〈第三夜〉 ロザリーの3分クッキング (挿絵有り)
『皆さんこんにちは!
“ロザリーの3分クッキング”の時間です』
目の前に、エプロン姿のロザリーが爽やかに現れた。とてもかわいい。
“3分クッキング”……?
眩しい照明。長い台所のテーブルの上に並ぶ調味料。そして、3台のTVカメラ……。
これは、“夢”ね?!
「そうだよ! ロザリー!! これは夢なんだよ!
でも、だからといって手抜きはしないでね。
せっかくだから、美味しいもの食べたい!」
夢だと気付いたとたん、どこからか妖精が飛んできた。夢に毎回出てくる妖精さんだ。
『オ〜ッホッホッホ!
私がいますから大丈夫ですわ!!
最高の料理を食べましょう!』
「ロザリー! 今日は最初から夢に出てきたのね。
“3分クッキング”って……、ロザリーは料理出来るの? クッキーの作り方を知らなかったじゃない」
『ふふふ。心配はいりませんわ』
そんな自信満々のロザリーの後ろの方からティアが出てきた。
「そうです、ロザリー様。心配はいりませんわ。
作り方は私がお伝えいたします!
この番組は“料理が苦手な人も料理が作れますよ”という番組なのです。
料理の苦手なロザリー様が料理に挑戦する姿を見て、皆が勇気付けられるのが人気なんです!!」
ティア……。
全力で私に気を使ってくれているのはとてもよく伝わってくるんだけど、私が料理がヘタクソだって全力で言っているような気もするわ。
……ま、いっか。
料理が苦手な私のままで頑張れば良いらしいしね。
「そうなのね。頑張るわ」
「では、さっそく始めましょう! ロザリー様!
あぁ、右にも左にもロザリー様。
私、この番組の時間がとても楽しいですわ!」
そう言って、上機嫌のティアがガラガラと台車で運んで来たのはスライムだった。
両手で抱えるぐらいなんだけど、なんとなくスライムってもっと小さい生き物だと思ってた。
思ったよりデカい……。
「ティア……。スライムを料理するの?」
「そうです!
スライムは料理しにくいので、不安になるのはよくわかります。
しかし!
今、そのスライムが注目されているのです!!」
得意げに説明するティア。
そうなのね。スライムが注目されているのね……。
「スライムは切るとベチャ〜っと崩れてしまいます。叩けば飛び散ってしまいます。魔法で攻撃しても飛び散ります。
……が!
できるだけ高温で素早く加熱すると、とっても美味しくなるのです!!」
『わかったわ』
ロザリーがくるっとこっちを向いた。
『全力でスライムを燃やしなさい!』
「え?! 一緒にやるんじゃないのね」
あまりに自信満々な返事をするから、ロザリーが一肌脱ぐのかと思った。
ま、いっか。
「いいわ! 思いきり燃やすなら、得意かも!!」
ニッと笑顔を作り、腹式呼吸で息を吸う事で広がる鼻腔の形をそのままキープ。
そして、声の響きを上顎でしっかり受け止め呪文を唱える!!
「〈《燃え上がれ! 炎よ!!》〉」
呪文を唱えると、スライムが大きな紫の炎に包まれた。
ボンッッッ!!!!!!!!
すると、とても大きな音が!
いいの? これで良いの?!
スタジオは黒焦げになり、みんな顔も服も真っ黒。炭だらけ。
「カメラが! カメラが――――――――!」
どうやらカメラが動かなくなったらしく、カメラマンさん達が嘆いていた。
番組は始まったばかりなのに、これでは放送事故で終わってしまう。
(あぁ! 私のせいですみません!!)
と思いつつオロオロしていると、ヘンリー王子が別室からTVカメラを担いで出てきた。
ヘンリー王子の護衛のジェイクとフォスターもカメラを担いでいる。
「こんな事になるだろうと思ったから、予備のカメラを予め準備して来たよ。
さぁ、番組を続けて!」
「流石ヘンリー様!
さぁ、ロザリー様。番組を続けましょう!!」
そういって、ティアは黒焦げになったスライムをそっと包丁で切り、カメラに切り口を見せた。
「皆様、ご覧ください!
スライムを一瞬だけ高温加熱すれば、こんなに美しいデザートになるんです!!」
スライムの切り口は少しくすんだ青なんだけど、照明のせいか部分的にキラキラ光っていた。
『食べてみましょう』
とロザリーが笑顔で小皿を持ってきた。
ティアがスライムを切って皿に盛りつけ、私達はキラキラ光るスライムを一口食べた。
「おいし〜〜〜〜〜〜い!!!!」
妖精さんが大はしゃぎ。
確かに凄く美味しかった。
水羊羹に近いような、プリンに近いような、何とも言えないプルプル感。
キラキラしている所がザラッとしていて歯ごたえがあり、カステラのザラメのような家で作ったプリンのキャラメル部分のザラザラ感というか、この食感がたまらない!
『これは、おいしいですわ!』
ロザリーも目を輝かせて喜んで食べていた。
そこにすかさずティアがカメラの前に出てきて、宣伝を始めた。
「ロザリー様の手にかかれば、スライムもこのようにとてつもなく美味しいデザートになりますが、一瞬でこの火力はなかなか出せません。
そこで!
番組では、この〔デザートスライム〕を通販でご紹介いたします!!」
何か番組が変わってきた気がして、私はロザリーにヒソヒソ話をした。
「ねぇ、ロザリー。番組の方向性が変わってきた。
〔3分クッキング〕から〔通信販売〕になったわ」
『普通の人では家で作れないと判断して、販売する方に方向転換したのね。
なんて素早い対応力かしら。
ティアは商売人に向いてますわね』
「光の魔法使いのティアは言うなれば〔聖女〕よ?
聖女を商売人だなんて……」
『でも、あの子……輝いてますわ』
ロザリーに言われてティアを見てみれば、ティアは目を輝かせて商品の案内をしていた。
「お申し込みは
0120ースライムースライムまで!
人気商品ですので、お早めにお電話下さい!!」
♪チャララララ〜 ロザリーの3分クッキング〜♪
爽やかな歌と共に番組は無事に終わった。
この後、電話が鳴り止まず「デザートスライム」は無事完売した。
スタッフさんの話ではどこかの王子様から大量の注文が入ったそうだが「人気商品につき、お一人様お一つまでです」とお断りしなければならないほど売れたらしい。
なにはともあれ、無事に番組が終了して良かった。
でも気になった事が一つ……。
「ねぇ、ティア。
妖精さんの分もお皿に取ってくれたけど、ティアは妖精が見えるの?」
大きさも妖精にちょうど良いように切ってくれたので、不思議に思った。
私にだけ妖精が見えてるのかと思ったのだけど、違ったのかしら?
「あら、ロザリー様。
私は〔光の精霊〕を呼び出せますから、〔光の妖精〕も見えます。
むしろ、ロザリー様が光の妖精が見えているのが不思議です」
キョトンとした顔で返事をするティア。
これには私も驚いた。
思わずクルッと妖精の方を向いて、叫んだ。
「あなた!
〔光の妖精〕だったの?!」
「そうだよ?
本当は現実世界でロザリーと話したいけど、ロザリーは〔光の魔法〕使えないでしょ?
だから、『夢の中に会いに行こう』と思って毎晩こうして会いに来ているんだよ」
「イタズラ好きの〔困った妖精〕さんだと思ってた――――――――――――――!!」
予想外の事実に驚いた所で目が覚めた。




