第17話 精霊召喚(挿絵有り)
ゼアに続いてとヘンリー王子、そして護衛のジェイクとフォスターが加わっても〔黄緑色の炎〕は消えそうになかった。
そして、少し離れた所にいたマリーとスピカも、〔水の魔法〕でロザリーを助けようとしていた。
「「水よ、器を満たせ!」」
すると、ロザリーがいたテーブルのボウルがカタカタと揺れ始め、水がボウルいっぱいに湧き出て止まった。
「……」
「……」
それ以上ボウルに変化はなかった。
「え――――――――!!?
これで終わりですの??」
「確かに命令通り水が器を満たしましたけど、これではダメですわ!!」
マリーとスピカは慌てた。
ロザリーはまだ〔黄緑色の炎〕の中にいる。ヘンリー王子とティアのお付きが水の魔法で助けようとしているが、すぐに消えそうにはなかった。それどころか〔黄緑色の炎〕に押されている。
今こそ自分達が華々しくロザリーを助けるチャンスなのに、何も出来ない!
「あ’’――っ! 私の計画が――――――!!!」
ロザリーに取り入って、皆を見返す計画がダメになりそうで嘆くマリー。
「そうよね。マリー! 私達ロザリー様のために計画を立てたのにこんなのってないわよね!!」
そして、マリーは自分と同じ思いだと勘違いして、マリーに感動するスピカ。
「今日のお昼、初めて友達が出来たと思いました。ロザリー様と、マリーと、お昼休憩の時のあの温かい空気で学園生活をおくりたいですわ」
自分とは違う絶望をしているスピカを見て、マリーは今日のお昼を思い出した。
「……。 私も、……今日のお昼の魔法の特訓は楽しかったですわ。久しぶりに何も考えずに楽しく過ごしました……」
マリーは、幼馴染から婚約破棄されて以来、自分を憐れむフリして、楽しそうに噂話をする人達を見返す事しか考えてこなかった。
でも、何か素晴らしい才能があるわけでもない。頭が良いわけでもない。他人を呪いながら嫉妬にかられる毎日だった。
だが、今日のお昼はそれを忘れていた。
心の底からピアノを習っていたスピカが凄いと思ったし、〔ヤッホーのポーズ〕は魔法の特訓としては斬新で面白かった。
とても素直になれた時間だったと思う。
せっかく特訓して〔水の魔法〕を使えるようになったのだ。せめてロザリーに水がかかってほしかった。
水をいっぱいに入れて、カタカタと揺れるだけのボウルがとても虚しい。
今、この間にもロザリーは〔黄緑色の炎〕で焼かれている。
カタカタカタカタカタカタカタカタ……。
依然として揺れるだけのボウル。虚しくて、2人の視界がぼやけてきた。
「嫌ですわ……。こんなの……」
「私も、こんなの嫌ですわ……」
涙が流れた。
それはどんどん勝手に溢れてきて、止める事ができなかった。
マリーとスピカは大粒の涙をこぼしながら叫んだ。
「「水の精霊よ! ロザリー様を助けて!」」
2人の叫び声と共にボウルの水が盛り上がり、やがて水は巨大な女性の形になった。
突如として現れた、校舎と同じぐらいの大きさの女性の形の水を、皆、距離をとりつつ見上げた。
水の体の巨大な女性は何も言わず、ただ両腕を下から上に動かした。
するとロザリーの足元から炎が消えていき、水の体の巨大な女性も青い霧になって消えた。
「今の……って、精霊……?」
野次馬の一人が呟いた。
この状況をうまくのみこめず、皆、啞然としていた。
精霊を喚び出したマリーとスピカでさえ何が起きたのか理解できなかった。ものすごい疲労感に襲われ、何も考えられなかった。
「ロザリー!!」
〔黄緑色の炎〕が消え、炎に巻き上げられていたロザリーが落ちてきたのでヘンリー王子とゼアが駆け寄り、ロザリーを受け止めた。
髪は焼け焦げ、皮膚は爛れ、炭になりかけている所があり、見るにたえない姿だった。それなのに制服は少し焦げただけで、ぜんぜん破れたり燃えたりしていなかった。良い素材を使っているらしい。そのおかげなのか、ロザリーはまだ微かに息をしていた。
〔黄緑色の炎〕に吹き飛ばされていたティアもロザリーの元に駆け寄って行った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ロザリー様! ロザリー様! ロザリー様!!」
必要以上に甘やかす周りの人間と違い、自分が頑張りたい時に見守ってくれた彼女。“光の魔法使い”だからおそれ多いと、遠巻きに自分を見てくるクラスメイトと違いロザリーは今日も声をかけてくれた。しかも〔対決〕をしようと……。
嬉しかった。
普通に接してくれるのがとても嬉しかった。なのにロザリーは今、変りはてた姿になっている。ティアはパニックになった。
「ティア! 落ち着け!!
落ち着いて光の魔法を使うんだ!!」
「……嫌。
嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌……」
ティアにはロザリーしか見えないし、ゼアの声も、何も耳には入らなかった。
「いやぁぁぁ! 死なないで! ロザリー様!!!」
ティアが涙を流しながら全身で叫んだ途端、ティアから光が溢れ出し空へ勢いよく光の柱が上っていった。
その場にいた者は眩しさに目も開けられなかった。光が収まってきた時、ティアの背後には校舎ぐらいであろうと思われる巨大な〔光の精霊〕がいた。ロングヘアーの美しい女性の精霊だった。
光の精霊がしゃがんで2人の王子ごと両手でロザリーを包むと、その手の中に光が溢れた。
(温かい……。
焼けた喉が、皮膚が、再生していくのがわかる。焼けて縮んだ肉もフワフワと元に戻っていった。
なんて心地よいの?)
心まで満たされた気がした。
次第に視界がハッキリしてきて、ティアの泣き顔が見えたと思ったら思いっきり抱きつかれて驚いた。
「ティア?!」
「ロザリー様! 生きてて良かった!!」
気が付けばヘンリー王子とゼアにしっかりと支えられていて、心臓が大きく跳ねた。
(ひょぇぇぇぇぇぇぇ! 何なの?! この密着ぐあいは!! ドキドキするわよ!!!)
状況を呑み込めないでいると、マリーとスピカにも抱きつかれもみくちゃになった。
「皆ありがとう! まだ状況がよくわからないけど、皆のおかげで助かったのだけはわかるわ。
本当にありがとう」
その時、目に入ったのは〔巨大な足〕だった。ギョッとして見上げると、光り輝く美しい巨大な女性が見下ろしていた。
(きっと……これが〔光の精霊〕なんだわ)
「あの……。
助けていただき、ありがとうございました」
何となくお礼を言ってみた。
巨大な〔光の精霊〕は、何も言わずに消えていった。
『気を抜いてはいけませんわ!
犯人が来ますわよ!!』
頭の中に響くロザリーの声を聞いて、反射的に近くに落ちていた自分の杖を拾っう。
階段の上から聞こえた声はヨド先生のものだった。
「〔怪しげな妖術〕を使って、マリーさんとスピカさんが魔法を使えるようにしたと言うのは本当のようですね」
「違います!
私は2人に〔ボイストレーニング〕をしただけです。妖術なんて使えません!!」
「そうですか……。〔ポイズントレーニング〕と言う妖術ですか。……何と、恐ろしい」
「無理やり間違えようとしてません?!」
(私、今、ボイストレーニングって言ったよね?)
『言いましたわね』
ロザリーに確認とってから、ヨド先生の誤解を解くべく一生懸命に説明した。
「ヨド先生! 違います!! ボイスです! 〔声〕です! 〔発声練習〕です!!」
「……〔発生練習〕……」
「先生! 多分私が思うのと意味が違います。特訓の事です!」
「〔毒を使って魔法を発生させる特訓〕ですか! 何と恐ろしい!!」
(うわぁぁぁぁん!
全然話が通じないよぉ!!!!)
『これは、あれですわね。
あなたが人体実験をしたと思いこんでて、想像している言葉しか頭に入ってこない状況ですわ。
ほら、周りを見てみなさい。
皆、“やはりそうだったのか”と思いたくて仕方がない顔をしてますわよ』
ロザリーに言われて、他の生徒を見渡してみると確かに皆が納得している表情だった。
(そんなに?!
そんなに私を悪人にしたいの?)
『何か、おかしいですわね』
(本当だよ、おかしいよ!)
「……だから“友達は選ぶように”って言ったのに。
力の強い者に取り付いて自分が強くなったと思い込み、威張る。そんな者が近くにいるせいで、頑張りやのあなたは道を踏み外してしまった……」
「申し訳ありません! それは深く反省しています!! ですが私達、今日のお昼に心を入れ替えたんです!!」
「私も! スピカと同じで、今は深く反省してます! だから、ロザリー様を殺さないでください!!」
スピカとマリーが前に出てヨド先生に一生懸命訴える。
(話を聞いててちょっと思ったのだけど、“不良っポイ態度をとってしまった”というのが問題なのよね? それが理由で、学園生活始まって2日目にして私は先生に殺されるの?)
『そのようですわね』
(え? ヨド先生って、今日のお昼まではめっちゃいい人だったよね?)
「心ヲ“入レ換エタ”?」
「先生!
また無理やり間違えようとしてませんか?!」
「学園ノ平和ノタメ、秩序ヲ乱ス者ハ、排除シナケレバナリマセン」
ヨド先生から黄緑色のオーラが出た。
『先生のこの変わりよう、おかしいですわ』




