44.帝国歩兵三型装備
2022年7月23日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。
《納屋44》
今回の本命、『ヨロイ大トカゲ』を見つけた。
詳しい情報は頭に入れている。ヨロイのごとき鱗はとても硬く、ウインドカッターで斬れなくはないが効率が悪い。その上、生半可な打撃じゃ割れない程度の弾力もある。
鱗は防具の素材として高値で売れ、肉もうまい、美味しい獲物だ。
美味しい獲物にはぎりぎり勝てそうだからと無理な算段で挑み、餌になる冒険者が後を絶たない。ここへ来る途中にも荷車を引いて歩く6人パーティがいた。彼らもトカゲ狩りだろう。
さてどうやって倒そう。
ウインドカッターは、水分を含む生きた骨なら切り裂けるのだが、それより硬くなると急激に効率が落ちる。石にはほとんど無力だ。
「アゼリーナさんなら一撃でしょ?」
「そうね。最初はエド君が、やってみて。危なくなったらわたしが、倒すから」
「了解!」
接近されたら尻尾の薙ぎ払い攻撃がくる。火炎放射はためが短く、回避が難しい。火炎の射程はトカゲの体長と同じくらいとされているので、こいつだと10mくらいか。
「こいつ、もうドラゴンだろ」
「分類はトカゲよ。トカゲとしては最大だけど」
よし。戦術は頭の中で組み立てた。
今のMPは127。
まず、消費MP2倍のストーンバレットを一発入れて効果を見る。
杖は貫通力よりも打撃力重視でアゼリーナさんから借りてる方を使う。これなら土魔法でも1.5倍になる。ザックからもらったワンドは収束効果があるが、倍率は1.1倍だ。
行動パターンを3回イメージしたら覚悟を決めて詠唱開始。
「’&%##&()(’&&$”{‘@」
トカゲは左側を見せてじっと動かない。
頭を狙っている。
約4秒の自動詠唱が終わると、安物のメロンサイズの丸い石弾が飛んだ。最初の頃よりだいぶ速くなっている。
ドゴッ!!
石弾は斜め上へ弾かれ、衝撃で頭も揺れた。
ダメージは通ったはずだ。
素早くしゃがんで獲物がどう動くか観察する。オレの頭には葉っぱを付けてカモフラージュしているので、たぶん位置はバレないだろう。
巨体がのそりと向きを変えると、首を高く上げて真っすぐこっちを見た。
長い突起が後方へ延びるその頭はドラゴンのようにカッコいい。
オレはじっと動かない。
...バレてる?
経験したことのない緊張感に、事前に想定した動きなど綺麗さっぱり頭から消えていた。
トカゲが前足を一歩出すのと同時にオレの後ろから突風が吹いた。
体を左右に振りながら歩き始めたのを見て、かつて体験したトカゲダッシュが脳裏をよぎる。
先手必勝!
MP12倍の一発玉だ。
「石弾!!」
高級メロンくらいのサイズになった上に、速度も上がった丸石が飛んだ。
残MP55。
突如としてトカゲが明るいオレンジ色の炎を噴き、石弾がその中へ飛び込んでいった。
突風のおかげで火炎はここまで届かなかい。
盾を出すまでもなかったか。
火炎放射はすぐに止まり、トカゲがのたうっているのが見えた。
もう瀕死だ。
トドメを刺すまでもなく、すぐに動かなくなった。
「エド君、お見事!」
「ありがとうございます。あ、さっきの風はアゼリーナさんでしたか。助かりました」
仕留めた獲物をじっくり検分する。
斜め下から口へ飛び込んだ大威力の石弾が首の骨を折っていた。
「ラッキーショットだったな」
「さっきの、威力なら頭蓋骨でも砕けたわ」
トカゲの背中は後方を向いた短いトゲトゲの鱗に覆われている。腹側なら刃物が通りそうだが、どうやってひっくり返せばいいか分からない。
脚の付け根は柔らかく、弱点になっている。ただ、正面から見ると肩から張り出したトゲ状の鱗に隠されている。もし頭をつぶす威力を出せないのなら、斜め前か、斜め後ろからウインドカッターを飛ばして足を切断するのがよさそうだ。
もう一匹トカゲを探して、アゼリーナさんが仕留めるところを見せてもらった。
斜め後ろから放たれたウィンドカッターがカーブしながら首へ向かって飛ぶ。危険を察知したトカゲは素早く攻撃が来る方を向こうとしたが、それがアダとなり、ほぼ直角に首が斬り落とされた。
「うーわ、すごい威力だ」
あ、にんまりしてる。
彼女にしては珍しく分かりやすいドヤ顔で説明してくれた。
「音に反応するからそれを利用するのよ」
「なるほどー」
間近で見ると、断面の鱗が綺麗に切断されていた。首周りの鱗は若干柔らかいとはいえ頑丈な装甲には違いない。それを骨ごと切り落とすとは、オレのウィンドカッターじゃ10倍のMPをぶっこんでも無理だと思う。
トカゲを収納したら、最終目的地の遺跡を目指す。
ズォーム要塞の管理人格から得た情報にはこの遺跡の状態も含まれていた。つまり、設備がまだ生きているということだ。
オレの本当の目的は情報に含まれていた旧帝国の兵器類だ。
山の中腹の開けた場所に遺跡があった。旧帝国様式の精密な石建築だ。大きさはズォーム要塞の半分もない。周囲を木々に囲まれて、今にも自然に飲み込まれそうに見える。だが、よく見ると敷地内には一本も木が生えていない。
自然の浸食に2000年以上耐える構造なのか。
「ここには何が住んでるのかな?」
「以前は、ゴブリンがいたけど今は、いないみたいね」
オレの索敵能力でも周囲の動物以外は探知できない。
「それじゃ入りますか」
念のため鉄兜もかぶる。
杖と兜では変な奴に見えるので、杖をオーガ殺しに持ち替えた。
遺跡の中は壁一枚挟んで探知できないことも多い。慎重にならねば。
そんなオレが彼女には微笑ましく見えるらしい。
「罠の類はないはずよ」
気楽に中へ入ろうとするアゼリーナさんを制止してオレが先頭に立った。
「後ろから接近する敵も察知できるので、オレが前を」
「ふふっ。頼もしいわ。それじゃあお願い」
彼女がいれば警戒の必要はないだろうけど、せっかくの索敵能力を生かさないのはもったいないのでオレが前を歩く。
地上階には何もなし。
地下1階を探索する。
「強敵の反応アリ。角の向こうです。距離は10歩分くらい」
ふふっ、オレに死角はない。
「エド君危ない!!足元!!」
直径30cmはありそうな蛇が足から巻き上がり、あっという間に『人間入り蛇巻き』ができてしまった。
巨体に雷撃の効果は薄く、自分も痺れた。
蛇が全身に巻き付き終わると、キュウウ~とオレの体が細く絞られる。
「あが...おぐ..」
ボキッ
肋骨が折れ始めたところで締め上げが緩んだ。
「首を落としたからそいつを収納して!」
大蛇がアイテムボックスへ収納されると、消えた厚みの分オレは床へ落下した。
「ぐあ、ああ..あぐ..」
痛い。呼吸できない。もう死ぬ。
*
「はっ、はあ、はあ、助かりました」
「あなたにもらった人体構造図のおかげよ。回復魔法の、効果がとても高かったわ」
「あーっ、いい人体実験ができたとか思ってるでしょ」
「助けられてよかったわ。本当に」
嬉しそうな表情の半分は研究者としてに違いない。
切り落とされた蛇の頭が転がっている。
「これアジュダハね。皮と血で金貨100枚以上になるわ」
「肉は?」
「30枚くらいとか?」
「大きさの割に安いような」
「そこまで美味しくないのよ」
「血を入れるもの、持ってる?」
「はい」
広口瓶を出した。
「透明なガラス容器を、気軽に出しちゃうのね」
頭を持ち上げ、切り口から滴る血を集める。アジュダハの血はそのまま飲んでも魔力回復その他、色々と強力な効果があり、素材としても使い勝手がいいので売らずにアゼリーナさんが引き取ることになった。
大蛇に遭遇して索敵能力の欠点が分かった。敵の位置だと思っていたのは、長い蛇の中心付近だったのだ。大蛇の頭はそれより10mも先にあった。つまり全長は20mくらい。
トカゲだって10mもあったし、そこでこの欠点に気づくべきだった。
「さて、進みましょう」
「この先で行き止まりよ」
今いるのは地下一階でこれより下は無いように見える。だが、この下にこそ本当の遺跡がある。
行き止まりは少し広い部屋になっていて、ズォーム要塞にあったのと同じ、黒く透明感のある壁があった。
壁に手を触れると頭の中に声が響いた。
『お待ちしていました、フリントロック』
『同じ声に聞こえるけど、ここはズォーム要塞の一部かな?』
『そうです。私の管理下にある施設です』
同じ山の反対側だからな。そうだとは思っていた。
『ここにある装備を使いたいんだけど』
『侵攻作戦ですね。今稼働する戦力では勝算がありません。一度中央要塞へ行ってください』
『え、作戦て..分かった』
予想外の話に焦ったが、思考が筒抜けになるので、余計なことは考えずに話を合わせる。中央要塞は、時間要塞のことだな。
『行くのは構わないが少し遠いな。移動に帝国歩兵三型装備を使いたい。あ、それに壺も』
『今は魔力供給できないため、残りの稼働時間が不明です』
『中央要塞から回してもらえない?』
『却下されました。重要度が低いとのことです』
一瞬だな。レスポンス良すぎ。
『はい。通信状態は良好です』
『お、おう。分かった。移動するだけだし自分の魔力でどうにかするよ』
『わかりました。ですが、もう一つ問題があります』
『それは何かな?』
『格納庫を開く魔力もありません』
『あ~、そうだよねえ。もう2000年も経つし』
『正確には、エーテル機関の停止から2199年が経過しました』
『あ、うん、正確さは大事だね。格納庫への通路さえ開けばいいから。それ用の魔力供給はこの壁から出来るよね?』
『はい。お願いします』
少量の魔力で格納庫への通路を開くことができた。ただ、重いメインゲートは開かないので格納庫から直接外へは出られない。頑張れば開くかもしれないが、2000年も動いていない重装甲ゲートを動かすために魔力を消費したくない。
「もう、何もないと、思っていたのにこんな通路が...」
「行きましょう」
「待って。稼働している、遺跡は危険よ」
「大丈夫です。ここを管理する精霊に話はつけてあるので」
「え、精霊って何?」
ちょっと説明が必要になったが、少し秘密を明かして納得してもらった。
長い階段を降りると格納庫へ出た。階段も格納庫内もオレンジ色の薄暗い非常用照明が点灯している。
「すごい..完全な状態の帝国式甲冑がこんなに...すごい発見よ!!」
「うわーすごいですね」
格納庫には壺と甲冑が並んでいた。金属と石質素材で出来ているそれらの見た目はどことなく縄文土器を思わせる。
壺は、甲冑4体を乗せて低空飛行する兵員輸送機だ。
魔導甲冑には3種類あり、一型と二型はガチの戦闘用、三型は軽装の斥候仕様だ。
「ところで、この遺跡の所有権を主張する人なんていないですよね?」
「持ち帰れない物に所有権なんてないわ。ここを開くことができるのはエド君だけ。どうするかはあなたの自由よ」
「それじゃあ、この一番軽量な甲冑を動かしてみましょうか」
分からないところは管理人格から情報をもらって甲冑を起動できた。
アゼリーナさんも大はしゃぎだ。三型甲冑に入り、その場で歩いたり軽くジャンプしたりして最初から問題なく使えた。とても滑らかに思い通りに動くので通常動作には全く問題なく、慣れる必要があるのは大ジャンプや高速移動だ。
本当は壺に乗りたかったが、魔力消費量が不安なので今回は起動確認だけにした。
一型、二型、三型2体の合計4体を壺に搭載してアイテムボックスに入れた。
*
「うわ鬼蜂だ」
外には見える範囲に蜂が数匹飛んでいた。鬱陶しいが、魔法で焼き払うには密度が低すぎて効率が悪い。
よし、ここはオレの動体視力の良さを彼女に見せるところだ。
オーガ殺し...はダメ。虫の汁で汚したくない。
大量に持っている、いつ使うか分からない雑貨の中から2mくらいの丸い木の棒を出した。
ピュン、バシッ!
叩かれた蜂が胴と胸部から別れて落ちる。
ピュン、バシッ!
ピュン、バシッ!
後ろから来ても頭上から来ても無駄だ。オレに死角はない。
楽しく蜂を叩きながら元来た道を戻った。
「すごいわ。本当に死角でも気配がわかるのね」
ぐふふ。
彼女が本気で感心してるぞ。
彼女も時々魔力消費を抑えながらもでかくした火球を放ち、蜂を落としながら2人で楽しく山を下りた。
進むにつれてハチ密度が高くなっているような気がする。
さっきトカゲを狩った場所で6人パーティが鬼蜂に襲われて難儀している。剣で切り払ったり、時々ファイヤーボールやウィンドカッターが飛んでいる。
「大丈夫そうではありますね」
「う~ん、でもあれ終わりが、ないわ。あっちの方はかなり蜂が、多いし」
*
「もう魔力半分使っちゃったよ~」
「こっちもよ」
「落とすのは簡単だが、参ったな。終わりがない」
「荷車は残して山へ登るか?」
「それしかねえだろ。いずれじり貧だ」
「よし、山へ登ろう!遺跡へ避難するぞ。荷車は置いていく。食料を回収するから蜂を減らしてくれ」
「了解!頑張って落としてね」
「いくよっ!」
2人の魔法使いが4発のファイヤーボールを放った。数匹の蜂が焼かれたが、付近の蜂が魔法に反応して一斉に集まってくる。それを6人全員で叩き落して、自分たちの周囲に蜂がいない空間を作ろうとしている。
*
「お~、蜂が一網打尽だ」
「でも一時しのぎね」
「助けますか」
もう少し進んだら車を出せたのだが、見捨てるわけにもいかない。
「お~い!難儀してるようだな。手伝うぞ!」
「あ、山の方から人が」
「助かる!!是非頼む!」
彼らに合流すると、とりあえず『全周囲ハチ叩き』を披露した。周囲でパシパシパシパシパシと軽快に蜂が粉砕されていく。
「あんたやるなあ。助かるぜ」
「はっはっはっは。いいとこ見せたかっただけさ」
アゼリーナさんがファイヤーストームを放ち、渦巻く紅蓮の炎が広範囲の蜂を一気に焼き落とした。
「うおお...助かった。ありがとうな」
「すげえ...」
「すごいのね。本当助かったわ」
一息付く合間に礼を言われたが、まだ終わっていない。
「うん、まだ礼を言うのは早いかも」
周囲には2回目の炎が渦巻いている。鬼蜂の羽さえ焼けば落とせるので大した火力は必要ない。薄くより広範囲に広げたファイヤーストームで効率よく蜂を落としている。
半径50mほどの安全地帯が出来た。だが、またすぐ鬼蜂が飛んでくる。ハチ密度が薄いうちは全員で切り払ったり、叩き落す。鬼蜂は15cmもあるので叩くのは簡単だ。またハチ密度が上がってきたらアゼリーナさんのファイヤーストームで一網打尽にする。
ハチ叩きに夢中になっていると、高い脅威度を感じる敵が高空からゆっくり降下してきた。
「あー、人食い鷲もオレ達を狙ってるな」
「そりゃまずいぞ」
「なあアンタ、そんな大魔法を連発して魔力は大丈夫か?」
「大丈夫よ」
「心配ないさ。この人は冒険者ギルドの魔法担当職員だぞ」
「おお!まさかあの『災厄』の魔女様か?」
ハゲが余計なことを言ったのでアゼリーナさんが不機嫌な顔になった。
(バカ!災厄は余計だ。お前も黒焦げになりたいのか)
(あ、すっ、すまん)
「人食い鷲が降りてきたらオレが撃墜するから」
出来るよな?
でかくても鳥だし。
「その格好で魔法使いなのか?」
「ストーンバレット」
「うおっ、失礼した!」
ハゲの足元に撃ち込んでやった。
3回目のファイヤーストームが放たれた後には、索敵範囲内に数えるほどの蜂しか残っていなかった。遠くを見てもだいぶハチ密度が薄くなっている。
オレ達2人は車に乗れば蜂など無視できるが..
「なあ、あんたらはこれを突破して帰るの無理だよな?」
「無理だろうなあ。この先にはまだまだいるし。遺跡の中へも入ってきそうだし。見捨てるとか言うなよ?」
「仕方ないな。今から見る物は絶対に他言無用だぞ」
壺を出し、6人が驚くのは無視しして魔導甲冑を準備する。甲冑を装着するには支えが必要なので、甲冑だけ持ち出したらとても不便だ。
壺の中でなら簡単に脱着ができる。
軽トラの荷台に全身鎧の4人を乗せ、助手席には2人を詰めて乗せた。その2人は魔法使いだ。
そして、軽トラの横を颯爽と走る『帝国歩兵三型装備』の中身はアゼリーナさんだ。甲冑はガッチャン、ガッチャンとうるさい音を出したりはしない。一歩ごとにビィーン、ビィーンとわずかな駆動音を出す以外は軽い足音だけだ。
魔力はアゼリーナさんが多めに充填したので内装火器も存分に使える。彼女には自前の大火力があるが、旧帝国製兵器の方が燃費がいいらしい。
通信には体にトランシーバーを装着してもらい、甲冑内でイヤホンを使っている。甲冑内に入れると近距離でしか使えないが。
「アゼリーナさん、前方斜め左にでかい敵の反応あり!もぞもぞ動いているので蜂の集団かと。おそらく巣です」
「了解。焼き払うわ」
「あ、右側にも蜂の巣らしき反応が」
前方からいきなりウィンドカッター2発が飛んできた。何者かの襲撃だ。
幸い軽トラのフロントガラスは割れなかった。ストーンバレットじゃなくてよかった。透明なガラスを見たことがない敵は前面に何も無いと思ったのだろう。
アゼリーナさんの甲冑がストーンバレットや矢をカンカン弾いている。
さすが古代兵器だ、なんともないぜ!
周囲に敵の反応が多すぎて人間を見落としていた。
「人間が14人。全部敵です」
「任せて。片付けるわ」
アゼリーナさんが前に出ると、右腕の内装火器である石銃を連射した。音もなく発射された細長い石の弾丸が、3人の弓兵と4人の魔法使いを薙ぎ払った。
剣を持って飛び出してきた6人にも石の弾丸が突き刺さり、パンパンと薄い金属板を撃ち抜くような音が響く。その6人も次々と倒れて転がった。
防護服の下は板金鎧かな。
まるで軽機関銃だ。発射レートは低いが、無音、無反動なところは地球の兵器を超えている。
機関銃が『タタタタタ』だとすると、
石銃は『タンッタンッタンッタンッタンッ』くらいの発射レートだ。
無音だけど。
弾丸が空気を切り裂く『ピュンッピュンッ』という音は聞こえる。
残る1人はアゼリーナさんには見えていないようだったので、車の窓をちょっとだけ開けてワンドを出し、ストーンバレットで倒した。殺してはいない。
「敵は全滅です。ファイヤーストームお願いします。後ろの4人が危ないので」
後ろの4人は全身鎧だが、車を止めて蜂に群がられると対処しきれない。
甲冑が軽トラの天井に飛び乗ると、薄い天井がベコンと凹み、フロントガラスが粉々に砕け散った。
あ~あ。
アゼリーナさんの魔法が放たれた。周囲に明るいオレンジ色の火炎渦が発生して直径を広げていく。大量の蜂が燃えながらぽとぽと落ちる。
甲冑の魔力ブーストすげー。
「あの、ごめんなさい...大丈夫?」
「大丈夫!この程度どうってことないです」
倒れている敵を確認すると、全員がまるで養蜂業者のように蜂に対する完全防護服だった。
蜂を増やして何を企んでいるんだか。
目撃者を消そうとするあたり、ロクでもないことに違いない。
少し進んだ道の左右には6台の大型荷車に載ったでかい木箱があった。中身は鬼蜂の巣だ。ちょうどいいので左腕の内装火器の試し撃ちを兼ねて焼き払った。
その武器は火魔法を放つ。高密度の明るい炎が細いままで一直線に飛ぶところはビーム兵器にしか見えない。命中するとさらに明るく光って高熱を発するところを見ると、ファイヤーボールの応用だろう。射程はファイヤーボールの2倍くらいある。
襲撃者の背後にいるはずの敵組織に情報を残さないため、13人の死体はアイテムボックスに回収した。
巣箱を焼き払った跡もできれば残したくないが、大量の灰の山は残る。これをアイテムボックスに入れるのはなんか嫌だ。どうせ落ちている蜂も放置だし。
殺さなかった1人は縛りあげて軽トラの荷台に転がした。念のため、魔法詠唱できないよう口にきつくに布を噛ませている。
ヒールは使ってやらない。
骨が折れたとか騒ぐ元気があるなら死なないだろう。
生け捕りにした理由は、戦闘に参加していないかったので偉い奴かもしれないと思ったからだ。実際偉そうだし、偉いのだろう。
車のフロントガラスが無くなったので、ファイヤーストームを前方に放ちながらアゼリーナさんが前を走ってくれている。ときどき落としきれなかった蜂が飛んでくるが、助手席の2人も魔法使いなのでなんとか迎撃できている。
これが、慣れると案外楽しい。
横の2人はきゃっきゃ騒ぎながらファイヤーボールを放っている。
「ごめんなさい。魔力切れた」
「わたしも残り少ないよ。移動する前にだいぶ使っちゃったから」
「任せろ。オレは余裕だ」
本当は残MP32しかない。だが問題ない。オレの動体視力なら、消費MP1に抑えたウィンドカッターで3匹くらい簡単に落とせる。
ブオンッと飛んだ刃がぐんっと曲がり、連続で4匹の蜂を切り裂いた。
「「すご~い!!」」
これ楽しい。
*
鬼蜂エリアを抜け、6人組を車から降ろした。
彼らの冒険者証を見ながら、冷徹なナチス士官になったつもりで無感情な声を出す。
「では、ここまでだ。残りは歩いてくれ。さっき見た通り、我々は極秘任務を遂行中だ。もし見たことをしゃべったら..不幸に見舞われることは理解しているな」
6人とも青い顔で頷く。軽トラや魔導甲冑を見た上に、謎の組織との戦闘まで起きたのだ。嘘を疑う余地はないだろう。おまけに『災厄』も一緒だし。
「あのっ、助けてくれてありがとうございました!」
「情報は絶対漏らしません!」
「「絶対しゃべりません!」」
「助かったぜ。恩人を裏切ったりはしねえ」
「ゼロ距離さん、ですよね。今度、あの、
お礼に..いえ、絶対しゃべりません!!」
ん?
彼らの荷物である人力荷車をアイテムボックスから出すと、オレ達2人は軽トラで走り去った。
荷台では捕虜が呻いている。
細かく砕けたガラス片が車内で跳ねる。
「こんなにしちゃって、本当に、ごめんなさい」
「大丈夫ですって。気にしないでいいですよ」
「ちょっと止めますね」
車の窓を開けて横に壺を出した。
ちょっと高いが、座ったまま手を伸ばして黒いつるつるの部分に手が届いた。ペタッと手のひらを付ける。
「壺へ魔力注入してます」
これ一回でMP128だ。
「よし、これでオレの魔力は空っぽ。街へ着くまで、回復するたびにこれやりますね」
あんまり頻繁に止まるのもかったるいので10分か15分くらい走っては壺に魔力を入れた。人に見られても、近くなければ気にしない。
「知ってる、つもりだったけどここまで回復早かったのね。異常よ」
「まあ量は少ないですけどね。魔力を貯められるようになってよかったです」
街が見えたところでアゼリーナさんも残りの魔力を全部入れてくれた。
これでもうガス欠の心配なく壺を飛ばせる。
壺から甲冑へのエネルギー充填もできる。
ところで壺の見た目だが、横から見るとこの『壺』という漢字に似ている。
ちょと不気味でカッコいい。
高さは3~4mかな。
《納屋44》
・帝国歩兵三型装備=魔導甲冑三型に短剣と長銃を装備したもの。
・長銃は背中に装着して右肩の上に出ている。
・魔導甲冑を装着して魔法を使うと6.5倍の威力になる。
・アゼリーナさんの杖は水属性4.2倍、水以外は2倍なので甲冑(6.5倍)を使ったファイヤーストームなら杖の1.8倍の半径(90m)内の蜂を落とせる。
最初にアゼリーナさんは水魔法が得意という設定にしたので水の杖を持たせています。水属性の攻撃魔法出てこないけど設定だけはあります。




