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47.まるで魔法

《納屋47》


 皇国の養蜂部隊を殲滅して帰った翌日の朝。

 ギルド長に報告する前に、2階にあるアゼリーナさんの研究室に寄った。


 机を借りて荷物を広げる。

 興味深そうにそれを見ているアゼリーナさん。


「よし、接続できた。紙セット、印刷開始!」


 白い紙がモバイルプリンターに飲み込まれ始めると彼女はそれを凝視した。

「あ、出てきたのってまさか...かめらの中身!?」

「そうですよ。ギルド長に報告する前に紙に写して見せられるようにするんです」


  昨日の戦闘後に撮影した画像を印刷しているのだ。


「念写の魔道具、いえ、これも魔法じゃないと言うんでしょ?」

「うん、まあ、魔法と言っても差支えないかも。科学技術が進歩すると魔法と区別がつかなくなるって言った人もいるし。どっちも目的は同じだし」


「こんなのおとぎ話の『魔法』よ。魔道具では実現できてないわ。

 それに、この『ぱそこん』!

 本当に神代の遺物ではないの!?」


「そんな訳ないでしょ。本当に魔法とは無縁の文明で作られた物ですよ」


 気持ちは分かる。この世界にはカボチャの馬車みたいな理不尽系魔法が存在しないので、魔力はエネルギー源とほぼ同義だ。そのエネルギーもまだ大雑把な使い方しか出来ていない。そんな世界の人々には地球の電子技術こそ『魔法』に見えるだろう。


 それでもこの世界の魔法もまた魔法と呼ばれる。当たり前に存在し、安定して再現可能なのに科学ではなく魔法だ。その理由は、その他の技術とは違い、魔法だけは都合よく人の願望によって発動するからだ。


 魔力と精神は相互作用する。


 そんな性質があるせいで、ただ願えば無詠唱で魔法が発動することがある。それは原始魔法とも呼ばれ、風が吹くように念じればそよ風が吹く。たとえ適性が無くとも、死ぬほど喉が渇いた時に水を欲すれば少量の水は出せる。無詠唱ではその程度の弱い効果だが、誰にでも使えて時には生き延びる助けになる。


 *


 -ギルド長室-


「...と、『賊討伐』は完了で、捜索依頼も完了です。6人とも無事に家へ帰りました」

「よくやってくれた。もしその巣箱が街に一個でも持ち込まれたらえらいことになっていた」

「やはり皇国がこの街を攻める準備中なんですかね?」


「いや、奴らの狙いは南のデネルブルグ王国だ。我々などそのついでだよ。この街の立ち位置を説明しよう。建前上、我々は中立だが実際は王国寄りだ。その理由は、皇国が敵だからだ。皇国は必ず王国へ侵攻する。その橋頭保にうってつけの位置にあるこの街はまっ先に従属を迫られるだろう。王国としては我々が墜とされては困るので、その時が来れば支援してくれることになっている」


「なるほど。皇国って言っても実態は帝国みたいなものですか?」

「帝国そのものだな。奴らは100年以上かかって遥か東から西進を続け、ついに我々の隣まで来た。10年前までこの街の東はギムラト・ウストリア王国だった。それが今では皇国の最西端の辺境、ウストリア地方と呼ばれとるよ」


「ああ、世界征服の途中ですか。そりゃ攻めてきますよねえ。それで、デネル王国に勝ち目はあるんです?」

「敵の戦力は人数だけなら王国の10倍以上だろう。だが、デネル王は勝てないまでも負けない算段くらいしている」


「それじゃ、この街はどうです?」

「いったんは放棄して非戦闘員が王国へ避難することになるだろうな。冒険者もこの街に来て日が浅い者は去るだろう。だが、高ランクの冒険者の一隊がいれば、敵にその後の侵攻がままならんくらいの打撃を与えてやれるわ。来るなら覚悟して来い!宗教狂い共に目にもの見せてくれるわ!!」


 ギルド長が1人でヒートアップするので、ショコラを1個つまんで間をおいた。


「ちなみに、皇国は攻める大義名分を言ったりします?」

「奴らは決まり文句で『神の名の下に、あまねく世界に平和と救済を』などと抜かしているようだな」

「うわ、嘘つき集団だ。正直に『服従か死か、好きな方を選べ』とでも言えばいいのに」


「同感だな。いけ好かん連中だよ。思っていたより開戦は近いのかもしれん。まだ巣箱が残っていないとも言い切れんし、街への持ち込みは絶対に阻止せねばならん。どんな物だったか絵に描けるか?」


「準備してきましたよ。はいこれ」

「おお、これは助か...る...おお?何だこれは!?」


 渡したのは、戦闘の後始末の様子がカラー印刷された数枚の紙だ。ギルド長がそれを驚愕の表情で隅々まで凝視している。


「こ、これは絵なのか?」

「絵には違いないですね。詳しくは秘密です。これもオレの個人的な能力なので詮索は無しでお願いしますね。で、巣箱ですが、ここを見てください」


 巣箱の細部が分かる部分を指さしながら説明する。

「空気穴があるのが特徴で、このあたりに蜂が逃げ出さない程度の穴が開いてます。そしてこの線ですが、ここが開閉して蜂の出入り口になります。あれ、ギルド長?おーい、聞いてる?」


「なあ、やっぱりうちの職員にならんか?」

「ごめんなさい。やっぱり無理です。嫌です」


 ギルド長が話を聞いていなかったのでもう一回説明した。


 その後、巣箱の特徴となる部分を模写した絵が門番に配られ、怪しい積み荷は全て検査されることになった。街に入った皇国の騎士や教会関係者の動向は尾行調査され、拠点には監視が付いた。


 敵の侵攻開始はそう遠くないと見られるため、街の主要な組織が戦争に備え始めた。オレもすでに敵と一戦交えたことをディメトレーヤさんに報告した。


 この街を守るためなら冒険者ギルドや伯爵に旧帝国製兵器を提供するのもやぶさかではない。だが、決める前に敵が何をどれくらい持っているのか情報が欲しい。


■ブルグンドの周辺地図

挿絵(By みてみん)

辺境の国境線にあまり意味はなく、大雑把にその辺までが領土と認識されている。

道沿いに書いてある日数は軽装の徒歩で、大軍の侵攻はこの倍かかる模様。


 ***


 帰還後2日目にアゼリーナさんの家に泊った夜。


 彼女に甲冑と壺の機能を一通り説明している。

 要塞からもらった情報は丸暗記と同じだから、即座に応用が利くとは限らない。だからこうやって一度理解して説明しておけば、自分にとっても今後の役に立つ。


 ついでに日本語のカタカナ言葉の意味も教えているのだが、これが結構気に入ってもらえた。やはり、聞きなれない外国語の響きはカッコいいらしい。


「それじゃ『えねるぎー』は?」

「この場合は魔力ですが、本当は魔力に限らずあらゆる状態の『力』に使える言葉です」


「えねるぎー、えねるぎー...うん、いいかも。それじゃ『ぱーせんと』は?」

「バーセントは100分率の単位です」


「なるほど。え~と、そうすると『えねるぎー充填120ぱーせんと』は意味不明よ。最大は100ぱーせんとではないの?」


「オレの故郷の軍隊での決まり事なのです。乾坤一擲、必殺の一撃を放つ際に『120パーセント』の威力でもって敵を滅するとかいう意味ですかね」

「なら、分からなくはない。要するに気分の問題ね」


 何のことかというと、壺の底に装備されているエクスプロージョン発射機の発射シークエンスを説明していたところだ。


「エクスプロージョン発射機のことは今後『艦底魔導砲』と呼びます」

「またエド君のこだわりね。わかったわ」


 説明が終わり、例の必殺艦首砲の発射シークエンスを書いた紙を机に置いて灯りを消した。


「おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 昨夜は一睡もできなかったので今夜は眠れるだろうと思っていたが、目を閉じるとまた燃え上がるローブと髪が目に浮かんだ。


 眠いのに眠れない。

 せめて違うことを考えよう。

 ズォーム要塞の精霊が言った侵攻作戦って何のことだろう?

 中央要塞へ行けって言われたけど、後でもいいよな。




 いつの間にか眠ってうなされて目が覚めるを何度か繰り返した。


 朝になったらアゼリーナさんに抱き着いて頭を撫でられていた。

 目が覚める前に情けないところも見せてしまったらしい。湿った跡が残っている。


 あれ以来弱っていることを正直に話したら『死んだように眠れる薬』をもらった。何とも物騒なシロモノだが今はありがたい。


 彼女は錬金寄りの魔女なので、部屋には怪しい薬や素材だらけだ。フリントロックの知識をもってしても分からないものが多い。魔導科学者とは畑違いだし。


 ちなみに彼女の師匠のディメトレーヤさんは長生きしているだけあって何でもできる。一番得意なのは何か聞いたら『破壊?殲滅?更地?』ということで、はい、納得です。


 ***


 フェレーナさんがとても頼もしい。

 大量の嫁を押し付けられそうになっているオレを救うため、彼女が殴り込...みはせずに話を聞いてきてくれた。


「悪乗りしただけだって。半分しか本気じゃなかったって言ってたわ」

「十分タチ悪いよ」

「断ったんだけど、決めるのは本人だからダメ元で聞いてきてくれって頼まれてね。せめて5人くらいどうかって」


 彼女に抱き着き、すねる子供のように答えた。

「イヤだ」


 この際だからとことん甘えている。

 何か察しているのか、彼女も存分に甘やかしてくれる。

 『賊』討伐は極秘任務だったので受付嬢その他、一般のギルド職員には詳しく知らされていないのだが。


「あのね、3番目なんだけど...いえ、後にするわ。わたしも増やしたいわけじゃないし」


 その夜はアゼリーナさんにもらった薬のおかげで死んだようによく眠れた。

 それを見たフェレーさんが言うには、本当に死体のような顔色だったらしい。

「もし呼吸まで止まっていたら、朝まで待たずにあの魔女を叩き起してぶん殴っていたところよ」


 アゼリーナさんの家に泊る日は、死んだようにならない弱い薬を出してくれる。


 薬で朦朧となった頭を撫でながら、耳元で涼やかな声で何かを囁やいてくれる。とても心地いい声が脳の奥底にまで染み渡る。もう彼女がいない生活なんて考えられない。離れるくらいなら死ぬ。


 こうして7日も経った頃には薬なしでも普通に眠れるようになっていた。

 彼女には頼りっぱなしだな。


 帰還から3日目に、正式に礼を言いたいということでエーリカの親達からパーティの招待が来た。

 フェレーナさんとアゼリーナさんも一緒だ。2人がオレの左右をがっちりガードしている。そのおかげで、「話をするだけでも」と紹介された3人の嫁候補も簡単に断ることができた。


 その頃が一番弱っていたので、もし自分一人だったら押し切られていたかもしれない。


 矛盾しているようだが、弱っている時には射撃練習をしたり、敵軍を迎え撃つ手段を考えていると気がまぎれる。

 戦争に参加する覚悟もした。

 甲冑の名前だって考えたし。

 一型「カリバー」 バランス型なので主役の定番武器エクスカリバーから

 二型「ズド」   ズドドドドと響く主力火器の発射音から

 三型「チャリ」  軽量タイプだからチャリンコの略で


 問題は、敵部隊に女子が混じっていたらどうするかだ。少なくとも魔法使い部隊には年下の少女も配属されているだろう。知ってしまったらそんなの撃てない。

 いや、味方がやられそうだったら撃つけど。


 ...いや無理か。

 まともに戦争したら病みそうだ。


 もし敵が対空攻撃できる手段を持っていなかったら、斬首作戦を実行できないだろうか。それで侵攻を止められるのなら、敵皇帝を宮殿ごと吹き飛ばす方が気が楽だ。


 とにかく戦争の準備は進める。

 物資や道具を調達するため、ちょっくら日本へ行ってきた。


《納屋47》

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