第23話 パーティー会場へ行きましょう(挿絵有り)
夕方からのパーティーのために、ドレスに合わせる宝石、靴の色など朝から考えることになった。
「ロザリー様が着るドレスはこちらです」
と、メイドさんがドレスを見せてくれた。
キレイ!
紺色をベースに、花柄の刺繍の入った綺麗なドレスだった。
色は落ち着いているけど、リボンが背中についていて、自分には似合わないのではないかなと思った。
ちょっと作りが可愛すぎる気がする。
流石ロザリーのドレス。着たいものを着るのね。確かにロザリーなら着こなせそう。
『あら、初めて見るドレスね。
お父様から入学祝いのプレゼントかしら?』
え?!
入学祝いにドレスを贈られるの?
凄いわね。
昼からはドレス着たり、お化粧したり、髪をセットしたりの準備で忙しかった。
いつもは2つの大きなカールにしている髪を、メイドさんが今日はアップにしてくれた。
そして、右側だけ一束シュルンと足れて、鎖骨辺りで細いカール。
アップにした髪はヘアネットに入れて、お上品な仕上がりになった。
清楚!
メイドさんのプロの技に私はとにかく感動した。
そして、今日は下を向けば地面が見える。
いつもは胸のあたりの2つのカールで足元が見えないから、新鮮だわ!
「ロザリー様。
本日、エスコートして下さる殿方がおみえです」
とメイドさんから聞いて玄関に向ってビックリした。
ヘンリー王子がいる!!
「なぜ……、ヘンリー王子が?!」
驚きで声が震えてしまう。
「“ロザリーがパーティーに参加する時は喜んでエスコートします"って、君の屋敷に予め手紙を出しておいて良かったよ。
ダメ元でも、やってみるものだね」
礼装っていうのかしら?!
王子様の格好だわ!!
カッコよくて腰が抜けそう。
それと、気になるのが、
「ヘンリー王子。私にではなく、屋敷に手紙を書いたのですか?」
事前に教えてくれれば、心構えが出来たものを……!
と、ちょっと恨めしく思った。
それとも、この世界の“貴族の礼儀”なのかな?
「ロザリーに直接いうと逃げられそうだからね」
えぇ?!
それって、つまり、
「罠だわ!」
あ、思わず声に出てしまった。
「そう。“恋の罠” だね」
ヘンリー王子は爽やかに微笑んだ。そして、
『きゃー!!
“恋の罠!” ドキドキしますわね!!』
私の頭の中にとりついているロザリー、大喜び。
「ロザリー。
僕が贈ったドレスを着てくれて、とても嬉しいよ」
ヘンリー王子は「“恋の罠”」といった自分の言葉に恥ずかしくなったのか、急に話題を変えてきた。
でも、ちょっと待って! 今「贈った」っていったわね。
「このドレス、ヘンリー王子からのプレゼント?」
「そう。
瞳の色に合わせてみたんだ。
とてもよく似合ってる」
ここで初めて気がついた。確かに瞳の色だわ。
ロマンス小説やマンガで出てくる、“彼女は俺のものだ!”という独占欲なの?
男性が自分の瞳に合わせた宝石やドレスを女性に贈るというアレなの?!
あぁぁぁぁ! 顔が! 顔が、自分の顔がみるみる赤くなるのが自分でわかる……!!
「え……、それは、その……。
ヘンリー王子の……瞳の色に、あわわわわわわ。
あ、わ、合わせて? ……ですか?」
「えっ?!!!!!」
今度はヘンリー王子の顔が真っ赤になった。
なぜ、赤くなる?
「ぼ、僕じゃなくて……ロザリーの瞳の色に合わせたんだ。
……僕の目の色と思うと、て、照れる」
何?! その表情!!
赤面して顔をそらす姿に、心を鷲掴みにされた気がした。
(ドキドキしすぎて困るから、部屋に逃げ帰ろうかしら?)と、2階への階段をチラリと見たら、メイドさんが目からビームを出してきた!
……ように見えた。「せっかく時間をかけて支度したのですから、さっさとパーティーに行ってください!!」と、その目が訴えている。
ロザリーのメイドさん、本当に怖い!!
『ふふふ。私のメイドは優秀ですわ。
視線だけで、あなたの心に落ち着きをもたらしました』
ホント。
ドキドキも顔が赤いのも、一瞬でどこかに飛んでいったわ。
一緒に恐怖ももたらしてくれましたけどね。
私は諦めて、ヘンリー王子と馬車に乗った。
王族の馬車、豪華!
乗るだけでテンションが上がるわね。
ヘンリー王子の護衛のジェイクとフォスターは別で、馬に乗って馬車を護衛するみたい。
凄いわ。馬車にも護衛がつくのね。
『それにしても……。
ヘンリー王子なかなかやりますわね。
私、舞踏会に参加する時はメイドにその旨を伝えたら、それで終わりですの』
パートナーはメイドさん任せ!
知らない人でも良いの?
『えぇ。着いたら解散しますから。
私は噂を聞いて回る。パートナーは政治の策略を巡らすか、恋のお相手を探す。
問題のある家でなければ、若者でもおじ様でも誰でも良いのです』
そっか。パーティーにパートナーは必要なんだね。
たまに映画で「一緒にパーティーに行く相手がいない」とか言ってるものね。ま、「知らない人とパーティーに行くよりは、心が軽いかな?」
あ、声に出てしまった……。
ヘンリー王子の目がみるみる輝いていく。
ここはいつものプリンセス馬車じゃない。
ヘンリー王子の、そう、王族の馬車の中。
王室の馬車なので細部にまでデザインが行き届いてて、ワクワクして自分の鼓動が早くなっているのを感じている。
なのに!
さらに王子のキラキラオーラを正面から浴びせられては、あまりに輝かしくて気を失ってしまう!!
腹に力を入れ、拳を握り、耐えろ! 耐えるのよ! 私!!
ここで気を失ってはいけないわ。
メイドさんが手配してくれたパーティーで精神を 鍛えるのだから、がんばれ!!
心の中で戦っていると、ヘンリー王子が静かに私の手を取った。
「どうしよう……。
あなたの心を軽くする存在になれた事が、こんなにも嬉しい」
そう言ってヘンリー王子は顔を赤らめた。
ヘンリー王子から花びらが舞っている。
ふわふわと緩やかに……。
なぜ?!
何故、花びらが舞うの?!
ドキドキしたら、妖精が喜んで花びらを舞わせるって教えてもらった。
ヘンリー王子が何故か私に好感を持ってくれているのがわからない。2日前……、出会って2日目にプロポーズされたのは更にワケがわからない。
何かを勘違いして好意を持ってくれただけのような気がしてならない。
私は慎重に聞いてみた。
「何故そんなに好意的に思ってくれるようになったのか、私には不思議でしょうがないです」
すると、ヘンリー王子はニッコリ笑顔で答えた。
「学園初日の自己紹介で、僕は恋に落ちたんです」
教室での自己紹介ってこと?
私はさらにワケがわからなくなった。
「僕の護衛の者にも自己紹介をしたのは、あなたが初めてです。
貴族向けの学園だけど、“学園内では貴族階級などは関係ない”とされていますが、プライドの高い貴族がそれを実践するのは難しい。
なのに、あなたは初日から! 自ら行動に移していた。
僕は雷に撃たれたような気持ちになりました」
……ってことは教室での自己紹介じゃない。
校舎に入る前に会った時、ジェイクとフォスターにも自己紹介したから好意を持ってくれたの!?
でも、ゲームの設定ではコケたヒロインに手をかしたときに、ヘンリー王子がヒロインに一目惚れするはずだけど?
それに、それに……、
「あの時、ヘンリー王子とティアはお互いに花びらを舞わせてましたよね?」
「え? 見ていたんですか?!」
ヘンリー王子が照れている。
「あの時はティア嬢と『護衛にも自己紹介するなんて素敵な人でした』『ゼアとも自己紹介をした令嬢は彼女が初めてです』って2人で話していたんです。
僕もティア嬢も、あの時からロザリーの事が大好きです」
衝撃の告白!
私はティアとヘンリー王子が、ゲームのシナリオ通りに恋に落ちた瞬間を目撃できたと喜んでいたのに違ったのね。
『ホホホホホ。モテモテですわね』
ロザリーうるさい!
からかわないでよ!!
「ティア嬢はいっていました。
"何人も通りかかる人はいたけれど、うずくまっている私を見て声をかけてくれたのは、ロザリー様だけでした"と。
さらにあなたは彼女が一人で立ち上がれるよう、激励を飛ばしたそうですね」
げ、激励!
悪役令嬢だから役割を果たすべく、嫌味を言っただけなのに……。
「彼女は周りから彼女自身の成長を諦められ、切ない思いをしていたそうです。
だから、とても嬉しかったそうですよ。
その話を聞いて僕はとても感動しました。
ロザリー。
君の心はとてもまっすぐだ」
なんてこと……。
ティアとヘンリー王子に、何か変な誤解をされているみたい。
ヘンリー王子、超簡単ルートの攻略対象なだけはある。けど、色々と心配になるわね。
「あの、ヘンリー王子、誤解です。
私はそんな、すばらしい人間ではありません」
そう。だから「私に対して、激しく誤解をされているみたいだから、パーティーに行くのをやめませんか?」といおうとしたら、先にヘンリー王子が口を開いた。
「始まりは“誤解”でも良いんです。
一生懸命なあなたを見ていると楽しいし、ドキドキするんです。
僕の周りにはいないタイプだ」
この言葉を聞いてハッとした。
もしかして、ヘンリー王子はロザリーの中に入っている“私”の性格を見ているの?
考えなきゃと思うのだけど、思いもよらぬ言葉に何も考えられない。
頭が、頭が回らない!
気がつくと馬車はパーティー会場に到着した。
嘘でしょ?!
心の整理のつかないまま、もう着いちゃった!
馬車の中で、ロザリーにパーティーでのアドバイスをもらおうと思ってたのに!!
家庭教師のアイザック先生はダンスのリードが上手かったから、何となくパーティーでも何とかなる気になってしまったけど、私は踊れないのよ!!
絶対、ヘンリー王子の足を何度も踏む!!
そんな予感しかしない……。




