第12話 ゼアの魔法学園生活1日目(挿絵有り)
お昼休憩。
学園の人気のない裏庭で、光の魔法使いティア・ラティフォリアは従兄妹のゼア・メイス・リンとお弁当を食べていた。
「はぁ……。面倒な事に巻き込まれましたね」
「えっ……。
あのね、ゼア。そんな事ないわ。ロザリー様は悪ぶっていますが、私の事を気遣ってくれてるのよ。
今日は私の為にクッキー対決をしてくれるみたい」
ティアは静かにゼアの言葉を否定した。そして、顔を赤くして続ける。
「正直、ヘンリー様の事は何とも思ってないけれど、私のためにロザリー様が気を使ってくれるのがとても嬉しいの。だから、しばらく誤解は解かないでおくわ」
それを聞いて、ゼアはさっき自分の怪我を見て「ごめんなさい」と、青ざめていたロザリーを思い出した。
「まぁ、偉そうな態度ですが、悪い人ではなさそうですね。
どちらかと言うと、彼女の誤解を利用するあなたの方が悪い人だ」
ティアは「内緒にしてね」と小さく笑った。
悪い人――――――――――――――――か。
ゼア・メイス・リンはふと考えた。
(ロザリーを焼き殺した奴は誰なんだろう?
そして、今、この学園にいるロザリーは何者なんだ?見た目はロザリーだし、ロザリーっぽく振る舞っているけれど、あれはロザリーじゃない……)
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初めて魔法学園に通う1ヶ月前。
メイス王国にて――――――――――――――。
「ゼアよ。お前もそろそろ婚約を考えなければならない年頃だ」
父であるメイス国王からそう切り出されて、ゼア王子は肉を頬張ろうとした手を止めた。
「はぁ……」
弱々しい返事をして、肉を刺していたフォークを皿に置き、ゼア王子は少し俯いた。
「お前が女性が苦手なのはわかる。だが、王族としていつかは真剣に考えなければならない事だ。って、コラ――――――――――ッ!!
自分の存在を薄くするな!!」
ゼア王子の得意技は、自分の存在を極限まで薄くするスキル〔消失〕だった。
社交界デビューしてなくても、ホームパーティーだったり何かのお祝いだったりで、何かしらパーティーに参加する機会がある。ゼア王子は父であるメイス国王にくっついてパーティーに参加する事が度々あった。
5歳の時メイス国内でお昼に開かれた、とあるパーティーで「あっちで遊んでいなさい」と父に言われ、庭の木を眺めて歩いていたゼア王子は同じ年頃の女の子達に追い回された。
グレーの髪に金の瞳のゼア王子に心を奪われた幼い令嬢達は、力加減無しにゼア王子を掴み、「私の」「私の」と引き寄せあった。
13歳になれば、あからさまに追いかけられる事は無くなったが、令嬢からよくぶつかられるようになった。女性から声をかけるのはレディらしくないから、「あ、すみません」とゼア王子から声をかけてもらうのを期待しての行動である。
例え女性からぶつかろうとも、紳士なら自分が悪かった事にして謝ってくれる!!
と、彼女達は期待しているのである。
だが、ゼア王子は(今ぶつかられたけど、気付かなかった事にした方が良いかな)と思うタイプだった。
例え紳士的に「あ、すみません」と自分が言っても「いえ、私の方がぶつかってしまったのです。申し訳ありません」と女性に謝らせるのが嫌だった。
だから、令嬢達が軽くぶつかってもゼア王子はことごとく気付かぬ振りをした。
しかし、気付いてほしい女性達はどんどん力を入れてぶつかってくる。それを繰り返すうちに、とうとう「あ、ぶつかってしまってすみません」のレベルでは無くなった――――――――――。
殺意に満ちた押し競饅頭!!
ゼア王子が無かった事にする度に、令嬢が1人また1人と増えていき、とうとう周りを10〜17歳ぐらいの令嬢で囲まれてしまった。
(えっ?!
少しずつ移動して逃げているのに何故?!)
グイグイと揉みくちゃにされ、ゼア王子はパニックになった。
“私が先に声をかけてもらう!”
と彼女達は我先にと全力でタックルするように、体を押し込んで来るのだ。それは凄まじかった。
令嬢の肘が鳩尾に見事に食い込んだ時、ゼア王子は自らの死を感じた。
王子とのロマンスの始まりに憧れる彼女達の思いに気付けなかったゼア王子は、ただひたすら恐怖した。
何なんだ?!
何でよってたかって恨みがましく僕を押し潰しに来るんだ?!
女性って恐ろしい!!!
その強い思いから、ゼア王子は自分の存在を限りなく薄くするスキル〔消失〕を覚えた――――。
父であるメイス王国は怒りながらも話を続けた。
「とりあえず、大国であるアルムス王国の魔法学園に通ってみるが良い。
スキルを使って自らの存在を極限まで消してもかまわん。お前は魔法を習うというより、とにかく女性に慣れろ。
もしかしたら、そのうちお前と気の合う女性も現れるやもしれん」
父の気迫に、ゼア王子は頷かざるをえなかった。
「は……ぃ……」
「スキルがあれば、護衛もいらんだろう。むしろ、その方が目立たなくて良いかもしれん。
従兄妹のティアも魔法学園に通うから、何かあったら彼女を頼れ」
“頼れ”と言ったって、ティアはドジだから全然頼りにならない。自分の方が面倒をみる事になるのでは?
と、ゼア王子には不安しかなかった――――。
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そして迎えた学園初日。
学園に着き、馬車から降りれば気になるのはやはり女子生徒の動きだ。想像していたより女性が多くて足が震えた。
襲われないだろうか? と心配しながら校舎に向かう。
スキル〔消失〕で、そこに誰かいるのはわかるが自分の事は誰も気にしないはずなのだ。ゼア王子は心配する必要ないのに、他国の学園というのもあってビクビクしていた。
どうやら大丈夫そうだと思い始めた頃、自分が進んでいる道の先に従兄妹のティアが蹲っていた。
やはり、ティアは頼りにならない。自分が面倒を見なければ…と掛け寄ろうとした時、一人の女子生徒がティアの前に仁王立ちで現れた。
「あらぁ。あなた。何も無い所で転ぶのが得意なのね」
目がつり上がり気味の令嬢だった。
顔だけでも気が強そうなのに、紫のツヤツヤロングの髪を首の辺りで2つに別け、その先はとても大きくカールされており、更に気が強そうに見えた。白いリボンで髪を結んでいるが、彼女からは白いイメージより恐ろしいイメージしかわいてこなかった。
「ここにはあなたを助けてくれる執事やメイドはいないのよ?
さっさとお立ちなさい」
「はい!」
返事をするティアの目がキリッとした。
顎を振り上げ、ティアを見下すポーズで話す令嬢は恐ろしく見えるけれど、これは……。
彼女は私の従兄妹を気遣っているのか…?
もっと普通に言えば友情が芽生えそうなものを、この言い方では苛めていると勘違いされるのではないだろうか?
「大丈夫ですか?」
(ほら、こんな風に…って、え?!)
自分を追い越してティアの前に現れたのは、この国の王子、ヘンリー・アルムス・ダビニアナだった。
(アルムス王国の王子!)
青い目と爽やかな笑顔。シュッと整った顔立ち。女性なら誰もクラクラしそうなのに、金髪が更に彼を輝かしくしているように見えた。
(堂々としていて、私とは正反対の性格のようだな……)
流石、大国の王子は違うなとゼア王子は思った。
「いえ……私が一人で躓いて転げていたので、心配して声をかけて下さったのです。」
ティアの言葉に、ゼア王子は(その通りだ)と遠くから心の中で頷いた。
一方、ヘンリー王子は〔明らかに仁王立ちの女生徒が意地悪をしたように見えるのに、彼女を庇うなんて!〕と思っているのが顔に出ていたので、
(ヘンリー王子。
紛う方なく、ティアの言う通りだ)
と、心の中で忠告し、3人の横をすーっと通り過ぎて、ゼア王子はさっさと校舎に入って行った。
ずっとスキル〔消失〕を使っているので、珍しいグレーの髪も金の目も誰も気にしなかった。
自己紹介ではこの国の王子がやたらとキラキラ輝いている上に、丁寧に自己紹介するから女生徒の頭の中はヘンリー王子でいっぱいになった。
続いて特に珍しい光の魔法使いのティアが自己紹介すれば、クラスメイトの興味は2人に集中した。
学園生活1日目は何とか平和に終わった。
学園生活2日目。
お昼過ぎに、ロザリー・バードックがティアにクッキー対決を申し込んだという噂を聞いた。
2日目にして、もう苛めが始まるのか!
昨日見かけたロザリーは、そんな事をする人物に見えなかったが――――――?




