表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/77

59.皇都を目指す(5)

《納屋59》


 夜半過ぎに盗賊団のアジトを襲撃した。

 ズダンと地響きを起こして叩き起こしてやったのだが、敵は寝起きでまともに応戦できなかった。


 それでも冒険者にも負傷者は出たので、待機していたアゼリーナさんとオレと、現地の冒険者2人でヒールしている。


「痛そうだな。オレでもいいか?女神様がいいなら順番待ちだぞ」

「頼む。この際贅沢は言わん」


 やはり女神様がいいという奴もいて、そいつらは痛いのを我慢してアゼリーナさんの列に並んでいる。

 こういう時の男はやっぱり馬鹿だな。


「エド君手伝って!」

 地面に寝かされた男が虫の息だった。腹を刺されて、他にも深そうな切り傷が多い。


 オレが腹の刺し傷を、アゼリーナさんがその他の外傷にヒールする。

 アゼリーナさんも人体構造を頭に入れてはいるが全部ではない。骨、皮膚、筋肉とかの共通部分を優先して、内臓はまだ概要だけだ。ここは構造を知っているオレの方が効率がいい。


「この位置なら肝臓か」

 傷口の位置から内部の損傷具合を想像して、肝臓の立体構造図を頭の中に出しながらヒールする。


 アタリだ。

 単純な切り傷と同じくらい効率よく傷が治っていく感触がある。

 傷が塞がると落ち着いた表情になった。

 それを見た現地の魔法使いが感心している。

「あなたも凄いのね」

「はは。ただの下僕じゃなくて女神様の弟子でもあるからな」


 重症の冒険者は1人だけで、他は大したことのない切り傷や打撲だった。

 賊は5人が惨殺死体となり、22人はボコボコにされて捕らえられた。


「すまねえがこのクソ共を回復しちゃもらえねえか?」

「分かった。このまま死んだら面白くないしな」

 ちょっと時間はかかったが、賊共全員を不自由なく歩ける程度に回復させた。


 その場には襲撃が終わる前から縛られている男が3人いた。

「そいつらの1人がさっきギルドを探ってた奴かな?」

「そうだ。まさかトニーの野郎がつながっていたとはな。こいつはデルゲン商会の見習いなんだ」

「悪徳商人の手下で賊の一味ってわけか」

「ああ、別に珍しくも無い話だが、尻尾を掴むのが難しい連中だからな。貧乏男爵と警備兵は大喜びだろうよ。俺達もだがな。がはははは」


「あははは、そりゃいい話だ。それじゃオレ達は女神様の魔法で先に戻るぞ。救出した2人を何時間も歩かせたくない」

「来るときに使ったやつか」

「ああ、詳しくは秘密だがな」

 助け出した2人を連れて暗がりへ入ると、壺に乗って街へ戻った。


 ついでに、血の匂いを嗅ぎつけて集まりつつあった魔物の大半をこっそり駆除しておいた。


 夜が明けると、街の広場には手足を縛られた盗賊24人が転がされていた。トニーだけはデルゲン商会の悪行を吐かせるため、警備兵に引き渡されている。


 早速、近所の住民が賊共に罵声を浴びせたり石を投げ始めたので、兵士がそれを止める。

「判決が出るまで手を出すな!」


 昼過ぎに貧乏男爵が形式ばかりの罪状確認をして判決を言い渡した。16人は奴隷として売却。特に住民の恨みを買っている8人は死刑、ではなく極刑となった。


 ほぼ期待通りの判決に住民からは歓声が上がり、8人は呆然となったり(わめ)き散らしていた。


 この時代、公開処刑は大衆の娯楽でもある。今回は賊共が恨みを買い過ぎたので領主は憂さ晴らしが必要と判断して、被害者に復讐の権利を与えた。

 ここでの極刑は単純な死刑より重い刑罰だ。死なない程度に痛めつけてはヒールが繰り返される。完全に気が狂って、もはや痛めつける価値も無いと判断されたら廃棄処分される。


 -冒険者ギルド-


 ギルド長の部屋で報酬の話をしている。

 ワイバーンの値段は金貨520枚で、オレ達の取り分は5割の260枚になる。そのうち90枚分は魔石でもらった。

 確かにここでの買い取り額はブルグンドと比べるとちょっと安い。それでも教会税の15%をそのまま引かれているわけではないようだ。


 賊討伐は報奨金と奴隷としての売却額を含めて160枚。アジトから出た戦利品は、現金と売却しやすい物だけで金貨180枚相当になった。合計340枚だ。さすがに悪徳商人とつるんでいるだけあって賊にしては溜め込んでいた。

 アジトの特定と被害者救出、それに負傷者の治療は3割の貢献とみなされ、340枚のうち102枚をもらった。


 話が終わってギルド長と一緒にロビーへ出ると冒険者達が一斉にこっちを見た。

「世話になったな。隣同士だし、また時々来てくれると嬉しい」

「ええ、またいずれ」


 冒険者にも声をかけられた。

「女神様、もう発ってしまうのですか?」

「旅の途中なの。本当は泊まる、予定じゃなかったからもう発つわ」

 他の連中も口々に礼を言っている。


 受付の奥から職員に声をかけられ、事前に打ち合わせた小芝居が始まった。

「領主様からワイバーン討伐の報奨金が届きました!」


 ズシリと重い金貨30枚入りの革袋を渡された。

「おお、さすが男爵だ。気前がいいなあ。うん、金貨が30枚は入ってるな。女神様、これは被害を受けた住民のために使っても構いませんか?」

「ええ、もちろんよ」

「というわけです。ギルド長、これを住民の代表として受け取ってください」

「おお、なんと慈悲深い。これは大きな助けになります。住民代表として感謝を」

 ギルド長もたいがい棒読みだ。

 オレもだが。


 金貨30枚はほとんどの冒険者にとってすごい大金だ。

 皆が驚いている。

「女神様...」 「女神様!」

「本当に女神様だ!」


 もう一つ、予定にはなかった革袋を渡した。

「これも女神様から被害者救済にと」

「え?」

「こっちは賊討伐の報奨金からで、金貨80枚です」

 ぐいっと押し付ける。

「これほどの大金を...承知しました!これも男爵に報告して被害者の救済に役立てます」


「おお、女神様!」

「ああっ女神さまっ」

「「「 女神さまっ!! 」」」


 ワイバーンも仕留めたし、オレ達にとってこの程度の金額はどうってことない。


 入り口からオレ達に声をかける男がいた。

「女神様、最後にお礼を!」

 一緒に入ってきた女性を見てざわめきが起こった。

「え、イザベラ?」

「イザベラ、重症だったはずじゃ?」

「昨日、女神様とお供のエドさんに治してらったの。もう歩いても平気よ」


「すごい...さすが女神様だわ」

「あの傷も治せるのか。教会なんて、むぐっ」


「とても恩に報いることはできませんけれど、今朝作ったこれを」

「気持ちだけで十分うれしいわ」

 イザベラさん手作りの焼き菓子をもらった。


 ウゴールもやってきたが、目の下にクマが出来てひどい顔だ。

「よかった。間に合ったか」

「無理に出てこなくてよかったのに」


「馬鹿野郎、礼を言い損ねたりしたらディアナに合わせる顔が無いだろ。魔女様とエドだったか。仇討ちの機会をくれた恩は一生忘れないぞ」


「ああ。クソトカゲを落とせてよかった」

「うん。敵討ち、だけでもできてよかった」


 オレのガラじゃないが今回だけは腕を回してガシッと肩を抱く。

 アゼリーナさんもウゴールの背中に手を回している。

 こいつが泣くから、またもらい泣きしてしまった。


 復讐の女神様!

 復讐の女神様!!

 復讐の女神様!!!


 大勢に見送られて街を後にした。

 背後から響く声にアゼリーナさんは終始微妙な顔だった。


 *


 次の目的地は皇国の第二都市だ。


 領都を離れて農村を飛び越えると、景色はまた手付かずの大自然になった。樹海の彼方に見えるのは地平線と山だけだ。やはりこの時代はまだ人口が少ない。地球のこれくらいの時代なら総人口は数億人以下だったはずだ。魔物が多いこの惑星ならもっと少ないと思う。


 脳内マップ無しじゃ樹海を越えて人里を探すなんて至難だろう。

「これじゃ海で小島を探すのと同じだな」

「まさか、海に出たことがあるのですか?」

「いや、話に聞いただけだが。この状況だって海と大差ないだろ。山が見える分ましだけど」

「それってつまり...」


「あははは、心配すんな。精霊の道案内があるからオレ達は絶対に迷わない。一直線に皇都を目指すと大山脈があるけど、ドラゴンとは遭遇したくないし、敵が進軍してくる地形も見ておきたいから南東へ迂回しているところだ」

「そうすると右側の山は国境のデラスネポス山脈ですか」

「うん。敵が山越えしそうな経路があるか見ておこうと思ってね」


 右側には壺が飛べる高度よりはるかに高い山並みが続いている。高いと言っても富士山よりはだいぶ低く、せいぜい1000mとか1500m程度だろう。


「さすがに大軍がこの山脈を突っ切るのは無理でしょう」

「オレもそう思うけど、意表を突こうと無理をするのが戦争だし」


 状況次第では敵がハンニバルのアルプス越えみたいな無茶をしないとも限らない。だが、圧倒的に有利な側が最初から無茶をする理由はないはずだ。


 丁度良く生息地を通りかかったので、岩山でグリフォンを仕留めた。

「うん、ちゃんと通用するな」

「あははは、あっけなかったですね。本当は恐ろしい魔獣なんですけどねえ」


 天敵がいないせいか、壺を見ても逃げなかった。それどころか寄ってきて翼を広げて威嚇し始めたので、がら空きになった胸部を狙って長銃で仕留めた。


 もし、他の冒険者が同じことをするようになったら簡単に狩りつくされるだろう。

 させないけど。


 途中の街に立ち寄り、アゼリーナさんが偽名で冒険者登録した。ここからはDランク冒険者のアンジェラだ。他の3人は有名じゃないし、そのままでも問題ないだろう。


 背後に日が沈み始める頃、皇国の第二都市フランシウムが見えてきた。なだらかな丘陵に作られた城塞都市で、一番上にある城の背後、南側は断崖絶壁になっている。街の入り口は北側の一か所だけらしい。街からの道は、北と東西へ延びている。


 できるだけ歩きたくないので、壺の魔力探知と双眼鏡で人の流れが途切れている個所を探す。双眼鏡を使うイングリットとレオンが楽し気にああでもない、こうでもない言っている。


「さすがに人が多いですね」

「いっそ真っ暗になってから街の中へ降りちゃいますか?」

「そうだなあ、なんか門の前には行列ができてるし。でも、この様子だと日が落ちてから相当待たないと目撃されずに中へ降りるのは無理じゃないか?」


 結局、街の近くに降りて東西へ延びる道をしばらく歩くことになった。

「東側で丁度良く人が途切れてるな。大して歩かなくて済みそうだ」


 人の流れが途切れている箇所からさらに東には移動が早い集団がいる。と思ったら数が減った。

「あ、また減った」

「何が減ったの?」

「もっと東の方で戦闘が起きてるらしい。こっちへ向かってくるから、盗賊とかだったら殲滅しよう。甲冑、、は間に合わないか。全員、通信機を装備してくれ」

「「「了解!」」」

 トランシーバーとイヤフォンを付けた。


《納屋59》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ