第14話 ゼアの2回目の魔法学園生活① (挿絵有り)
「いえ……私が一人で躓いて転げていたので、心配して声をかけて下さったのです」
(1回目と全く同じだ……)
ゼア王子は1回目と同じ会話をするヘンリー王子とティアを不思議な思いで見ていた。
「あの……皆様、私、ティア・ラティフォリアと申します。よろしくお願いいたします」
「私はヘンリー・アルムス・ダビニアナと申します」
「私はロザリー・バードックですわ」
スキルで自分の存在を薄くしているとはいえ、今回は自分も近くにいるのだ。一応自己紹介しておかないと「あれ?自己紹介しないの?」と疑問に思われれば、その人に対してスキルの効果が薄れる。
仕方なくゼア王子も流れにのって自己紹介をした。
「私はゼア・メイス・リンです」
ヘンリー王子が「ハッ」と、何かに気付いた顔をした。
そして、真面目な顔になったので王子だとバレたようだ。静かな学園生活をおくりたい事を察してくれると良いのだが……。
(このスキルも万能ではないという事か)
ヘンリー王子に気を取られていると、ロザリーが話しかけてきた。
「よろしく。目つきの悪い番犬さん」
(やはりこの女は気持ちが悪い。
気配がまるで違う。
ロザリーのフリをしている別人だ。間違いない。
どんな魔法を使ったのかはわからないが、ロザリーの人生を乗っ取っている!)
本性を暴き出してやる。と思った時、
「で? あなた達は?」
と偽物ロザリーは言った。
(あなた達?)と疑問に思いながらロザリーの目線を追うと、彼女はなんとヘンリー王子の護衛に話し掛けていた。
「え……。自分達ですか……?」
「そうよ? あなた達とも、今日から毎日顔をあわせるのでしょう? よろしくね?」
何を考えているんだ、この女!?
護衛に、他人の護衛に挨拶をする令嬢など初めてだった。
(巧妙な罠の下準備なのか?)
ヘンリー王子の護衛のジェイクとフォスターが、ロザリーに自己紹介をしている間、ゼア王子はそんな事を考えていた。
ゼア王子には悪印象だった偽物ロザリーは、ヘンリー王子とティアには好印象だったらしく、ロザリーが先に教室へと行ってしまうと2人はロザリーの話で盛り上がった。
「素敵な方でしたわね」
「えぇ。身分に拘らない、素敵な女性でした」
とヘンリー王子とティアは微笑んで、ロザリーへのトキメキの花びらを舞わせた。
ゼア王子は複雑な思いだった。
(確かに今の時点で偽物ロザリーは、本物のロザリーと同じように良い人にも見える。
だけど、油断はいけない!)
そう心に決めながら、さっきの自己紹介を思い出していた。
(ヘンリー王子の護衛に声をかけるのはまだわかる。光の魔法が使えるとはいえ、ティアの護衛と思われる人物に普通は声をかけない。
……あの女、私とも言葉を交わすとは……)
スキルを使っている間の自分の存在がかなり薄いので、ゼア王子は不思議で仕方なかった。
教室での最初の自己紹介は1回目の時と同じように、スキル〔消失〕をずっと使っていたので特に誰からも興味を持たれなかった。ティアの護衛としか思われてないようでホッとした。
初日の魔法の授業では、特にロザリーに注目した。
本物のロザリーはロウソクの炎ぐらいの大きさだった。果たしてこのニセモノは……
〈《燃え上がれ! 炎よ!!》〉
バカでかい声が校庭の端から端まで響き渡り、空に雲が立ち込めてきたかと思うとロザリーの杖が紫に光り、その光は一直線にとび、校庭の木々を紫の炎で包んだ。
悪夢だ……。
クラスメイトは突然の事に受け入れられず、皆しばらくポカンと口を開けていた。そして、紫の炎がゴウゴウと音を立てると、生徒達は正気に戻り叫びながら逃げて行った。
ロザリーは悪魔と入れ替わったのか?
ゼア王子が絶望しそうになった時「はっはっはっはっは!」と魔法の実技担当のヨド先生が大声で笑いだした。
(恐怖で先生がおかしくなってしまった)
「僕のアドバイスをここまで再現出来る生徒がいるなんてとても嬉しいです」
とヨド先生は1人つぶやきながら喜んでいる。それがゼア王子の心に引っかかった。
そう言われてみると、偽物ロザリーは先生に言われた通りにやっただけ……?
偽物ロザリーの方を見てみると、自分の杖を抱きかかえて泣きそうな顔でオロオロしていた。
(上流階級の生徒は学園に通う前に家庭教師に教えてもらうから、魔法を使うのが今日が初めてという事はないはずだ。現に上流階級の生徒は自分の限界をわかっているから、限界の手前で力をセーブして呪文を唱えている)
教室に避難する時も彼女は申し訳なさそうにしているし、まさか……
魔法を使うのは今日が初めてなのか?!
だが、全ては彼女の巧妙な罠かもしれない。
とりあえず、帰り際に偽物ロザリーに声を掛けてみる事にした。
「あなたのせいで私は魔法を使えませんでした」
「……ご、ごめんなさい。ゼア。
明日は気を付けるわ」
青ざめながら謝るロザリーを見て(もしかしたら何も企んではいないのかもしれない)と、ゼア王子は思った。これからは落ち着いて彼女を見てみようと――――――。
そして2回目の学園生活2日目。
今日もティアと一緒に馬車で登校し、教室に入るとロザリーは〔暗黒令嬢〕だと噂されていた。
しかも、いかにも“手下”みたいな“ドヤ顔”をした令嬢を2人連れていた。
(これじゃ、どう見ても噂通りの〔暗黒令嬢〕じゃないか!)
もしかしたら偽物ロザリーは何かに巻き込まれただけかと思ったのに、噂通りの悪人にしか見えなかった。
ヘンリー王子が少し顔を赤らめて「今日の授業で僕の魔法が君より威力を出せたら、聞いてほしいことがあるんだ」と偽物ロザリーに話していたのも苛立った。
(ヘンリー王子は偽物ロザリーに告白する気だ!
俺の知ってる本物のロザリーではないので邪魔をする気はないが、たとえ偽者であろうと見た目はロザリーだから他の男とくっつきそうなのが腹が立つ!!
だが、あいつはニセモノだから、どうでもいい!
どうでもいいんだけどロザリーの姿!!)
悶々と悩んだ末、ゼア王子はイライラして偽物ロザリーに、
「昨日魔法が使えた人はいいですね」
と、声を掛けてしまった。
あまり目立ちたくないのに、余計な事をしたと少し後悔した。
始業ベルが鳴り、ヨド先生が教室に入って来て〔闇の魔法〕は王になる素質の者が使えるので、ロザリーの事は怖がる必要はないというような話をした。
(たった1日で教師まで味方につけるとは恐ろしい女だ)
その後もゼア王子は偽物ロザリーの事ばかり考えていた。
(教室から校庭へと移動する時、クラスメイトに囲まれて人気者に見えた偽物ロザリーは、よく見ると怯えていた。
学園を支配するつもりなら、皆を取り込むチャンスだ。なのにそれをせず、怯えている……?)
偽物ロザリーのせいで昨日〔火の魔法〕に挑戦出来なかったゼア王子は、火の魔法を難なく出して見せ、そして、ロザリーを見てため息をついた。
(この女が分からない)
そして授業は〔水の魔法〕の説明に入ったがゼア王子は一通り魔法が使えるので、アドバイスを聞く必要がなかった。
従兄妹のティアは光の精霊と契約しているので、他の属性の妖精もティアの声に耳を傾けてくれる。
威力はとても小さいがティアも一通りの魔法が使えるから、ティアが何かドジをしでかさないか見張る必要は特に無く、偽物ロザリーの様子を盗み見ていた。
何故ヘンリー王子があんなにくっついているんだ!
偽物だからどうでもいいけど、見た目はロザリーそのもの。邪魔しに行くか行かないか悩んでいると、偽者ロザリーがそれどころではない事に気がついた。
他の生徒が水の魔法に挑戦するのを観察しながら、自分の番が来るのを恐れている様だった。
(別に〔水の魔法〕が使えなくてもいいじゃないか。使えない人は大勢いる)
ゼア王子はロザリーに早くやるよう促した。
「あなたの番だ」
偽者ロザリーがハッとして、ジッと見つめてきた。ゼア王子は気にせず話を続ける。
「その様子では〔水の魔法〕は使えないと見える。
使えない人も大勢いるのだから、出来なくても恥ずかしくない。
思いっきりブリッコでやってみてはどうだ?」
ちょっとウンザリ気味に話したのが気にくわなかったのか、偽者ロザリーが更にジ〜ッと顔を見つめてくるので、ゼア王子はたじろいだ。
そして偽者ロザリーは憑き物が落ちたようにスッキリした顔をして、ゆっくりと両手を目の高さに差し出し、呪文を唱えた。
それはロザリーとは思えない別人のような〔可愛い声〕だった。
〈《水よ、器を満たせ!》〉
ザッッパァ――――――――――――――ンッ!
15mぐらいの紫の水柱が突如現れ、校庭を紫の水で沈めた。
パッと見は〔毒の沼〕以外の何物でもなかった。
避難するため、従兄妹のティアと校舎へと続く階段の上へと走った。
(〔闇の属性〕が入ると〔水の魔法〕もここまで不気味になるのか。
〔王になる素質〕を持っている者が〔闇の魔法〕を使えると知っても、不気味な光景だった。王は王でも〔魔王〕では? と思ってしまう。
〔暗黒令嬢〕と皆が噂してしまうのもしょうがない気がする)
しかし、その諸悪の根源の偽者ロザリーは、ゼア王子を見て顔を青くしていた。
ティアが転びそうになったのでゼア王子が助けようとしたら、他の生徒に次々とぶつかられて怪我をした。それを自分のせいだとショックを受けていたのである。
悪人かと思えば、単なる天然で。やっぱり悪い奴なのかと思えば、自信がなくてオロオロしてる。やはり恐ろしい人物と思えば申し訳なさで青い顔をしている。
ゼア王子は考えるのに疲れてきた。
だいたい偽者ロザリーは、いつも何かに怯えている。もう考えるのはやめようと思った。
(こいつについて、あれこれ考えるのはバカらしい)
本当にバカバカしく思えて、フッと笑みがこぼれた。
「もとはといえば、“思いっきりやれ”と言ったのは俺だ。君はただ、正直に実行しただけだ」
そう。昨日の〔火の魔法〕も、ヨド先生のアドバイスを全力で実行しただけ。ここまで素直すぎる単純バカも困ったものだ。
ゼア王子はティアに〔光の魔法〕で怪我を治してもらい、ティアにお礼を言ってから偽者ロザリーに「ほら、心配する事なかっただろう?」と微笑んだ。
(家族や親戚以外の女性と話して、こんなに自然にいられるのは何年ぶりだろう?)
和やかな雰囲気で偽者ロザリーとも話ができそうな空気になったとたんヘンリー王子が割って入って来た。
「素晴らしい魔法です!」
ティアと話をするように見せて、ロザリーとの会話を邪魔しにきたか。
ヘンリー王子はなかり本気で偽者ロザリーが好きらしい。
ヘンリー王子。心配はいらない。
俺が好きなのは本物のロザリーであって、この偽物ロザリーじゃない。
そう心の中でヘンリー王子に語りかけながら、ヘンリー王子が舞わせている白い花をゼア王子は穏やかに見つめていた。




