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49.ケーキは戦略物資

《納屋49》


 -リューズライト伯爵家-


 遥か北方のロナークへ送った使者から領都の屋敷へ報告が届いていた。


『フリントロック家の立ち位置はいまだ不明。この国の民衆には王家、各貴族家、そしてフリントロック家があると認識されており、血筋としては公爵家相当であると考えられる。しかしながら、フリントロックの名を爵位付きで呼ぶ者は皆無。

 接触は非常に困難で当主の動向を探ることはほぼ不可能。街の噂話で得た信憑性の乏しい情報によると、フリントロック家は消えた初代エドワードの帰還を待ち続けている。

 消えた場所はリューズライト領から北へ数日の、旧帝国要塞がある地域とのこと。なお、現当主はエドワード12世。


 ゴーレム核も甲冑も購入できず。不可能ではないものの、取引がない現状では取り合ってもらえない。

 ショコラや、それを素材とした菓子類は一切見かけず、現地の商人も知らぬため、この地方が産地ではないと考えられる』


「エドが初代フリントロックだとでも言うのか?12世代も前の人間が生きているわけがない、とは言い切れんのがフリントロックだったな...む、ギルバートか」


 伯爵がいつもの癖で魔法鞄に手を入れると、手紙が入っていた。

 それにはエドが自走する荷車を所有していることや、皇国軍の小部隊をアゼリーナと2人で殲滅したことが書かれていた。


『...以上の状況から皇国の侵攻は予想より近いと思われます』


「いよいよ来るか。今しばらくの猶予はあろうが、数の差ばかりは如何ともしがたい。予想はしていたがフリントロック製兵器を購入できなかったのは痛い。何か起死回生の策を...」


 しばし考え込んだ伯爵が突然ガタンと立ち上がった。

「料理長を!いや、ワシが行く」

 料理長を呼びつけることすらもどかしく、伯爵自ら速足で厨房へ出向いた。


 そして10箱のケーキが用意された。白ケーキとショコラケーキが5箱ずつだ。箱と言っても小さく、通信用の異次元ポケットの口をぎりぎり通る細長い形状である。


「これなら取引に応じざるをえまい。エドワード12世よ、我らが特産品と共に甘味に群がる女共の恐ろしさをとくと味わうがいい」


 今やリューズライト領の特産品となったケーキを武器に、使者がフリントロック家女性陣への浸透工作を開始した。


 ***


 古代兵器を隠していられる状況ではなくなりそうだ。早急に情報が欲しい。

 デネルブルグ王国なら平時から間諜を使って情報を集めているはずだ。その王国でも地形的に辺境伯領が最前線になることが確定している。


 情報をもらえないか伯爵邸へ行ってみた。

「「 エド様、おかえりなさいませ! 」」

「やあ、イングリットにリディア」

「こちらのお席へどうぞ」


 真っすぐテーブルに案内されるとショコラケーキが2個とお茶が出てきた。

 いつからメイド喫茶になったんだ?


「こちらが私たちが作った方で、こちらが当家の料理長が作ったものです」

「ああ、そういうこと。分かった、味見しようじゃないか。食レポもどきは期待するなよ」

「はい?」


 領都から転送したのか。さすが辺境伯だ。

 ケーキが入るサイズの空間共有鞄を持っているに違いない。

 普通の魔法鞄で運ぶことも可能だろうけど、ここでも作れる物をわざわざ馬車で運びはしないだろう。


 まずここのメイド達が作った方から。

「うん、最初のよりうまい。生地も柔らかくなっていい感じだ」

 2人がほっとした顔をしている。


 次は料理長が作った方を。

「...こっちもうまい。料理長が相当頑張ったって分かるよ。生地の出来がオリジナルに近い。クリームにはわずかによく分からない味が混じってるけど、これがいいのか悪いのかオレには判断できない。こちらの人の好みに合わせたのかな?」


 イングリットが答えた。

「さすがエド様、鋭いです。その味は料理長がとても苦心したと言っていました。どうしても本物と同じ味にならないので、香辛料、薬草、果物その他、色々試した結果『同じ味を出せないのなら本物を超えてしまえばいい』と出来上がったのがそれです」


「さすが伯爵家の料理長ともなるとこだわるねえ。それで正解だと思うよ。オレが持ってきたレシピは基本部分だけで、職人独自の工夫は入ってないからね。そこを補うのだから、こっちも独自に工夫すればいいんだ」


「そう言っていただけるときっと料理長も喜びます」


「ところでギルバートさんは?」

「お出かけ中です。最近は忙しいみたいです。でも暗くなる前には戻られるかと」

「そっか。ずっと待つのは退屈すぎるな。一度出ようと思うけど、その前に...」

 ごそごそと紙の小箱を出した。


 中身を察したらしい2人の顔が期待に輝く。

 オレはわざとらしく声を潜めて言った。

「これは違う種類のケーキだが、売り物ではない。売ってくれと言われても困るから絶対バレないように2人でこっそり食べてくれ」

 コクコク頷く2人。


 受け取りるとリディアが敬礼した。

「了解しました。これは我々が秘密裏に処理しますのでご安心を」

「うむ。任せたぞ、リディア伍長」


 *


 夕暮れ時にもう一度訪ねてみた。

 メイドの2人が普段よりにこやかだ。そう簡単に業務用の表情を崩さないイングリットでさえ、さっき渡したケーキの余韻が残ったような顔をしている。


 渡したのはムースに苺が大量に入った、こちらでは再現不可能なシロモノだ。品種改良された苺なんてあるわけないし、まだ苺自体見ていない。

 あ、今は季節外れか。


 ギルバートも戻っていた。

「今日は皇国のことで来ました。冒険者ギルドでは侵攻が近いと見ています。当然、デネルブルグ王国でも敵の動向は把握していますよね?」


「もちろんです。エド様の戦果もギルド長から報告を受けています。これに関しては我々とギルドは味方同士ですので、情報を共有できます」


「それは良かった。では、王国が把握している限りの敵戦力について教えてもらえませんか」


 ギルバートが一通り説明してくれた。

 皇国がこちら方面へ出せるのは総数20万から50万。一番多いのは練度が低い戦時徴兵された農民その他。次に多いのが常備軍の一般兵で練度はDからCランク冒険者程度。


 魔法使いは2000から3000人。その中でもAランク冒険者に匹敵するのが20人以上。

 精鋭の騎兵が3000程度。

 グリフォン騎兵が100から150。


「グリフォンまでいるとはさすが大国だ」

「数では及びませんが、グリフォン騎兵なら王国にもいますよ。それに、我々にはワイバーンだっています」


 特殊戦力は思っていたほど絶望的な差じゃないらしい。

 雑兵も含めた総数の差は如何ともしがたいが。まあ、勝ち目がないのは想像通りではある。

 だが、聞きたいのはこんな一般情報じゃない。


「敵が旧帝国製の兵器を持ってるか分かります?強力な兵器に関しては噂でも構わないので。その前に、一介の冒険者が何故こんなことまで知りたがるのか説明しましょう」


 手っ取り早く味方の戦力を強化する手段として無線機を提供できることと、状況次第では強力な兵器を提供できることを説明した。


 リディアがトランシーバーを持って廊下の向こう側へ行った。

「ギルバートさん聞こえますか~」


「おお~い、リディア!言い終わったらボタンから手を放して」

 廊下の向こうへ大声で伝えた。


「それじゃ、今度はギルバートさんがそれを押して話してみてください」

「リ、リディア、聞こえるか?ギルバートだ」

「言い終わったらそのボタンを放す」


「はい、はーい、聞こえてますよー。魔道具を通してもいい声ですね、ギルバートさん」


「とまあ、見た通りの道具です。これを戦場で使えば、かなり有利に立ち回れますよ」


 ギルバートが手の中のトランシーバーを見て愕然としている。

 目の焦点が合っていない所を見ると、早速いろんな状況についての想像を巡らせているのだろう。


 なんかぶつぶつ言い始めた。

「迂回、包囲、奇襲...夜襲ですら同時攻撃が」


「お~い、ギルバートさん?」

「リディア、今はそっとしといてあげて」


 ギルバートがくわっと目を見開いた。

「エド様っ!!これをご提供いただけるのですか!」

「30個は確約します」


「おお、是非お願いします!!しかし、これほどの道具となると値段を想像できません」


「それはご心配なく。オレも一蓮托生のつもりなので。その小型通信機なら一個につき金貨3枚、長距離通信が可能な大型は金貨30枚で」


「距離の制約があるのですか?」

「ええ、無限じゃないですよ。見通しが良ければ5kmくらいかな。城の中と外みたいに分厚い壁越しだったら使えるか不明です。これは比較的短距離で使うので、前線指揮用ということになってますね。大型ならこの街から王都までだって余裕で届きますよ。つまり、屋敷に居ながらにして全軍の指揮も可能になります」


「何ということだ...戦争が変わってしまう。今すぐ伯爵に報告しなければ!」


 ギルバートがすごい勢いで手紙を書き始めた。それでもほとんど字が乱れないのはさすがは執事だ。

 書き終わった手紙を魔法鞄に入れようとする手を止めた。


「ちょっと待って。話だけじゃ信じてもらえないかも。はい、これ。6個なら今この場で渡せます」

「おおお、感謝に堪えません」


 ギルバートがまた物凄い勢いで追加の手紙を書き始めた。手書きの絵付きで操作説明も書くと、手紙とトランシーバー4個を魔法鞄に入れた。


「そのうち他の貴族家にも通信機を渡すことになりますよね?」

「できれば独占したいところですが、国の命運がかかっている以上そうも言っていられないですね」

 と言いつつもギルバートが悪い顔で何か考えている。

 敵対派閥には渡さん、とかだろうか。


「必要になったら、通信機を伯爵家から転売するのは構いませんが、オレから他の貴族に売るつもりはないので、出処は絶対に秘密でお願いしますね」


「無論です。万一出処を探る者がいても、伯爵家の名誉にかけてエド様をお守りします」


「さて、話を戻しましょう。皇国が持っている古代兵器について噂も含めて分かっている限りのことを教えてください」


「本当に真偽不明の情報ですが、皇国は東側にある旧帝国時代の遺跡をどうにかしようと物凄い予算を投入しているようです。そのせいで、現皇帝は国を傾ける気か、と反皇帝派がやり玉に挙げているとか」


 要塞の類かな?

 もし敵も強力な古代兵器を手に入れたらヤバいぞ。そう簡単に入手できるはずはないが、相手は大国だ。できると想定しておこう。


「ギルバートさん、オレはその情報を信じます。それが戦争の肝になるかもしれないので、できれば王国の間諜には優先的に探ってもらいたいですね」

「承知しました。伯爵へ進言します」


「他には、例えば人を乗せて飛行可能な兵器や、破城槌も受け付けないほど頑丈で荒地でも自在に自走できる兵器や、弓矢の数倍以上飛ぶような武器ってあります?」


「そのような兵器の情報はありません。旧時代の兵器で存在が確認できているのは魔導甲冑と強化甲冑ですね。いずれも不完全な発掘品のようです。強化甲冑は複製に成功したらしく、新品同様の数体が同時に使用されているのを目撃されています。魔導甲冑は欠損した状態での稼働には成功したようです」


 気になるのは東の遺跡だけだな。

 それが本当に旧帝国の遺跡なら要塞の管理人格が情報を持っているはずだ。


《納屋49》

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