第9話 王子専用スキル!【君を離さない】(挿絵有り)
ヘンリー・アムルス・ダビニアナは、アムルス王国の国王である父から、よく言われる事があった。
「愛は素晴らしい。
愛する家族がいれば、どんな困難も乗り越えられる。心から愛する人を見つけなさい」
幼い頃から言われているので、自分と歳の近い女性に会うと(この人だろうか?)と考える癖がつようになった。だが未だによくわからない。
魔法学園に通う1週間前にも、夕食の時に「愛は素晴らしい」と言われた。ただ、この日は「愛する人を見つけなさい」だけではなかった。
「お前も15歳を過ぎて、縁談の話が持ち掛けられるようになった。そろそろ話の先延ばしも限界じゃ。
年内に、愛する者を探せ!
探し出せない時は、未来の王妃として理想だと思われる女性と婚約するのだ!!」
「今年中にですか?!
私にはまだ“愛”を探すのは難しいです」
「ならば、理想の王妃について考えるがよい。
もう普通の人よりは魔法を使いこなせるのに、魔法学園にお前が通う理由は、人じゃ!
人を見る目を養うがよい!!
近隣諸国の貴族が集まる学園なら、愛か、理想の妃候補が見つかるであろう。
もし見つからなければ、将来我が国に仕えてくれる優秀な人材を探すのだ」
「わかりました。
2年間の学園生活で優秀な人材を探します」
まだ15歳の自分には愛がわからない。だが、優秀な人物なら…とヘンリー王子は力強い返事をした。
その日の夜。ベッドに入ってから、理想の王妃についてヘンリー王子は考えた。
(魔力が高ければ、何かしらの理由で自分が国を離れた時も襲撃の心配をしなくてすむ。
魔力が無くても〔守ってあげたい〕と誰もが思う令嬢なら、皆が王妃を守ろうとして結果的に国を守る事になる。母上は後者だ。〔守ってあげたい〕と思わせる魅力がある。
女性で〔魔力が高い〕なんて現実的じゃない。やはり、美しい令嬢を探すべきか……)
ヘンリー王子はとても憂鬱になった。
学園生活は2年あるのに、1年目で〔愛する人〕を探し出すのは無茶だと思った。
(厳しい魔法の訓練の方が遥かに気が楽だ。
この間〔光の魔法〕を使える令嬢がメイス王国に現れた。遠目に見だけだけど、金色に輝く髪の美しい公爵令嬢だった。やはり彼女が第1候補かな……)
学園初日。
学園に着いたので馬車から降り、少し歩けばどよめきの声が上がった。
登校中の生徒が皆、自分を見ると道をあけて通りすぎるまで優雅にお辞儀をしている。その中をヘンリー王子は護衛2人を連れて、校舎へと歩いて行った。
(この状態では妃探しは時間がかかりそうだ。下を向かれては、表情どころか顔もハッキリわからない……)
どうしたものかと悩んでいたら、少し先にいる仁王立ちの女生徒の姿が目に入った。近くには地面に両手をついている女生徒もいる(喧嘩だろうか?)ヘンリー王子は急いだ。
王子が慌てて止めに入ると、大事になる可能性がある。ヘンリー王子は気持ちを落ち着かせて、爽やかに尋ねた。
「大丈夫ですか?」
先ずは地面に両手をついている女生徒を起こそうと、手を差し伸べて手が止まった。
美しい!
なんて美しい人なんだ。
金色に輝く髪が眩しい!!
この人だ。国民が守りたくなる女性――――。
ヘンリー王子は、すぐに彼女が〔光の魔法〕の使い手のティア・ラティフォリアだと気付いた。近くで見ると、妖精ではないかと思うほど輝かしかった。
しかも、明らかに仁王立ちの女生徒が彼女に意地悪をしたように見えるのに、彼女を庇い、自分で立ち上がる姿に凛々しさを感じた。
(やはり彼女は妃として理想の女性だ。
魔法学園登校初日で、もう未来の妃候補が見つかるなんて運が良い)
「あの……皆様、
私、ティア・ラティフォリアと申します。
よろしくお願いいたします」
思った通り、彼女は光の魔法の使い手だった。
早速父からの使命を果たせそうで胸が踊るのを抑えながら自己紹介をした。するとティア嬢は(えぇ!王子様だったのですか!!)という心の声が聞こえんばかりの表情をして、とても可愛らしかった。一方、仁王立ちの女生徒は(フフフン。知ってるわ。この国の王子を知らない人が、果たしてこの学園にいるかしら?)と言わんばかりの表情だった。その表情にヘンリー王子は衝撃を受けた。
(僕はなんて傲慢だったんだ!
自己紹介すれば、女性は必ず恭しく頭を下げるのがあたりまえと思っていた……。
自分でも気付かぬうちに“王族”という地位にあぐらをかいていたのか! たまたま生まれた家が王族だっただけなのに、それを誇りに思っていたなんて……。僕は自分が恥ずかしい。
ロザリー・バードック
僕に正気を取り戻させてくれた人。
覚えておこう)
ロザリーの自己紹介が終わると、ティアの護衛と思われる青年も自己紹介をしようと口を開いた。
(あぁ、そうだ。
魔法学園に貴族階級は関係ない。
護衛を兼ねた学生も、ここでは対等だ)
と、思っていたら、彼は「ゼア・メイス・リン」だと名乗った。
彼は王子だ!
(ティア嬢が美し過ぎて、護衛に見えてしまっていた。王子だったのか!)
この世界の貴族の名前は「❲名前❳・❲領地❳」となる。王族は「❲名前❳・❲国名❳・❲首都❳」。一般市民は「❲仕事、もしくは住んでいる土地の特徴❳の❲名前❳」となるので、もし、ロザリーが一般市民だったなら「北の山の麓のロザリー」とか「パン屋のロザリー」というような名前になる。
メイス王国のゼア王子!
(親戚だから一緒にいただけだ。
確かティア嬢は、メイス国王の姉の娘。ゼア王子の従姉弟だ)
「よろしく目付きの悪い番犬さん」
とロザリーがゼア王子に言った。
(学園内では生徒は皆対等とはいえ、さすがに他国の王子にそれは……)
とヘンリー王子が思った時、
「で? あなた達は?」
とロザリーは聞いた。
(一体、何を言っているのだろうか?
ゼア王子とティア嬢とロザリーと自分。皆が自己紹介を終えた。新しく誰か来たのだろうか……?)
ロザリーを目で追うと、なんとロザリーはヘンリー王子の護衛に名前を聞いていた。
彼等はゼア王子と違って、制服を着ていない。護衛のためだけにヘンリー王子に付いており、魔法学園は5年前に卒業している。護衛の2人もとても驚いていた。今までの人生、護衛に自己紹介を求めてきた人物は初めてであった。
「え、……自分達ですか?」
「そうよ?
あなた達とも、今日から毎日顔を合わせるのでしょう? よろしくね?」
「は、はい。よろしくお願いいたします。
自分は、ジェイク・マッキュルトです」
「自分は、フォスター・テイモルドです。
よろしくお願いいたします」
護衛2人の名前を聞くと、ロザリーは去って行った。
護衛とも自己紹介する人を初めて見た!!
ヘンリー王子の心に大きな衝撃が走った。
バードック家というと、彼女は侯爵令嬢。
上流階級なのに……。
そうか!
“魔法学園に貴族階級は関係ない”
それを示すために、彼女はあえて上流階級の自分から声をかけたのか!
つまり、彼女の前では、僕もただの1人の男。
“立派な王子であるために”と今まで生きてきたけれど、この学園では1人の人間として生活できるという事なんだ。彼女はその事に気付かせてくれた!
なんて素敵な人なんだ!!
彼女は僕の心を鷲掴みにして去って行った……。
「素敵な方でしたわね。」
(ティア嬢も彼女の魅力に、心を鷲掴みにされたのか)
ぼ〜っとなっているティアを見て、ヘンリー王子はそう思った。
「えぇ。
身分にこだわらない、素敵な女性でした」
「何故か悪ぶった態度をされてましたけど、フフフ」
「えぇ。」
そうしてヘンリー王子とティアの、ロザリーへの愛の花が舞った。ロザリーがそれを影からから盗み見ていたのだが、2人は気が付かなかった。
魔法の実技の時間になり、ヘンリー王子は不安を覚えた。
「ぼっ、僕はヨドと申します。
み……皆さんに魔法の実技を教えていきます。
ど、どうぞよろしくお願いいたします」
自信無さげにお辞儀をする教師(この人で大丈夫なのか?)と思った。
形だけの授業では生徒が覚える魔法はたかがしれている。貴族相手だから、怪我の無いよう緩めの授業で、無難に終わらせようという事なのか? それとも、あの怯えようはクレーマーが毎年いるという事なのか?(教師も大変だな)とヘンリー王子は思った。
(自分は王宮で魔法を習ったから、別に問題は無い。だけどこの教師の元で、将来有力な人物が育つだろうか?)
初日の授業であれこれ悩んでもしょうがないので、考えるのを止め、自分の番になると周りの人を巻き込まない程度の炎を出して見せた。
クラスメイトが興奮する姿を見て(私も興奮するような人物が現れると良いのだが……)と思った。だが、なかなか有望そうな人物はいなかった。
(この様子だと、親交を深めるべきはゼア王子かな? 和平のためにもそれが良い。
ロザリー嬢はどうだろうか?)
とロザリーの方を向いた時、
〈《燃え上がれ!炎よ!!》〉
とんでもない大声が聞こえた。
その声は校庭の端から端まで響き渡り、大きな声に反応したように、空が暗くなったように感じた。彼女の杖は紫色に光り、光は一直線に飛んで行き、あっという間に校庭に植えてある木々を紫の炎で覆いつくした。
(これは……今、現実に起きている事なのか…………?)
ヘンリー王子は夢だと思った。
だって最初にオドオドしていた教師は、この光景を見て、何故か嬉しそうに笑っている。
「僕のアドバイスを、ここまでやりきった生徒がいるなんて嬉しいです」
それを聞いて気が付いた。
そういえば彼女より前にやった人たちは、恥ずかしがって声をセーブしていた。
僕だってそうだ。
全力で叫ぶのは危ないからとセーブした。
セーブなどしていては、たいした成長など望めない。
だから!
全力で挑んだのか!!
ロザリー! 僕はもう君から目が離せない!!
「ヘンリー王子。念の為校舎に入りましょう」
そう促されて護衛の2人に校舎へと誘導されている間も、ヘンリー王子はロザリーの事で頭がいっぱいだった。
(僕も明日からは本気でいきます! ロザリー!!)
魔法学園に通う間の仮住まいの別荘に戻っても、ロザリーの事を思い出しては花を舞わせていた。
すると、ヘンリー王子の胸が熱くなり一つのスキルを獲得した。
言葉が浮かんでくる……。
〔君を離さない〕
父から聞いた事がある。恋に落ちた王子が使える王子専用スキルだ。
自分の事を少しでも好感を持って見てもらえていたら、その女性をその場に留めておける1年間に3回しか使えない超特殊スキル。
ただし、女性に触れたり、嫌悪感を抱かれたり、女性の意識が全然別の事に向くと効果が切れるので、意味のないスキルだと思う。
これ、使う事はないだろうな。その場にいてほしいなら、そう言ってお願いすればいいだけだ。
ヘンリー王子はそう思ったが、意外と早く王子専用スキルを使う事になった――――――――。
次の日。
水の魔法の授業では、もちろん全力を出した。
(身分を気にしないロザリーにアピールするには、自分の技能を見せるしかない。ロザリーより優れた魔法を出せたなら、告白だ!)
自分の番が終わると、すぐにロザリーの元に行った。
少しでも長くロザリーの側にいたいのに、そ〜っとロザリーが距離をとろうとしたので、離れるのは嫌だと思った。
(使ってみるしかないよね。〔王子専用スキル〕)
王子専用スキル!〔君を離さない!!〕
心の中で強く叫んだら、ロザリーがその場に留まった。
意味のないスキルだと思っていた。けれど……
(顔を赤らめて恥ずかしそうに少し俯くロザリーが見れるなんて、なんて凄いスキルなんだ!
ロザリーが可愛くて、僕の胸は焼け焦げてしまいそうだ!!)
ヘンリー王子の周りに、赤い花が盛大に舞った。が、クラスの皆は、いかにブリっ子して可愛く水の魔法を唱えられるかに夢中で、護衛のジェイクとフォスター以外誰も花が舞っている事に気が付かなかった。
「昨日の夕方から花が舞い上がってばかりだ」
「ヘンリー王子もついに恋をしたのですね」
と護衛の2人は密かに感極まっていた。
この後ロザリーをお姫様抱っこするチャンスが訪れ、ヘンリー王子は更に花を舞わせるのだが、大混乱で誰も気が付かなかった。その時ロザリーは抱きかかえられていたので、走っているヘンリー王子の後ろに舞い上がる花は見えなかった。
(今年、あと2回も使えるのか――――――)
意味がないと思っていたスキルに、ヘンリー王子は胸を高鳴らせた。




