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77.ようやく帰れる

《納屋77》


 待ち伏せにより、バルザック盗賊団47人を返り討ちにした。黒ヌルに食われた奴もいたりして、生き残りはわずか6人だ。

 嬉しいことに、こいつらは皇都周辺で最高額の賞金首だった。


バルザック 金貨200枚

グレン   金貨120枚

幹部4人  金貨160枚

手下41人 金貨287枚

 ----------

   合計 金貨767枚


 生死不問で767枚。

 下っ端ですら1人平均7枚とは、いったいどれほど暴れたのか。さらに、生き残りの6人を闘技場へ売れば150枚くらい追加だ。


「辺境の盗賊よりだいぶ高いな」

「こいつらは凶悪な上に強いですからな。高い理由は被害額の大きさもありますが、兵士が何人も殺されていますので」

「あっはっはっはっ、兵隊共が弱いだけだろーが」

 ズドッ!

「うぐっ...」


 賞金の受け取りには、冒険者であるオレたちが近くの冒険者ギルドへ出向く。ロンバルトやウィリアムだと賞金を出す側に所属しているので、受け取り額が大幅に減ってしまう。


 バルザック達が乗ってきた馬28頭は格安で売るつもりだ。それでも合計1000枚にはなるだろう。荷車も10台あるが、これは売りにくくて邪魔ということで、オレの収納に放り込んだ。47人分の装備も、兵士たちが欲しい物を取った残りはオレの収納に放り込む。


 神殿騎士2人が乗ってきた馬は、上等な軍馬なので売らずに別荘の厩舎(きゅうしゃ)に残す。後でブルグンドまで運んで、殿下たちが滞在中に使う予定だ。


 黒ヌルも後から上がって来た4匹は冒険者ギルドに売る。一匹あたり金貨40枚くらいとのことだが、安すぎだろう。ウナギの本当の価値を分かってない。頭と尻尾を除いても、ドラム缶のように太い胴体は10m以上ある。大雑把に重量を推測して日本価格で考えると10倍以上になるはずだ。

 もし蒲焼きの正しい作り方が広まれば黒ヌルの値段は急騰するだろう。


 一部皮算用ではあるが、金貨2000枚を超える賞金と売り上げは辺境組と皇国組とで半分ずつに山分けだ。

 兵士たちには金貨4枚ずつが支払われて大喜びしていた。普通は戦場で多少活躍した程度じゃこんな大金はもらえない。それに加えて、好きに選ばせた敵の装備も、もし買えば金貨20枚はしそうな代物だ。


 リゼットやウィリアムは、亡命後の生活費が大幅に増えたと喜んでいる。殿下はその辺の金銭感覚が薄いようで、いまいち分かってなさそうな反応だった。


 戦闘の後片付けを終わったら、約束通りオレが持っている酒を全員が酔い潰れるまで飲ませてやる。だがその前に、巨大ウナギの蒲焼きだ。でかい切り身をバーベキューセットの全面に並べて炭火で焼く。分厚い皮をはがして白身だけになってしまったので、慎重に扱わないと身が崩れそうだ。

 タレが焼ける香ばしい匂いが広がると、全員がオレの手元を凝視した。


「はい、まずは殿下に。絶対うまいから」

「うむ。香ばしい匂いにもう辛抱たまらん」


 殿下が口を開けると、シャーリアもつられて口を開けた。

「ほら、シャーリアも食え!」


 一口かじった殿下が目を見開いた。

「ふおお...なんと美味な。そもそも黒ヌルは美味であるが、ここまでになるとは」

「うまっ!」

 シャーリアは一言発してがつがつ食っている


 全員が大きめの蒲焼きを一切れずつ食ったところでビールを配って乾杯した。

 殿下にはオレンジジュースで薄めた梅酒だ。


 日本で買ってきたウイスキー、ブランデー、ワイン、焼酎、日本酒も出した。

「どれもうまい酒だぞ。味見して気に入ったものを好きに飲んでくれ」


 うまい酒を複数同時に出されて迷っている兵士がいる。

「うまい...このエールだって信じられないくらいうまいのに」

「バカか。飲めるだけ飲めばいいだろーが!」

「やはり俺はこの『戦の酒』が一番だな」

 眼帯の古参兵――ロンバルトが銀杯を傾ける様がカッコよかったので写真を撮った。


「隊長、何言ってんすか。焼きヌルにはこれが一番ですよ」

 兵士の1人が蒲焼きに日本酒が合うことを発見した。


 せっかくの機会なので、巨大な蜘蛛ガニの足もできるだけ消費する。

「うおおお、巨大ガニだぞーっ!!」

「すげえ...いったいいくらするんだ」

「食え!食え!食いきれないほどあるから遠慮はいらん」


「ところでエドよ、それを薄めずに飲ませてはくれんか?」

「ああ、え〜と。リゼット、これを殿下にそのまま出してもいいかな?」

「はい。問題ありませんよ、エドワード様」

「またお主は...(わらわ)は成人しておると言ったはずだが?」


 梅酒を指2本分ほど注いで殿下に渡した。

「それじゃ殿下、これをどうぞ。結構強いから一気に飲まないで」

「む、こっちの方がいいではないか。やはり柑橘で薄めたのは子供用か」

 殿下がジトっとオレを睨む。


「酒は何歳から、みたいな制限はないんだっけ?」

「そんな制限はありませんよ。小さい子供には薄いものしか飲ませませんけど」

「むう〜」

 ダンッ!

「イテッ。この国の制度が気になったから聞いただけだって」


 殿下は他の酒も全部味見していたが、顔色で無理をしているのが丸わかりだ。その後は梅酒をちびちび飲んでいた。


 今日のデザートはスイカだ。「スイカ」は翻訳されて伝わるので、こちらにも存在することは間違いないのだが、誰も知らなかった。

 初めて見る、緑と黒の縞模様が入った謎の球体は不気味に見えるらしい。

「スイカ、ですか...人の頭のように大きいですね」

「頭とか、変な想像はやめよう。見た目によらず美味いから」


 スイカをサクッと割り、赤い中身が見えると全員の顔がヒクついた。

「「「 うわ 」」」

「うお」

「...まるで割れた頭のように、いたっ」

 物騒なことを言うレオンの脇腹にイングリットの肘がめり込んだ。


 スイカを大きめに切り分けて配る。

「焼きヌルにはスイカも合うぞ。オレの故郷ではどっちも夏の風物だし」


「うわーっ、真ん中のあたりが甘くてすごく美味しいです」

「ええ、これは最上級の夏の果物ですね。これと先日の桃も、ぜひとも伯爵家との取引に加えていただきたいのですが」


「これで商売する気はないけど、伯爵家で消費する分くらいなら持って来れる。栽培は難しくないから、どうせなら種をとっておいて春に植えてみたらいい」


 ロンバルト達も興味を示して、種は全て回収して半分ずつに分けられた。たぶんF1種だろうから、後で固定種も持ってきてやろう。


 ***


 翌日、ミルヴィウスの冒険者ギルドへ行き、6人を引き渡した。

「賞金首を捕らえたぞ!」

「え、バルザックにグレンまで!」

「他にもこいつらの手下41人分の死体がある」

「冗談...じゃない?」

「確認したいなら、今すぐにでもここへ運び込めるが」


「いえ、それは、見たくないというか、困るといいますか...ちょっとお待ちください」

 慌てた受付嬢が奥へ引っ込むと、ギルド長を含む職員4人が出てきて、一緒に近くの空き地へ行くことになった。


 ずらりと並べた41人分の死体を見てギルド長が乾いた笑いをもらす。

「ははは...ついにバルザック共も壊滅か。バルザック本人もいることだし、間違いないとは思うが、こいつらの身元確認は必要だ。数日かかると思ってくれ」

「それなら、ここに皇国軍に書いてもらった討伐証明がある」

「ふむ、なるほど。軍にまで伝手があるとは、君らはどこのクランだ?」

「他にも仲間はいるがクランとかじゃない。討伐報酬の受け取りに全員の名前は必要ないだろ?」

「まあ、そうだが、それだとランク評価できないぞ」

「ランク評価には興味がない連中ばっかりだから、討伐報酬だけもらいたい」


 ギルド長が落胆した声を出した。

「はあ、その手合いか。実力はBランク以上のくせに、昇級を嫌がってるやつは大体把握してるからな。特にお前のような、非常識な容量の収納持ちがいつまでもCランクに留まれると思うなよ?」


「はっはっは。そう言われましても、収納以外は大した特技もないもんで。ところで、この死体どうします?」

「ああ〜、もう不要だが、埋めるにしても街の外まで運ばんとな」

「オレが引き取ってもいいですよ。その代わり、ランク評価への加点は無しということで」

「ちっ、いいだろう。こちらも、今回ばかりはその方が助かる」

 死体は人間が来ない樹海の奥深くへ持っていく。そうすれば腐敗する前に魔物や動物に食い尽くされるだろう。


 黒ヌル4匹を売った金貨176枚と、討伐報酬の一部、金貨200枚をその場で支払ってもらい、残りは後で受け取りに来る。

 馬はすぐには売れないので、ロンバルト達に頑張って売ってもらう。オレとしては相場の半額くらいで構わないが「捨て値で売る気は無い」とやる気になっていたので、期待して結果を待とう。


 **


 いよいよブルグンドへ戻る。

 見送るロンバルトやシャーリア、兵士たちが地上から手を振り続ける。こちらも壺の中から、降下ハッチを開けたままで、彼らが見えなくなるまで手を振り続けた。


「それじゃ閉めるから、手を挟まないように」

「これでしばらく皇国とお別れですね」

「うむ。我らは有り得ない程の幸運に恵まれたが、今後しばらくは神のご威光の行き届かぬ辺境だ。リゼットにウィルよ、覚悟はよいな?」


 覚悟とか、殿下は教会に洗脳されてるなあ。

 信仰の本拠地から遠ざかるのが不安なのか。

 そのうちティアナリウスの正体を教えてやりたい。


「あちらの生活も大した違いはないから、気楽にしてていいと思うぞ。確かに皇国の神の威光は薄いかもしれないが、生活は皇国の小都市と大して変わらないから。それに、もし困ったことがあれば何でも相談してくれていいし」

「そうです。亡命を受け入れると決めた以上は、我が伯爵家の名誉にかけてお守りします」


 リゼットがオレを見て祈るように両手を組んだ。

「それに、エドワード様が近くにおられます」

「オレを拝んでも何の御利益もないぞ?」

「いいえ、すでにお救いいただきました。祈りは感謝の気持ちですので、どうかエドワード様はお気になさらず」


 やっぱり拝むつもりかよ。

 彼らの神とは無関係だと言ってあるが、イレイリアの同類なら許容範囲内ということか?


 ブルグンドまで真っ直ぐ飛べば10時間はかからない。だが、同じコースを逆に辿っても面白くないし、できるだけ広範囲のマップを更新したいので、南にそれて海岸沿いを飛ぶことにした。伯爵邸にもその予定で到着予想時刻を伝えた。


「海岸沿いならワイバーンとかに遭遇する可能性が下がるしな」

「空も安全ではないのですね」

「ワイバーンも面白そうではないか。最悪、逃げてしまえばいいのだろう?」

「逃げ切れるかは分からないが、ワイバーンなら余裕で倒せる」


「はやりそうか!ならば山寄りに、」

「殿下!ダ メ で す。絶対に!」

「ワイバーンならいいけど、もっと強い龍種だったらどうなるか分からん」

「なら仕方あるまい。妾が強くなってからの楽しみとしよう」

「それでも、ダメ!です!」


 この性格なら冒険者も向いているかもしれない。

「うん〜、もし途中で良さげな獲物を見つけたら狩ってみるか」

「やる!」

 やはり飛びつくか。

 リゼットが困り顔になったが、ウィリアムは乗り気なようだ。


 出発前にメトラに作ってもらった魔力分布図で獲物は選び放題だ。オレもまだ狩ったことがなく、肉が美味いか素材が高値で売れ、なおかつ、最悪は飛んで逃げればいいやつ。

「たしかミノタウルスは金貨100枚くらいだっけ?」

「そうね。ブラックボアより美味しくて、強い分希少だから、大きいのは120枚にはなる」

「ウィリアムさん、前衛は任せましたよ。私は側面に付きます。殿下はもし一撃で仕留めきれなかったらすぐに離れてくださいね」

 金額を聞いてリゼットも乗り気になったらしい。




 山奥の遺跡へ来た。

 人跡未踏なのか、人が入った跡が全くない。

 殿下は初めての冒険にワクワクが止まらないといった顔だ。


 戦法は、ウィリアムが釣ってきて殿下が仕留める。仕留め損ねたらウィリアムが盾役になって、オレ達が殿下を守りつつ適当に削って倒す。


 身長3メートルを超える二足歩行の牛がズシンズシン走ってきた。

 ブオン!

 ヴモッ...


 一撃だった。

 殿下が放ったウィンドカッターが、手に持った棍棒ごと首を切断した。転がる牛頭の横で、殿下が獲物の胴体に足をかけ、輝くようなドヤ顔だ。

「殿下、お見事!」

「さすがは姫様!」

「ふふん、見たかリゼットよ」

「はいはい。心配はしていませんでしたよ。でも、はしたないですよ。足は下ろしてください」


「冒険者とは存外楽しいものではないか?亡命中は、我ら3人とも名前を変えて冒険者をやろうと思うが、どうだ?」


 反応しようとしたリゼットを抑え、オレから説明した。

「あー、殿下。楽しいのは、まあそうだけど、色々面倒もあるから」


 大量の荷物を持っての移動だとか、湯浴みもできないとか、保存食がまずいとか、獲物を持ち帰るのも大変だとか、普通の冒険者の話をしたらスンとなって納得してくれた。

「...うむ。少し考えれば分かることであったな」

「まあ、時々なら連れて行くから、とりあえず冒険者登録しておいてもいいとは思う」

「うむ!そうであるな!」

「エドワード様、お心遣い感謝いたします」


 ウィリアムやレオンもやってみたいと言うので、さらに1頭ずつ狩った。と言うと楽勝に聞こえるが、前衛だけで倒せるか試したら思った以上に危なかった。ここで怪我する意味もないので最後は魔法で仕留めた。

 ミノは、バランスよく前衛と後衛が揃ったCランクパーティ数人でも苦戦する程度には強いのだ。


 強敵を減らしたので、少しだけ遺跡を探索してみた。

 魔法を使いたくて仕方がない殿下に雑魚の処理を任せて進む。MMOで言うところの接待プレイだな。


 時々収穫がある。

「うん、やっぱり手付かずの遺跡だな」

「アミュレットに金の燭台、それに聖杯(?)ですか」

「どうせなら実用になる武具の方が嬉しいのだがな」

「オレもそう思う。この宝剣とか、戦闘で使ったら簡単に壊れるだろ」


 売却価値はありそうなガラクタを拾いながら行き止まりまで来た。オレならこの先へ進む扉を開くことも可能だと思うが、見せる必要がない能力は見せない。


「さあ、帰ろう。この後は途中で一泊して、寄り道しなければ明日中に到着だ」


 あんまり遊んでいるわけにもいかない

 皇国の侵攻開始までそれなりの猶予はあるだろうが、予測に過ぎないし、東の遺跡で何をやっているのかも気になる。


 -東の遺跡-


 ドンッ!

 一瞬だけ光の輪が広がり、奥から重い何かが稼働するような唸りが聞こえてきた。

 ゴウゥーーーーン...

 だが、すぐに沈黙した。


 監督官は青くなった。

「失敗ですか?また失敗したのですか!?魔石はあと一回分しかありませんよ!」

「いいえ、想定内です。情報を得られたので失敗ではありません」

(このバカのせいで気が散る。次は成功か、でなければこいつを道連れに自爆してやる)


《納屋77》

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