第19話 ダンス(挿絵有り)
「皆とても良いお嫁さんになると思う」
……失言だったかな?
マリーには言ってはいけなかったかな?
「いいえ。それはロザリー様です。
ロザリー様は最強のお嫁さんになれますわ」
と、マリーが得意気に言ったので、ホッとしたけど……。
さ、〔最強〕って……褒めてるのかしら?
褒めているのか、嫌味なのかどっちかな? と思ったらロザリーに『よく見るべきですわ』と言われた。
あ!
マリーの周りに花が舞っている!
この世界独特の、愛が溢れた時に舞う花!
「ロザリー様の旦那様になるお方は世界一の幸せ者ですわ」
ニコニコ笑顔でそう言ったスピカの周りにも、花が舞っている。
「ロザリー様こそ、とっても良いお嫁さんになると思います」
ティアも、花を舞わせながら笑顔でそう言ってくれたから、嬉しくて涙が出そうになった。
「ありがとう。私はクッキーの作り方さえ知らないのに、皆にそう言ってもらえて嬉しい」
と話したら「クッキーの作り方を知らないのに対決を申し込んだのですか!」と皆に笑われた。
それは、とてもとても温かい雰囲気の片付けタイムだった。
ボウルや小麦粉などが片付いたので、外に出たままの机の上を拭きに行くと、すれ違いざまゼアに、
「クッキーを作れなくても、嫁には行ける。気にするな」
と言われた。
突然の事だったので、凄く驚いた。
ゼアなりに、気を使ってくれたのだなと思うと、笑いが込み上げてきてクスクス笑ってしまった。
机を拭いたので、校舎内の家庭科室に向かうと、家庭科室から校庭に向かうヘンリー王子に声をかけられた。
「ロザリー。水の魔法なら、君に勝てると思ったのだけど……今回も僕の負けだ」
「いや、私の魔法は暴走しているので、王子に勝てたとは思っていませんよ?」
だって、ねぇ?
ヘンリー王子は見事に制御していたもの。
「そう?
じゃあ、その言葉に甘えて、君に伝えたい事があるんだ!」
私の返事を聞いて、突然ヘンリー王子の表情が明るくなった。
男の人ってプライドで生きているものね。
まして、一国の王子ともなるとプライドが高そう。とりあえず、機嫌を良くしてくれたなら良かった。
ただ……。間近で見るとキラキラすぎて腰が抜けそうになるから、少し離れてほしいと思っていたら、
「ロザリー。宮殿に来てほしい……」と、言われた。
ヘンリー王子もか!
アイザック先生に次いで、ヘンリー王子までもが、〔宮廷魔法騎士〕になれと言うのか!!
衝撃を受けている私とは別に、頭の中のロザリーは、『きゃあきゃあ』と喜んでいる。
将来、安定しそうな職だものね。
「なるほど。
例え魔法の制御が出来なくても、魔法の威力が強そうな人は早めにスカウトしようというわけね」
「え?」
「しらばっくれなくても良いです。
先程アイザック先生にも言われました。
でも私、学園に入ってまだ2日ですし、自分に自信が持てないんです。
この先の授業に着いていけるかもわかりません」
「ロザリー、僕は……」
「王子。
ティア達3人が宮廷に誘われたのに対し、私だけおまけみたいに勧誘されたのを気にしているのですね」
「え、何の話……?」
ヘンリー王子はとぼけたフリも上手い!
私が傷つかないように気を使ってくれるとは!!
問題児の私に、こんなにも気を使ってくれるなんて、将来良い王様になるね。
ありがとう。
でも、
「そんなに優しくしてくれなくても良いですよ」
「???
……そっか。
優しくしなくても良いか……。
こういう事は"駆け引き"も大事だものね、ロザリー?」
"駆け引き"って人材確保のため?
何かよくわからないから、笑顔で話を流して逃げた。
だって、ヘンリー王子は笑顔なんだけど、何か腹黒いオーラを感じてゾクゾクしたんだよ。宮廷ってそんなに人材足りないのかな? 実は魔法を使える人少ないの?
学園からの帰りは、真っ白くてプリンセスが乗ってそうなカーブの多い作りのプリンセス馬車が、とても懐かしく思えた。
長い1日だった。
クッキー対決が終わったら、すぐ元の世界に戻れると思ってた。まだ何も起きないから、今日の夜に日付けが変わると同時に帰れるパターンかも!
これが最後になるだろうから、プリンセス馬車を思いっきり楽しんでおこう!
学園を出発し、林を抜けてお店がいくつか並んでいる通りに出てくると、数人の通行人がいたので挨拶をした。
「大工のおじい様。お疲れ様です。
新しいお店かしら? 素敵な建物ね」
「ごきげんよう。奥様。明日もよい一日を」
見かけた人全員に声を掛けていった。馬車の窓もカーテンも閉まっているので、誰にも聞こえないけどね。
聞こえないから、思いっきり〔お姫様ごっこ〕を楽しんだ。シンデレラ気分で、馬車から手を振る一人お姫様ごっこは楽しかった。
*
*
*
お屋敷(山の中の魔法学園に通うための別荘)に帰れば、今日もまた執事さんとメイドさん達がずらりと並んで迎えてくれた。
そして、執事さんに今日も聞かれた。
「お帰りなさいませ。ロザリーお嬢様。
今日の授業はいかがでしたか?」
「校庭を水浸しにしてしまった」とは言えない。「先生に殺されそうになった」なんて、もっと言えない。
「そうね。
昨日も思ったけど、やはり教え方の上手い先生だったわ」
嘘は言ってない。
だって昨日は水の魔法を使えなかったのに、今日は使えるようになった。これはヨド先生のおかげ。
「それは良かったですじゃ」
執事さんの穏やかな笑顔、癒されるわ。
とても長く感じる1日だったため、一週間ぶりぐらいに帰ったような安心感がある。
今日は本当に疲れた。
ご飯を食べて早く寝よう……と思ったら、
「お前、すごいな」
「え? アイザック先生?!『今日は家庭教師はお休み』って言ってませんでしたっけ?」
「お前が出した〔紫の水〕を早く片付けて、様子を見に来たんだよ。一応な」
「? そうですか」
様子を見ると言いつつ、「やっぱり今日も魔法のレッスンをやる」と言われるかもしれない。
なので、屋敷の裏にある厩舎近くのテーブルでお茶を飲みながらお話を聞く事にした。
「お前、猫被るの上手いよ。
何だ、あの、『教え方の上手い先生だった』は!
確かにそうだけど、凄く自然に色々と隠したな。俺はお前を尊敬する」
「嘘は……ついてないですよ」
私は訝しげにアイザック先生を見た。
お説教をされるのだろうか?
「貴族のお嬢様なのに、悪がきッポイのが面白いって褒めてんだよ」
そうですか。
ほめたのですか。
ほめるなら、わかりやすくしてほしい。
でも、これ喜んで良い事なの?
「と、いうわけで今日の稽古は、ダンスだ」
え?!
何が「と、いうわけ」なのかわからない!
学園では「今日の家庭教師はお休み」と言っていたのに、やっぱり家庭教師するのね。
しかも、なぜかダンス!
私は焦った。
アイザック先生の嫌がらせによるストレス発散タイムになるのかな?
ダンスなんて踊れないし、不安……
「お前、自分に自信がないだろ。
それが魔法に出ている可能性がある。
自信がないから、必死に全力で呪文を唱える。
そして、大惨事」
あたってる。
火の魔法も、水の魔法も出せる気がしなかった。だから必死に呪文を唱えたら、まさかの大惨事になった。
え? だからってダンスをする理由にならないんじゃぁ……。
「さ、ロザリー様」
と、アイザック先生は腰の剣をテーブルに置いて立ち上がり、私に近付いて来た。そして、左手で紳士的に私の右手を下から軽く握る。
それと同時に、私の左肩甲骨下に右手を当て、私を右胸に引き寄せた。
その動作全てがスマートで紳士的だったので、それはとても自然な事だと思えた。
いやいやいやいやいや!
アイザック先生があまりに自然すぎて、されるがままになってたけど、“自然な事”なんかじゃない!
だいたいアイザック先生は口は悪いけど顔はカッコイイ上に、身長が高い!
魔法の練習の時は上着を脱いで黒のTシャツ姿になるんだけど、今日は宮廷魔法騎士の制服を来たままなので更にカッコいい!!
その上、とつぜん紳士的な言葉を使われると体温が急上昇しちゃうわよ!!
騎士だからなのか、すっと背筋が伸びてて王子様みたいだし、ふれている手とか、あたっている腕の一部分から(筋肉ついてるな〜)とか(ヘンリー王子より筋肉あるな。騎士だもんなぁ)とか考えてしまうのよ!
だから、その流れでヘンリー王子にお姫様だっこされたのを思い出したりもして、はずかしくて顔が赤くなる!
連想終わって、我に返ればアイザック先生との距離が近くてドキドキする!
現実世界ではアイザック先生との方が歳が近いから、余計に意識してしまうのよ!!
しかも、こんな時に限って夕陽がキレイ!
もう頭の中ぐちゃぐちゃ。
頭から火が出そう!
「踊りましょう」
と、アイザック先生は静かに微笑んで、ステップを踏んだ。
ちょっと! まって! 私、ダンスなんて習っていないんですけど!
でも、あれ?
……踊れてる。
というか、今、あれ?
今も..?
体が触れてる一部分を少しだけ押されたり、引かれたり……私、さりげなく操られてる!!
急に紳士になったけど、アイザック先生のオラオラ気質変わってない!
自然に人を思い通りに動かしている!!
そして、ふれてる部分が全然いらやしく無い!
そう、これは例えるなら……
お姫様扱い!!
私は今、お姫様扱いを受けている!
アイザック先生は、私をお姫様扱いしながら、思い通りに操っている。
「感覚が鋭いな。
リードする度に反応するとは……」
「“リード”っていうか、人を操ってますよね」
「いいや、“リード”だよ。
ま、細かいことは気にせず、とりあえずダンスを楽しんでみろ!」
アイザック先生はそう言うと、スピードを上げた。
一直線にタッ、タッ、タッ、と大股で進んだかと思うと、「グルン」と左に回って遠心力で私の体が外に体重がかかった。
その遠心力を利用して、アイザック先生は私をグインッと斜め上に持ち上げた。
うわっ! 空を飛んでるみたい!!
「ブゥワッ!」っと体が浮いて、体が中に留まる。
"位置エネルギー"ってやつだ!
学校で「物を投げた時、一番高い位置で物体がその場に留まろうとする」っていうような事を習った気がする。
それから、「フワッ」と女神が地上に降り立つように、緩やかに私は地上に降ろされた。
何これ!
遊園地のアトラクションみたい!!
「アイザック先生! これは楽しいです!!」




