の魔法〕が使えるから〔聖女〕と呼ばれてもおかしくないのに、何故そう呼ばれないのか、今わかった気がするよ」
「そぉですか?
ヘンリー王子こそ、です!
大国の王子だというのに、この歳になっても婚約者がいない
理由が、今わかった気がします」
“この歳になっても婚約者がいない”という言葉は、密かにゼアにも刺さったみたいで「う”……」とゼアがうなっていた。
ヨド先生が冷や汗をかいているように見えたけど…………ティア…………あなた、気付かぬうちに色んな人の心をえぐってそうよ?
今日の魔法の実技の時間はとてもハラハラした。




