第18話 誤解(挿絵有り)
『普通に生きてて、〔黄緑色のオーラ〕が出る人間なんていませんわよ?』
そうよね?
普通の人間は〔黄緑色のオーラ〕なんて出ないよね。
『抵抗するべきですわ』
わかったわ!
私は足を踏ん張り、杖を握りしめた。
そう。杖を握りしめただけなんだけど……。
「大変だ! 暗黒令嬢が本気を出すぞ!!」
「逃げろ! 逃げるんだ!!」
「もう、校庭だけではすまされないぞ!!」
「とにかく逃げろ!」
え?
え?
え?
え?
何故か外野が騒ぎ出した。普通の人間が校舎を壊せるわけないじゃない! しかも校庭から校舎までの間に中庭があるし、ちょっと距離がある。しかし、もうそれ処じゃない。
私は先生の誤解を解く!
「ヨド先生。
マリーとスピカは努力家です。
そりゃ顔は意地悪そうな顔に見えますけど、それは今まで悔しい思いをしてきたからです。
頑張っても、突然現れた他の令嬢に自分の立ち位置を取られたら、ちょっと心がひねくれたりもします!」
「ダカラ クラスメイト ヲ 苛メテモ 良イイト、 アナタ ハ 言ウ ノ デスカ!
“土ヨ、 アノ者 ノ 動キヲ 止メロ!"」
ヨド先生が〔土の魔法〕を撃ってきた。
空かさずヘンリー王子とゼアが前に出て〔水の魔法〕で撃ち落としてくれる。
あ―――!! ダメだ! 全然会話にならない! しかも何か先生って話し方がおかしい!! 子ども番組の怪人みたいになってる!
「そもそも、苛めてなんかいません。
どっちが美味しいクッキーを焼けるか、対決していただけです!」
「対決 ノ フリ シテ、〔光 ノ 魔法 使イ〕ヲ 焼コウ ト シテ イタ!」
「そんな事してません!
だって私はティアが大好きだもの――!」
思いの丈をぶつけるように叫んだ。
すると花がブワッと舞い上がり、ヒラヒラと舞い降りて来た。
あ、これ、私の花だ。
「先生! ロザリー様は私のために、クッキー対決を申し込んでくださったのです!」
私でも花が出るのだなと思っていたら、ティアが割って入ってきた。
そして、真っ赤な顔で、
「ロザリー様は、その、私がヘンリー様の事をお慕いしていると勘違いして、私とヘンリー様が仲良くなるきっかけにと、対決を申し込んでくださったのです」
「え! 勘違い?
ティアはヘンリー王子の事、好きじゃないの?」
「人としては好きですが、恋愛のそれではありません。どちらかと言うと、不器用ながらも気にかけてくださるロザリー様の方が好きですわ」
と、はにかむ笑顔がまた、可愛い。
鼻血出そう。
「ふたりとも、花が舞っている……。
嘘ではないようですね。
ですガ、学園ノ平和ヲ乱すモノは、排除……」
普通の話し方に戻りそうだったヨド先生が、また変な喋り方に!
……苦しそう。
先生の体にビリビリ横線が……まるで古いTVみたい……。
これって……。
『ゲームのプログラムのバグですわね。
改めて、自分がゲームの世界の住人だったのだと思い知りますわ。
どうやら"学園の平和を保つ"という事に過剰反応しているみたいですわ』
どうしたらヨド先生は治るの?
『わかりませんわ。
……〔光の魔法〕なら、もしかしたら……』
「ティア! ヨド先生に〔光の魔法〕をかけてほしいの」
私は、すぐさまティアにお願いした。
ティアは深く頷いて、ヨド先生に光の魔法をかけた――――。
「“光よ。この者を癒やしたまえ”!」
すると、先生の体の中から〔黄緑色のモヤ〕が出て来て、空に登って行った。それは不気味で、空に上っていくのは何とも信じられない光景だった。
『何をしてますの?!
あの〔黄緑色のモヤ〕を燃やしなさい!!』
え?
モヤを燃やすの?
『何の為にあなたをこの世界に引きずり込んだと思ってますの?!
“モヤ”が私が死んだ原因ならば、あれを燃やすべきですわ!』
慌てて〔火の魔法〕を唱えようとしたのだけど、〔黄緑色のモヤ〕は空の彼方へ飛んで見えなくなっていた。
あの〔黄緑色のモヤ〕、ティアの魔法で消滅したんじゃないのかな?
『チッ。たとえ消滅であろうと、借りはキッチリ返してやりたかったですわ!』
ロザリー、怖い……。
や、役立たずでごめんね……。
ヨド先生はフラッとしながら、
「何故、僕はここに?
放課後と思ってましたが……今、授業の時間ですか?」
少し記憶が抜け落ちているみたいだけど、やった!
良かった! 良かったねロザリー!!
プログラムのバグ取れたよ!
と安心したのも束の間。
「お前ら! 何やってんだ!!」
ほんわかムードの中、怒りの声が響く。
校庭の階段の踊り場からはまだ見えないけど、声の主はアイザック先生だった。
校舎から大股で歩き、マントを翻しながら近付いて来るのが、少ししたら見えてきた。
「人がちょっと休憩に行ってる間に、大騒ぎじゃねぇか。
……話を詳しく聞かせてもらおうか?」
優雅で威厳のある歩きをしながら
ずっと文句言ってる。
何だか怖い……。
逃げたくなってきた。
そうだ!
逃げよう。そうしよう。
と、こっそり逃げようとしたら、
「ロザリー、職員室に来い!
取り巻き3人も一緒だ!」
「取り巻き3人?
アイザック先生、ティアは私の取り巻きではないです……」
と、言いかけた所で
「ヨド! 貴様もだ!
オマエラ、ゼンイン、コイ」
うぅ~。
アイザック先生の怒り、果てしない。
私達は抵抗できず、私とティアとマリーとスピカとヨド先生とで職員室へと向かった。
「なぁ、教師が生徒を殺そうとするってヤバイ話だぞ?」
職員室に行くと怒られると思ったのに、アイザック先生は真面目に事実確認を始めた。
「僕はそんな事を?!」
とヨド先生は頭を抱えた。
「数人の女生徒から、ロザリーさんがティアさんを殺そうとしていると聞きました。
誤解だと思ったのですが、いちおう確認のために校庭に向かったんです。
途中ティアさんに向かって杖を振り上げたロザリーさんが見えて、危ないから止めなきゃと思ってから記憶が酷くボヤけて……。
まさか、ロザリーさんを殺そうとしてたなんて僕は消えてしまいたい……」
と言って、しぼんでいる。
「本当にすみませんでした」
「ヨド先生! 私は生きています!
ねぇ、皆!
ティアがヨド先生に〔光の魔法〕をかけたら、緑のモヤが空に登っていくのを見たでしょ?
ヨド先生は《《悪霊》》に《《とりつかれていた》》のよ!
だから、皆!
今日の事は忘れましょう!!
"今日の放課後は何もなかった"それでいいじゃない?」
「ロザリー様はそれで良いのですか?」
「もしもとりつかれたのが自分だったらどう?
正気に戻った時、乗っ取られていた間の事を責められたら辛いよね?」
「……確かに辛いですわ」
「でしょ?
だから、皆! 忘れましょう!
被害者の私が言うのだから良いのよ!!」
と、無理やり押し通した。
だって、先生の行きすぎた考えはプログラムのバグだもの。責めるのは可哀想だ。
ヨド先生の姿がビリビリと霞んだ時は恐怖しかなかったけど、元に戻って良かった。
話を無理やり終えた所でアイザック先生が、口を開いた。
「君達、卒業したら宮廷に来てはどうかな?
妖精を呼び出せる者や、精霊と契約した者はいるが、例え偶然でも実体化した精霊を喚び出せる者はそうそういない。待遇良く迎えてもらえるぞ」
アイザック先生、宮廷モードになってる!
職員室に呼び出した本当の理由は、勧誘だったか!
にしても、私が焼かれている間にマリーとスピカが
水の精霊を喚び出したというのには本当に驚いた。凄い子たちね
「素敵なお話ありがとうございます。でも……」
と、ティアとマリーとスピカがチラチラこっちを見た。
まさか、精霊を喚び出せない私に気を使っているの?いいのよ?気にしないで――――――
「ロザリー様が王になった時、側でお仕えしたいのです。」
え”え”ぇ――――――――――――――っっ!
あなた達、本当に私が王様になると思っているの?!
『ホホホホホホホホ! 良い心がけですわ!!』
ロザリー大喜び。
いやいやいやいやいやいやいやいや。
「私、王様になる気なんて無いわよ?」
「え? そうなの?」という顔をするティアとマリーとスピカ。「まぁ、そうだろうね」という顔をするアイザック先生とヨド先生。
「ま、卒業までまだあるから頭の隅に入れておいてくれ」
これで今回の話は終わり。そんな空気になった時、ヨド先生が
「そういえば、ロザリーさんが二人に妖術をかけたと聞きました。
いったい二人に何をしたのですか?」
疑問を投げ掛けてきた。
アイザック先生も興味があるみたい。
「ボイストレーニングです。
ヨド先生のお話を聞いてて、それぞれの精霊にとって、聞き取りやすい音がある事を理解しました。
だからヨド先生がお話された〔可愛い声〕を出しやすい発声法を2人に教えたんです」
そして私は、お昼にマリーとスピカにした〔声を出すときのポイント〕を説明した。顔の中の筋肉とポジション。そのためのヤッホーのポーズ。
説明を終えるとヨド先生が、
「そうですか。
まだ授業が始まって2日しかたってないのに、僕の話を聞いて、そこまで考えていたのですか。教えがいがあります」
って言ってくれて、〔妖術使い〕という誤解もとれたので本当に良かった。
「へぇ。ヨドってそこまで魔法の研究してたんだな。どうりでこの学園の生徒の魔法習得率が高いわけだ。
〔聞き取りやすい音〕があったとは……」
アイザック先生が感心しているから、どうやら〔精霊の聞き取りやすい音〕はヨド先生が独自に研究したものらしい。
「俺、そんなの気にした事なかったな」
あぁ、アイザック先生は天才肌の人だ。
昨日「初心者に魔法教えるの苦手」って言ってたものね……。
ま、何はともあれ誤解が解け、私達は帰れる事になった。別れ際、
「宮廷への話は、お前もだぞ。
推薦するから、俺の部隊に来いよ」
と、アイザック先生に、とても温かい目をして言われた。
何やら感動的なムードを出されようとも、たまったものではない。優しいヨド先生の教え方と違って、スパルタ教育に違いないと思う。
「あ、すみません。
〔宮廷魔法騎士〕は私には無理だと思います。
私、ヨーロッパの剣は苦手なので……」
と、やんわり断っておいた。
「ヨーロッパ?」とアイザック先生が首を傾げていたけど、〔剣が苦手〕という事は伝わったようだった。
そうだよね。〔ヨーロッパ〕はわかんないよね。気を付けよう。
帰れる事にはなったけど、忘れてはいけないクッキー対決の後片付け。
マリーとスピカとティアと、ティアを待ってたゼア。そして、ヘンリー王子と護衛の2人までもが後片付けを手伝ってくれた。
「皆、ありがとう。
〔クッキー対決〕したいと言い出したの私なのに、最後まで付き合ってくれて嬉しい……」
マリーとスピカに至っては、準備までしてくれたのだ。
「皆とても良いお嫁さんになると思う」
片付けをしながら、ティアとマリーとスピカを見てたらポロッと言ってしまった。
は! マリーは婚約破棄された過去があるから嫌味に受け取れたらどうしよう?




