60.皇都を目指す(6)
2022年9月21日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。
《納屋60》
皇国の第二都市、フランシウムへどうやって入ろうかと様子を窺っていたら戦闘中らしい集団を見つけた。
索敵能力の範囲内に入ると、逃げる数人の集団とそれを追う十数人の敵集団として識別できた。その敵は、オレから見ても敵なので盗賊やゴロツキの類だろう。
イングリットとレオンが双眼鏡で見た状況を説明する。
「荷馬車に2人乗っていて、後ろには護衛らしいのが残り3人。その後ろから盗賊らしいのが12人、馬車の右後方に4人、左後方にも3人。側面の敵は矢を放っているようです。あ、馬車の上から魔法が」
「あの魔法使い結構やりますね。敵を接近させません」
護衛はまだ戦闘に参加せず、荷馬車に乗っている魔法使いがうまい具合に「引き撃ち」で敵を削っているようだ。荷馬車から光点が飛ぶと前方の敵は左右に散り、逃げ遅れた後方の敵4人が吹き飛んだ。
善戦してはいるが、馬1頭の荷馬車は遅く逃げ切れそうにない。
「護衛の2人が後方の敵の足止めに入りました。もう1人は横から来る矢の盾になって倒れました。横の敵からファイヤーボールが!」
馬車に火が付いた。
乗っている魔法使いはもうガス欠らしい。
「仕方ないか。降りる前に壺の武装で横の敵を片付ける」
目撃されるのを承知で荷馬車の正面上空から接近すると、左右の敵7人を散弾モードのストーンバレットで薙ぎ払った。
斜めに打ち下ろされた石礫が1人に2~3個命中すると、頭がはじけ散りながら体は突き飛ばされたように後ろへ倒れた。
残る敵は馬車の後ろから追いすがる8人だ。
足止めしている護衛の2人はまだ戦っている。
「やっぱり誰も上なんて見ないな。敵はまだ気づいてない。背後に飛び降りて挟撃するぞ」
地面すれすれまで高度を下げ、全員が飛び降りると壺を収納した。
「石弾!」
「ストーンバレット!」
ズドッ!
ズドッ!
2発の丸石が飛び、両端の敵2人を倒した。
どっちも脇腹に当たったが、敵は背骨など無いかのように体がぐにゃりと曲がって吹き飛んだ。
ほぼ同時に背後から駆け寄ったイングリットとレオンが敵2人を瞬殺した。
イングリットはボロい革鎧の背中から剣で心臓を貫いた。
レオンは敵の膝裏を踏みつけるようにして膝をつかせると首元に深く剣を突き刺した。
残り4人。
そのうち2人は雑魚で、装備も見るからにボロい。
その雑魚もイングリットとレオンが背後から瞬殺した。
レオンは頭上で血が滴る刃を返しながら、剣の柄で次の敵を殴って自分に注意を引きつけた。
残る敵は2人だが、こいつらは強い上に索敵の反応が敵じゃない。
装備も質がいい、と言っても走るためなのか、軽装なのは幸いだ。
左の敵の首を狙ってオーガ殺しの雷撃を発動させながら突きを入れると、死角だったはずなのに反応してきた。
それと同時に索敵での反応が敵に変わる。
そいつは向こう側にいた護衛を倒すと、後ろが見えているかのように上半身を回して右手だけで剣をこちらへ向けてきた。
キンッ
バチチッ
「うぐっ」
オレの切っ先を受け流したはいいが、雷撃で敵の体が硬直した。次の瞬間にはもう1人の護衛に脇腹を刺され、オレもいったんは流された切っ先を戻して敵の首を貫いた。
「ぐっ」
護衛も雷撃の巻き添えで目が真ん丸になった。
「あ、すまん!」
最後の敵はレオンとイングリットを同時に相手にしている。
そいつは不利を悟って逃げ出そうとしたが、囲まれてからでは遅い。
回り込んでいたアゼリーナさんが杖の先を目の前に突きつけると敵は一瞬たじろいた。それでも敵は左手で杖を払いのけながら、右手の剣でレオンを相手取る。そこへ護衛とイングリットが同時に斬りかかる。
敵は軽く頭を下げてアゼリーナさんがいた側へ一歩ずれながら3本の剣を連続で払った。
こいつ強え!
全方位見えてんのかよ。
アゼリーナさんと入れ替わっていたオレが敵の胴を狙って突きを入れる。
味方に当たるので振り回せないのだ。
オレの切っ先が接触するのと同時に敵は体を回して刃先を流し、オーガ殺しの刀身に体を滑らせながら左肩でオレにぶつかってきた。
熱い!
死角から脇腹を刺された。
気づいた時にはすでに刃先は抜かれていて、敵はオレと入れ替わろうとしていた。
まずい、もう一回刺された上に盾にされる。
素人だと見抜かれたか。
敵が左手でオレの左上腕をつかんで位置を入れ替える。状況はスローモーションのように認識してるのに腕力差になすすべがない。
お互い右腕は自由だ。
敵は右腕を引いて切っ先をオレの心臓に向ける。
オレはオーガ殺しを収納。
「風刃!」
バシュッ!
風の刃が血しぶきと共に上へ飛び、敵の右腕を付け根から切断した。
敵の右肩がクイックイッと動く。
抵抗の無さに違和感を感じたのだろう。視線を落とした敵は、自分の腕ではなく、オレの胴体がそこにあるか確認しようとした。
「無くなったのはお前の右腕だ」
そう言いながら腰を落として自分の頭を下げると、ピュンッと風切り音と共に頭上で血が飛び散った。
敵の力が抜けたので押しのけると、一歩、二歩とよたって、片腕になった敵が右肩と首から血を吹きながら倒れた。
初めて刃物で刺された。
戦闘が終わると緊張がゆるみ、鈍痛が激痛に変わる。
精神的ショックが意外とでかい。
遅れて状況を理解したらゾッとした。
手練れ相手に迂闊だった。
わずかに状況が違っただけでオレは瞬殺されていただろう。
もう、強い人間には背後からでも近接戦闘を仕掛けるのはよそう。
それに、敵に刃を当てる時は必ず雷撃を使うべきだ。
まあ、大量に経験値を稼いだし、次に生かせばいい。
回復ネックレスの効果でゆっくりと痛みが引いていく。
オレが刺されたことに誰も気づいてないので、左腕で傷を隠してやせ我慢した。
イングリットとレオンはまだ息のある敵を警戒している。
生き残った護衛はオレ達を警戒している。
「お前たちは何者だ!?」
痛みをこらえて声を出した。
「通りすがりの冒険者だ。賊に襲われてるのを見て助けに入った」
その護衛は隙のない構えと鋭い目つきでオレ達を一瞥した。
こいつも相当な手練れだ。
「...そうか。とりあえず礼を言う。おかげで助かった」
「結構やられてるじゃないか。今ヒールするから、一番ひどい傷はどこだ?」
「俺より、あっちを。お嬢様を助けてくれ!ファイヤーボールを受けたらしい」
護衛が力尽きるように膝をつくと、止まっている荷馬車を指さした。
「ヒーラーは2人いる。どっちも助けるから安心しろ」
アゼリーナさんが荷馬車へ向かった。
オレは今にも倒れそうな護衛の男にヒールする。
「これ飲め。回復ポーションだ」
オレも一緒にポーション(並)を飲んだ。
護衛の男は上級ポーションとヒールで落ち着くと、オレの怪我に気付いた。
「お前も刺されたのか」
「オレの怪我は黙っててくれ。自分で治せるから」
「そうか、分かった。とにかく助かった。感謝する。お嬢様は...」
男がふらつく足取りで荷馬車へ向かう。
オレは回復ネックレスの魔石を補充し、自分に1回ヒールしてから馬車へ向かった。
「エド様、傷は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。もう治した」
レオンは気づいていたか。
正面にいたしな。
「あの体勢から魔法を放てるなんて、驚きました」
「ああ、魔法の器用さだけは誰にも負けない自信があるからな」
馬車の荷台ではアゼリーナさんが少女にヒールしている。
「アゼ、、アンジェラ、そっちはどう?」
「顔の火傷が酷い。骨はもう隠れたけどこの後はエド君がやって。あなたなら傷跡が残らないように、できるでしょ」
荷台に横たわるのは14~16歳くらいの少女だ。長いプラチナブロンドときれいな肌がくすんだ色のマントに似合わない。近くで見たら変装だとバレバレだ。護衛の男もレオンみたいに下手な冒険者風だし。
荷馬車の横がファイヤーボールで抉られて、積み荷も黒く焦げていた。焦げ跡は水濡れになっている。矢も数本刺さっている。
荷台の横板と荷物を貫通したファイヤーボールが腹に当たったらしいが、そっちはもうアゼリーナさんが治してしまった。もう一発、顔をかすめたファイヤーボールに左目の下を抉られて、最初は頬骨が見えていたらしい。
「お嬢様...」
御者が痛みに耐える少女の手を握って今にも泣き出しそうだ。
こっちも変装か。
絶対に本職の御者じゃないな。
フードから覗く顔は無駄に美人だし、どことなくうちの戦闘メイドみたいな剣呑さがある。
「大丈夫だ。傷跡が残らないように治す」
本当にきれいに治せるかは分からないが、ここはオレがやるしかない。
「レオン、イングリット、後方警戒よろしく。また敵が1人現れた。今は立ち止まってこちらを窺ってる」
さっきまでは敵の反応じゃなかったのに。
向こうがオレ達も含めて敵と認識したわけか。
まず、LEDライトで傷の状態を細かく確認する。
辛そうな呻き声を聞いて思わず手を握ってあげた。
「すぐに治すから、もうちょっとだけ辛抱しろ」
ひどい傷を見たせいでこっちまで血の気が引いて、後頭部に冷たい感触がある。
あんまり傷を見てるとオレがぶっ倒れかねん。
骨から皮膚までの微細構造を頭に呼び出し、治り具合をよく見ながら深いところから順に再生させる。
皮膚の再生にかかったら拡大イメージと実際の修復具合を同期させて慎重に再生を進める。表面は更に慎重に。
傷がみるみる薄くなり、最後に表面の角質層が再生して綺麗に治った。
さっきまで痛がっていた少女がほっとした顔でこちらを見ている。
妖精のような美少女だ。
こっちは貧血で視界がチカチカしながら暗転しかかっている。
今立ったら倒れそうだ。
お嬢様の隣に腰を下ろした。
「ふう、治ったぞ。他に痛いところはある?」
御者の方が先に声を出した。
「ああ、お嬢様...よかった。ありがとうございます。ありがとうございます」
礼を言うと気が緩んだのか泣き出した。
少女が体を起こした。
耳が少し長いのはハーフエルフなのか?
「うむ、治ったようだな。大儀であった。褒めて遣わす」
「お嬢様、言葉が」
「あっ。危ないところを助けていただき、ありがとう存じます」
「その調子なら大丈夫か」
身分を隠したいらしいが、もともと隠せてない。
おまけにお嬢様口調が棒読みだ。
敵はただの賊じゃなかったし、なんとなく事情は想像がつく。
「あ、それ用に使える魔石持ってるから」
首元に見覚えがあるチェーンが見えていたので魔石を補充してあげた。
「えっ、あ、ありがとう、存じます」
顔を近づけるといい匂いだ。
この変装で香水なんか付けたらダメだろ。
「まだ生きてる敵が2人いるけど、捕まえて回復させた方がいいか?情報を取るだろ?」
両肩をがしっとつかまれた。
「それより護衛達は!?もし他に息がある者がいたら助けて!」
「ああ...生き残りは1人だけだ」
「そうか、ですか。敵は...残らず殺しますわ」
「無力化はできてるけど」
「賊に用などない、ですわ。ウィル、敵は全部確実に殺して!」
「はい!」
「「あ」」
膝をついていた護衛が立ち上がると、ふらついてバタンと倒れた。
「ウィル!!」
「急に立つから」
「お主なら救えるであろう!?ウィルを助けてくれ!」
「大丈夫だって。もう傷はふさがってる。血が足りてないだけだから」
ウィルをパシパシ叩くとすぐに意識が戻った。
失血にはポカリとヒールが有効なのは前にエーリカで証明済みだ。
「これ飲め。全部飲んだらまたヒールするぞ」
もともと喉も乾いていたらしく500ccボトルを一気に飲み干した。2本目を飲ませながらヒールする。ついでにお嬢様にも1本渡したら、そっちもごくごく飲んでいる。
「こいつはうまい水だな。いや、薬なのか。もうフラフラしなくなったぞ。助かった、改めて礼を言う。俺はウィリアムだ。ウィルでいい」
「オレはエドだ」
まだ息があった敵2人には、まるで口封じするかのように御者が手早くトドメを刺していた。
やけに手際がいい。
やはり戦闘メイドみたいなものか。
お嬢様の仲間の遺体を回収するために戻ると、後方でこちらを窺っていた敵は一定距離を保つように下がった。
賊の装備からあまり汚くない物だけ選んではぎ取ったり、強かった2人の装備品を細かく探っても邪魔しようとする様子はない。
身元が分かる物は何も持っていなかったが。
護衛の遺体も収納した。
「アイテムボックスか!やっぱり、あんたら只者じゃないな」
「ま、それなりにはな。街へ入るんだろ。それまではオレ達が護衛するよ」
「すまん。助かる」
少し道を戻り、犠牲となった護衛を全部で4体収納した。
そのうち1体は犬獣人だった。
その犬獣人の近くには敵の死体も5体転がっていた。
《納屋60》




