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55.皇都を目指す(1)

《納屋55》


 日が昇る前に街の近くへ着陸し、歩いて屋敷まで来た。

 地図を広げて目的地を確認しているのだが、ギルバートが驚いている。


「すごく詳しい地図ですね。領地の地図ですらこれほど詳しいものはないですよ」

「これも古代文明の力というやつですよ」

「古地図なのですか?」

「いや、最新だけど」


 脳内投影のマップを視覚に重ねて紙に描き写したものだ。魔力分布で見た人口の多い集落も書き込まれている。ただ、現在の街や村の名前は不明なので、伯爵家の地図と比較して確認作業をやっている。

 皇国内の情報は少ないが、少なくとも主要都市の位置に間違いはないだろう。


「よし、準備完了かな」

 皇国への同行者は、アゼリーナさんとイングリットだ。

 イングリットはメイド服のままだ。


「エド様、お待ちを。もしまだ余裕があればこの男も連れて行ってください。何かあれば必ず役に立ちます」


 冒険者風の格好をしたイケメンが音もなく現れた。

 壁の裏にいるのは知ってたけど。


「レオンと申します」

 できるイケメンだな。

 手練れの雰囲気がある。


「いやー、いつも()いちゃって悪いとは思ってたんだよね」

「え?」

「む、お気づきでしたか」

「2人組の1人ですよね」


 ギルバートとレオンが顔を見合わせた。

「バレバレでしたか?」

「ええ、まあ」

「うちで一番の手練れなんですけどねえ」


 シュンとなっちゃった。

「あの、気にする必要ないですって。オレ、人の気配は壁越しに潜んでても分かっちゃうから」


 本当に背後でも分かるところを見せた。

「一歩右に動いた。左へ移動中。止まった。下がった」


「くっ、完全に気配を消したはずなのに」

「ごめん。生きてる限り分かっちゃうから」

「はあ...納得することにします。エド様は特別ということで」


 リディアは喜んでいる。

「エド様すごいです!」

「むむむ、侮れませんね、エド様」


「では出発しますか」

 ポンと壺を出したら伯爵家の面々がびっくり顔で固まった。


 説明無しでイングリットとレオンを押し込む。

「敵に見せたくないから、さあ乗って乗って」


 リディアが騒ぎ始めた。

「え、何これ?何これ?やっぱりわたしも行きたい!」


 ギルバートもランドさんも遅れて驚いた。

「「ええ~っ!?」」


 発進シークエンスは最短に省略だ。

「魔導回路接続、補助エンジン始動、メインエンジン点火、壺発進!」


 屋敷の庭から垂直に浮上し、横へ加速すればあっという間に街が遠ざかる。

 進行方向正面の東の空が明るくなり始めている。


 飛んで行くとは夢にも思っていなかったであろう、イングリットとレオンが呆然として後ろへ遠ざかる街を見ている。


「メトラ、地図に街の名前を入れたからオレの記憶からコピーしといて」

『そこからではお主が声にした情報しか受け取れぬ』

 あ、そうだったな。

「それじゃ、飛行経路の近くにヴァシュレール要塞とつながる場所はある?無ければ要塞に寄るけど」

『魔力パスが入った地図を送ろう』

「お、いい場所にあるじゃん」


 飛行経路上にあった遺跡の一つに着陸した。住み着いている魔物を掃除するのだが、出番が来たおかげでイングリットとレオンがようやくシャキッとした。


 出てきたのは雑魚ばかりだった。

 レオンが前で蹴散らし、イングリットがオレの護衛についている。

 メイド服ではあるが、革の防具が付いた戦闘バージョンだ。


「お、魔法も使えるんだ」

「ええ、護衛任務ではどちらかに特化するより、魔法も使えた方が便利ですから」

「それじゃイングリットとリディアも?」

「はい。リディアはどちらかというと魔法の方が得意なくらいです」


 すぐに魔力を通す壁を見つけて要塞と通信できた。

 地図を更新させ、魔力も少し送った。

『再計算した。軌道変更完了まで、あと123日だ』


 用を済ませ、遺跡を後にした。

 今度はイングリットとレオンにも余裕があり、早朝の光に照らされてゆっくり流れる風景に見入っている。


 ほぼ手付かずの自然が光の加減で幻想的に見える。

 遠景を見ていて気づいた。この惑星では、地表すれすれを通る太陽光に虹色の分光が伴うのだ。日本へ戻ってUチューブのチャンネルを更新するのが楽しみだ。


「メトラ、今言った中継地点を通って皇国の首都まで誘導してもらえるかな?できれば自動操縦で」

『横着な奴だな。ま、よかろう。昔はそれも我の仕事だった』

「懐かしいのかな?」

『うむ。役割があるのはいいものだ。できれば人間を相手にしたいものだがな』


 え...そういえばズォーム要塞に入った時にも言われたか。

 またあのセリフが頭の中で回り出した。


 オレは人間だよ それも不正確です

 オレは人間だよ それも不正確です

 オレは人間だよ それも不正確です


「現地人とは話せないのか?」

『お主が認めた者の思念波を登録すれば可能だ。緊急事態ならそれも不要だが』


 その場でアゼリーナさんを登録した。

『お主は本物の人間だな。汝アゼリーナを、我ネメシス麾下(きか)の軍属として仮登録する』

「よろしくね、精霊さん」


 精霊との会話が可能になったアゼリーナさんは、また例のごとくスイッチが入ってしまった。早口で質問しまくったが、仮登録では満足のいく回答を得られない。それでも彼女はめげずに言葉を変えて質問しまくる。


 オレ達の独り言にレオンが怪訝な顔をしている。

 イングリットはいつも通り業務用の表情を保っている。


「あはは、やっぱり変な奴に見えるよねえ。友達の精霊と話してたんだ。壺の中から時間要塞の精霊と会話できるんだよ」

「な、なるほど?理解できませんが、分かったような気がします?」




 計算だと皇都まで直線で1500Kmくらいある。ガス欠になる可能性があるので、自分のMPが回復するたびに壺に流し込む。これならオレの食料が続く限り無限に飛行可能だ。燃費のいい速度でなら、だが。

 ちなみに今の最大MPは181だ。


 何かが追ってくるのを壺の魔力探知で捉えた。

 壺が探知できる範囲はオレの索敵能力よりはるかに広い。索敵能力も範囲が広がったとはいえ500mにも満たない。軽飛行機並の速さで飛んでるのに500m程度じゃ手探りも同然だ。

 誰だよ、壺のは劣化版だとか言ったのは?


 双眼鏡で見ると、追ってくるのは灰色のワイバーンだった。


「敵襲!!後方からワイバーン。総員、対空戦闘よーい!」

「「えっ!?」」

「了解?」


 また一つ言いたかったセリフを言えた。

 対空戦闘とか言われても、誰も反応できないのは分かってる。と思ったら、アゼリーナさんが戸惑いながらも壺の武装を操作する半球に手を当てた。


 イングリットとレオンの顔色が悪くなっている。

「空中でワイバーンとやり合うのか」

「き、きっと大丈夫です。わたしはエド様とアゼリーナ様を信じます」


『承知!』

 お?

「メトラ、やれるのか?」

『やれと言ったのはお主ではないか』

「言ってみただけなんだが」

『それでも久々の戦闘だ、我にやらせろ』


「ちょっと待て。ワイバーンの生息数は多い?もし少ないなら殺したくない」

『いくらでもいるわ。竜種では最多だ』

「それじゃ仕留めよう。売るから、できるだけ傷は少なくな」

『注文の多いやつめ』


「え~、乗客の皆さんご安心を。当機には精霊の加護があるのでワイバーンごとき敵ではありません」


 壺が減速すると急速にワイバーンが接近してきた。

 口を開き、光を屈折させる何かが発射された。ワイバーン全体が揺らいで見える。

 こちらからもウインドカッターが発射された。


 ブオンッ!

 ズドーン!


 お互いの攻撃が空中でぶつかり、衝撃波に変わった。

 ドンッと機体を叩く衝撃に続いて、ビリビリと振動が伝わってくる。

 ワイバーンが放ったのは風系の魔法で、人間をばらばらにする威力がある空気の砲弾みたいなものだ。


 続けて壺からラグビーボールのような楕円の石弾が連射された。

 ワイバーンは回避しきれず、次々と胴体に命中する。


 ズドッ! ズドッ! ズドッ!


 打撃音が壺の中まで聞こえてくる。


 墜落するように高度を下げ始めた。

 壺を手動操縦に戻して追いかける。

 地上に激突する寸前に羽ばたいたが、接地に失敗してつんのめり、木にぶつかった。


 落ちた場所は木がまばらに生える草原だ。

 ワイバーンはまだ動いている。


「メトラ、首を切断できる?」

『無理だ。その揚陸艇の目では魔力の塊にしか見えん。お主がやれ』


 壺から斜め下を狙って発射されたウインドカッターが首を切り落とした。

 そのまま地面に突き刺さると、まるで爆発したかのように、ボフッと土砂が噴き上がる。

「うわ、砲弾じゃないんだから」


 ワイバーンは10m以上ある。巨大な翼まで付いているので、この前のトカゲより遥かに巨大に見える。


「エド様すごいです。こんなに簡単に仕留めるなんて」

「飛び立ってからここまで、ずっと夢でも見ているようです」

「それは覚めない夢だね」


 アゼリーナさんが首をかしげている。

「この辺まで、ワイバーンが飛んでくるのは、珍しいわ」

「珍しい物体が飛んでたからでは?」

「そう、かもしれない」

 この前見た場所が一番近いワイバーンの生息地だ。あの山からは適度に距離を取っていたつもりだったんだが。


 傷を検分すると石弾が命中した個所では骨が砕けているようだが、鱗は割れていない。首周りの鱗はきれいに切断されている。ワイバーンの体を覆う鱗は手のひら2つ分くらいの大きさで、丈夫さはヨロイ大トカゲの鱗を若干上回るとされている。これも適度な硬さと弾力を併せ持つ高級素材だ。


 獲物を収納して飛行を再開した。

 街を出てから1時間ちょっとで第一目標の小さな町が見えてきた。地上から目撃されないよう、道がない方向へ迂回しつつ低空飛行する。


「え~、乗客の皆様、ここはもう皇国の辺境、ウストリア地方です」

「そんな、まさか。ついさっきまでお屋敷にいたのに」


 この辺で一度、長距離用無線機をテストしておこう。

「こちらエド。皇国のウストリア地方に入った。ブルグンド聞こえるか?」

「こちらギルバート、聞こえています」


「聞こえるぞ、フリントロック。こんな物まであったとはな。寝て起きたらこれだ。また驚いて間抜け面をさらしてしまったではないか」


「大げさだなあ。こうやって楽しくおしゃべりするための道具ですよ?」

「たわけ!!戦術を変えてしまう兵器だろうが!」


「いや~、気に入ってもらえてよかった。ところでギルド長、いい加減呼び方を『エド君』に戻してくれませんかね?」


「黙れ!可愛げの欠片もない奴め。あの条件さえ無ければ貴様なんぞ今すぐAランクだ!」


「う~わ。空飛んで逃げますよ?」

「くっ、貴様が言うと冗談に聞こえん」


 ***


 その頃、ブルグンドでは皇国が言う「教会」の建築が突貫工事で進められていた。この時代にしては異例の建築速度だ。


 駆り出された兵士が愚痴をこぼす。

「俺たちゃ大工じゃねえっての」

「こんな野蛮人の街に建てたって無駄だと思うんだがなあ」

「その野蛮人に神のありがたみを教えるのも俺達の仕事だ」

「いい女が相手ならやる気も出るんだがな」


 そんな兵士達を白いローブの美人がカミソリのような視線で睨む。

「お前ら、思っていても口に出すな。現地人の前では笑顔を絶やすな」

「「へーい」」


(おっかねえなあ)

(あれに睨まれたら寿命が縮むぜ)


《納屋55》

壺の自衛火器:周囲4か所に土火風の3属性兼用の魔法を放つ窪みがある

土:基本は一発玉の収束ストーンバレット。散弾に切り替えも可能

火:火炎銃の強化版。大威力火炎ビームを放つ

風:威力が高い以外は普通のウインドカッター

屋根には攻撃用の中口径砲1門が収納されている。長銃の大型版で、ストーンバレットで生成した石弾を爆裂魔法でさらに加速する。

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