第22話 朝の生徒会室(挿絵有り)
同じ頃、同じ学園内にて……。
廊下を走る1人の男子生徒がいた。
彼は生徒会室に飛び込むと叫んだ。
「大変です! 生徒会長!
この学園は〔暗黒令嬢〕に狙われてます!!」
「?! いったい何を言っているんだ?!」
生徒会長のサフラン・クロッカスにはわけがわからなかった。
生徒会書紀のクロノ・レンジは息を切らせながら必死に説明をする。
「この学園は【暗黒界】に狙われているんです!」
「クロノ。君は正気か? 暗黒界はお伽噺だぞ?」
「【暗黒令嬢】ですよ!
ヤツは二人の女生徒を人体改造し、教師と命をかけた戦いをくり広げたんです!!
昨日は本当に凄かったんですよ!」
一生懸命に説明をする書記のクロノに対し、やはり彼が何を言っているのかわからないサフラン生徒会長は、ため息をついた。
「流行りの小説の話か?
それとも、この学園は今日も根も葉もない噂でもちきりなのか?」
貴族が通うこの魔法学園は、いつも信憑性の低い噂話でもちきりだ。
サフランはこの2年で魔法以外に「学園の噂話はあてにならない」という事を学んだ。
サフラン生徒会長がやれやれと話しを流そうとしたので、クロノは声をさらに大きくして必死に説明した。
「現実の話です! サフラン生徒会長!!
ヤツは入学して1日目で校庭の木を燃やし尽くし、学園を恐怖のドン底に落とし入れたんですよ?! 会長も御存知ですよね?」
「校庭の木が黒焦げになっているのは、私も見た。
だが、今年は必死に呪文を叫ぶ声がいくつも教室にまで聞こえてきていたから、今年の新入生は元気で真面目なのだろう。
初日に貴族があそこまで恥をすてて叫べるとはたいしたものだ」
「あれは新入生達のせいじゃなく、一人の令嬢がやったんですよ!
さらに、昨日は校庭を毒の沼に変えたそうです!!」
「いや、一人では無理だろう。
それに、窓から校庭をみたが、毒の沼どころか水たまりさえないぞ?
そもそも毒の沼など簡単に作り出せるものでもない。
噂話に振り回されすぎだクロノ」
毒の沼が本当だとして……、それはクラスの皆で協力して、たちの悪いイタズラをしたに違いないとサフランは思った。
「クロノ。
噂話にながされてはいけない。まずは事実かどうか、確認しなければ」
「そうです! そうなんです!!
だから僕は、確認するために昨日は放課後残ったんです!
そしたら、暗黒令嬢は光の魔法使いに勝負を挑み、危険を感じたヨド先生に火だるまにされたんです!!」
「え? あの優しいヨド先生が生徒に魔法を?」
「そうですよ。それだけでもうヤバイですよね。
暗黒令嬢はかなりヤバイです」
そして、暗黒令嬢が自ら人体改造を施したクラスメイト二人に、巨大精霊を呼び出させ対抗していたとクロノは説明した。
「せっかく暗黒令嬢を倒すチャンスだったのに、何も知らないヘンリー王子と光の魔法使いが仲裁に入ってしまったんです!
それをいいことに、暗黒令嬢は全てをなかったことにしたんです!」
「無茶苦茶な話だな。
あのヨド先生に燃やされたのに生きているのか?」
「そうなんです!
昨日、地獄に落ちたはずなのに、今日、普通に登校してきたんです!!
だから恐怖のどん底なんです!!!!」
何だか変な説明だとサフラン生徒会長は思った。
燃やされて死んだのに、全てをなかった事にして、次の日に生き返る。果たして死んだ身でどうやって全てをなかった事にしたのか不思議でしょうがなかった。
ヨド先生は魔法の授業を頑張る者には、成績は関係なく誰にでも甘い。だからといって、授業を頑張らないから生徒を燃やすという危険な人でもない。
しかも、魔法の腕は教師の中で一番だ。
ヨド先生に殺されたのに生き返ったとは、とても信じがたい話だった。
「わかった。私の方でも調べてみよう」
「サフラン生徒会長、信じてくれましたか!!
では、念のため覚えておいてほしいことがあります。
もし、暗黒令嬢と戦うはめになったら、〔剣〕で勝負をつけるようにもちこんで下さい。
『魔法だと上級生の方が有利だから平等に戦うために』とか何とかいって理由をつけるんです!
どんな邪悪な魔法を使ってくるかわかりませんからね。ヤツの苦手な剣で勝負をつけるんです
きのう職員室でヤツが話しているのを盗み聞きしました。
暗黒令嬢は剣が苦手です!!」
そう熱弁するクロノに、サフラン生徒会長は(信じたわけではないのだか……)と思いつつ、「そうか」と生返事をした。
*
*
*
魔法学園三日目の今日は、とても平和だった。
何と! 魔法の実技がなかった!!
「歴史に残る魔法使い」についての授業だったり、「実際に起きた戦闘中のトラブルと解決方法を聞いたりした。
平和だわ!
朝、“クラスメイトが私の配下に加わる”というちょっとビックリする事があったけど、それからはクラスが変にザワザワしたりしなくなった。
ただ…
なにかにつけて「おさきにどうぞ」とか「お通りください」とか言って、クラスメイトが私に道をゆずりたがるのが気になった。
そのうち誤解がとけたら全て普通になるよね?
『ホッホッホ。
支配者あつかいされて、良いではないの』
ロザリー。そういうこと言ってると、また誰かに燃やされるわよ?
『まぁ! それは困りますわね』
でも、ま、明日は休日!
ストレスからの解放日!!
全てから解き放たれる喜びを感じながら、明日は何をしようかなと馬車の中で考えながら屋敷にもどると、
「お嬢様、早速明日、パーティーへの参加を予定に入れました。」
とメイドさんに言われた。
確かに、家庭教師をしてくれているアイザック先生に「パーティーに参加しろ」と言われたけど、メイドさん仕事が早すぎる。
『オーッホッホ!
私のメイドは優秀ですの!!』
ロザリーは上機嫌。
パーティーに参加というだけでも凄く驚いたのに、次の日、なんとヘンリー王子が迎えにきた。
何故、ヘンリー王子が目の前に?!??!!
「"ロザリーがパーティーに参加する時は喜んでエスコートします"って、君の屋敷に予め手紙を出しておいて良かったよ。
ダメ元でも、やってみるものだね」
満足そうに微笑んでいるけど、これって……
「罠だわ!」
バードック家の屋敷の皆と協力して、罠をはったのね!
ヘンリー王子が、きのうは朝から機嫌が良かったのは、このため?!
「そう。“恋の罠”だね」
そういって、ヘンリー王子は爽やかに微笑んだ。




