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76.別荘襲撃(4)

《納屋76》


 正面以外の三方向へ2本ずつ、6本のマンドラを投げると、敵は入れ違いに四方から爆裂魔法を放った。おぞましい叫び声の多重奏と、連続で響く爆発音が開戦の合図だ。

 別荘の包囲に回った敵は半数がマンドラにやられて動けなくなった。動けないということは装備に魔法耐性が無いということだ。叫び声を存分に味わってほしい。

 正面の庭に固まっている敵へは、二方向から石の雨を浴びせて2人倒した。


 残った12人もそれなりのダメージは受けたはずだ。

 合図のファイヤーボールを2発打ち上げると、潜んでいた皇国組の11人が雄叫びを上げながら突撃した。


 アゼリーナさんが向かった側では、同時に6人が索敵から消えた。魔法で吹き飛ばしたのだろう。魔法耐性がある敵を倒すには、普通はストーンバレットを使う。一気に6人となると、近くにいたやつは肉片になって飛び散ったのかもしれない。


 後片付けが嫌だなあ。


 **


 -バルザック側-


 遠吠えの合図が聞こえた。

 包囲完了だ。

 四方から同時にドアと窓を吹き飛ばす。

「やれ!」

 逆方向に遠吠えの合図が中継されていく。


 ギョワォ〜ンンンンンン!

 ドドドドーン!!


「「「うわっ!」」

「何だ!?」

 爆裂魔法の着弾より先に、不快という表現ではまったく足りない、気が狂いそうなほどおぞましい音に全身が総毛立った。


 ガガガガッ!ガチガチッ!

 ボトトッ!

「ぎゃっ!」「ぐあっ!」


 突然防御が発動して石を叩く音が響いた。

 大半は防げたが一部は直撃したらしい。

「クソっ、待ち伏せか」


 だが正面玄関は吹き飛ばした。

「突入しろっ!!」

 バガン!

 ボトトッ!

「ぐあっ!」「ぎゃっ!」


 また石の雨が横殴りに飛んできた。

 防御の発動が間に合わない。

 頭をかばった左腕をやられた。

 倒れた奴もいる。

 前列の大楯が役に立っていない。

 一瞬で全員がボロボロだ。


「「「「 うおおおおーっ!! 」」」」


 敵に囲まれていた。

 ハメられたらしい。

「突入は中止だ!円陣で迎え討て!」


 ロンバルトたちが距離を取って敵集団を囲み、槍や剣を突きつける。

「降伏して武器を捨てろ!さもなくば、このまま殲滅する」

 戦いたいシャーリアも好き勝手に叫ぶ。

「殲滅だゴミ共!降伏すんなよ!」


「「「カルコーリス・プロッター」」」

「「「ヴェントゥス」」」

 降伏勧告に対する返答として、円形陣から全周囲に石(つぶて)と風の刃が放たれた。


 ボトッ!ズドドッ!

「ぐっ」「うがっ!」


 キンッ! ボトッ!

 

 風の刃はロンバルトたち全員が無効化した。

 だが、石(つぶて)は魔法で出したとはいえ、本物の石なので魔法耐性では防御できない。

 夜目が効くシャーリアは石礫を剣で弾き、嬉々として突入した。

「ヒャッハー!いい返事だチンピラ共!」


 ロンバルトは革鎧と瞬時の身体強化で石礫を弾き返した。

「ふんっ!バカが」


 兵士たちは普通に腕で防御したり、伏せようとしたが何人かダメージを受けた。それでも、一瞬怯んだだけで全員が槍を向けて突っこんだ。


 敵集団は魔法攻撃を足止めにして、一点突破からの撤退を狙ったようだが、囲みは崩せなかった。

 少し伸びて楕円になった敵陣形の後方からシャーリアが飛びかかる。大ジャンプしたシャーリアは、敵が突き出した短槍に左腕のガントレットを滑らせながら、右手の長剣で敵の首を貫いた。壁に接地するかのように、敵の胸に両足をつけて押し倒しながら剣を引き抜く。

 続けてロンバルトも敵を1人切り伏せると、その横にいた強そうな奴を選んで剣を打ち合わせた。


 兵士たちは苦戦気味だが、無理をせず槍の長さを生かして敵を足止めしている。

 残る敵は10人。

 こちらは11人。


 敵陣の中に入り込んだシャーリアは落胆した。

 一番強いやつと戦いたかったのに、これじゃ戦わずして殺し放題だ。一番強そうな奴が誰かは分かるが、そいつの背中もガラ空きだ。

「な〜んだ、こりゃ。まあ、しょうがねえか」


 バコンッ!


 バルザックの金属兜がメコッと凹み、一撃で戦闘不能になった。そのおかげで、負けそうになっていた兵士が1人救われた。

 その両隣の敵も重い両手剣で後ろから力任せにぶん殴られて倒れた。刺さなかったとはいえ、手加減しなかったのは戦士の情けだ。殺し合いでの手加減は、シャーリアが最も嫌う侮辱になる。


 バルザックの右腕のグレンは、ロンバルトの相手をしながらも周囲の状況をちゃんと見ていて、背後から次々と倒されるようでは全滅間近だと判断した。

「降伏だ!!降伏する!全員戦闘中止!」

「なら、武器を捨てて伏せろ!」


 敵を伏せさせ、兵士8人が槍を突きつける。

 腕を骨折しているらしい兵士をロンバルトが下がらせた。血を流しているだけの兵士はそのままだ。味方に本当の重症者はいないようでほっとした。


『戦闘中止!庭の敵が降伏した。できるだけ殺すな』

『『『 了解 』』』

『あ、それから、マンドラ踏み潰してくれ』

 投げてから敵が降伏するまであっという間だったので、放っておいたらもうしばらくマンドラは叫び続ける。


 魔導甲冑の3人は、ロンバルトたちに見られる前に壺で回収して着替えてもらった。


 *


 夜の静寂が戻った。

 正面にいた敵14人のうち、8人が生き残った。

 別荘の包囲に回った敵33人の生き残りはわずか4人で、4人とも重症で動けない。15人はマンドラにやられて、目や耳から血を流しながら、すごい形相で死んでいた。


 アゼリーナさんが担当した方は瞬殺されて全滅だった。LEDライトで恐る恐る転がる死体を確認してみると、赤黒い肉片が散らばっては―――いなかった。爆破した窓に敵が駆け寄ったところをまとめて凍らせたらしく、うっすらと霜が付いた傷ひとつない6体の冷凍人間が転がっている。

 さすがだ。

 ちゃんと後片付けのことも考えてくれていた。

 ストーンバレットを使わなかった理由を聞いたら「どうせ安物のスクロールでしょうし、叫び声で削られていたし、一瞬で、凍ったわ」とのことだった。


 別荘の裏で死体を回収していると、湖の方から何か人間よりはるかに脅威度が高い「敵」が接近して来た。

 位置は分かっても暗くて見えない。

 走って逃げた。

 もし長い奴だったら、頭の位置は索敵で感知するよりだいぶ前にある。


 ...速いな。

 おまけに無音かよ。


 それでも植え込みを乗り越える時には「ザーッ」と音が出る。

 索敵で感知する位置より音が近い。

 やはり長い奴だ。


 敵が止まると悲鳴が聞こえた。

「あ、助け、うわ〜っ!」


 敵の生き残りが食われたおかげで3秒は引き離した。

 少し余裕ができたら自分でも身体強化できることを思い出した。

 加速!


「敵、いや、魔物だーっ!!長いのが上がってきたー!」


 そいつは加速したオレより速かった。

 逃げ切れそうにない。

 もし黒ヌルならウィンドカッターだが、オレの杖は土属性が一番強力だ。それに、石なら敵に魔法耐性があったとしても無視できる。


 後ろを見ずに、走りながら索敵で感知している位置を狙う。

 杖だけ後ろへ向け、最大限に収束したストーンバレットを三連射。おまけで「炎弾、炎弾!」


 当たったが「ビシュッ、ビシュッ」という石が水面を跳ねるような音だ。

 こんなの命中音とは言えない。


 後ろを見ると、黒くて巨大な蛇のようなやつがファイヤーボールに照らされて、ニョロニョロ這っていた。

 攻撃がまったく効いてない。

 正面からじゃ、当たる角度が浅すぎてダメだ。


 追いつかれる。

 一撃に賭けるしかない。

 全力の爆裂魔法で地面を弾けさせる。

 足を止めてゲアブレーゲを構え、左手にポリカ盾を出した。


「ウィンドカッター!」

「ウィンドカッター!」

 助かった!

 殿下とアゼリーナさんの声だ。


 恐ろしい唸りを上げて、大威力の風の刃がオレの両脇を通り過ぎた。命中すると「ビシューッ」と水っぽい音を立てて、黒くて長い胴体が二か所で斜めに切り裂かれた。

 切り離された頭部が滑って来た。

 頭の後ろには斜めに長く切られた胴体の一部が付いていて、オレの横でのたくっている。後ろの胴体も目の前まで滑ってきてのたくり、てらてらと濡れた表面が月明かりを反射する。


「2人ともありがとう〜。うわっ!」

「エド君!」

「エド!!」

 気が緩んだら噛まれてしまった。

 シールドが発動してオレの周囲が薄く光る。


「あははは、だいじょ、うぎゃっ!」

 捻って倒された。

 足元からシールドごと飲み込まれていく。


 バシュッ!


 アゼリーナさんが首を直角に切り落としてくれた。

 自分でもウィンドカッターを放って、大顎を縦に割いて脱出した。


「助かったー」

「油断しすぎね、エド君」

「ククッ、案外ヌケたところもあるのだな」

「いや面目ない。魔法耐性があるかどうか分からないし、ストーンバレットは滑るしで焦ったよ」


 LEDライトで照らしてみると、頭の形はどう見ても美味そうなアレだった。これはもう蒲焼きにするしかない。照り焼き用のタレもあるし。


「こういう状況で水から上がってくるのは、黒ヌルと思ってまず間違いない」

「やっぱりか。そうかもとは思ったけど、無難に土属性を選んじゃったよ」


 石弾が命中した跡を見ると、ぬるぬるで滑って皮膚を削っただけだった。

 別荘の裏と横には、まだ重傷を負った敵の生き残りが3人いたが、次々と湖から上がって来た黒ヌルに食われてしまった。やつらは陸上でも速いので、気づいた時点で手遅れだった。


 新しく上がってきたのは4匹だったが、そいつらは簡単に仕留めた。

「なんだ。こんなに簡単なのか」

「それは、殿下やエドワード様だからです。黒ヌルは陸上でも長距離を移動できる上に速いので、毎年何人も犠牲になっています。特に雨の後は要注意ですよ。濡れた茂みに潜んでいることがありますから」

「たしかに、魔法無しで戦うとなると、大トカゲ並みの強敵だよなあ」


 黒ヌルと呼ばれる巨大ウナギ―――アンギス・ドラコセルペンスが5匹も獲れた。そのうち4匹は人を食ったばかりだが、丸呑みなので腹を割いて簡単に取り出せた。

 人を食ってここまで成長したのかもしれないが、その過程は見てないから気にしない。最初に仕留めたやつは蒲焼だ。


 生き残った敵8人に止血優先でヒールした。骨折もある程度治してやる。骨が砕かれていると面倒だが、そういうのはアゼリーナさんが実験も兼ねて喜んでヒールしてくれる。

 シャーリアが背後から殴り倒した3人のうち2人は、頭蓋骨がめっこり凹んでいて無理かなと思ったら、やっぱり助からなかった。これで生き残りは6人になった。


 同じく頭を殴られて昏倒したバルザックだが、見た目に無理そうというほどではなく、普通にヒールして助かった。折れていた左腕も、力をかけなければ大丈夫な程度につなげてやった。

 痛みから解放されたバルザックは仏頂面で座り込んでいる。

「なあ、俺たちは売られたのか?」


 ロンバルトがオレを見たので答える。

「教えても構わない」


「売られたわけではないぞ。お前らを雇った2人組も来て早々に倒したしな。襲撃を察知したのは、お前らには(うかが)い知れぬ情報源によるものだ」

「ちっ。ただの間抜けかよ...知っての通り、オレたちはあの騎士たちに雇われただけだ。要するに国に雇われたわけだ。降伏した傭兵団としての扱いを要求する」

「ほざけ!お前らは盗賊団に鞍替えしただろうが。雇い主の2人も皇室に仇なす反逆者だ」


「おい、バルザック。やっぱりお前はバカだったな。腕は悪くないのにバカだからこうなったんだぜ?」

「あっ、てめえシャーリアか!お前が言うな。一番のバカはお前だろうが!」

「ハッ、使い捨てで雇われたチンピラほどじゃねーぜ。惨めだな〜。惨めで哀れな『元』バルザック傭兵団の団長様には後で魚の尻尾でも差し入れてやるぜ。あははははは!」

 シャーリアが顔芸まで駆使して煽りまくる。


「ちっ、バカ猫が。ロンバルト、俺たちは今でも腕は落ちちゃいねえ。あの騎士たちがやるような裏仕事でも構わねえから、雇えば役に立つぜ」


「裏仕事か。たしかにそういう仕事があるらしいな。だがな、俺は好かん。これまでも盗賊のフリをした連中が村を襲うことがあれば、正体など関係なく斬り捨ててきた」

「堅物かよ。それなら盗賊狩りとしてならどうだ?俺達なら効率よく狩れるぜ」


 ロンバルトが少し考えた。

「お前らに与える仕事など無いが、犯罪奴隷として売られるか、処刑試合に賭けてみるかくらいは選ばせてやろう」


「...けっ、慈悲深いこった」

 どちらも死刑と大差ない選択肢にバルザックは渋い顔だ。


 文句を言いながらも、バルザックと腕に自信がある主要メンバーは処刑試合を選んだ。闘技場で魔物と戦わされるのだが、もし勝てれば処刑を免れて奴隷剣闘士になれる。賞金の一部が給料として支払われるので、勝ち続ければ自分を奴隷身分から買い戻すことも可能になる。


 ただし、罪人の試合に降参は無い。

 負けたらその場で魔物の餌だ。

 その分大盛り上がりで、賞金額は高い。


 シャーリアが憐みを含む声で言った。

「お前らなら勝ち続けて解放される可能性も無くはねーか。それでも、重労働の方が長生きできると思うがな」

「余計なお世話だ。俺がチャンピオンになったら挑戦しに来いや」

「ふん、試合なんざくだらねー。テメーがもし間違って生き延びたら、戦場に出てこい。敵側でな」


《納屋76》

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