52.魔導甲冑でお試し戦闘
2022年8月21日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。
《納屋52》
日本へ戻って無線機その他、色々買いこんだ。
新しい車も買った、と言っても中古だが。
もちろん四駆だ。ジープみたいな軽乗用車で、これほど異世界に向いている車は無いと思う。かなり迷ったが、ターボ無しにした。特攻で使い捨て、なんてこともあり得ると思っているので安い方がいい。軽トラ2台とオフロードバイクも2台買った。予備タイヤもちゃんと買った。
買ったその場でアイテムボックスに入れたかったが、大人しく陸送費を払った。車が消える手品を見せても構わないとは思うが。
一番大変だったのはガソリンだ。家に戻って何度も携行缶に移し替えるのだが、さすがに嫌気がさした。よく考えたらなんてことはない、給油したその場からアイテムボックスに入れてしまえばよかったのだ。
給油口からあふれそうになるまで入れ、ガソリンに指が届いたら収納だ。注意点はノズルをちゃんと外すこと。慌ててやるとスタンドの地下タンクから全部抜き取ってしまいかねない。
満タン、即収納を繰り返しながらセルフ式のスタンドをはしごして800Lくらいのガソリンを買った。アイテムボックスから車への給油は漏斗を使えば簡単だ。
*
昼過ぎに街へ戻ってきた。
皇国へは明日の早朝に出発する予定だ。まだ時間があるので空いた時間に雑用を済ます。
いつもの場所で戦闘訓練していたザック達とエリカ達を連れ出して、車の運転を教えたらみんな大喜びでやってくれた。特別下手な奴はいないようだ。まあ、バックで車庫入れするわけじゃなし。一応バックもやらせたが、広い草原を大雑把に走るだけなので簡単だ。
「今度これに乗って全員で遠出しようぜ」
ザックとエリカの反応が他より一瞬早かった。
「運転は俺にやらせてくれ!」
「わたしが運転する!」
「もちろん、全員で交代するぞ。まだまだ練習しないと不安だし」
自動車で遊ぶのは手短に終わらせて本命を出した。
「「 うわっ! 」」
「「何だこりゃ!?」」
「むう!?」
「「....何?」」
「...遺物?」
「そう。これは旧帝国の『壺』だ」
突っ込みが入る前に壺が何かはちゃんと説明した。
「まだ人に見せたくないから絶対目撃されない場所まで移動するぞ」
9人を乗せて浮き上がると、狭い壺の中が大騒ぎになった。
ボルフだけは身じろぎせず黙っている。さすがは我らが師範、と思ったら耳をぺたんと伏せている。こりゃ尻尾も丸めてるな。高い場所は苦手だったか。
騒ぎが鎮まったところでザックとマリーが切り出した。
「一度はエドが何者かは気にしないと決めたが、こんなもんを見たらやっぱり気になるぞ」
「そうよ、エド君って何者なの?」
「話しただろ。別の世界から来た人間だ。それに自分でも最近知ったんだが、旧帝国や神代とつながりがあるらしい。だから旧時代の遺物の扱いもなんとなく分かるんだ」
「やっぱり、そうなんだ...」
「だからって素のオレはぜんぜん大したことないからな?」
クロエが意味ありげに言う。
「エドさん、なんとなく感じてはいました」
「たぶん、その感覚は正しいですよ」
この前、2000年分の情報を頭に突っ込まれて呆けていた時にクロエと意識の深層で接触した。その時にオレの中に精霊がいることを感じ取ったのだろう。オレも正気の時にディメトレーヤさんと意識の奥で交わったから分かる。エルフの精神はエーテル化思念体と似ている。
クロエの手を握った。
思念伝達に慣れたから、相手次第ではこういう事もできる。
『師匠、聞こえます?』
『あ、やっぱり。エドさんエルフの血が入ってますよね?』
『残念ながら、ちょっと違うみたいです』
『でもこの前はとても強い、精霊に似た存在を感じましたよ』
『その辺は後で説明するので』
飛びながら全員に壺の操縦も教えた。移動だけならとても簡単だ。
頭上に浮力を発生させるエンジンが入っているので挙動がヘリコプターに似ている。エンジンは二重反転構造になっていて、ジャイロ効果を打ち消している。そのため直感に反した挙動はしない。バランスを崩す心配もなく、ヘリよりだいぶ簡単だ。
加速すると前に傾き、減速はその逆になる。
静止状態でも45度くらまでなら傾けることができる。
アドルの番になって最初は楽しく操縦していたのだが、途中から不安そうな顔になった。
「エドよ、方角がまったく分からん。帰れるのか?」
全員がオレを見た。
「心配ない。街の方角はあっちだ」
オレには脳内マップがあるので絶対に迷子にならない。
地形を頼りに自分の位置を見失わないように飛ぶのは案外難しい。山や森の位置を見れば簡単だと思うかもしれないが、空中を移動しながらだと、どれがどれか分からない。海岸線や富士山でもあれば別だが、内陸なら空から見た地形を覚え直す必要がある。
それすらも、知らない場所へ行けば通用しなくなるわけだが。
本格的に有視界航法を覚えるのは大変だし、基礎教養も必要なのでこのメンバーに教えるつもりはない。
幸い、壺にもADFとDMEが一体になったような航法装置が付いている。
「これが時間要塞の方角で、これが距離なんだが、昔の字は読めないか」
現代の文字だって全員が読めるわけじゃないし。
低空飛行しながら山を登り、高台に着陸した。
「もう一つびっくりする物があるんだが、準備するからみんな一回外に出てくれ」
4体の魔導甲冑を壺の中のラックに引っかけて立った状態で出す。
三型甲冑『チャリ』を着て外に出た。
「これは旧帝国製の魔導甲冑だ」
顔が見えるよう、フェイスプレートは上げている。
鎧自体は珍しくないので、みんな驚いてはいない。
全員がしげしげと見て、クロエが納得したように言った。
「変な甲冑ですね。雰囲気が壺に似ているのはこれも旧帝国製ということですか」
「ただの変な甲冑じゃないところを見せるから」
凄い速さで走り去り、戻ってきて最後は大ジャンプしてズザザザーっと滑りながら止まった。
「「「 おお~ 」」」
拍手が起きた。
甲冑の性能ならクルクル宙返りも余裕のはずだが、残念ながら練習してない。
さすがに武装の威力には全員驚いている。
右腕の石銃がピュン、ピュン音を立てて石の弾丸を飛ばし、木の幹に穴が開く。
左腕の火炎銃が岩の表面を赤熱させて溶かす。
長銃が爆音を響かせて木の枝をへし折る。
まず女子から壺に入って甲冑を着てもらった。着替えが終わるまで搭乗口を閉めて待つ。
一番手は、二型甲冑『ズド』に入ったケイトだ。
「おお~い、ケイト。その武器はすげー強力だからな。万一当たったら魔導甲冑でさえ耐えられるか分からん。危ないから、慎重にわざとゆっくり動いてくれ」
ズドが腰だめに重機関銃を構えて、ズドドドドと発射音を響かせる。バシバシ木の枝が吹き飛ばされ、最後は木の幹も粉砕されて倒れた。
想像以上だったようで、見物人は目が点だ。
「おお~、これ凄い!本当にすごいわよ!!」
「はいそこまで!」
初めての射撃体験でハイになられると怖いのでいったん止めた。
「左腕の武器は特に注意な。エクスプロージョンをばら撒くから、よーく周囲を確認してからじゃないと本当に味方も吹き飛ばすぞ。それに魔力がもったいないから連射はすんなよ」
左腕から大きめの光点5発が扇状に発射された。その光点が小さく収束しながら加速して放物線を描く。
チカッ...キュドーン!
まるで迫撃砲の斉射のように、ほぼ同時に5か所で閃光が発生し、ズシンと腹に響く衝撃が伝わってきた。
「「「 うわ 」」」
「「「すげ~...」」」
オレが全MPを込めて火傷したエクスプロージョン並に一発の威力が高い。それでも甲冑の魔力ブーストなら、5発の同時発射でも消費MPは100程度だろう。
ボルフが気づいたらしい。
「エド、何と戦う気だ?」
「敵はあいつらしかいないだろ」
「やっぱりか」
「みんなに頼むつもりはない。やりたい奴だけ参加すればいい」
全員が甲冑を試し終わってから、戦争が近いことと、オレは参加するつもりだと伝えた。
「戦争なんて冒険者の仕事じゃない。希望者は安全な場所まで運ぶから、後で何人移動するか教えてくれ。100人とかは無理だぞ。本当に親しい者だけ選んでくれ」
「俺は、」
「待てザック。参加すると決めていても今は言うな。参加しようと思ってる者は一晩考えてくれ。本当に戦争なんてロクなもんじゃないぞ。勝っても後味が悪いことは保証する」
ボルフが片眉を上げて皮肉げに言った。
「まるで経験があるみてーだな」
「ああ、ある」
「ふん、俺様も付き合ってやるぜ」
「いいのか?敵には元部下がいるんだろ」
「俺はウストリアの出なんだよ。それに元は傭兵だ。知ってるか?この前までギムラト・ウストリア王国って名前の国がここの東にあったんだぞ。10年前に皇国に攻め込まれてあっけなく降伏した国だ。もうあきらめたつもりだったがよ、お前のおかげで教会のペテン師共を叩き出す機会が巡ってきたぜ」
「分かった。そういうことなら付き合ってもらおう。敵の親玉を吹き飛ばす計画があるんだ。一番おいしいところを譲ってもいいぞ」
「おもしれーじゃねーか。そういうのは俺様に任せろ。この甲冑なら楽勝だろ」
ボルフが使える甲冑はチャリだけだった。
その理由は、チャリ以外には獣人用の尻尾穴が無いからだ。
音を聞きつけたのか、強敵が3体接近してきた。
初めて遭遇する敵だ。索敵で種類が分からない。
「あっちから強敵が3体来る!強さは、オークの数倍以上だ」
ボルフが真っ先に駆けだした。
「はっはー!俺様に任せろ!」
「おい、俺達の分も残せよ」
今甲冑に入っているのはザック達だ。
残り3人もボルフを追って突っ込んでいった。
ボルフはいつもの両手斧を持っている。
飛び道具は使わない気か?
すぐに敵が見えた。浅黒く赤みがかった肌で人間の倍は身長がある巨人だ。頭にはでかい二本の角が生えている。
こりゃ、オーガだな。
生息地だと知っててここを選んだわけだが。
日本の鬼ほど人間そっくりではない。まず五体のバランスが違う。胴に対して脚は短めで腕は長く太い。顔は怖いと形容するのがぴったりだ。
ヤバいと思ったのか、後ろから追っていた3人はすぐに横にずれて射撃を開始した。
アドルの三型甲冑チャリが石銃からピュンピュンと石の弾丸を飛ばす。それを食らったオーガが顔をしかめる。刺さってはいるが、止めるのは無理そうだ。
ザックの一型甲冑カリバーも長銃を連射する。
ダンッダンッダンッダンッダンッ!
食らったオーガが胸や腹から血を吹いて叫び声を上げる。
手や足を吹き飛ばすほどの威力はないが、当たり処によっては貫通して背中側に血煙が出る。数発で足は止まり、間もなく倒れた。急所を狙わずに適当に撃ったら10発は必要なようだ。
ロンセルの二型甲冑ズドが重機関銃を連射した。
ズドドドドドド!
オーガの1体が体中から血を吹き出す。
左手首が吹き飛び、左ひざを砕かれて転がった。
さらに追い打ちで頭がはじけ飛んだ。
チャリの石銃では倒しきれなかったオーガに、同じくチャリを着たボルフが斧で殴りかかる。敵は斧の刃を右手で掴もうとしたが、手のひらが切り裂かれて親指だけが残った。
ボルフはオーガの頭より高くジャンプすると、上を見上げるオーガの顔面に内装火器の石銃を一連射した。血を吹く顔面に落ちる勢いを加えた斧の一撃がめり込む。頭が左右に割れ、胸まで切り裂かれたオーガが倒れた。
戦闘が終わると地面には血と肉片が飛び散り、巨人の惨殺死体が転がっていた。
「オーガはけっこう高いのになあ。もったいない」
「「すまん」」
「悪りい」
「反省はする」
それでも3体合計で金貨19枚になった。
どうやってここまでズタボロにしたのかは説明しようがないので笑ってごまかした。
《納屋52》




