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58.皇都を目指す(4)

《納屋58》


 ワイバーンの襲撃に便乗して街を荒らしていた盗賊のアジトを突き止めた。

 おまけで別の賊集団12人もとっ捕まえたのだが、逃げられないよう雑にぶん殴ったので重傷者が多い。


「このまま縛ったら痛そうだな」

「勘弁してくれ。どうせもう逃げられねえんだ」

「まあ、心配すんな。一応は人間扱いしてやるから。んん~、痛いのはここか?」

「ぎゃー!やめろ!痛い痛い!やめてくれ...ぎゃっ!!」


 別にいじめているわけではない。より効果が高いヒールのためには損傷具合を正確に把握する必要がある。そして、骨折は伸ばした方がいい。


「えいっ!」

「ぎゃーっ!!」

「うるせえ。ずれた骨をつないでるんだから我慢しろ。もうちょい、こうだな」

 ゴリゴリッ

「あがっ!..ぎゃあっ!!」

 これ痛いんだよなあ。オレも二回経験したし。


 つながったら詳しい構造を思い出しながらヒール。

「うう...痛え、痛え...あ、痛くなくなってきた」

「だろ?完全には治してやらないけど感謝しろよ」

「こんなに良くしてれるなんて、あんた案外いい奴だな」


 あ、これきっとストックホルム症候群だ。

 一度痛めつけるとなりやすいのかな?


「よし、いっちょう上がり。レオン、こいつ縛ってくれ。骨折個所に注意な。たぶん、力かけたら簡単に折れる」

「はい。エド様、回復魔法の腕まで良かったのですね」


 アゼリーナさんも嬉々としてヒールの実験をやっている。彼女のヒールはもともと強力だ。それに地球の知識が合わさると、常識を超えた効率になる。粉砕された関節ですら簡単に不自由なく動かせる程度には回復する。オレにも同じことは出来るが治る早さが違う。


 治療が終わったら大半の賊共に懐かれてしまった。

 うぜえ。


「てめえら、こんなことしてタダで済むと思うなよ」

 未だに悪態をつくボスの方がオレ的には好感が持てる。

 ゴミに見えるのは同じだが。


 全員に目隠して、壺に乗せて街まで運ぶ。

「お前らを街へ連行するが、抵抗しても無駄だぞ。回復魔法があるってことは、いくらでも切り刻めるってことだからな」

「やっぱり悪魔かよ!」


 さすがに12人も増えたら重量オーバーらしく、あまり高度が上がらない。

 おまけに臭いので、4か所ある歩兵降下用のハッチを少し開けている。

 戦利品は質の悪い装備と、金貨6枚相当の小銭だけだった。


 街の広場に着陸した。

 幸い、街灯なんて無いので真っ暗だ。

 たぶん、目撃者はいないだろ。

 そこから冒険者ギルドまではロープでつないだ賊共を引き連れて歩いた。

「ただいまー。盗賊団のアジトを見つけたぞ。ついでに別の賊も見つけたんで、捕まえてきた」


「うおっ!何だこいつら?」

「あっ、ゾマス一味じゃねーか!」

「どうする?一度はボコボコにして骨まで折ってやったんだが、恨みがあるなら止めないぞ」

 賊共が青ざめる。

「いや、いい。恨みがある者は多いだろうが、あんたらの獲物だ」


 連れてきた12人のうち5人は名が知れていて、懸賞金が金貨23枚出た。この後は労働奴隷として売られる。鉱山その他、危険な場所で重労働をやらされるので、長くは生きられないことが確定だ。

 犯罪奴隷の売却代金は、体格にもよるが健康な男なら一人当たり金貨5枚くらいになる。ボスの右腕とかいう大男は金貨8枚と見積もられている。


 売却が決定したので、わざと残していた怪我も完治させた。古傷まで治してやったら泣いて感謝された。

「あ、動く...ずっと動かなかった膝が動くぞ。うっ、うう...この傷さえなけりゃ盗賊になんてならなかったのによお...でもありがとうな」

「お前なりに苦労があったんだな。まあ、これからはしっかり働けよ」

 使い潰されるわけだが。


 試しに無くなった手首にヒールしてみた。普通にやってもほぼ無反応だ。修復後の全体像と、切断面の構造を頭に浮かべてみたら傷が治る時と同じ感触があった。

「すまん、やっぱり無理だ」

「はは。最初から期待しちゃいねーよ」


 MPを大量に消費すれば部位欠損も治せそうだ。


 *


 ギルドに集まった冒険者達に盗賊団のアジトの場所を説明している。

「アジトには27人いた。その場所はここだ!」


 ガッと地図にナイフを突き立てた。

 一度やってみたかったのだが、なるほど、そういう気分になるな。


「確かに、クソ野郎共がいそうな場所だな」

「へっ、ようやくか」

「今度こそ根こそぎにしてやる」


 正面の扉を閉めた。

「賊の仲間がまだ街の中にいるぞ」

「え、だから閉めたのか」

「隠れ家を潰してからずっとこちらを探ってる奴がいる」

「どこだ?捕まえてやる」

「捕まえても何の証拠も無いんじゃないか?まだその辺にいるってことは顔がバレてないやつだろ」

「そうかもしれないが、とっ捕まえて吐かせれば...」

「今は放っておけ。どうせこの後アジトへ走るだろ」

「それもそうか」

「そいつが出入りした建物はこれだ」


「おっ、デルゲン商会じゃねーか。まあ納得だぜ。悪い噂が絶えねー上に、ガラの悪い用心棒もいるしな」


「それじゃ、早速アジトを潰しに行くか?」


「アデラとケリーとカレンがいるかもしれない。最近行方不明になったんだ」

「確かに、敵じゃない気配も2人あったな。そっちはオレ達に任せてくれ。襲撃とタイミングを合わせて助け出す予定だ」


「そりゃ助かる。救出は任せた。野郎共、準備はいいか!!」


「「「「 おう!! 」」」」


 ズドンと武器が一斉に床に叩きつけられた。

 長い武器を持っていない者は足を踏み鳴らす。


「野郎共、一匹も逃がすんじゃねえぞ!!」


「「「「 おう!! 」」」」


 ズダン!!


 外にいた賊の仲間が走り出した。


「あー、聞いてくれ。オレ達も一緒に行くが作戦には口出ししない。女神様の回復魔法は強力だから、多少の怪我は恐れず存分に暴れてくれていいぞ」


「聞いたか!女神様のご加護付きだ!野郎共、行くぞっ!!」

「「「「 うおおおおぉーーーーっ!! 」」」」


 男共が一斉に駆け出した。

 気持ちは分かるが、鎧着てそんな勢いで走ったら絶対バテるだろ。

 魔法使い達も仕方なく後ろから追いかける。

 その中の1人に伝言した。

「オレ達は先回りする。襲撃開始の直前に合図を飛ばして裏から侵入するから、そう伝えといてくれ」


 怒涛の脳筋集団を見送ると、人目がないことを確認して壺を出した。

 盗賊団のアジトは山奥の獣道の先にある。面積が広い木造の平屋がうまく偽装されていて、遠目には(つた)や木や草がうっそうと生い茂っているようにしか見えない。魔物が出る危険な場所だが、盗賊なんて魔物と大差ない生き物だから平気なのだろう。


 アジトへ向かって走る賊の仲間は冒険者集団より速かった。

「どうやら真っすぐアジトへ向かってるみたいだな」

「今捕まえても白を切るだけでしょうね」

「アジトの手前で捕まえよう。夜中にあんな場所まで1人で行くとは思えないから、途中で仲間と合流するはずだ」


 目的地まで一直線に飛んでアジトの真上に壺を静止させた。

 丸椅子とテーブルを出し、紙に敵の配置を書いて3人に説明する。


「まだ動いてるのが数人いる。救助対象は2人とも最奥に近い場所だ。裏の壁をウインドカッターで切って侵入するつもりだが、その近くには特に強いのが2人いる」


「突入は我々に任せてください。エド様とアゼリーナ様は外で待機を」

「オレじゃないと暗がりで敵かどうか判別できないだろ。敵の制圧は任せるから、オレも2人に続いて入る」

「承知しました」


 アゼリーナさんは壺の魔力探知で下を監視しながら待機してもらうことになった。


 冒険者達が到着するまで、小走りでもあと2時間はかかるはずだ。

 その間やることがない。


「これでも食う?」

「はいっ!」

「何ですか?」

 始めて見せる物なのにイングリットは即座に飛びついた。

 レオンは、とぐろを巻いた白い物体をあからさまに警戒している。


「こうやって舐めるんだ。甘いぞ」


 イングリットも先っちょを舐めた。

「あ、冷たい...ん~っ!美味しいです!!冷たくて甘くて、信じられないくらい美味しいです!これもクリームですよね」

「正解。ケーキ用とはちょっと違うけど」


 レオンも警戒を解いてソフトクリームを舐めると、数秒ほど目を丸くして固まった。

「...冷たくて甘い!」


 揚げた芋の薄切りと、黒い炭酸砂糖水をテーブルに出した。

「いったいどれだけ美味しいものを持ってるのですか?こうなったらもう、伯爵にお願いしてエド様の専属にしてもらうしかないです」

「作り方なら教えるから早まる必要はないと思うぞ」

「そうよ。あなたにはお屋敷の、仕事があるでしょう?」

 アゼリーナさんがオレに身を寄せた。

 イングリットはこちらをじっと見るが何も表情に出さない。




「賊共は誰も動かなくなった。もう全員寝たかな」

「油や蝋燭は高価ですし、いつまでも起きてはいないでしょう」


 そこから1時間くらいが経過し、街から走っていた賊の仲間がようやく近くまで来た。

「3人になって来たぞ。捕まえよう。あ...その必要は無さそうだ。足の速い冒険者が追いかけてる。よし、こっちは突入準備だ」


 虚空を見ながらそんなことを言うオレに、イングリットとレオンが空恐ろしいものを見るような目を向けている。

「ん?ほら、今は少し高いところにいるだろ。だから気配を探りやすいんだよ」


 アゼリーナさん以外の3人が魔導甲冑を着て壺から降りた。左腕には薄暗くした照明を(くく)り付けている。


 表にはすでに冒険者が集まり始めている。

 合図のファイヤーボールを1発打ち上げたら作業開始だ。

 貫通しない程度に威力を弱めたウインドカッターで裏の壁に四角く切れ目を入れ、ミスリル剣で切断する。

 切断された壁をバールのような物で引き出し、地面にそっと倒した。


 強い奴ら2人が動いた。


『気づかれた。2人が左右で待ち伏せしている』

『問題ありません』

『任せてください』


 冒険者は30人以上になり、ほぼ集合し終わったようだ。

 ファイヤーボールを3発打ち上げるとリーダーの怒鳴り声が聞こえてきた。


「野郎共、やるぞ!!」


「「「「「「 おう!! 」」」」」」


 ズダンッ!!


 足を踏み鳴らす地響きが伝わってきた。

 待ち伏せしている敵2人が驚いている。

「うお、何だ!?」

「て、敵か?」


『突入!』

『『了解!』』

 レオンとイングリットが静かに素早く中へ入る。

 待ち伏せしている2人が攻撃してきた。


 カン、ガンッ!

「てめえら起きろーっ!!」

 賊2人が戦いながら怒鳴る。


 ズドッ ズドッ

 バキッ

「ぐえっ」 「があっ!」

 甲冑に生半可な武器は通用しない。待ち伏せしていた2人は一瞬で制圧された。オレも入り、すぐそこに若い女が2人寝ているのを確認した。


 バキバキと破壊音に続いて冒険者達が踏み込んでくる。


「「「「「 うおおおおーーーっ!! 」」」」」


 賊共は寝起きで防具を付ける暇などないはずだ。


「何だてめーら?」

 ドゴッ!

「ぐわっ」

 バキッ

「ぎゃっ」

「ここがどこだと、ぎゃっ」


 救助対象を抱えて運び出したが、うつろな様子で声も出さない。すでに囚われているのだから騒ぐ意味も無いのだろう。見える負傷がなくてもとりあえずアゼリーナさんにヒールしてもらい、正面の冒険者達と合流した。


 阿鼻叫喚の数分間が終わり、次々と賊共が引きずり出されてくる。


《納屋58》

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