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53.マリーに勝てない

2022年8月21日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。

《納屋53》


 いつものメンバーに自動車の運転を教え、壺の操縦も教え、魔導甲冑のお試しでオーガを倒して街へ戻った。


 この前約束したから、クロエにアイスクリームの作り方を教えるために彼女らの家に来た。


 到着するなりマリーが物騒なことを言う。

「か弱い男子がこんなところに1人で来るなんて感心しないわよ?仕方ないから今日はわたしが付いててあげるけど」


「おう、頼りにしてるぞ」

 紳士的に差し伸べられたマリーの手を取って敷居をまたいだ。


 マリーめ、いつまでも腕力で勝てると思うなよ。

 できればケイトやエリカにも勝ちたいが、そっちは当分無理そうだ。


 クロエはアイスを作れると聞いたせいで、なんか無茶な修行をして氷魔法を習得してしまったらしい。


「師匠、よくこんな短期間に氷魔法なんて習得できましたね」

「それはもう頑張りましたから。死ぬ気で修行するからと、わたしの師匠に頼み込んだら本当に凍死するところでしたよ。あはははは」


 温暖な地方ではまず習得する機会がない。クロエは凍える寒さを骨身に刻むため、夜は魔法で氷漬けにした部屋に泊っていたらしい。


「もう氷をかじるのは嫌です。本当は触りたくもないですけどアイスクリームのためなら話は別です。それに、師匠にも分けてあげると約束しましたし」


 クロエの師匠はこの街に住んでいるエルフで、普段は錬金薬や魔道具を作って店に卸しているそうだ。


 こちらでは買えないステンレスボウルを使ってアイスクリーム作りを開始した。

 もし広めるのなら鉄鍋でも十分代用になるだろう。


 氷に塩をかけるとさらに冷たくなると知ってマリーとクロエが驚いている。

 エリカは勘違いしている。

「それじゃ、夏の暑い日には体に塩をかけて、汗で溶けたらきっとすごく涼しいわよね?高価な塩をたくさんは使えないけど」


「やりたいなら止めないぞ。塩なら大量に置いてくから、是非やってみてくれ。」


 冷える原理なんて理解できなくても手順さえ正しければアイスクリームは出来てしまう。


「本当に出来ちゃったのね」

「すごい。本当に作れるんですね」

「でもこれ、自分で材料を買ったらけっこう高いわよね」

「牛乳なんてどこに売ってるの?」


「牛乳と卵は伯爵家の御用達を紹介する。塩と砂糖は大量に置いていく。オレは塩も砂糖も10分の1どころじゃない安値で仕入れてるから気にしなくていいぞ。ついでだ、胡椒も置いとく」


「え、伯爵家のって?それに胡椒って、それ金貨何枚分よ?それも安いなんて言わないでしょうね?」

「安いぞ。肉に好きなだけぶっかけても気にならない程度にはな」

「分かった。信じる。もう考えるのも面倒になったわ」


「あっはっは。なんせオレは不思議の国からやってきた人間だからな。考えるだけ無駄だ」


「そんな人がどうして戦争に行こうなんて思うの?」

「この街が無くなったら嫌だろ。侵略者も宗教屋もゴブリンより嫌いだし、きっと勝てるし」


 マリーがテーブルの上でオレの手をとり、真剣な目で見つめる。

「エド君、わたしも一緒に行くわよ」

 クロエも。

「当然、師匠たるわたしも参加しますよ」


「なんで?」


 エリカが説明した。

「私達も事情はボルフと似たようなものよ。4人とも皇国に侵略された土地の出身なの。勝てるならやらない理由は無いわ。あの甲冑なら後ろでふんぞり返ってる敵の貴族や司教達を吹き飛ばせるでしょ」


「それに、エド君はわたしが守るって言ったじゃない。か弱い男子だけで戦争に行かせたりしないわ」


「それな、いつまでも弱いと思うなよ」

 マリーに握られた手にグッと力を入れたら、マリーも即座に反応して腕相撲になった。


 また手首をひねろうとしたらマリーも同じようにひねってきた。

「甘いわよ、エド君」

「まだだ。ふんっ」

 身体強化っ!

 踏ん張る足から強化して、それを瞬時に上半身へ伝える。


 コテン

 伝わる前に負けてしまった。


「あらごめんなさい。何かやろうとしてたわよね?でも遅すぎよ。とても実戦じゃ使えないわ」


 あ~、やっぱりダメか。

 相手が見た目美少女なだけに自分の無力さが身に染みる。


「負けたからには言うことを聞いてもらうわよ」

「え、聞いてないし?」

 マリーがグイっと腕ごとオレを引き寄せて顔を近づけた。

 あ、瞳の色、赤だったんだ。


 そして数舜ためらうと、意を決したように言った。

「3番目でもかまわない。だから、わたしも入れて!」


 3番目ってあれか。あれしかないよな。

 むやみに増やしたくないが、マリーが真剣に言ってるのに断れるわけない。


 でもこの状況が残念でならない。

 はぁ~。

 わいい系の美少女なのに、なんでこうも男らしく迫るかね?

 

「分かった。今日からよろしくな」

「エド君...」

「それじゃ溶ける前にアイス食っちまおう」

 マリーが目をうるうるさせたが、他の3人が見てるからはぐらかした。


 あ、ふくれっ面になった。

 ここは気づかないフリが正しい。


「それじゃ今日はこれで」

 食べ終わって玄関へ向かうオレの手をマリーが握り、一緒に歩く。

 玄関のドアを開けようとしたところで左手をグイっと引かれ、もう片方の手で壁に押し付けられた。


「えっ?」

 キスされた。

「ん...」


「ねえ、泊まらないの?」

「あ、いや...不味いだろ。住んでるのマリーだけじゃないし」


 ケイトが見当違いなことを言う。

「あら、失礼ね。私達なら襲ったりしないわよ?」

 エリカがニヤニヤしながら逆のことを言う。

「あんたが隙を見せたらその保証もないけど?」


「そういう意味じゃねーよ。今日はまだ用事があるし、1番と2番への報告が先だ」


「律儀なのね。じゃあ、んっ」

 マリーが目を閉じて少し上を向く。

 3人の野次馬がニマニマしている。

 あー、くそっ。

 軽くチュッとして逃げるように立ち去った。


 なんか分かった気がする。男だから男らしいんじゃない。腕力で勝っている方が、がさつになりやすいだけだ。


 *


 次はこの街の遺跡だ。

 すぐに見つけた。ゲート横の門番の詰め所が遺跡を補修した建物だったのだ。

 ここならギルド長に話せば調査できるだろう。


 半信半疑のギルド長と、手が空いていたギルド職員を連れて戻って来た。

「この辺りだな」

 バールのようなもので板をはがす。


 やっぱり面倒だ。

 ウィンドカッターを連射した。

 ガラガラと木板が崩れ落ちる。

「おい、おい、やりすぎじゃねーか?」

 多少の破壊は許可をもらっているが、ここを使う門番達が顔をしかめている。


「あった」

 埃を拭き取ったら、黒く透明感があるつるつるの面が出てきた。

 手を当てて魔力を流し込む。


『フローラ、聞こえる?』

『はい、フリントロック』

『ここと要塞とで魔力の受け渡しはできる?』

『できません。そことは通信のみ可能です』

『そっか』


(フローラ、まだ聞こえてる?)

 よし、ここじゃ手を放したら思念伝達されないな。


『稼働状況はどうだ?』

『その区画のみ稼働状態になりました。他は反応しません。それぞれが独立構造です』

『分かった。それじゃここを10秒後に開けてくれ』


「遺跡が動く。みんな今すぐ外に出てくれ!」

 ギルド長達が見守る中で分厚い石の基礎が動き、後付けの壁が一部崩壊した。


 土埃が上がる。

「ゴホッ。なんだ泥壁かよ」


 地下への入り口だ。奥の灯りが見えている。

 驚くギルド長。

「本当にあったのか...」


 悲観したり喜ぶ門番達。

「ああ~、おれっちの仕事場が...」

「やったぜ、これで今日は休みだな」


「悪いけど、人を寄せ付けないようにしてもらいたい」

「私からも命令する。人を寄せ付けるな。今からこの中の調査を行う」


 保管庫から6体の強化甲冑と、1体の魔導甲冑三型(チャリ)を回収した。普通の杖や剣や鎧、よくわからない小物も多数あった。その中で明らかに価値が高いと分かるのは人造魔石だ。


「あ!これだ」

「お?人造魔石か。それなら金貨300枚にはなるぞ」

「ギルド長、売ったらダメですよ」


 人造魔石は希少で、大量の魔力を自在に出し入れできる唯一のアイテムだ。


 形状を確認したら甲冑にぴったりだった。

「これは甲冑の稼働時間延長用です。売るなんてとんでもない」


 遺跡の探索を終えて戻ってきた。

 ギルド長の机には強化甲冑1体分のパーツが乗っている。

「これが大量に手に入ると言うのだな?」


「ええ、この街の地下だけでも数十体はあると思います。とりあえず、どの程度の代物か試してみましょう」


 人払いをした訓練場で数人のギルド職員が強化甲冑を着こみ、魔法を使える者が魔力を入れる。


 ギルド長の感想

「なるほど、軽いのはいいな。しかも頑丈そうだ。だが勝手に身体強化がかかるのはいただけない」


 事務職員の感想

「私にはそれが助かりますけどね」

「未熟者だな」


 オレの感想

「おー、これいいな。これならマリーにもきっと勝てる!」

 フェレーナさんが残念そうな顔になった。


 長銃と短剣を出した。

 チャリ用と同じものだ。

「ギルド長、この甲冑の本当の価値はこれを装備してこそですよ」

「なんだ、爆杖(ばくじょう)なんか拾ってきたのか。危ないぞ」


 これまでに出土した銃はほとんどが完全に壊れているか、魔力充填が可能だったとしても爆発するので、ただの危険物扱いだ。


「こいつは大丈夫ですよ。ちゃんと穴が通ってます。まあ見てて下さい」


 射撃姿勢を取り、狙いを定めるオレを皆が不安そうに見ている。

「おい、やめた方が...」


 ズダーン!


「ひっ!」

「きゃっ!」

「うおっ!」 「うわっ!」


 標的を支える丸太が弾けるように縦に割れた。背後の石壁にも窪みが出来ている。


「大丈夫か!?」

「怪我なんてしてませんよ。それよりあれ」

 壊れた標的を指さした。


「こんな魔法があるのか!?」

「それが爆杖の本来の使い方、というわけですか」


「ええ、これに少しの魔力を入れるだけで誰でも同じ威力を出せます。その魔力は甲冑から供給できます。しかもこれ、甲冑より大量にありますよ」


 どういうことか理解したらしいギルド長が鋭い目つきでうなる。

「むう、それがあれば低ランク冒険者が強力な魔法部隊になってしまうではないか」

「そうなりますね」


「クックック..勝てる、勝てるぞ!!奴らが崇める神など幻想に過ぎんことを教えてくれるわ!」


 ギルド長も皇国と何かあるのかな。

 完全に目が座って、悪の親玉のような顔で笑っている。

 他の職員も長銃を試し撃ちして、これなら勝つる、みたいな顔になっている。


 フェレーナさんも生身で長銃を射撃している。対物ライフル並みの威力があるが、反動は大したことがないのだ。魔力は握りから充填でき、消費MPはわずかで、ファイヤーボールの3分の1程度だ。


 ただ、長くて重いので片手撃ちには向かない、はずなのだが、フェレーナさんの片手撃ちはカッコよく様になっている。

「これいいわね。わたしも欲しいけど、自分が魔法使いじゃないのがとても残念だわ」


 最後に短剣を試す。

 全長は40cmくらい。刃は真っ黒で、材質不明の両刃の直刀だ。

「で、この短剣も魔道具なわけですが、オレも試すのは初めてです」

「それか。まあ、いい剣ではあるな」

 ギルド長は知ってるのか。


 魔力を通してみると、切っ先の部分だけ刃に沿って、赤く細く光った。

 赤熱とは違い、熱を感じないLEDのような赤だ。

 木を削ってみると、光る先端部分だけ異様に切れ味がいい。


 地味な魔道具だな。

 ギルド職員達も長銃の威力を見た後では興味を()かれないようだ。


 戦利品の、弾痕が空いた板金鎧を出した。

 短剣の先で軽く叩いたら、パシッと火花が散って先っちょだけ刺さった。先端を押し当てて引いたら、シャーッと火花を飛ばしながら薄い鉄板を切り裂いてしまった。


 今度は職員達が反応した。

「お、すごいな」

「すげーな。ミスリル剣より切れないか?」


 先端以外は普通の刃物だ。

 急所を貫く長さはあるし、槍が通らない重鎧でも貫けるのがこれの利点だな。厚めの鉄板にも先端は簡単に刺さるのだから、腕力次第では刃を根元まで押し込むのも難しくないだろう。


 ギルド長の反応はいまいちだ。

「そいつはまあ、高くは売れるぞ」

「売るとしても戦争が終わってからですよ。これは爆杖と一緒に使う武器です。こうやってね」


 ドスッ!

「おっ?」


 短剣を長銃の先端に取り付け、標的に突き刺してみせた。

 これなら使えると思えてもらえたかな?


 これを装備する部隊には銃剣突撃の訓練をやらせなければ。


《納屋53》

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