第26話 王子は基本、我儘だそうです(挿絵有り)
「あ!
あそこにアイザック様がいます!
ロザリー様は、彼を御存じですか?」
ダンスの途中でサフラン生徒会長がアイザック先生を見つけたようだった。テンションの上がり具合からして、かなり尊敬しているみたい。
「アイザック様は、この国で1番の宮廷魔法騎士です。剣も魔法も、とても素晴らしいと聞きます。
私は彼に憧れて宮廷魔法騎士になりたいと思いました」
「そうなんですね」
「なのに……、【暗黒令嬢】のせいで、彼は魔法学園に駆り出されたらしいのです! アイザック様の通常業務を妨害するとは、憎々しい!!
しかも、せっかく学園でお目にかかれるチャンスだったのに、私は生徒会の仕事が忙しくて気付くことができず、無念です……!」
サフランさん、凄く悔しがっている。なんか、後半は八つ当たりのようにも感じるけどね……。
私が問題を起こさなければアイザック先生が学園に来ることもないのに、会えなかったことも私のせいなの?
私が【暗黒令嬢】と呼ばれていることに気付かれる前に、話をそらそう!
「あっ! あのっ!!
実は、私、アイザック様に家庭教師をしていただいております。よければ、御紹介しましょうか?」
会うと、アイザック先生は本当は口が悪いことが判明して、サフラン生徒会長はガッカリしてしまうかもしれない。
でも、今はなるべく穏便にこの人とお別れしたい。
「いいのですか!?
ぜひ! 紹介してほしいです!!
アイザック様が家庭教師とは、何と羨ましい!」
上手く話をそらせてよかった。
サフラン生徒会長と私は、曲が終わるとアイザック先生の方に向かった。意外にも、アイザック先生はすぐこちらに気付いてくれた。
「ロザリー様。
早速私のアドバイスを聞いてくださったのですか」
「はい。先生のアドバイスですから……」
私が自分に自信無いから全力で呪文を唱えてしまい、魔法の威力が大きくなってしまう可能性があるって指摘されたんだよね。
だから、パーティーで沢山の人と踊って女性扱いされて自信をつけろって言われ、私は何でもいいからパーティーに参加することになった。
それにしても……。
アイザック先生、本当は荒い話し方なのに見事に隠してる。一応他の人も大勢いるから、紳士ぶっているのね……。
見事な猫被りだわ。
早くアイザック先生にサフラン生徒会長を押し付けて、逃げよう!
「私が通っている学園の生徒会長が、アイザック先生のファンだそうなんです」
といって、サフラン生徒会長を紹介した。
私は優雅に人を避けつつ、人がいなさそうなテラスへと避難。
『ちょっと聞いても良いかしら?』
何? ロザリー。
『"乙女ゲーム"というものは、"攻略対象"の殿方から逃げ回るゲームですの?』
う…………。違うわよ。
自分の好みの攻略対象と結ばれるように、頑張るゲームよ。
でも、今は仕方ないでしょ?
サフラン生徒会長に、【暗黒令嬢】は悪魔だって思われているんだよ? 皆が勝手に、私のこと【暗黒令嬢】って言ってるだけなのに!
『それは仕方がないとして、何故ヘンリー王子かヨド先生の所に戻りませんの?
仲を深めるチャンスですわよ?』
ダンスフロアから、外の広いテラス(ここでもダンスできそう)に出るガラス張りのドアを押し開けて、私はロザリーに答えた。
「だって、仕方ないでしょ?
出会って2日や、4日でプロポーズされても、私の心がついていかないわよ!!」
「ロザリー?」
名前を呼ばれてビックリした。
誰もいないと思ってたのに、テラスに出たらヘンリー王子がいた。もしかしたら、次々に取り囲んでくる令嬢から、逃げてきたのかもしれない。
「今の話は本当ですか?」
もしかして……。頭の中のロザリーに答えてるつもりが、興奮しすぎて口に出てた..?
『えぇ。出てましたわね』
ヘンリー王子の悪口を言っているように聞こえたかな? 私はただ「困る」って言っただけなんだけど……。
ご、誤魔化さなきゃ!!
「えっと……、あの…………」
ダメだ!
動揺しすぎて言葉が出て来ない!!
なんて言ったらいいの?!
「出会って2日や、4日……?
僕が求婚したのは出会って2日目だから、他にもあなたに求婚した者がいたという事ですね?
しかも……今日?」
「な……、なんで、そう思ったのですか?」
「さっきのロザリーの言い方からして、プロポーズされてそんなに時間がたってなさそうだったから。
“出合って4日目”ということは魔法学園の人?」
ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
何?!
この推理力!!
ヘンリー王子、勘が鋭い!
「……ロザリー」
ヘンリー王子が一歩前に出てきたので、右足からズリズリと後ずさった。
「僕は王子として、国民の事を第一に考えるよう厳しく育てられてきました」
また一歩前に出てくるから、今度は左足からズリズリと後ずさる。
でも、まっすぐ後ろに行くとパーティー会場に戻ってしまうから、方向を少しずつ変えながら……。
「気をつけないと、気付かぬうちに国の財政を傾けさせてたり、政治戦略に巻き込まれていたり、思わぬ事態を巻き起こす可能性があるから……。
だけど……」
バルコニーの手すりにぶつかった。
もうこれ以上、後ろに逃げられない!
え?!
いつの間に……、いつの間に追いやられたの?!
「覚えておいてください。
もし、なにか願えば何でも手に入る環境で育っているがゆえに、基本的に王子は我儘です。
欲しいと思ったものは絶対に手に入れる」
ヘンリー王子が両手を伸ばしてきた。
優しく私の頬に触れる。
いつの間にか距離が近くなっていた。
鼓動が早くなるし、頭の中がグルグルしてる。
「お、王子……。ち、近い..です…………」
何とか訴えてみた。
ドキドキするから、少し離れてほしい……。
ヘンリー王子は、「フッ」と優しく微笑んだ。
「困った顔も、あなたはとても可愛い」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
“可愛い”っていわれた!!!!
元々そんなこと言われることが滅多にない上に、最近は【暗黒令嬢】とかいわれて避けられてるから、よけいに破壊力がある。
ダメだ! このままではキュン死にしてしまう!
『え?!
死んでしまいますの????
それは、いけませんわ!』
私だけでなく、ロザリーも慌てだした。
「あ、あの……!」
とりあえず、距離を、距離をとりたい。
なんて言えばいいか言葉を探そうと思ったら、ヘンリー王子が悩ましげにいった。
「あの日、あなたは、"優しくしなくても良い"といった」
ぶはっ!!
……は、鼻血出そう。…………耳からも出そう。
でも、違う!
あの時の言葉は、そういう意味じゃない!!
2日前のクッキー対決の後片付けの時のこと言ってるのよね?
ティアとマリーとスピカが「卒業後に宮廷で働かないか?」って誘われたのに、私だけ誘われなかったのをヘンリー王子に不憫に思われたんだと思って、“気にしなくていいですよ”って意味でいったのよ!
『そうねすわよね。
ヘンリー王子はあの時プロポーズしたのに、元気づけられてるとあなたは勘違いしたのですわよね?』
ゔぅ〜!
ヘンリー王子、勘違いして申し訳ない!!
っていうか、ヘンリー王子の今のセリフ初めて聞いた気がしないんだけど、予知夢でも見たのかしら?!?!
私の頭の中はグルグルグルグルなって、目が回ってきた。
何をどう説明したら良いの?
動揺しすぎて頭が上手く回らない!
その間にも、ず――っとヘンリー王子は両手で私の頬に触れたまま。
ドキドキが!
ドキドキが止まらないのよ――――――――!!
今でもかなり近いと思うのに、ヘンリー王子がさらに距離を詰めてきた。




