51.食われた
コピペミスでこのページ内に同じ文章が繰り返されていました。
幸い、抜けはありませんでした。
8月9日00:00~06:45です。
《納屋51》
来たついでに屋敷に泊った。
「皇国への出発は2日後でいいですか。それまでに通信機を準備します」
「構いませんよね、ギルバートさん?」
「ああ。エド様に従えばいい」
行きそびれたギルバートが落胆した声を出した。
「イングリットずるい」
イングリットが勝ち誇ったように言う。
「これは大事なお役目なのです。国の命運がかかっているのです。エド様には敵はおろか雌猫一匹近寄らせませんので、リディアは安心してお留守番して下さい」
「むう~、お出かけを譲る代わりに、今夜のエド様のお世話は任せてもらうわよ」
「それとこれとは話が違うでしょう?エド様のお世話役を取引材料にするなど許されません」
「ぐぬぬぬ」
*
その夜はメイド達のなすがままにさせた。
もう逃げ隠れするのも面倒だ。
「あらエド様、まだ照れていらっしゃいますね。隠されては洗えませんよ」
「いや、前は自分で洗えるし」
「いけません、早く慣れてください。リディア!」
イングリットが目配せすると、リディアがオレの両腕を持ち上げた。
メイド2人がかりで前も後ろも一部の隙も無く洗われてしまった。垢だけでなく、精神的な何かがすり減った気がする。
いや、絶対減ってる。
男の尊厳を根こそぎにされた。
だって、2人とも交代でじっくり見るし、まるで採点するような視線だったし、泣かなかったオレ偉い。
コンコン
来たか。
「マッサージのお時間です」
もう好きにしてくれ。
2人のメイドに蹂躙され、無抵抗で陥落した。
されるがままになってみたら、やはり最初に思った通りだった。
今は放心してベッドに寝ている。
「「ごちそうさまでした」」
深くお辞儀してメイド達は退出した。
***
無線機を買いに日本へ戻るため、日が昇る前に屋敷を出た。
また2人の護衛が追ってきたが、車に乗ったらそこで引き返してくれた。
無駄だと分かってもらえてよかった。
ちなみに、軽トラはまだ修理中なので乗用車を出した。
巨木の森へ入ったついでに壺を出した。
ズォーム要塞と通信できるはずだ。
「ズンちゃん聞こえますか~?」
『それは私のことでしょうか?』
「そう。嫌だったらやめるけど」
『定義が明確でさえあれば問題ありません』
「だよね。今日はちょっと相談があってね。近いうちに東の国が攻めて来そうなんだが、敵の戦力は10倍以上だ。防衛は難しい。そこで要塞に残っている戦力を出来る限り稼働させたい。何かいい方法ない?」
不意に知らない女の声が頭の中に響いた。
『フリントロック、来いと言ったはずだが?』
「え、誰?」
『ヴァシュレール要塞の管理人格、ネメシス・メトセラーゼだ』
管理人格の割に偉そうだな。
「なんか普通に話してるけど、ネメさんもエーテル化思念体なの?」
『気に入らぬ。我のことはネメシスと呼ぶがよい」
お?
「失礼した。それじゃ『メトラ』ではどうかな?」
『む、悪くない。お主には特別にメトラと呼ぶことを許す。質問の答えだが、その通り我はエーテル化思念体だ。だが、完全な自我を維持している。お主のようにな』
「それじゃメトラ、ヴァシュレール要塞って中央要塞のことで間違いない?」
『そうだ。戦力が必要ならここまで来い』
「まさか、エーテル機関を起動させろと言うんじゃ?」
『他にどんな手段がある?魔力の余裕などないぞ』
「最近、現地人がけっこうな魔力をつぎ込んだと思うんだけど、回収できなかったの?」
『閉鎖された経路から流されても回収などできんし、大した量でもなかったわ』
「そりゃ残念。今日にでも敵が来るわけじゃないから、まず現地人の魔力でどうにかできないか検討したい」
『それは合理的な判断か?』
「少なくとも、何も検討せずにエーテル機関を動かすよりは」
『どのみち必要になるのだが、まあよかろう。ならば、味方がどの程度の魔力供給が可能かと、敵戦力の詳細を出せ』
「大雑把な情報しかないが」
皇国軍の戦力を説明し、味方の魔力供給量は1日あたり壺5機を満タンにできる程度と推測を伝えた。精度には全く期待できない推測だが。
『その程度か。敵も弱いが、味方は吹けば飛びそうだな』
「それは分かってるから。最小限の魔力で最大限の戦力を出すにはどうすればいいと思う?」
『強化甲冑を使うがよかろう。一般歩兵用装備だ。大した魔力は必要ない』
「それの情報をくれ」
強化甲冑とは、甲冑自体が力を出すのではなく、装着者の身体能力を強化する甲冑だった。魔導甲冑よりはるかに少ない魔力で使用でき、使い方は普通の甲冑と同じだ。ただ、どの程度の力を出せるかは装着者次第だし、身体強化に熟達した者にとってはその頑丈さしか価値がない。
内装火器も無い。
在庫は一番多い。
やっぱりこれ系か。今の時代でも類似品は作れるはずだ。
オレも魔導科学者時代に作ったことがある。
旧帝国製品だし、性能には期待しよう。
「これいいな。性能テストしたい。一番近くの保管場所は...え、ブルグンドじゃん?」
『そこは現地人が遺跡の上に作った街だ』
「遺跡に入れるの?ズンちゃん情報では稼働する遺跡には含まれてないけど」
『魔力供給すれば稼働するはずだ』
遺跡の地図が頭に転送された。
『それとな、ズンちゃん呼びはやめよ。あやつのことはフローラと呼ぶがよい』
「名前あったんだ」
『元は下級貴族の娘だ』
訳ありっぽいな。
きっと人柱にされたとかだろう。
「分かった。フローラ、今後は名前で呼ぶから」
『ありがとう、フリントロック』
「メトラありがとう。試してみるよ。ところで、ここから遥か東方に旧帝国の遺跡かそれに類する物はあるのかな?」
『曖昧過ぎるぞ』
「じゃあ絞る。南北1000kmの幅で東へ2000kmの範囲として、その東寄りならどう?」
『広すぎる。いくらでもあるとしか言えぬ』
「それじゃ、ズォーム要塞やヴァシュレール要塞に匹敵する戦力が保管されている場所は?」
『残っている可能性はあるが、応答はない』
やっぱり可能性アリか。まずいな。
「東の敵国をエバーデラント皇国と呼んでるんだが、その国の地図を出せないかな?」
『無茶を言うな』
「じゃあ、人口密集地を魔力分布として出せない?」
『可能だ。ただし、魔力では人間とそれ以外を区別できないが』
「できるはずだ。既知の人間の集落との往来があれば、それもまた人間の集落だ。それに、動きだけでも人間かどうか分かるだろ?獣人その他の亜人も含めた広義の人類を対象に再確認してくれ」
『承知した』
カップ麺が出来そうなくらい待ち、人類とそれ以外が区別された魔力分布図を受け取った。
『過去200年分を統計分析したぞ。ついでに人類以外も可能な限り分類した』
元からある地形データに重ねれば都市や集落の位置が入った正確な地図になる。国境線は分からないが、これで十分だ。ついでに主要な魔物の生息地まで丸分かりだ。
「これは凄い!助かるよメトラ。やっぱり観測手段は生きてるんだな。ちなみに光学観測はできるの?」
『解像度低下が著しい。できないと言った方がいいだろう』
「こういった観測機材って、エンダリル帝国でも使われてた?」
『いいや。帝国人は存在すら知らなかったぞ』
やはり神代の遺物か。
観測手段と、それに類する機体がどの程度残っているか教えてもらった。
試しに光学画像も転送してもらった。
「本当にダメだな。退避中の機体を再稼働させたい」
『&&$#”((”###』
「#||~$%」
オレの口が勝手に古代語で返答した。
魔法の自動詠唱と同じく、意味は分からない。
このまま古代語での会話に移行されたら困るので、間をおかず旧帝国語で話しかけた。
「できそうか?」
『しばし待て...』
数か月とかじゃないだろうな?
「メトラ、何をやっているか興味がある。経過を教えてくれ」
『よかろう。2号機の起動に成功したところだ。魔力残量6%。雷力駆動系正常。防護シャッターを開く。センサー類テスト中...全て正常。光学観測も問題無しだ。主機テスト中...重力傾斜10%到達をもって正常と判断する。魔光波ジャイロ始動。姿勢制御テスト中...全て正常。武装はテストしない。姿勢安定。加速開始。魔力残量5%。
観測機としては問題ないぞ、魔力残量以外はな。今のままでは軌道遷移に272日かかる。急ぎたくば魔力を供給せよ。お主が壺と呼ぶ揚陸艇1機分の量があれば2日に短縮可能だ』
重力って言ったよな!?
気になって仕方がないが先に用事を済ませよう。
「魔力は数日以内に何とかする。できれば常時監視したいが、静止軌道からでも人かオークか程度の識別はできる?」
『光学系にそこまでの性能は無い。それでも軍隊の行列くらいは識別できるだろう』
「その程度か。どうするかな...」
『欲張らずに低軌道にしておけ。どうせ敵は徒歩で進軍してくるのだろう?』
「そうだな。常時監視する必要はないか。本来の用途で頼む」
『承知した』
「それじゃ、メトラ、フローラまた後で」
『はい。お待ちします、フリントロック』
『あまり待たせるでないぞ』
*
日本の自宅へ戻ったら密林通販でポチッた無線機が届いていた。さらに追加でポチる。皇国へ運ぶ分は追加注文を待っていられないので、今から買いに走る。
来たついでに、これまでに蓄えたとっておき画像を大量に印刷する。
数日以内に来るという伯爵へのお土産も買う。
石鹸、シャンプー類も大量購入する。メイド達に気づかれては隠しようがないから、先手を取ってジゼルマインに渡す。
万一に備えて、扱いが難しくない基礎化粧品も買った。それ以上は男のオレには手に負えん。本当は関わりたくない領域だが、オレの本能が『それも持っていけ』と警鐘を鳴らしている。
***
-皇国東部-
ブルグンドから1000km以上東にあるその場所では遺跡の発掘作業が進行していた。別に埋まっているわけではないのだが、何故だか誰もが発掘と言いたがる。
「やはり似てるな。貴重な船をバラしてまで構造を調べた甲斐があった」
「それは僥倖。ならば数日中には動かせるのでしょうね?」
「はあ?何言ってんすか。ここからが一番難しんです。何日かかるか分からないし、成功するかも分かりませんよ」
「首が飛ぶのはあなただけではないのですが」
(チッ)
「分かっていないようですね。あなたの家族の話などしていません。この私まで巻き添えになると言っているのですよ!!失敗は絶対に許されません!」
《納屋51》




