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57.皇都を目指す(3)

2022年8月30日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。

《納屋57》


 このタイミングで来るか。

 怒りが突き抜けて変な笑いに変わった。


 その場にいた男達がまた怒りの形相に変わり、口々に「ぶち殺す!」とか言いながら駆け出す。男だけじゃない、女の冒険者も似たようなものだ。


 オレ達4人も一緒に走る。


 結局、バラバラに逃げられ、ほとんど取り逃がしてしまった。ワイバーンが出ると毎回こうなるらしい。

 今回は商店が数件荒らされ、怪我が数人と殺されたのが1人。


 被害に会った商店のオヤジが、殺された若い男を抱えて悔し涙を流している。

「ちくしょう...」


 他人事ながら怒りが収まらねえ。

 狩ってやる。


「殲滅しよう」

 アゼリーナさんとイングリットとレオンが静かに頷いた。

 3人とも目に怒りを浮かべている。


 逃げた奴らの一部は街の中に潜んでいる。

 大半は街の外に逃げたが、絶対逃がさん。


 冒険者の一団を引き連れて、街の中にある賊の隠れ家を取り囲んだ。

 幸いなことに中の反応は全部赤だ。

「賊ばかり9人だ。巻き添えは気にしなくていい」


 冒険者の1人が声を張り上げる。

「おめーら、よく聞け!楽に殺すな!生け捕りにしろ!!」


 ウオォーーーーーーーッ!!!


 一斉に扉や壁が破壊され、恨みを持つ住民と冒険者がなだれ込んだ。

 中から怒声と悲鳴に続いて命乞いが聞こえてきた。


 引きずり出された賊共は被害者の希望通り、大通りで血祭となった。何人かは死んだが大体は半殺しに留めてある。楽に殺さないために。


 -冒険者ギルド-


 ワイバーン討伐の英雄であるアゼリーナさんの前にギルド職員一同が礼を言いに集まった。


「まさか災厄の魔女様がいらしたなんて、とても幸運でした。本当にありがとうございます」

「おい、こら」

「あ、失礼しました!」

「えーと、復讐の女神様...とか?」

「「「 それだ! 」」」

「「「 復讐の女神様!! 」」」


 脳筋共が気に入ってしまったらしい。

 また物騒な二つ名をもらってしまい、アゼリーナさんは嬉しそうじゃない。


 馬鹿をやったオレの受けもよかった。

「お前は魔法使いのくせに囮になるとか馬鹿な奴だな。英雄かよ」

「餌役でもカッコよかったぜ。英雄だな」

「餌のエド、お前の名は一生忘れねえ」

「俺もだ。魔...復讐の女神様の第一の下僕としてお前の名を語り継ぐぞ」


 アゼリーナさんの下僕か。

 悪くない。


 男が4人オレ達の前に来た。

「女神様、トドメを譲ってもらいありがとうございました」

「「「 ありがとうございました! 」」」


「俺達もウゴールと同じなんだ。あんた達がいてくれたおかげで仇を討てた。本当にありがとう。昨日までは悔しくて、悔しくて...うぐっ、グズッ...ろくに眠れもしなかった。だがよ、女神様のおかげで一太刀入れられた。本当に、本当にありがとう。復讐の女神様と、囮になってくれたあんたのことは一生忘れねえ」

 男は言い終わると下を向いてぎゅっと目を閉じ、肩を震わせた。


 別の男に聞いてみた。

「あんたらも討伐作戦に参加したのか?」

「ああ、俺はトカゲ野郎と睨み合いながら槍を投げて翼に当てたからな。その翌日には家を吹き飛ばされてガキどもは死んじまった。嫁は重症だ、ちくしょう...うっ、うっ」


「あいつら、本当に人間の顔を覚えるんだな...」

「元はと言えば家畜が襲われ始めたせいだ」

「俺の娘がやられたのも作戦の前だ。畑仕事中に後ろから音もなく飛んできたあいつに捕まってな...」


 そういう世界に生きているとはいえ、今回のクソトカゲのように明確な悪意を見せられると合理性なんて度外視で仇討ちしたくなるよな。オレがゴブリンを嫌いなのも、奴らには人間のゴロツキのような嫌らしい悪意を感じるからだ。


 重症の嫁さんはアゼリーナさんが治した。常識では治らないはずの傷が、地球の知識を併用した回復魔法で日常生活に不自由しないところまで回復してしまった。そのおかげで、旦那からは本当に女神様のように崇められていた。




 ワイバーンが倒されたと聞きつけて領主の貧乏男爵がやってきた。

「おおお、本当にあの忌々しいトカゲを倒したのだな。皆よくやってくれた!領主として礼を言う」


 男爵は賊共の悲惨な有様には若干顔をしかめたが、文句を言う気はないらしい。

「大半は逃げたとはいえ、今後は被害が減るだろう。よくやってくれた」


「これもブルグンドの女神様御一行のおかげです。勇敢な2人が囮となり、女神様がワイバーンの翼を切り落としたんです」


「女神様とな?」

「あ、ブルグンド所属の、かの有名な魔女様のことです。仇討ちの手助けをしていただいたので、復讐の女神様と呼ばせていただくことになりました」

「おお、なるほど」


 ギルド職員の説明を聞いて領主がこちらへ来た。

「さすがはブルグンドの魔女殿だ。お目にかかれて光栄に思う。敵を引き付けた勇敢な2人というのは君らか?」


「それはこのエドさんです」

 パブロックが誇らしげにオレを紹介した。元々男爵とは知り合いらしく、以前、ショコラを売ったらすごく気に入ってもらえたと喜んでいた。


 木っ端商人とも付き合うだけあってこの男爵はぜんぜん貴族っぽくない。近くで見ると、服はともかく顔はただのくたびれオヤジだ。まさに貧乏男爵か。


「男爵、お目にかかれて光栄です。もう一人はこの街の冒険者ウゴールですが、彼は犠牲になったティアナさんと...その」


 周囲の涙もろい連中が数人涙を拭っている。


 ギルド職員が詳しく説明すると男爵は目を伏せた。

「そうであったか。ウゴールは討伐作戦の参加者だった。顔を覚えられていたのだろうな。今回の被害者には私からいくらかの補償金を出す。英雄達を屋敷へ招待したいのだが、今は忙しいか?」


「逃げた賊の討伐について少し話が残っていますが、長くはかからないかと」


 さっき指示を飛ばしていた男に聞いてみた。

「賊のアジトは分かるのか?」

「それが分かりゃ、生かしちゃおかねえ」

「今まで追跡に成功したことがないんだよ。追っ手を振り切らない限り、奴らは絶対にアジトに戻らねえ。逃げきれない時は刺し違えようとするからな」


「そうか、まあ任せろ。オレ達なら今日中に奴らのアジトを突き止められる。夜半にまた集まってくれ。奴らが寝ている間に襲撃するぞ」


「助かる。てめえら聞いた通りだ。早めに寝るか、ずっと起きてろよ」

「「「「 おう!! 」」」」


 *


 この街のギルド長と共に男爵の屋敷に招かれた。オレの友人ならお前も来いとパブロックも連れてこられた。本当に貴族っぽくない気軽なオッサンだ。


 屋敷は意外と大きいが古くボロい建物だった。

 門番がいるべき詰め所には誰もいない。

「ああ、それは昔の名残でな、昔は子爵家の屋敷だったのだが、今の私には門番を雇う余裕などないのだ。ははは」


 出迎えたのは犬耳の執事だった。ボルフみたいな犬顔ではなく、ほぼ人間だ。

「旦那様お帰りなさいませ。お茶の用意が出来ております」

「うむ」


 伯爵家の2人は正体を隠しているので、護衛のイングリットとレオンも席に着く。


 猫耳メイドがお茶を入れてくれる。


 うお~っ!

 猫耳メイドだ!

 本物だ!


 そわそわしているのがイングリットにバレた。

「エドさ、、エド君どうかしたの?」

「な、何でもないぞ」


 不意打ちで猫耳メイドだ。平静でいられるわけがない。ミシャーナ達で見慣れたとはいえ、メイドとなると話が別だ。

 尻尾がクイッと動くとドキッとする。


 イングリットが怪訝な目つきだが、そわそわしている理由まではバレてないな。


 お茶菓子はクッキーだった。上には細い糸状のショコラがかかっている。

「クッキーにかかっている黒いのはショコラだ。ブルグンドの者なら知っているのではないか?」

「ええ、ブラックボアを仕留めた時にギルド長からもらったことがあります」


「さすがは英雄殿だ。こちらではこのパブロックを通してしか手に入らん希少な甘味でな、これのおかげで我が男爵家の会計も多少ましになったよ」


 男爵家ではごく少量のショコラをクッキーにかけて、ショコラクッキーと称した特産品にしている。それを他の貴族家に高値で売りさばいているらしい。

 伯爵もショコラで商売してるし、ショコラ経済圏が広がりつつあるな。


「では本題に入ろう。この度のワイバーン討伐、大儀であった。報奨金を受け取ってくれ」

 犬耳の執事がテーブルに革袋を乗せる。


「金貨30枚だ。本来は50枚は出すべきところだが、被害の復旧もあり今の私にはこれが精いっぱいなのだ。すまぬ」

 男爵が頭を下げた。


 これは受け取りづらい。

 アゼリーナさんがオレを見たので、最小限の動きで首を横に振った。


「男爵、これは被害を受けた領民のために、使ってください。わたし達にはワイバーンの、売り上げがある」

「いやしかし、いかに貧乏男爵と呼ばれようと、それでは格好がつかん」


「ではいったん受け取りましょう。冒険者ギルドへ行ったら、書かれていた通りの報奨金を受け取ったぞと皆に見せびらかします。それをギルド長に渡せばオレ達もいい恰好できて楽しいですし」


「すまぬ。重ね重ね恩に着る。君らの名はこの男爵領の伝説として語り継ごう」


 少しこの地の歴史を話してくれた。男爵領になる前は子爵領だったがそれが没落し、領地の半分を引き継いだ。国が皇国に併合されたのはその後だ。有力貴族の首が()げ替えられる中、ここは辺境の弱小領地だったため男爵の地位も領地もそのままとされた。


「皇国の治世はどんな感じなんです?」

 男爵の目配せで執事が退室した。

「街を見たのなら感じているとは思う。教会税がな...領民の生活は苦しくなったよ」

「他の国には無い税金ですよね」

「ああ、おかげで強い冒険者が離れてしまい、悪循環になっている」


 一緒に来たギルド長の説明によると、冒険者ギルドが払う報酬は税引き後の値段になっている。皇国では教会税まで引かれるが、隣のブルグンドには教会税が無い上に元々の税金も若干安い。そのままでは冒険者が逃げてしまうので、皇国は仕方なく辺境の冒険者ギルドに特別に低い税率を認めているらしい。


 男爵は教会が嫌いなようだが、一応は自国のことなので口が重い。


「これは万が一の仮の話なのですが、もし皇国が西への侵攻を再開したら、矢面に立つのは男爵の部隊ということになりますか?」

「不本意ではあるが、そうなるな。まず前線に立たされるのは元王国民だ」


「我々にはデネルブルグ王国の支援がありますし、多くの高ランク冒険者も参戦します。一方で、皇国の冒険者には戦争に行く理由があまり無いはずです。定住していない冒険者を徴兵するのも難しいでしょう。男爵の部隊は徴兵された農民が主力では?」


「言いたいことは分かる。だが、我々の背後では教会の騎士団が睨みを利かせるはずだ」


 やはり督戦隊がいるのか。緒戦ですり潰されるとしても、最終的に皇国が勝つと思われる以上は寝返ったりしないだろう。

 戦史マニアでもないオレには調略なんて無理だな。

 魔導兵器があることは言えないし。


 後で伯爵がいい手を考えてくれる可能性はある。軍事の専門家がいるはずだし。となると今出来ることは男爵の意志確認くらいか。


「こちらにはオレ達より遥かに強い本物の英雄もいるのですが」

「知っている。我が領軍ではアゼリーナ殿1人にも歯が立たんだろう。だが、たとえ全滅するとしても、残された領民のために役目を果たしたと認められる必要があるのだ」


 辺境の外様(とざま)男爵に選択肢は無いか。

 できれば嫌々戦わされる連中を殺したくはないが甘いことを考える余裕もない。


「全ては皇帝次第ですか。これ以上の西進はやめてくれないもんですかねえ」

「まったくだ。たとえウストリア王国が戻らぬとしても、せめてこのままでいたいものだ」


 旧王国はいい国だったらしい。

 昔を懐かしむ男爵が色々と当時の話をしてくれた。


 *


 メトラに頼んで街周辺の魔力分布を取ってもらった。

 夜を待ち、壺の魔力探知でそれらしい集団の上をしらみつぶしに回る。

 人間かどうかは、オレの索敵能力で分かる。

「ハズレ。またゴブリンだ」


 程なくして街の南東の山にそれっぽいのを見つけた。

「こんな場所に27人もいるぞ。経過時間と距離と人数から考えて、こいつらでまず間違いないだろう」


「凄いですね。そこまで人の気配を探れるものなのですか」

「気配とは言ったが、魔力感知かもしれん。自分でも本当のところは分かってないんだ」


 おまけで別の小集団を1つ見つけた。森の奥に偽装された建物が3つあり、中にいる12人全部が敵と識別できる。

 本命はこの街の冒険者のために残すが、こっちはオレ達が掃除する。


 壺が集落の真上に無音で静止している。

「こいつらは今朝の盗賊共とは別の集団だ。南側の小屋には2人だけ入っていて、そいつらが一番強い。イングリットとレオンには魔導甲冑の練習にちょうどいい相手だろう」

「はい。任せてください」


「一応捕まえるつもりだが、怪我させないよう気を使う必要はない。もし取り逃がしそうだったら、右腕の魔法武器で仕留めるか足を砕くか適当にやってくれ」


 4体の魔導甲冑が集落の中心に降りた。


 チャリを着たイングリットが割り当てられた小屋の正面入り口から。カリバーを着たレオンが裏の壁から。甲冑の剛力なら殴る必要はない。未来から来たTシリーズアンドロイドよろしく、ボロ小屋を馬鹿力でバキバキ破壊しながら侵入していく。


「おあ?...魔物か!?」

「うごっ..んあ?」


 ドスッ

「ぎゃっ」

 ズダン ゴスッ

「うぐっ...」


「こっちもやりますか」

「ええ」

 アゼリーナさんとオレは雑魚5人の小屋を襲撃する。アゼリーナさんがズドの剛力で裏の壁を破壊し、オレは正面にウインドカッターで切れ目を入れてチャリの腕を突っ込んだ。


 バキバキバキ

 

「...るせーな」

「うわっ!!何だ!?」


 起きた奴から制圧する。オレに人間を気絶させる技量なんか無いのでぶん殴るだけだ。急ぐのであまり手加減もできない。


 ゴスッ ズドッ!

「うぐっ、かはっ...」

 バキッ

「ぎゃっ!ひいっ、何だこいつら!?」

 ズダン

「うごっ...」

 1人を持ち上げて、もう1人に投げつけた。


「エド君、ここはもういいわ。次へ行きましょ」

「はい」


 最後の小屋だ。ここにも雑魚が5人。すでにイングリットとレオンが侵入を開始している。中の連中が騒ぎ始めているがもう遅い。起きたのなら静かにやる必要もない。全力で壁を殴り、蹴りを入れた。


 ドガッ! バゴンッ!

「ぎゃあ!」

「痛えーっ!!」

 中の連中が破片を食らったようだ。


「てめえらナニモンだ!?」

 カンッ

 頭に刃物が当たった。

 そいつの腕をつかんで力任せに投げたら、バキッと嫌な音がして関節じゃないところが曲がった。

「ぎゃあ!あ...ぐあ、痛え...待て、降参する」


 他にも武器を持ち出した奴はいたが、意にも介さず制圧されていた。オレが相手した奴らはだいたい重症だったが死人は出ていない。素人仕事にしては上出来だろう。


 ゴロツキもゴブリンと同じく嫌いだが、個人的な恨みはないのでヒールはしてやる。


《納屋57》

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