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悪役令嬢にとりつかれました!  作者: 葉桜 笛
恋の罠

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23/92

第21話 肉を骨から引き剥がす(挿絵有り)

「ロザリーお嬢様、朝にございます」



 メイドさんの声がする……。

 窓の外では小鳥たちが元気にいている。

 今日も爽やかな朝……なのだけど、体が重くてきられない。まぶたがとても重い。

 全力で目を開けようとしても、(まぶたってこんなに重いものだっけ?)っていうぐらい重い。



「……おこして」



 と、うなるようにお願いするのが精一杯だった。

 すると、メイドさんが布団の中に手を入れ、うす布団ぶとんごと私のウエストをガシッとつかみ、引き上げた。


 クレーンゲームの"ぬいぐるみ"になったみたい!


 その驚きで目が覚めた。

 「おこして」と言ったけど、まさかクレーンゲームのようにつかまれるとは!

 こんなこし方をしてくれるとは思わなかった。


 「困ります。おきてください~」ってなげかれると思ってた。

 「もうちょっと寝させて〜」とか言って時間(かせ)ぎをしようと思ったのに、ロザリー付きのメイドさんは、主人の要求ようきゅう確実かくじつにクリアしていくのね。

 さすがだわ。



『あたりまえですわ。

 うちのメイドは優秀ゆうしゅうですの』


 あ!

 ロザリー!!

 私、もとの世界に帰れなかったわよ!


『そんなこと言っても、私達わたくしたちわからないもの同士どうしで話し合っても正解なんて出ませんわ。

 とりあえずわたくしとして、生きなさい』


 う……他にどうしようもないから、そうするしかないのか……。

 でも、一人()らしとはいえ、そのうち両親が心配しだすだろうし、何より私の体が餓死がししてしまう。

 …………ちょっと今、想像してしまった。


『ねぇ。わたくし思うのですが、ここはゲームの世界ですから、あなたの生きている世界とはときがすぎる早さが違うのではないかしら?

 あなたの世界のことはわかりませんけれど、ゲームって短時間で遊ぶものでしょう?』


 !!

 そういわれるとそうかも!

 ゲームではポチポチボタンを押していたら、すぐにゲームの中の一週間がたつわ!

 イベントの映像やゲームがあっても、一週間に10分かかるかかからないかかも! 

 イベントの発生とか何もなければボタン連打で、10秒で一週間が終わるわ!!


『なら、まだ三日目の朝ですから、あなたの世界では10分もたっていない可能性が高いですわね』


 ロザリーすごい!

 そうかも!!


『本当はどうかわかりませんけれど、これであなたの心配は軽くなりまして?』


 そうだね! 軽くなった!!



 心が軽くなったので、ふら〜っとベッドから立ち上がり、メイドさんにうながされるまま制服を着た。


 昨日は本当に濃い1日だった。

 次の日、重力じゅうりょくを2倍に感じるほどに。

 あぁ、体が重くてフラフラする。



「お嬢様……」



 はっ!

 だらしがないとメイドさんに怒られる!?



「アイザック氏から、昨日ロザリー様は学園でとても御活躍ごかつやくされたと聞きました。

 私共わたくしどもは大変(ほこ)らしいです。

 あの男、やっとロザリー様の素晴らしさがわかったようですわ。今頃いまごろ気付きずくなんて、おろかな男です」



 メイドさんが不気味な笑みをうかべた。

 怖い……!

 初めて会ったその日から、このメイドさん怖い。

 なんだろう? "愛が怖い"って感じかな?

 この人の期待きたい裏切うらぎってしまった時、はたしてどうなってしまうのか……。

 重圧を感じるわ。


 なんて答えよう……。何か答えなきゃ。

 私は緊張しながらも、高笑いをすることにした。



「ほっ、ほっ……ほ!

 本当におろかな男よね。

 さ、さぁ、朝食を持ってきてちょうだい!」



 そういって、あごり上げた。 

 するとメイドさんはニコニコ顔で朝食を持ってきてくれたので、どうやらこの返事で正解みたい。


 ごはんを食べて、足元あしもとが見えないぐらいのクルックルカールをしてもらい支度したくを終えると、今日もプリンセス馬車で学園だ。

 おとぎ話のお姫様が乗るようなロザリーのプリンセス馬車で学園にむかう。

 もう乗ることはないと思っていたプリンセス馬車。

 せっかくだから今日も気分転換きぶんてんかんにプリンセスごっこよ!



「おはよう。ステキな朝ね」

「あなたの帽子ぼうし、とてもいいわ」



 など、曲線を多く取り入れた白いプリンセス馬車の中から、道()く人々に声をかけた。

 馬車の窓もカーテンも閉まっているので誰にも聞こえない1人遊びは、今日も現実逃避げんじつとうひにもってこいだった。

 人が横切よこぎっていたりして、馬車が止まらざるをえない時なんかは、ながゼリフのチャンス!



「おはよう。

 太陽がまぶしい、ステキな朝ね。

 今日はきっと、ステキな事が起こるわ」



 と、お姫様っぽくノリノリで言うと、今日という日が本当に素敵な日になりそうで、自分で言っておきながらワクワクした。

 プリンセスごっこ楽しいわ!


 今日は偶然ぐうぜんにも、プリンセス馬車を見て手をってくれた人がいたので、より一層いっそうプリンセス気分を味わえた。

 きっと、この馬車の御者ぎょしゃをしてくれてる人の知り合いね。

 すごい偶然ぐうぜん

 おかげで良い気分転換きぶんてんかんになった。



 昨日は校庭を紫の水でしずめて、放課後はヨド先生に燃やされたからな……。

 学園についたら、きっと今日もヒソヒソ話されるに違いないわ。



『わかっていると思いますけど……』



 えぇ。

 ヒソヒソ話は無視。

 でもあまりにも気になるようなら、"胸を張って、あごり上げる"のよね?


『そうですわ』


 ドキドキしながら馬車をおりて、校舎への長い道のりを歩くと……。


 あれ?

 誰もヒソヒソ話をしない!

 やったわ!

 皆の誤解がとけたのね!


 そうよ!

 だって、きのうは家庭教師のアイザック先生が学園に来て、紫の水にしずんでしまった校庭をもとに戻してくれた。

 クッキー対決で私はなにも魔法を使ってない。

 皆と変わらない普通の女生徒だとわかってもらえたのだわ! きのうヨド先生が“闇の魔法は怖くない”って皆に説明してくれたものね!!



 喜んでいると、違和感が……。

 皆、私を見ると立ち止まる。

 私の視界に入った人は皆、動かなくなる!

 何? コレ!

 これって……




 "だるまさんがころんだ" だわ!




 話している人はいない。

 ヒソヒソ声も聞こえない。

 いったい何が起きているの?!



 どうしたらいいのかわからないので、とりあえず教室に行くと、全ての謎が解けた。





「「「「「「幽霊だ~~~~~~~!」」」」」」





 クラスメイトが一斉いっせいさけんだ。

 なるほど。

 幽霊と思ったのね。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「暗黒令嬢が来たぁぁぁぁぁぁ!」

「昨日ヨド先生に燃やされたはずなのに何故なぜ!?」

「やっぱり暗黒界の人間は普通じゃないのよ!!」

「地獄からよみがえったとでも言うのか!」


挿絵(By みてみん)



 えぇ?! また皆が想像をふくらませてる!!



『ふふふ。

 "地獄からよみがえった令嬢"というのも、なかなか良い響きですわね』



 ロザリーは、喜んでいるけど、私ははらがたった。



「それって、私が退治たいじされるべき人間だってこと?

 私、あなた達に何かした?

 私はただ、授業で魔法の失敗をしただけよ?」


「でも! きのうの放課後は、校庭がまるで戦場のようでしたわ!!」



 5,6人で集まっている女生徒の一人が、おそる恐る主張しゅちょうしてきた。

 彼女が言っていることは、本当なんだと思う。

 燃やされてたから、私は知らないけど。



「私、放課後は何も魔法を使ってないわよ?」



 教室の中がし〜んとした。



「あれ? 確かにそうだな」

「巨大な精霊が2体もあらわれたのよ?!」

「ヘンリー様や護衛の方々《かたがた》が魔法を使って、それはそれははげしい戦いだったのに!?」

「たしかに、ロザリー様は何もしていない……」


「そう。本当に何もしていないのよ。

 クッキーすら焼けなかったわ」


「え……。それって…………」


「私は皆と同じ“普通の人間”ってこと」



 ここでクラスの緊張がとけた。

 ようやく本当に誤解ごかいけそう。



「なぜヨド先生はロザリー様に攻撃を?」


「ヨド先生が悪霊にとりつかれたからですわ」


「ティア!」



 途中でティアがゼアと一緒に教室に入ってきた。



「おはようございます。ロザリー様。

 昨日は大変でしたね。お体はもう大丈夫ですか?」


「おはよう。

 ティアのおかげで元気よ。きのうはありがとう」



 ティアが入ってきたおかげで、やっと皆が落ちついて話しを聞いてくれそう。



「ロザリー様。

 私にもぜひ、"ボイストレーニング"というものをおしえていただきたいですわ」



 ニコッと笑うティアに続いて、クラスの皆も「ぜひ知りたい」と言ってくれた。



「昨日の巨大精霊はすごかったもんな」

「そうなのか?」

「お前、見てないのもったいないぞ」

「私も精霊を呼び出せるようになりたいですわ」



 と、昨日の放課後“クッキー対決を見た人”、“見てない人”、“途中で逃げた人”。昨日の放課後の話で盛り上がった。


 私も見たかったなぁ。

 すご〜く、美人の精霊だったみたい。



「あら、皆様もすぐに出来るようになりますわ」

「とっても簡単かんたんですわ」



 そこで、マリーとスピカが教室に入ってきた。



「マリー! スピカ! おはよう」


「おはようございます。ロザリー様!」


「ロザリー様、おはようございます」



 挨拶あいさつをすると、マリーは笑顔で皆の方向にクルッと向きを変えた。

 私にかわって、〔水の魔法〕のとなかたの説明をしてくれるみたい。




「肉を骨から引きがすのですわ」



 ……マリー!?



「とっても簡単かんたんですわ」



 ……スピカ?!




 この時、この教室の中だけ、ときが止まったように感じた。

 クラスメイトの顔から血のが引いていく。



「ちょっ、ちょっと、マリー?!

 誤解ごかいむから、まっ……」



 私は止めようとした。

 したけど、わなかった。



「ヤッホー! ってやりますの!!」

「とっても簡単ですわ」



 そこからは、もう、すごかった。

 クラスの皆が全身を使ってさけびあげ、大混乱になった。


 皆は、自分の肉を骨から引きがす姿を想像したみたい。



「〔肉〕を〔骨〕から()()()()()!!」

「とっても簡単かんたんだと?!」

「それを“ヤッホー”ってやるのか?!」

「ぜんぜん簡単じゃないですわ!!」

「イカれてる!!!!」


「ロザリー様が昨日きのうの放課後、魔法を使わなかったのは“()()()()”だからじゃない!

使()()()()()()()()()()()”だ!!」


「もしくは、二人におこなった人体改造の成果を確かめるため!?」

「やはりロザリー様は間違いなく“暗黒令嬢”だ!!」



 気絶する人。叫びながら壁をなぐる人。頭をかかえて走り回る人。ものすごいパニック状態になった。



「あれ?

 どうなさいましたの? 皆様?」


「……マリー。ちょっと言葉を間違えてるわ」


「え?! すみません!!

 では、誤解を解くために、私が皆様にお手本をお見せいたしますわ。

 皆様。こうやるのですわ……」



 と、マリーが両手を顔に持っていくと……



「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「朝からスプラッタなんて見たくないですわ!!」

「グロイグロイ!」

「いやぁ! やめてぇぇぇぇ!」



 皆が悲鳴を上げた。

 ただ手を顔の近くに持っていっただけなのに……。

 マリーは何故なぜ皆がおびえるのかわからないみたい。「? ロザリー様。皆様どうなされたのでしょう?」といっている。



「鼻のつけ根をちょっと押して筋肉を持ち上げるだけなのに、今のマリーの言い方じゃ、肉を引きちぎるみたいでしょ?」


「まぁ! 本当ですわ!!

 言葉って難しいですわね」


「私……マリーの言葉に何の疑問もいだきませんでした」



 マリーとスピカは青い顔をしている。

 本当に親切心しんせつしんから、皆に説明しようとしたくれたみたい。

 ありがたいのだけど……

 そうよね。言葉って難しいね。


 とりあえず。こんな状況でティアに説明するのは難しいので、今度ゆっくり教えると約束した。



「はい。ロザリー様。

 今度ゆっくりおしえてくださいませ」



 ティアが満足気まんぞくげに微笑んだ。

 すると、クラスの皆が集まってきた。

 


「暗黒令嬢ロザリー様!

 人体改造は何とか思いとどまってください!」



 え?



「肉を引きがそうが、持ち上げようが、流血はまぬがれません!!」

「私達は、あわれな、普通の人間です!」

「お願いです! 私達に人体改造をしないで下さい!」



 ええ?!

 私をどんな人間だと思っているのかしら?

 皆、勝手にどんどんグロい方に想像をふくらませている!!

 誤解を解くべく、慎重しんちょうに言葉を選んで返事をした。



「大丈夫よ。何も気にしないで?

 私()普通の人間よ?

 人体実験なんかしないわ」



 これで伝わると良いのだけど……。






「「「「ありがとうございます!」」」」






「広いその心に感謝します!」

「さすが暗黒令嬢ロザリー様!

 一般人には手を出さないでくださると!!」

「人間のフリをするには、自分のまわりを普通の人間でかためないと、暗黒界の人間だとバレてしまう!

 だからあえて我々を人間のままに!!」

「素晴らしき作戦です! ロザリー様!!」






「「「「「あなたが我々に〔人体改造〕をしないと約束してくださるならば、我々はこの学園にいる間あなたの配下にくわわります!!」」」」」







 すんごい息の合った返事。





 学園3日目の朝。

 驚いたことに、想像力(ゆた)かなクラスメイト達がみずから私の配下にくわわりました。

 もちろん私の頭の中のロザリーは、とても喜んだ。



『オーッホッホッ! 部下がえましたわ!!』



 クラスメイトが〔配下にくわわる〕って、もはや恋愛シュミレーションゲームの世界から道をはずれてるよね。

 何をどこで間違えたのだろう?






 そのあと、ヘンリー王子が花を舞わせながら教室に入ってきたんだけど……。

 クラスの皆は「さすが王族! 美しい!!」と見とれていた…………。

 ねぇ、ロザリー? 

 本当にヘンリー王子は私のこと好きなの?

 会う前からずっと花をき散らしてきたみたいよ? 別の誰かに会って、いい感じになったから機嫌きげんがいいんじゃないの?



『なら、本人に直接ちょくせつ聞いてみるといいですわ。

 あれこれ想像したって、相手が何を考えているかは聞いてみないとわかりませんことよ?』


 えぇ!?

 そんなこと言ったって私には聞けないよ!!




 この日、一日中ヘンリー王子は花を舞わせて上機嫌じょうきげんだった。…………何があったんだろう?

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