第2話 魔法学園登校初日の朝(挿絵有り)
私はその場でふと下を見た。
カールが、でかくて足元が見えない!!
目の前には艶々カール!
もはや職人技のこの髪型を、目の前にいるメイドさんがしてくれたと思われるので、「見事だわ。ありがとう」と、とりあえずお礼を言う。
「?! ロザリーお嬢様?!
いつも礼など言わないのに、本当に今日はどうなされたのですか?
熱がおありなんじゃぁ!!」
え? お礼を言ったらダメなの?
メイドさんに手でおでこの熱を測られながら、いつもは何と答えるのかをそれとなく聞いてみたら、「いつもは、顎を振り上げて『ふんッ。さっさと朝食を運びなさい』とおっしゃいます」と言われた。
"顎を、振り上げる"の?!
フ、リ、ア、ゲ、ル?
"突き出す"なら、まだ想像できるけど"振り上げる"なんて初めて聞いた表現よ!
私が驚きで動けないでいると、メイドさんは真面目にその様子を説明しながら再現してくれた。
「まず、左下に顎をフイッと下ろしながら『ふんッ』と言います。次に顎を外に大きく振りながら『さっさと朝食を運びなさい!』……」
とても10代の学生がする仕草ではない。
貫禄が凄かった。
ロザリー!
まだ若いのに、それじゃ"悪役令嬢"じゃなくて"悪の親玉"よ!? 令嬢らしく"お嬢様"しなさいよ!!
と、私は心の中で嘆いた。
すると姿は見えないが、頭の上の方から声がした。
『うるさいですわ。
私ちゃんとお嬢様教育は受けております。
メイドはこき使われるのがお仕事ですのよ?
強い主人の役に立つ事が、彼女達の誇り。
私は主人として、威厳を見せてあげているのです。そうすれば強い者の下に着けた喜びをメイドは感じるのです』
へ、へぇ。そうなんだ。
"威厳を見せる"だなんて……。
恋愛シミュレーションゲームだから、平和な世界だと思ってた。“強い者の下”って……。平和じゃない部分もあるの?
ってか、私の心の声に反応するの?!
どうなってんの? ロザリーの姿は見えないよ?
私はキョロキョロと天井を含め、部屋を見渡した。
しかしロザリーの姿は見つけられなかった。
『私あなたの意識の中におりますの。
さぁ、共に犯人を探しますわよ!』
……と、いうことは、
私はロザリーにとりつかれながら、ロザリーの代わりをするのか!
ロザリーと頭の中で話していたら、メイドさんが不思議な顔をしたので、とりあえず咳払いして、
「今日は魔法学園の入学式だから、はしゃいでしまったわ。
さ、朝食を持って来なさい」
と言いながら顎を振り上げてみたら、メイドさんが生き生きと返事をして、食事を運んで来てくれた。ちょっと私には理解不能な世界だけど(こういう世界もあるのか)と納得した。
家庭でのルールって、人それぞれよね。
と、いうわけで私はロザリーのフリをするため、何かあると顎を振り上げなければならなくなった。
(……クッキー対決って、かなり最初のイベントだから1日か2日で帰れると思うのだけど、どうなのかしら?)
「お嬢様。馬車を待たせてあります」
そうメイドさんに言われて玄関まで行く途中、でっかくて高そうな絵や彫刻があることあること。
おぉ……、そうじをするのも大変そう。
ロザリーの家は本当にお金持ちなんだね。
そして玄関に着いたら、待ってる馬車がこれまた豪華!
シンデレラ!
そういう感じ。真っ白で、やたらと大きな曲線入ってて、花や果物が彫刻されてて……「お姫様!!」って誰もが思うようなデザイン。
正直、ロザリーに似合わないんじゃぁ……。真っ黒に塗ったら超絶似合うけど……。
そう思いながら馬車に見とれていたら、ロザリーが
『愚かな庶民ね。
似合う、似合わないより、好きか嫌いかよ。
基本的に他人の感想など、どうでもいいわ。
人の目を気にしていたら、生きてて息苦しくなるでしょ? 好きなものに囲まれている方が幸せではなくて?』
確かに。
自分に"似合う""似合わない"を気にせず、欲しいものを手にできたら幸せだ。
私は浮かぶ風船が好き。
だけど街で風船を配ってるの見かけても、私には似合わないからと、もらう事が出来ない。大人も、もらっててもだ。
もしも、他人の目を気にせず風船が好きだと言えたら、受け取る事が出来たら、とても心が満たされただろうなと思う。
ロザリーは強いね。羨ましい。
その考え、素敵だと思う。
今はロザリーの姿だし、私にも出来るだろうか?
他人の目を気にせずに、考えてみよう。
この白いメルヘン馬車。
いつもの私なら、乙女チック過ぎて自分には似合わないから近寄らないようにするけど、正直言うと、私も好きだな。お姫様気分になれるから。
こっそり、お姫様ごっこしてみたい。
あれ? 毎朝これで魔法学園に通うのか。いや、暗殺されるから、今日と明日しか乗れないのか……。
2日間しか乗れないかもしれないなら、ここは、お姫様気分を楽しむべきよね。
しかし、本当に暗殺されるのかいまいち実感がわかないし、"他人の目を気にしなくて良い"と思っても、すぐに実行できるわけもなく……。
学園が見えてくると、凄くドキドキしてきた。馬車から降りたら「白い馬車が似合わない」と皆に言われるような気がする。
『誰が何と言おうと、聞こえないフリでもしておきなさい。人を妬んでくる人はどうしてもいるものよ。
こっちに聞こえるように発言しているだけの者は無視すれば良いの。
直接話しかけて来たら、対応すれば良いわ』
さらに、ロザリーはニコッと笑って言う。
『私に話しかける勇気のある者は、そうそういなくてよ。
見てなさい。
誰も私に話しかけないから。
あなたは堂々としていれば良いの』
最後の方は不適な笑みだった。
頼もしいな。
何事もなく、平穏な学園生活をスタートできますようにと祈っていたら、馬車が学園に到着した。
私は覚悟を決めて、馬車から堂々と出る。
膝丈のスカートをフワッフワッとなびかせて、お姫様のように上品に降り立った。
あ、これ、他の人から見えないわ。
他の生徒も馬車通学なので、半円のロータリーでは角度がつくから隣の人の馬車が少し見えても、馬車デカイし乗ってた学生までは見えない!
流石、貴族向けの学園!
馬車を降りたら校舎に向かうから、振り向く人もいない!
私は魔法学園の校舎にゆっくり堂々と歩いた。
あぁ、ドキドキする。
ロザリー代理は心臓に悪い。ゲームだと一瞬で教室だけど、教室まで歩いて行くの緊張する。
この学園で、誰かが私を殺すのか……。
歩いている間に、古いレンガ作りの雰囲気たっぷりの校舎を見上げて感動した。
校舎まで続く道には「樹齢何年なんだろう?」と思うぐらい立派な木々が植えられていた。
私はゲームの世界を生きている!
この世界をリアルに体験できるのが、ロザリー代理の楽しみね。
ここで私は気がついた。
ヒロイン!!
確か初日に校舎までの道程で、王子様とヒロインのイベントがあったはず!
私は慌てて左右を見渡した。
近くを歩いていた生徒が、私の突然の動きに驚いているけど、それどころじゃない。
ロザリー代理、1つ目のお仕事よ!
ヒロインのティアが近くにいないようなので早足で先へと進むと、少し歩いた所でうずつくまっているのを見つけた。使い手が滅多にいない「光の魔法」を使えるティアは、転んだ姿も輝かしい。可愛い。可愛いわ!
悪役令嬢代理の重圧にドキドキしながら、出来るだけ自然に、優雅に近寄る。二つ結びの大きなカールをコロンコロンさせて。
そして、勇気を出して言った。
「あらぁ。あなた、何も無いところで転ぶのが得意なのね」
金髪ロングでサラサラヘアの可愛い彼女を見下ろしながら、私は体験版をプレイして見たロザリーの口調を必死で真似した。
ロザリーが意地悪い感じで話しかけないと、ティアと王子の恋は始まらない!
全てはロザリーを暗殺した犯人探しのため、話をストーリー通りに進めなければならない。
……でも意地悪するのはちょっと心苦しい……。
ティアの側には"お付きの人"と思われる同年代の男の子が、一緒にしゃがんでいたので、
「お付きの人も、大変ね」
と、言ってみた。なかなかのロザリーっぷりではないだろうか?
すると、お付きの人は、グレーの髪をサラサラ風になびかせながら、私を睨んで言った。
「あなたは、
わざわざ嫌みを言うために来たのか」
は!
お付きの人に言い返された!
これは体験版ゲームになかった展開!
これが、ゲームでプレイする場合と、リアルにその世界を生きる差なのね!!
それとも、この人が私を暗殺するのかしら?
それにしても、お付きの人に絡まれるとは……どうしたら良いの?
とりあえずヒロインのイベント優先だから、悪役令嬢ッポク返事しなきゃ。
えっと……、顎を振り上げて……
「そうだとしたら?」
私が意味深に見下ろしながら、そう言ってみた。
すると、お付きの人は私を睨んで何か言おうとしたんだけど、ティアがそれを遮った。
「すみません……。
お恥ずかしい所をお見せして……」
そう言う彼女の肩を綺麗な金髪がサラサラ落ちて可愛い!!
鼻血出そう!!
でも、がまん。がまんよ。ここはこらえて演技をしなければならないわ。
「そう思うなら、さっさとお立ちなさい」
言えた!
鼻血が出そうなのを堪えて言えたわ!
ところで……
そろそろ来るはずだと思うのだけれども……。
そう思った時、後ろから男性の声がした。
「大丈夫ですか?!」
来たぁーーーーーーーーーー!!
好感のある低音ボイス。顔を見なくてもイケメンとわかる爽やかな話し方!
ヘンリー王子!!
皆と同じ制服を着ているのに、キラキラ輝いている!! そしてお付きの人は2人! お付きの人もキラキラしている。さすが王子!!
ヘンリー王子はメインの攻略キャラなので、学園初登校の朝、石に躓いて転げたらヘンリールートに入れるという超簡単ルート!(でも1/4の確率でヒロインが石に躓かないので、出会える出会えないは運任せだったりする)
ヘンリー王子はティアの手を取りながら、「何かトラブルですか?」と言った。
ティアのお付きの人が渋い顔で何か言いかけたが、ティアの方が先に口を開いた。
「いえ……私が一人で躓いて転げていたので、心配して声をかけて下さったのです」
そう言いながら、ティアは自分で立ち上がった。
「あの……皆様、私、ティア・ラティフォリアと申します。よろしくお願いいたします」
えぇ。知ってる!
と思いながら、鼻血が出そうなのを私は必死にこらえた。ゲームのヒロインの美しさ、ハンパないわ。
「私はヘンリー・アルムス・ダビニアナと申します」
知ってる!
「私はロザリー・バードックですわ」
私は仁王立ちして、上から目線の自己紹介した。
(言った後で何だけど、ヒロインと王子を見下すって悪役令嬢凄いね)
「私は、ゼア・メイス・リンです」
あなたは知らない。
そうか、お付きの人にも名前あるよね。
「よろしく。目付きの悪い番犬さん」
一応悪役令嬢っぽく、ツンツンした態度をとっておいたけれどけれども……私の役割合ってる?
お付きの人が目を見開いていたので、まぁ悪役令嬢っぽくは出来たかなと思う。ヘンリー王子のお付きの人はジェイクとフォスターだそうだ。この2人にも驚いた顔された。
態度悪くてすみません。
こんな態度だけど、ティアのためにもなるんです。と心の中で密かに言い訳をしながら、私は不機嫌に「フンッ」と言って立ち去った。
私がいなくなって見つめ合うティアとヘンリー王子。
私はチラチラと振りかえって、こっそり見守る。
2人は何か話をしているみたい……。
ううぅん。ゲームでは風が吹いて、花が舞うのだけど……ないかな?
と、その時、爽やかに風が吹いて、春の花を舞わせた。
あの2人の所だけ、花が降り注いでいる。ピンクに黄色に赤(ピンクの花が多いかな?)朝の光も輝かしくて、幻想的で美しかった。
素敵なイベントを盗み見できるなんて、ロザリー代理も良いことあるじゃない!
だいたいの流れとしては、ヒロインがドジをしでかす→ロザリーが嫌味を言ったり、対決を申し込む→ヘンリー王子(もしくは他の攻略対象)が助ける→甘々ムード。
このローテーション!
ヒロインを軽く苛めればドキドキの展開を間近で見られる! 特等席!!
見てて! あなた達二人のために頑張るわ!!
私が心の中で盛り上がっていると、
『あの2人を応援していたら、私達は最後ドラゴンに食べられますのよ?』
う……痛い所をつくねロザリー。
そう。
実はゲームでは最後に、悪役令嬢の悪事がバレてドラゴンへの生け贄にされる(一体ロザリーはこの先、何をしでかすのかしら?)体験版しかプレイしてないし、発売日は半年先だから謎だわ。
『私だって大雑把な設定しか知りませんわよ。
あと、本来の目的も忘れないでもらえるかしら?』
あぁ、そうだった……。
『あなたの役目は、これから私を殺す犯人を見つけ出す事し、復讐することですわ』
あぁ、忘れていたかった……。
『今日の授業で火の魔法を習うから、上手く火を使いこなせる者をチェックしますわよ。
真面目にやらないと、私達、明日のクッキー対決で火だるまにされましてよ』
それは……嫌です。
嫌な現実を思い出してしまった。
このままでは明日、私は死ぬ。
明日を生き延びても、ティアの恋のために頑張っていたら、3年後の卒業と同時にドラゴンに食べられて死ぬ!
何か抵抗する術を身に付けなければ!!




