第20話 もとの世界にもどっても(挿絵有り)
アイザック先生とのダンスは、遊園地のアトラクションみたいだった。
息は切れるけど、ワクワク顔になってしまう!
「アイザック先生、これは楽しいです!」
「“これは”ってのが気になるが……、だろ?
普通に踊るより楽しいだろ?
理解者が現れて嬉しいぜ!」
アイザック先生、爽やか笑顔!
あれだけの運動量でリードして、余裕の笑み。
宮廷魔法騎士の基礎体力凄い。
「舞踏会で沢山の人と踊り、女性扱いを受ければ、今より自信が持てるかもしれない。
パーティーに参加しても、確かお前いつも人と話して踊らないよな?」
そうなの? ロザリー?
『チッ。この男、よく見てますわね』
本当なんだ……。
「これからはダンスもやれ。
これで、今日のレッスンはこれで終わりだ」
「はい。ありがとうございました!」
最後に、右手で頭を「ポンポン」と撫でられて気がついた。
私の事を気遣ってくれたのか!
そうだよね。
先生に殺されそうになったら、普通は傷ついたり落ち込んだりするよね。
『ここはゲームの世界だから』って、私は思ってるから何とも思わないけど、そうとうショックな出来事だよね。
アイザック先生優しい。
厩舎の所でアイザック先生を見送り、先生の姿が見えなくなった所で、ロザリーに話しかけてみた。
ダンスの時とか『キャーっ』てロザリーは喜ぶと思ってたのに、静かだったね。
『考え事をしていたのですわ』
そうなの?
『私を殺した犯人がわかれば、すべて解決で元に戻ると思っていたのです。
あなたは、日付がかわったら全もとに戻ると思っていたようですけど……』
うん。
『本当に日付がかわれば全てもとに戻るかしら?』
え?!
戻れないと困る!!
1日や2日ならまだ何とかなるだろうけど、現実世界の自分の体が心配になる!
このまま帰れないと私の体、死ぬんじゃ……?!
一人暮らしだから、すぐには騒ぎにならないだろうけど、そのうち家族にも心配されちゃう!!
だから、早く全て元に戻ってほしい。
でも、考えても仕方ない……。
どうなるのか、私達にはわからないね。
ね、元に戻ったら、ロザリーのやりたい事ってどんな事?
『そうですわね。
"世界の覇者"になりたいですわ。
自分の持てる力を使い、世界を動かす人間になりたいですわ』
世界の覇者!!
何気なく答えてくれたけど、スケール大きいね!
ここ、"恋愛シミュレーションゲーム"の世界よ?!
『私は私の夢を叶えるのに有能な殿方を探しているのです。
ヘンリー王子は、この国の最高権力者の息子なので、最有力候補ですわ』
そういう基準で男性を見てるのね。
悪役令嬢っポイ思考だわ。
『あなたはどういう基準ですの?
ヘンリー王子から告白されてましたし、早々にくっついても良かったのですわよ?』
え?! 告白されてた?
記憶に無いよ?
『クッキー対決の後片付けの時、「宮殿に来てほしい」と言われましたわ。
"妃になって、一緒に宮殿に住んで欲しい"という、プロポーズですわよ?
ヘンリー王子は花まで舞わせてましたわ』
『あなた"宮廷魔法騎士になれと言われている"と誤解してましたけど?』
何でその時、おしえてくれなかったの?!
いろんな事があったから、頭がうまく回ってなかったのよ。花は『キャーキャー』言ってるロザリーのものだと思ってた。
『人のせいにしないでくださいませ。
私嬉しくて"きゃあきゃあ"叫ぶので精一杯でしたの。
で? あなたはどうなのです?
家庭教師の男やヨド先生にも愛情を向けられてましたけど、誰が好きですの?』
ちょっ、ちょっと待って!
お互いに気づいてないだけで、アイザック先生とヨド先生は愛し合っているのよ?
『……は?』
もう! 鈍感ね!!
アイザック先生はヨド先生の事が好きで、ヨド先生はアイザック先生の事が好きなのよ!
乙女ゲームにBL入れてくるなんて、このゲームはかなりヤバイわね。幅広く乙女の心を鷲掴みにしようと攻めてるわ。
何て、強欲なゲームなの……。
『ちょっと! まちなさい!!
あなた、なんて残念な人なの!? あの時の花は、両方ともあなたに向けられたものですわよ?!』
いや、それは無いよ。
『思い出しなさい。あなた始めてヨド先生にお会いした時「2人目の攻略対象だ」って言いましたわ』
あっ!!
『ヨド先生が“ティアを好きになる”という展開があるなら、“私を好きになる”という展開もあるという事ですわ』
そう言われてみると、そうだね……。
『あなたが学園で勘違いした時、あの家庭教師も「違う」と否定しておりました。
それにさっきのダンス!
舞い上がっていた花弁は、あなただけのものではありませんでしたわよ?』
えっ?!
ロザリーの指摘に、どんどん顔が赤くなる。
『あなたがやらかした校庭の“毒の沼”の後片付けで疲れているだろうに、わざわざ様子を見に来て、ダンスまで!!
普通の家庭教師は、ここまで面倒見ませんわ』
……!!
そう言われると、とても親切だった気がする。
『私達が燃やされていた時、ゼアも全力をつくしてくれたらしいですけど?』
待って! 待って! 待って!! ロザリー!!
私がモテモテみたいな言い方しているけど、からかわないでよ!!
『あ〜ら、恋愛シュミレーションゲームの世界ですわよ?
可能性は無限大ですわ!』
もう!
私なんかがそんなにモテるわけないじゃない!
『……私なんか……?』
急に頭の中のロザリーの声がくぐもった。
『あなた……。今、だれの、体にいますの?』
ロザリーが怒ってる……?
『美しき、私の体ですわよ!!
モテないはずがありませんわ!!!!』
ロザリー!
すごい自信!!
でも、そうだよね。
ロザリーは凄く美人だものね。
『その通り!
だから気になる殿方がいたら、だまって手を握るだけで恋が始まります!!
良いですこと?
もし元の世界に戻ったら、後で後悔しないよう、気になる殿方の手を握るのですわよ?』
ロザリー……。
私の事、心配してくれてるのね。
ありがとう。
うん。がんばってみる。
『その意気です!
手を握っただけでは何も始まらないかもしれないけれど、何かしなければ何も進みませんわ!!』
ロザリーに励まされて、胸が熱くなってきた。
私、特に役に立たなかったのに、心配してくれてありがとう。
『いいえ。
あなたがマリーとスピカに〔水の魔法〕のコツを教えたのよ?
私が人生を何度くりかえしたとしても、周りの人の力を借りられても、自分に襲いかかる大きな炎を消せなくて死んでしまうに違いありません。
あの炎を消したのはマリーとスピカですが、炎を消せたのはあなたのおかげでもあるのよ。
あなたをこの世界に引き込んで良かったですわ』
……本当に、ヨド先生にとり憑いたバグが取れて良かったね。
ねぇ。
そういえばヨド先生は「悪霊にとり憑かれた」って皆に説明したけど、今の私達はどうなんだろう?
私にとり憑いているロザリーは「悪霊」になるの?
『何て事を言いますの!
この体は私のものです!!
私の体に入っているあなたが「悪霊」ですわ!』
えぇ!?
ひどいよロザリー!!
『フフン。
私をからかおうなんて100年早いですわ』
そして、少し間を置いてロザリーが静かに話しだした。
『生きている人間の力は世界を変えていきます。
もとの世界に戻っても、私達と出会った事を忘れないでくださいませね?』
うん。
この後、私とロザリーは寝るまでに沢山話しをした。
それはベッドの中に入っても。
執事さんがお弁当を持たせてくれてたけど、食堂にも行ってみたかったねとか、制服の魔法防御が高くてビックリしたねとか、くだらない話。
そして、いつか眠りについた。
目が覚めて視界に入ったのは、白い天井。
白で揃えた家具。
4人一緒に眠れそうな、白の天蓋付きベッド……。
白のレースがお姫様みたい……。
え!?!?
ここ、ロザリーの部屋!!!!




