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悪役令嬢にとりつかれました!  作者: 葉桜 笛
悪役令嬢にとりつかれました!

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第13話 ゼアの魔法学園生活2日目 (挿絵有り)

 魔法学園生活2日目。

 お昼休憩にロザリーが、ヘンリー王子をめぐってティアにクッキー対決を申し込んだといううわさまたたに広まった。

 魔法の実技の授業のため、校庭に移動するクラスメイトが口々に噂している。




「ティア様はまだお友達ができていないようですし、わたくしはヘンリー様にアピールしたい。

 つまり! ティア様はこの対決がきっかけで、お友達が出来る! わたくしはヘンリー様にさりげなくアピールできる!

 一石二鳥ですわ!!」


「まぁ! 素晴らしい作戦ですわ!!」

流石さすがロザリー様です!」




 そんな話し声がゼア王子の後ろから聞こえてきた。

(対決の話が大きくなりすぎて、“さりげなくアピール”どころか、”ヘンリー王子をかけた熱い戦い”になってるのだが……。ロザリー嬢は気付いていないのだろうな)と思うゼア王子の後ろからロザリーがヌッと距離をめてきた。

挿絵(By みてみん)



「と、言うわけで、ゼア様」

「えっっ?!」




 突然ロザリーに小声で話しかけられて、ゼア王子は驚いた。




「今の話は内緒にしていて下さいませんか?」

「え……、あ、はい」




 咄嗟とっさに振り向いて、そう返事をしたらロザリーにニッコリ微笑ほほえまれた。

 これでは話を聞いていたのがバレバレだ。「え?何の事ですか?」と言えば良かったとゼア王子は後悔した。




「ありがとうございます。殿()()





 うわぁぁぁぁぁぁぁ!

 王子だってバレてる!!





 こっそりつぶやくロザリーに、ゼア王子は冷や汗が出た。




「スキルを使って、存在をうすくしているのに……!」


「まぁ……。

 もとから知識として、あなたのお名前をわたくしぞんじ上げていたからかなかったのでしょうね」




 動揺どうようしすぎて、思わず自分の固有スキルをかしてしまうゼア王子にロザリーは冷静にそう答えた。

 知識として、5つも国を越えた先にある辺境の国の王子の名前まで覚えているのかと驚いてゼア王子は言葉を失った。アル厶ス王国の周りには他にも注目すべき国が沢山ある。




わたくし、いつか世界の頂点に立ちたいんですの。

 そのために、アル厶ス王国の王子にアピールするのは最短距離の道ですわ。

 知られると立場が悪くなるのは、お互いさまのようですし、この事は内緒にしておきましょうね?」




 内緒話が終わると、不吉に笑って、ロザリーとその取巻とりまきの人達はゼアを追い抜かして行った。

 どうやら自分が王子である事は黙っていてくれるらしい。台風ハリケーンのような人だと思った。ほしい物は何でも手に入れていくパワーを感じた。

 そんな彼女と従兄妹のティアのクッキー対決がどうなるのか気になったので、放課後対決を見に行く事にした。




 放課後のクッキー対決は、意外とギャラリーが集まった。

 魔法で対決するという事にワクワクする1年生と、光の魔法を使えるティアを見たい2、3年生が集まったようだ。


 校庭の真ん中に長テーブル2つが向かい合って置かれ、それぞれにクッキーの材料が置いてある。ティアと、ロザリーとその取巻き4人がそれぞれのテーブルに付き、長テーブルをかこうように見物人が2人を見守っていた。




「あなた。

 誰かに助けていただきませんの?」




 1人で対決にいどむティアに、ロザリーは違和感を覚えた。




「え……? えぇ。

 私とロザリー様の対決ですから」




 クッキーの生地きじねながら、ティアは答えた。ロザリーの方は、どうやら取巻き2人がクッキー生地を作るようだ。取り巻きの4人が協力して生地を捏ねていた。




「あら、お友達を増やすチャンスでしたのに……」

「あっ! 気がつきませんでした。次からはぜひそうします」




 ふふふと笑うロザリーを見て(ティアに友人を作るチャンスと、アドバイスしている……)とゼア王子は思った。




「素敵なアドバイスありがとうございます」




 ティアもそう思ったらしい。

 素直にお礼を言うティアを見て「ティア様がんばって!」という声がパラパラ聞こえた。この様子ようすなら対決のあと、ティアに友達が出来そうだ。ロザリーはいい人だなとゼアは思った。


 丁寧ていねいにお礼を言うティアを鼻で笑い飛ばしたロザリーは、火の魔法をとなえた。




「ホホホホホ! 燃え上がれ、炎よ!」




 その姿は悪役にしか見えなくて、ゼアはクスッと笑った。

 クッキー対決の1番の目的は、ヘンリー王子に自分の存在をアピールするため。そのついでに、ティアに友達作りのアドバイスとキッカケをあたえるなんて、人が良い。

 しかも、ロザリーが勢いよくさけんだわりに小さい小さい炎しか出なかったのも、何だか笑えた。

 クッキーを焼くには、その小さい炎が丁度いいのだけれど、悪役ッポク呪文を唱えたティアへの優しさが、離れた所で見ているゼア王子の心をあたたかくした。






 彼女が良いな……。

 婚約するなら、彼女が良い……。


 今はヘンリー王子の事を見ているけれど、いつか……俺の方を見てくれないだろうか?






 彼女ロザリーと一緒なら毎日が楽しそうだ。

 タックルしてくる令嬢なんて、吹き飛ばしてくれそうな勢いがある。と想像したら笑えた。


 その次の瞬間、ロザリーがクッキーを焼いている炎が一瞬いっしゅん黄緑きみどりに光った後、炎が急激に大きくなった。


「きゃぁ!」とロザリーの取巻き3人が驚いて地面に倒れんだ。

 大きな大きな炎が、ロザリーの体をちゅうに巻き上げ包み込む。

 向かい側のテーブルでクッキーを焼いていたティアは、その熱風で吹き飛ばされた。





「ロザリー!」





 ゼア王子は戸惑うギャラリーをかき分け、ロザリーのもと駆寄かけよろうとするが、皆が逃げようと走り出したので前に進まない。


 何か呪文をとなえる間もなく、ロザリーの体はまたたく間に灰になった。









「ぅあ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」








 ゼア王子は叫んだ。

 恋をしたと気付いた途端とたん、彼女は消え去った。

 絶望に体中が悲鳴を上げているようだった。


 次から次へと勝手に叫び声が出てきた。自分の体をどう扱ったらいいのか分からない。

 いつの間にか涙が大量にほほを伝っていた。ゼア王子は、ただただ悲しくて叫び声が止まらなかった。






「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"――――――!!!」
















 気がついたら、肉をしたフォークを口へ運ぶ所だった。



 何だ?

 今は肉を食べる気分じゃない。





「ゼアよ。お前もそろそろ婚約をしなければならない年頃だ」





 ?





「お前が女性が苦手なのはわかる。

 だが、王族としていつかは考えなければならない事だ」




 それは聞いた事がある話だった。

 いや、そんな事よりも、アルムス王国の魔法学園に通うため王族の別荘にうつったのに、何故、自国の王宮に戻っているのか……?




「とりあえず大国であるアルムス王国の魔法学園にかよってみるがよい」




 それを聞いてゼア王子はとび上がった。

 その勢いに料理をのせた皿がガチャンとはねた。




「もちろん通います!」



「?! どうしたのだ。お前にしては乗り気だな」


「女性にれろとおっしゃるのでしょう?

 国のため、そして自分の将来のために頑張ります!」


「お……おぉ!やる気になってくれたか!」

「はい!」

「お前の従兄妹いとこのティアも……」

「学園に通うのですね!

 では! さっそくティアをたよらせてもらいます!!」





 間違いない!

 何故かはわからないが、時間が巻き戻っている!




 ゼア王子は学園に通う間のかりまいを、王族の別荘ではなく、ティアと同じ別荘にしてほしいと願い出た。

 ティアはドジすぎて頼りにならないが、彼女はやたらとロザリーにからまれていた。ティアにり付いていれば、ロザリーに近付ける!


 さいわい、ティアの見た目だけは輝かしいほどに美しい。自分の存在を薄くするスキル〔消失〕を使っていれば護衛と間違われるので、一緒にいても不自然じゃない。

 ゼア王子の心に一筋ひとすじの光が差したような思いがした。





 ロザリー、今度は君を死なせない!





 2()()()の魔法学園生活初日。

 学園に降り立ち、従兄妹のティアと校舎に向かいながら自分の作戦がなかなかのものだとゼア王子は確信した。


 誰も俺にってこない!

 ティアの方が目立っている!!

 手のかる妹にしか見えなかった従兄妹も、たまには役に立つじゃないか!

 しかも〔光の魔法使い〕だから、恐れ多くてティアにも近寄らない!!


 これならロザリーの事だけ考えられると、心が踊った時、ティアが何も無い所でつまづいてころげた。

「大丈夫か?」と声をかけながら、ゼア王子はしゃがんでティアに手を差し出した。




「大丈夫です。私、自分で立ちます」




 目をうるうるさせながら、ティアはそう主張した。こうなった彼女は頑固である。時間がかかろうとも自分の力だけで立とうとする。

 …そもそもころげて立ち上がるだけだから試練でも何でもないはずなのに、ティアは動きが何だか遅くて、人より時間が掛かる。


(ティアの屋敷の人達が甘やかして育てるから、転げて立ち上がるだけで大事おおごとだな)




「私、負けません!」

「……そうですか。なら早く立って下さい」




 ティアは「うぅ……」と言って、やっと両手を地面についた。

 この先、学園生活をおくる中で転げたら自分で立つようにしないと、授業での実習など他の生徒についていけなくなるだろうから良い練習だ。

 そう思うと、やはりロザリーは素晴らしいアドバイスをしたものだと、ティアを見守りながらロザリーを思い出していた。





「あらぁ。

あなた、何も無いところで転ぶのが得意なのね」





 優雅にふたむすびの大きなカールをコロンコロンとさせて、ロザリー・バードックがあらわれた。




 ロザリー!!




 生きているロザリーの姿に胸がまって動けなくなった。




「お付きの人も、大変ね」




 しかし、彼女の言葉を聞いてゼア王子は我に返った。




 彼女はロザリーじゃない!




(確かに見た目はロザリーだし、声や仕草しぐさもロザリーのように見えるが、彼女は偽物にせものだ。ロザリーなら“お付きの人”という言葉を使わないはず)


 ロザリーの事は出会って2日間しか知らないが、それだけは間違いないと思った。本物のロザリーなら“あなた”と言うに違いない。


(この女、ロザリーのフリをして何がしたいんだ?)




「あなたは、

 わざわざ嫌みを言うために来たのか」


「そうだとしたら?」




 またもやロザリーのフリをして答えてくる。

 ゼア王子ははらわたが煮えり返る思いだった。




「すみません……。お恥ずかしい所をお見せして……」




 と、ティアがわって入ったので、ゼアは感情的になっている自分の心を沈め、まずはロザリーと名乗なのる彼女が何をしようとしているのかさぐる事にした。




「大丈夫ですか?」




 そこに、アルムス王国の王子があらわれた。

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