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56.皇都を目指す(2)

2022年8月30日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。

《納屋56》


 イングリットとレオンを乗せて屋敷を飛び立ち、途中でワイバーンを仕留めて皇国の辺境、ウストリア地方まで来た。

 眼下に広がるのは緑の少ない荒地だ。とは言っても川が流れ、畑らしきものはある。


 低空飛行で小山を越えると、パブロックがウストリアの貧乏男爵と呼ぶ貴族の領都が見えてきた。城塞都市のような外壁は無く、中央から離れるにつれて建築物がまばらになり、畑が多くなる田舎街だ。


 畑も道も無い方角から超低空飛行で、地形の起伏に隠れながらできるだけ接近する。今さら1時間も2時間も歩きたくない。


 低空、低速でならオレの索敵能力が役に立つ。

 壺の魔力探知と違い、人かどうかまで識別できるし。


 着陸したら車に乗り換える。

 スズキノ自動車製の、一部マニアに大人気のオフロード用軽四駆だ。


「イングリットとレオンは後ろに座って」

「これが例の馬無し荷車ですか」

「いや、こっちは人用だよ」


 運転はアゼリーナさんだ。クラッチをつないだらエンストしそうになり、一気に吹かしてガクンと発進した。

「おおっ!」

「すごい。本当に動くのですね」


 荒地を進むと、ときどき遠くに家が見える。

 運転するアゼリーナさんは楽しそうだ。


 イングリットも珍しく浮かれている。

「エド様、すごい乗り物ですね!こんな荒地をこんな速さで進むなんて」

「これでも、すごくゆっくりなんだが。道が良ければ全力で走る馬の倍の速さを出せるぞ」

「そんな速さは想像が難しいですね」

「壺ではもっと速く飛んでたぞ」


 索敵能力で人を避けながら主要道路の間近まで来た。ときどき遠くから農民に目撃されたとは思うが、気にする必要はないだろう。


 革鎧が2人、とんがり帽子が1人、それにメイドを加えた4人組が徒歩で街へ入った。レオンも冒険者風ではあるが雰囲気が上品すぎる。変な集団に見えるかもしれない。


 この街にはパブロックも滞在しているはずだ。彼は行商人を卒業するにあたり、最後の仕事を片付けるために数日前に相棒の駄馬、エミリーと共に旅立った。会えればいいのだが。


 忙しいはずの朝なのに、街にはどこか活気がない。


 ここへ来た目的は、この街にいる2人の間諜に通信手段を渡すことだ。ここより遥かに遠い、皇都と第二都市にいる間諜なら異次元ポケットを持っている。比較的近いウストリア地方とは手紙で連絡を取っているらしい。


 ここの間諜は辺境伯領の出身で、レオンやイングリットとは顔見知りだ。拠点にしている商店から出てきたのは冴えないオッサンだった。これといった特徴が無く、気が抜けているようにも見える。


 スパイだしな、人の記憶に残らない方がいい。

 意識してそういう表情を作っているうちに、それが本当の顔になってしまったのかもしれない。気が抜けた顔でも腕利きだ。魔法も使えるし、顔を少し変え、名前を変えれば冒険者にもなる。商業ギルド会員でもある。ヨハンも偽名だろう。


「お、レオンじゃねーか。それにイングリットまで...そちらは?」

「こちらのお2人は我が伯爵家の協力者で護衛対象だ」


 話を聞いてみると、現皇帝が国を傾ける勢いで予算を使っているのは本当らしい。税率5割に加え、教会が流通の要所から取る税が15%に上がった。さらに、兵役期間が伸びてあらゆる分野の生産力が落ちた。


「貧乏男爵も生活が苦しいらしいぜ。魔物討伐の報奨金が減ったおかげで被害が増えている。ますます税収が減ってますます被害が増えるって寸法さ。はははは」


 ヨハンは力なく笑った。

 スパイとはいえ、現地住民の苦労は他人事ではない。

 長年の付き合いがあるのだから。


「そうか。だが、敵国の窮状はこちらにとっては好都合だ。活動資金の足しとしてこれを渡そう」

「うお、ショコラか!これだけあれば田舎で家が買えるぞ」


 オレが話を引き継いだ。

「これが今回オレ達が来た理由だ」

 チャリを出した。

「うおっ!」

 虚空からポンと出た甲冑には驚いているが余計な質問はしてこない。

 さすがプロだ。


 このチャリは今朝方、ターリンス要塞から持ち出したうちの1体だ。

 本当は長距離用無線機を渡したかったが、数が足りないのでこれで代用する。


 レオンが甲冑を支えながらヨハンに装着させた。

 もう1体をオレが装着し、甲冑同士の思念伝達で話しかけた。


「こいつは便利だな。さすが伯爵様だ」

「これは旧帝国製の魔導甲冑だ。異常に軽いだろ?魔力を消費して甲冑自体が動いてるんだ。馬鹿力を出せるし、家の屋根にだって飛び上がれる」


 メトラを呼び出してヨハンも軍属として仮登録させた。これでいつでも要塞経由で報告を受け取れる。ヨハンの嫁さん、ということになっているもう1人にも後で登録してもらう。


「今のは?」

「時間要塞の精霊だ。今後は報告をその精霊に伝言してくれ。通信だけなら甲冑の頭をかぶるだけでいいから」

「ああ、わかった...」

 さすがに理解が追い付かないらしく、解せない顔のままだ。

 理解しなくても慣れてくれたらいい。


 チャリ2体と、それ用の長銃と銃剣も渡した。

 武装の使い方も説明だけはした。


 ヤバいブツを渡されたと思っているのだろう。ヨハンの声が固くなった。

「俺は何をやればいい?」

「当面はこれまで通りだ。そのうちこの甲冑で何かやってもらうかもしれないが」


 -冒険者ギルド-


 建物が意外と大きい。辺境なので冒険者が多いのだろう。周囲の条件はブルグンドと大して違わないはずだし。


 イングリットも今は戦闘メイド装備だし、オレ達も普通の冒険者パーティに見えると思う。


 掲示板に人が群がっている。いろんな格好でいろんな種族の冒険者が血眼で依頼票を睨む。オレはこの緊張感が大好きだ。


 受付嬢、ではない職員のお姉さんに声をかけられた。

「そこのお兄さん方、この街は初めてですか?冒険者ですよね?」


 レオンが対応した。

「ああ、今しがた街に着いたところだ」

「おすすめはゴブリン退治と盗賊狩りですよ。カッコいいお兄さんならそれくらい余裕ですよね?」

 それって報奨金が減ったから未消化になってる依頼だろ。


「見に寄っただけだ。悪いが今日は休みたいから仕事を受けるつもりはない」

「ワイバーン退治ならどうです?まさに一攫千金ですよ」

「できるように見えるか?」

「はい、それはもう、とても強そうです。助けてください!

 困ってるんです...ダメですか?」


 うっ、あざとい。

 効果がある上目遣いだ。

 ダメもとで言ってるんだろうけど、話だけでも聞くか。


「ワイバーンが出るの?」

「そうなんです!ここ数日は毎日飛んで来て悪さするんです!おまけに盗賊共が騒ぎに便乗するし、ほんっとうに困ってるんです!助けて下さい!!」


 地元の冒険者達が無力感をにじませた視線を向けている。


「いや、オレ達そこまで強くないし。聞いてみただけだし」

「はう~、ダメですか?でも、最近出るのは仕留め損ねて弱ってる個体なんです。サクッとトドメを刺すだけの美味しい仕事ですよ?」


 手負いの獣じゃねーか。余計危ないだろ。

 来る途中で仕留めたのとは別個体かな。あれには手負いっぽい傷は無かったし。


「悪いが、長居はできないんだ。それにワイバーンなら領主軍の出番だろ」

「こんな辺境の弱小貴族の領主軍が強いわけないじゃないですか」

 力なくため息をついた。


「定番の、餌で釣る作戦はダメなの?」

「それで一度失敗したから、もう引っかかってくれないんです。一応は竜ですし、頭いいんですよね」


 何人かの冒険者があっち向いた。

 失敗した作戦の参加者か。


「困った状況ですねぇ」

「ああ~、こうなったもうお隣の、災厄の魔女様にでも助けを頼むしかないのかしら」


 アゼリーナさんもあっち向いた。

 とんがり帽子を深くかぶり直している。


 いったん外へ出て話し合った。

「こんな所まで飛んで来るなんてたぶん、餌が減ったせいね」

「やっぱり原因は鬼蜂ですか。アゼリーナさんなら倒せますよね?」

「難しくはない。エド君も一緒なら、確実よ」

「あははは。いや、そこまでは」


 レオンが難しい顔をしている。

「手負いとなると警戒しているはずです。冒険者の恰好ではこちらの射程に入ってくれないでしょう」


「そうね。ブレスの間合い、からじゃ有効な攻撃ができる者は限られる」

「やれる可能性があるのはアゼリーナさんだけですかね」


 強い冒険者の多くはブルグンドを拠点にするので、この街の冒険者の平均は若干弱い。


 オレの収束ストーンバレットは射程だけならブレス以上だろう。でも十分な威力を出せるのはせいぜい3発だ。3発当たっても仕留めきれるかは分からない。ハズレ覚悟で全力の一撃の方がましか?

 翼を切り落とせる距離まで接近できればどうとでもなるのに。


 戦争前だ。壺は絶対に見せられない。

 甲冑はともかく、武装も見せられないし...


「あ!」


 敵の反応に振り向くと、飛んできたワイバーンが街の向こうでブレスを放つのが見えた。建物が破壊され、破片が舞い上がる。遅れて、ボンッ!と軽い爆発音が聞こえてきた。

 時々ブレスを放ちながらゆっくりこちらへ飛んでくる。


「無差別だな」

「腹いせですね。そうじゃなければ餌だけを狙うはずですから」

「あの距離から攻撃されると厳しいなあ」


 人が捕まった。

 上昇するワイバーンの片足からスカートをはいた両脚が垂れている。

 男の叫び声が聞こえる。


 程なくしてその男が冒険者ギルドへ駆けこんできた。

「助けてくれ!!ティアナがトカゲ野郎に(さら)われた!!」


 声を枯らして叫ぶが、誰も目を合わせようとしない。屈強な大男ですら悔しそうに握りこぶしに力を入れるだけだ。助けを求める男も相当強そうには見える。


 いずれにせよ手遅れだ。

 捕まった時点で骨まで砕かれてほぼ即死だったはずだ。ぶら下がる人間の脚はピクリともしなかった。

 これではドラゴンに(さら)われた姫を助けに行く物語は成立しない。


 また1人食われたか...というだけでは終わらなかった。

 ワイバーンは飛び去らず、一鳴きすると足に掴んだ獲物を食い始めたのだ。

 男が言葉にならない叫び声を上げる。


 あろうことか、トカゲ野郎は残った上半身を投げ捨てた。

 そしてオレ達を見ながら鳴き声を上げた。

 まるであざ笑っているようだ。

 

 向かいの屋根で跳ねた肉塊が叫ぶ男の前に落ちた。


「ティアナ...」


 呆然とする男を見下ろしながらトカゲがまた一鳴き。

 完全に馬鹿にされている。


 ギリッ

 クソトカゲが...いかん落ち着け。

 熱くなったら死ぬ。

 落ち着け、オレ。


 無理。

 クソトカゲ許さん!!

「アゼリーナさん、やりましょう!オレが囮になる!」


 護衛の2人が止めようとするが今のオレには聞こえない。

 アゼリーナさんが出来ると言ったんだから出来る。 


 半狂乱の男にも作戦を説明すると、半笑いの鬼気迫る顔で応じた。

「あいつをぶち殺せるのなら何でもやってやる」


 その男とオレは通りの真ん中で上半身裸になった。


「他は隠れろ!!冒険者がいると警戒される!」


 2人でトカゲにあらん限りの罵声を浴びせると、上空からは馬鹿にしたような鳴き声が返ってきた。

 くそっ、上から見たら負け犬の遠吠えそのものだ。


 ならば、こちらも同じことをしてやる。

「こいつを見ろ、クソトカゲ!」


 アイテムボックスからワイバーンの首を出すと見物人達がどよめいた。

 片足を乗せ、上を見ながら頭をゴリゴリする。

 ゆっくり羽ばたきながらじっとこちらを見ている。

 まだ釣れないか?


 いや、効くはずだ。

 奴はこちらを馬鹿にして喜んでいる。なら、その逆も有効なはずだ。

 これは同レベルの煽り合いなのだ。


 奴らは人間の装備を見分ける。高空から個人すら識別すると言われている。間違いなく馬鹿な人間程度には知能があって、視力は抜群にいい。


「見ろ!」

 足をかけた頭から短剣でゴリゴリと目玉を抉り出した。でかい球体が神経線維を引きずって出てくる。

 それを突き刺して高く掲げ、瞳孔がある方を上へ向けた。


 ピギャーッ!!


 耳に突き刺さる甲高い鳴き声を浴びた。


 目玉を地面に投げつけ、ドスドス踏みつける。

 くり抜かれた眼窩には短剣を突き立てる。

 敵が急降下を開始した。

 上半身裸の2人が罵声で迎え撃つ。


 敵の大口が開こうとした矢先、『ヅィン』とでも効果音が聞こえてきそうな青く輝くビームが地上から放たれた。


 命中した瞬間、虹が見えた。バシュッ、バシュッと両翼を切断したビームの先端では青い光が消え、ただの水しぶきとなって空中に散っていく。


 大歓声と、クソトカゲへの恨みが込められた罵声が上がった。

「「「 やった!! 」」」

「「「「「 うおおおおおーーーーっ!! 」」」」」

「ざまーみやがれ!!」

「落ちろクソトカゲ!!」


 命中と同時くらいに敵のブレスも放たれた。


「風刃!」


 ブオン ズドーン!


 2つの風属性魔法がぶつかり、衝撃波に変わった。

 痛え!

 顔をかばう腕からバシッっと血が飛び散った。


 横に走って落下する巨体を(かわ)す。


 ズシン! ガラガラガラ


 真近に巨石が落ちたかのように地面が揺れる。

 トカゲ野郎は足を前に突き出したが落下の衝撃は殺しきれず、転がって横の建物を尻尾で破壊した。


 まだ生きている。

 だが、アフリカ象より重い巨体には相当なダメージだったはずだ。


「これを使え!」

 男に大剣を渡した。

 戦利品のミスリル剣だ。


 男が瀕死のトカゲに駆け寄る。

「うおおおーっ!!」


 見ていた連中もわらわらと駆け出した。

「「「ぶち殺せー!!」」」


 トカゲが首をもたげた。

 させるか。

 うっ、目に血が入る。


「ファイヤーボール!」「ストーンバレット!」「ウインドカッター!」


 ボトトトッ!

 ブオン ボヒュッ

 ストトトッ


 オレがやらなくてもトカゲの頭を狙った魔法や矢が乱れ飛んだ。


 腹をさらしたワイバーンの首根っこに怒りのミスリル剣が突き刺さる。

 続けて他の連中も剣や槍を突き立てる。

 その何人かは泣きながら鬼の形相だ。

「こいつのせいで、こいつのせいでっ!」

「死ね!死ね!死ね!」


 *


 復讐劇が終わり、男は上半身だけになったティアナを抱いて肩を震わせている。

 オレもそいつの肩に手を乗せてもらい泣きした。


 至近から衝撃波を浴びたせいで2人とも上半身が血だらけだ。

 そんな2人にアゼリーナさんが黙ってヒールしてくれる。


「この礼は後で言わせてくれ」

「ああ」

 男はティアナを抱いて立ち去った。

 誰も声をかけられずに背中を見送っている。

「ウゴール...」


 パブロックに声をかけられた。

「エドさん!」

「あ、見てたんだ」

「ええ、見ましたとも!エドさんってすごい冒険者だったんですね。感動しました!」

「はは。会えてよかったよ」


 街の向こう側が騒がしい。

 誰か叫びながら走ってくる。


「盗賊だーっ!!盗賊だーっ!!」

「クソッ!またあいつらか...」


《納屋56》

青いビーム攻撃は水属性の「ウォーターカッター」

ストーンバレットのように発動後はただの物理攻撃になるのとは違い、水が魔力を(まと)って飛ぶ。射程内では空気抵抗による拡散が全くない青く光る一本線。その上、水そのものは物理攻撃なので対魔法障壁では止められない。MP消費量は多い。

エドも最近使えるようになっている。

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