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40.喪女な魔女とチョロイ男

2022年8月18日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。

《納屋40》


 石斧戦士の墓を作り、オークの集落だった場所を後にした。


 足首粉砕はむちゃくちゃ痛かった。これまでの人生で一番痛かった。やつもそれで納得して成仏していたらいいのだが。神も仏も信じないオレだが、それでも思う。オーク用のあの世があって、そこで『あの人間の足首を握りつぶしてやったぜ』と仲間達に自慢して賞賛されていたらいいなと。

 この右足首にもそれくらいの価値はあるずだ。


 さっきは焦ってMPを使い切ったのが間違いだった。きっちり引き付けて連射していたら(かわ)せるわけがないのに。


「なあ、ボルフはもう一度あいつと戦ったら勝てるか?」

「当たり前だ。この斧じゃ分が悪いが、もっと速い武器ならまず負けねえ。お前だって無傷で勝つ自信があるんだろ?」

「もちろんだ。さっきはしくじった。もし、もう一度戦う機会があるなら瞬殺してやる」


 オレとボルフは顔を見合わせた。

「...」

「...」


ザック「あいつなら、もし、なら、とは言わねえだろうなあ」

ボルフ「だろうよ」


 しばらく無言で歩いた。

 あの眼光が刺さっていたのはオレだけじゃなかったようだ。




 アドルが羨ましそうに言った。

「恐ろしい威力の爆裂魔法だったな。俺もいつかはそれくらい強力な魔法を使ってみたいものだ」

「同じ火属性だし、そのうち使えるようになるんじゃないか?」


 ファイヤーボール2発しか撃てないとはいえ、魔法を使えはするのだ。どうにかしてアドルの能力を底上げ出来ないだろうか。後でフリントロックの知識を掘り返してみよう。


アドル「エドよ、魔法剣を見せてもらってもいいか?」

ザック「俺も見たいぞ」

「「俺もだ」」

「ほらこれ『オーガ殺し』って銘があるんだ。試してみていいぞ」


 やはり気になっていたか。ボルフあたりはいけるかと思ったが誰も雷撃を発動できなかった。


 そのボルフが一番あきらめが悪い。

「ぬう~、うらっ!うがあっ!!クソッ、エドにできてこの俺様にできねえとはな」

「コツがあるんだ。後で教えてやるよ」


 *


 草原に出たら街の近くまで車で移動する。もう、いちいち驚かれるのも面倒くさいので取り合わず、犬は荷台に載せて出発だ。30分くらいで街が見えてきた。

「やっぱり楽でいいな」

「へっ、俺なら自分で走った方が速いぜ」


 *


 冒険者ギルドへ戻った。

 まだ午後の早い時間なので人は少ない。

 真ん中の窓口にはフェレーナさんがいる。この時間は退屈していないだろうか?

「フェレーナさん、ただいまー。今日も大収穫でした」

「おかえりなさい。あんたたち、ずいぶんボロボロね?」


「あはははは。今日はなかなかの激戦だったのでまあこれくらいは」

 メンバーの見た目が焦げているのはオレの爆裂魔法のせいだ。


 フェレーナさんがじっとオレを見る。

 後でお説教か?

 この人はくどくど言わないとは思うが。


 今日持ち込んだオークは18頭だ。

 人口4000人ほどのこの街で、こんなに大量の肉を売ったら相場が下がらないだろうか。実際どうなのか解体場のおやっさんに聞いてみた。


「この程度じゃ大した影響はないぞ。大量に入荷したら、魔法鞄持ちの商人が隣国へ運ぶからな。今回は半分だけ街の肉屋に卸すが、残り半分は商人を呼び出すからしばらく預かっててくれや」


 その後の数日間は屋台の串焼きが1~2割安くなっていた。

 犬肉亭の猫女将にもお土産として肉を渡したので、それから数日間はオーク肉の特盛が宿の看板メニューになっていた。

『うちは豚肉亭じゃないんだけどねえ、あはははは』

 

 査定額は合計で金貨44.3枚になった。

 そのうち、巨大棍棒を振り回していたボスオークの分は金貨8枚と討伐報酬の小銀貨6枚だ。

 巨大棍棒は拾ってきた。使い道は思いつかないけど。


 水中へストーンバレットを撃ち込んで仕留めたサハギンは予想より高く、金貨1.5枚だった。

「切り傷じゃなく、穴だからな。これならまあまあ広い革が取れるぞ」


 治療で消費した特級ポーションの金貨20枚を経費として引くと、残る利益が半分だ。これは痛い

 特級は使わずに魔法のヒールにしておけばよかった。それか、金貨2枚の上級ポーションなら2本で特級と同じ回復量になるし。


 本当は黙っていてポーション代はオレの持ち出しにするつもりだったのに、みんな忘れてないんだよな。


 分け前は金貨4.8枚ずつになった。


 ボルフが、う~むと唸っている。

「にしても稼げるもんだな。エドとたった2回、近場へ狩りに出ただけで金持ちになっちまった。まるで実感はねえが」

「経費20枚は痛かったがな」

「それでもこれだけ稼げるのは普通じゃねえ」


 獲物にでかいボスオークが入っていたので、どんな戦闘だったのかギルド職員に聞かれた。やはり今は暇なのか、フェレーナさんやアゼリーナさんまで話を聞きに来ている。

 フェレーナさんには重症だったとか教えたくないのだが、そんな都合など知らないザックがオレの活躍を大げさに話す。


「最後に立っていたのは魔法使いのエドだけだった。エドは一歩も引かず、躊躇(ちゅうちょ)なく踏み込むと敵の首に剣を振り下ろした。そしてええーー、バリバリバリっ!と必殺の雷撃をお見舞いしたあっ!」


 『そんな状況で魔法かよ?』とか『え、あの人、雷撃を使えるの?』とか反応する人が少なからずいる。


 足首が砕かれる場面へ話が進むのを止めようと、ザックに首を振っても話は止まらなかった。

「満身創痍で死んだはずの敵は最後の執念で生き返り、エドの足首をガシッとつかんだ。そしてっ、バキバキバキッと骨を砕いてしまったあー!」


 すぐ後ろでフェレーナさんが短く息を吸う音が聞こえた。声に出さなくても間違いなく悲鳴だ。本当は大して危ない状況じゃなかったと後で印象操作しなければ。


 さすがにザックも一番まずいことを話すほど馬鹿ではなく、気絶している間に骨折が勝手に治ったり、目が光ったことまではしゃべらなかった。右足首はポーションのがぶ飲みで治したことにした。


 近くにいた人に肩を叩かれた。

「痛かっただろ。よくやったな」

「カッコいいじゃねーか、斬り込む魔法使いさんよ」

「あなた凄いのね。この後は、あっ」


 フェレーナさんがオレの脇腹をドスッと小突くと、何か言いかけた女子職員を引きずって出て行った。


 アゼリーナさんにぐいっと袖を引き寄せられ、耳元で(ささや)かれた。

「後で来て」

 それだけ言うと彼女も立ち去った。


 ん?

 ゾクッとして周囲を一瞥(いちべつ)すると数人の女子職員の目が──まるで獲物を狙う猛禽類のようだった。


 他のメンバーは楽しそうに、がやがや話している。

「ザックよー、お前ら絶好調じゃねーか。もう十分Cランクに上がれるだろ」

「おう、まあな。遠くはないだろ」


 誰かがオーク狩りで似たような経験があると言う。

「たまにいるな、ボスじゃなくても妙に強いオークが」

「オーク狩りに慣れてきた頃に出くわすんだよな」

「今回生き延びたお前たちは、今後の生還率が大きく上がったな」


 その日以降、積極的にオークを狩りたいとは思えなくなった。ゴブリンは最初から嫌いだが、不思議とオークを嫌いだと思ったことはないのだ。

 それでも出くわしたら襲われるので、その時は容赦なく狩ってやる。


 *


 ギルドの2階にあるアゼリーナさんの部屋へ向かった。

 ドアが近ずくにつれて息苦しくなり妙な動悸がする。


 部屋の前まで来るとドアが開いた。

「入って」


 薄暗い部屋に彼女の黒い輪郭が溶け、色白の顔と白い襟元が浮き上がって見える。

 白い手に引かれて中へ入るといつもの香の匂いがする。いい匂いだ。深呼吸すると動悸が収まっていく。


 いつものお茶を出された。

 これを飲むとすごく落ち着く。


 長い黒髪で色白なアゼリーナさんはいつもどおり綺麗だ。ここでなら誰はばかることなく彼女に見惚(みと)れていられる。


「怪我が、ちゃんと治っているか診て、あげる」

「大丈夫なはずですよ」

「そうは、見えないわ。頭までボロボロよ」


 彼女に手を引かれるままに、部屋の奥からつながる隣の小部屋へ移動した。


「ここに、寝て」

 もう平気なのだが、ここは従っておく。

 ベッドに寝ると、彼女がオレの右足首を撫でる。


「砕けた骨を安い、ポーションできれいに治すのは、難しいわ」

「もう完全に治ったはずですよ」

「大丈夫、任せて。見えない傷も、きれいに、治してあげる」


 話が噛み合っていない気がする。でも、どうでもいい。優しく微笑む彼女の前では些細な違和感も長くは意識に残らない。


 足首を軽く押された。

「痛くない?」

「あ、ちょっと痛いかも」

「やっぱり」


 彼女の手が上半身を探る。

「ここと、ここは?」

「そこも少し痛いような」

「ふふっ。診てよかったわ」

 診てもらってよかった。不思議な力が発動しても治っていないダメージがあったなんて。


 彼女が優しく微笑みながら小瓶を出した。

「この薬はあなたの血から創った専用の回復薬...不思議ね、あなたの血にはほとんど魔力がなかったわ。だから半分わたしの血も使ったの」


 妙に体がだるい。寝たまま薬を飲もうとしたら上半身を抱き起こされた。

「さあ飲んで」


 サラサラの液体でほんのり甘く、回復ポーションよりずっと飲みやすかった。

 飲み干すとまた寝かされた。


 薬が体に染み渡り、全身の感覚が鋭敏になっいく。

 じんわり体が熱くなって心拍数が上がる。

 少し息苦しくなり、口で深く呼吸する。


 指を撫でられるとピリッとした感触に体がビクッとなった。それが腕を通して伝わり、頭の奥底まで痺れさせる。

「よく通るでしょう。わたしの血も入っているから」


 頬を撫でられ、体を撫でられるとゾクゾクでもう何も考えられない。

 彼女の美しい顔が近づき、髪が顔にかかるとさらに心拍数が上がった。

 耳元で(ささや)く彼女の声がぼうっとなった頭に響く。


「よく聞いて。あなたは(タチ)の悪い女に狙われているわ。それも1人だけじゃない。これからは用心しないと危険よ」


「そうなんだ...」

「そうなの。腕力だけが取り柄の、質の悪い女達に狙われているのよ」

「それは怖いです」

「安心して、わたしが守るから」


 なんて頼もしい人だろう。

 頼もしくて、優しくて、とてもとても綺麗なアゼリーナさん。

 この人が大好きだ。ずっと一緒にいたい。


「アゼリーナさん、大好きです。あなたとずっと一緒にいたい」

「うれしいわ。わたしもあなたが好きよ」

 痺れた頭の中に彼女の涼やかな声が反響する。


 不思議な響きの言葉を(ささや)かれた。繰り返し、繰り返し、耳にかかる吐息と声に脳の奥底が痺れる。ずっとこうしていたい。


 片手で髪をかき上げながら顔を近づけキスされた。全身が痺れて意識が飛びそうになるくらい気持ちいい。彼女の背中に左腕を回すと、ゾクゾクする感触と一緒に彼女の手が服の中へ入ってきた。


 *


 寝てしまったのか。外は暗いようだ。

 たしか、体を診てもらったら意外とダメージが残ってたんだよな。それから、えーっと...薬をもらって寝ちゃったのか?

 すごくいいことがあったような気がするのに思い出せない。


 奥にある蝋燭の光に長い髪のシルエットが浮かび上がる。


「気分はどう?」

「もうすっかり、あ...」

 起きようとしたら裸だった。

 服は?

 きれいにたたんで横に置かれていた。ベッドの横に座る彼女が焦るオレの頭を優しくなでる。


「もう大丈夫よ。きれいに治ったわ。お茶を入れたから来て」

 軽くキスをすると彼女はベッドを離れた。

 気持ちのいい余韻に数舜ぼうっとなり、はっとしてそそくさと服を着た。

 歩くと少しふらつくが、心地のいい疲労感だ。


 手を引かれて彼女と隣り合わせに座り、お茶を飲む。のどが渇いていたのでありがたい。密着して座る彼女の体温と柔らかさが気持ちいい。


「もう気分が良くなったでしょ」

 お茶を飲んだら、ふらついていた頭が軽くなった。

「あの、オレ、...」

 彼女はためらうオレの口に人差し指を当てて首を横に振る。

「今日はすごく疲れていたのね」


 頭は軽くなったが、彼女の声が不思議なくらい気持ちよく頭の中に響く。


「お師匠、から伝言。ポケットを見なさいって」

「あ、忘れてた」

「どうせ、大した用事じゃないでしょうけどへそを、曲げたら面倒よ」


 アゼリーナさんのどんな言葉も、涼やかで気持ちのいい響きとなって頭の中に余韻を残す。


 異次元ポケットの中にはディメトレーヤさんからの手紙が入っていた。

『私のことなんか忘れてたでしょ。酷い男ね。今後もし、エバーデラント皇国関連の情報が入ったら何でもいいから教えなさい』


「お師匠の、戯言(たわごと)には付き合わなくても、いいけど、知ってることがあれば伝えてあげて」


 最近、隣国の動きが怪しいのでギルドが情報収集しているらしい。

 とりあえず返事を書いた。

『教会の馬車を見ただけで、ギルドが知っている以上の情報は無いですよ。でも、その国の元軍人が仲間にいるので情報を得やすいかもしれないです』


 アゼリーナさんがオレ専用に作ってくれた、2種類の超強力な回復薬1本ずつをお土産に持たされて部屋を出た。


 今日はアゼリーナさんと別れるのがいつになく名残惜しい。


 *


「ただいま」

「おかえりなさい」

 オレの胸で鼻をスンスンするフェレーナさん。

「...まっ、いいわ」


 何?


「あの、今日は心配させてごめんなさい」

「無事に帰って来てくれてうれしいわ。今日は大変だったみたいね。色々話したいことはあるけど、あなたの話から聞かせて」


 フェレーナさんの声がいつになく気持ちよく頭の中に響く。

「どうしたの、ぼうっとしちゃって?」

 余韻に浸った後、はっとして言おうと思っていたことを思い出した。


 彼女を安心させるために考えた『本当の戦闘経過』を話す。

「...という感じで実際は余裕でしたよ。ザックは誇張しすぎだから」

「分かったわ。冒険者はそうやって強くなっていくものだし。痛い目にあったら次はもっと慎重になるわよね」


 さすが、冒険者ギルドの職員だ。色々飲み込んでくれているのが分かる。くどくど言わない人はありがたい。


「イタタ」

 耳を引っ張られた。

「よく聞いて。こっちが本題よ。あなた、今日からギルドの女子職員たちに本格的に狙われてるから、今後は気を付けてね」


「あ」

 あれか。


「気づいてはいるみたいね」

「あははは。大丈夫。もし他の子に誘わても断るから」


「断る隙なんて与えるわけないでしょ、成人前の小娘じゃあるまいし。誘う理由を作って酔わせて連れ込むくらいは当たり前よ。あなた弱いでしょ、お酒も腕力も」


 じっとオレを見るフェレーナさん。

 怖いことを言われているような気がするが、何故か今はどんな言葉も心地よく響く。

 両手で顔をがしっと抑えられた。


「呆けた顔してないで、ちゃんと聞いて。すり寄ってきた女と2人きりになったらダメよ、絶対に」

「いやあ、でも女子だし、普通は友達から始めて、気が合えば恋愛するとかでしょ」


「は?」

 目を丸くされた。


「本気で言ってるの、それ?」

 え、オレ変なこと言ってる?

「いや、あの、オレの故郷ではそういうものだったから」


 フェレーナさんは難しい顔でぶつぶつ言いながら考え込んでしまった。『だからこんなに呑気なのね』とか聞こえてきた。それに加えて下を向いてため息を吐いた。


「は~...そのチョロさはそいうことだったのね」

 向き直ると、真剣な顔でガシッとオレの両肩をつかんだ。


「ちょっと信じられないけど、あなたの故郷ってまるで春のお花畑のように平和な世界だったのね。そんなんじゃすぐに(タチ)の悪い女にとっ捕まって首が回らなくなるわよ。ここには『恋愛』なんてヌルイことを言う女はいないの。

 こっちの常識を一から教えてあげるから、よく聞いてね。

 私たちが苦労してギルド職員になるのはいい男を捕まえるためよ。もっとはっきり言えば、稼ぎがよくて長生きしそうな男をね。どの冒険者が有望か、一番情報を集めやすいのがギルド職員だってことは分かるでしょ」


 だから営業スマイルが板についた美人ばっかりなのか。夢も希望もないな。

「それって、職権乱用では?」


「役得よ。

 仲のいい女子同士で情報交換もするから、私たちは有望そうな男全員の稼ぎや特技を把握しているの。あなたのアイテムボックスくらい、知らされてない子でも見当を付けてるわよ。

 大猪を持ち込んで以来、あなたは上位の注目株よ。それが今回の話で頭一つ飛びぬけて強い魔法使いだってことが明確になった。その上、誰がアイテムボックス持ちなのかも確信できた。まあ、ザック達なわけないから最初からバレてるようなものだけだど。

 そんな優良物件がまだDランクで、どう見ても自分より腕力のなさそうな(ヤサ)男だなんて、とっ捕まえて連れて帰るしかないじゃない。ギルドの女子職員はみんなそれなりに強いのよ」


「....」

 うう、肉食獣と猛禽類の巣窟か。マリーにすら腕力で勝てないし、これは笑い事じゃないかもしれない。


 一息ついて優しい目になったフェレーナさんに抱きしめられた。そして、耳元で甘く(ささや)かれた。

「安心して。あなたは私が守るわ。獲物を狙う人食い(わし)のような女達も追い払ってあげる」


 ゾクッとして思わず息をのんだ。

「あら、そんなに耳弱かったかしら?ふふっ、それじゃもう一回。あなたは、わたしが、守ってあげるわ」


 耳に吐息がかかり、甘い声がとても気持ちよく頭の中に響く。脳が痺れるようだ。もう全て彼女に任せるしかない。美人な上に、なんて優しくて頼りになるんだろう。

「フェレーナさん、大好きです。最初に知り合えたのがあなたでよかった」


「ええ、安心してまかせて。でもね、残念だけど私が独占できるわけじゃないの。前にも言ったけど、あなたくらいの稼ぎがあるなら3人、いえ4人は妻を持たないと周りが納得しないわ」


 増えてるし。

「前は3人て聞いたような」


「その時は情報が少なかったからよ。

 とりあえず職場の女子達には、この私が(....)、あなたの第一彼女だってことを話したから、少しは牽制が利くわ」


「オレはどうするのがいいんでしょう?」


「受付窓口の子たちには特に気を付けて」

「それは何故?」

「受付はギルド内で一番都合のいい役職よ。それを他の女達を蹴落として獲得してるんだから曲者揃いに決まってるでしょ」

「ああ、なるほど」


「私の左側、そっちから見ると右隣ね。彼女は一番若いし新人だから、まだよく分かってないわ。それでもあなたに目をつけるくらいの勘の良さはあるみたい。それにもちろん、あなたより強いわ」

 そういえばいたな新人っぽい子。


「そっちから見て左隣、シルビエーラはギルド内でも一番の要注意人物よ」

「え、そっちはふわっとして優しそうな人にしか見えないんですけど」


「ああ、やっぱり(だま)されてる。中身までふわっとしたのがそんな場所にいるわけないでしょ。Cランクのハルバート使いで二つ名持ちよ。狙った男はとりあえずあの嘘くさい笑顔で騙して、巣に引きずり込んじゃうの。あっちを選ばずに、私のところで冒険者登録したあなたは幸運だったわ」


 笑いたくなるくらい例え方が酷い。

「もしかして、仲悪いとか?」


「そんなこと無いわ。ただ、あの鉄壁の笑顔が苦手なだけ。

 あいつとあなたが街中で『偶然』遭遇したらと思うと気が気じゃないわ。いくらあなたがオーク相手に強くても、蜘蛛みたいな女には為す術がないでしょ。

 早く枠を埋めてしまいましょ。二番目はアゼリーナにしなさい。それなりの地位があるから都合がいいわ。女子職員で唯一のヘタレ女だし、男は寄ってこないし、向こうも気があるみたいだし、きっとうまくいくわ。それに、あなたも好きでしょ、ああいうタイプ」


 う、分かるのか。

「あははは。アゼリーナさんには色々お世話になってるし、仲はいいと思うので今度それとなく話してみます」


「それとなく?」

 あ、怖い目になった。


「この期に及んでまだお花畑みたいなこと言わないでしょうね?強引に誘ってあげなさい。男が寄ってこない魔女だから、少し仲のいい男に言い寄られたらコロッといくわよ。貸しになるし、この機会に誰が一番か教えてあげるわ」


 そう言い終わると、彼女は悦に入った顔で微笑んだ。

 フェレーナさんが言う、ヘタレ女の落とし方はオレには合わない。歯が浮くようなセリフも教えてもらったけど、ぐいぐい攻めてキザなセリフを吐きまくるなんて、想像したら自分が気持ち悪い。


 この世界の恋愛は身も蓋もないな。厳しい生活環境が背景にあるのは分かるけど、酷すぎないだろうか。

 はあ。

「ハーレムしたい男には都合がいいよなあ」

 鼻で笑われた。

「高ランクの筋肉自慢にはそういう人もいるわね。でも、その甲斐性もないのに不誠実な事したらすぐに切り落とされるわよ」

「ひうっ」


 その夜、いつものようにオレをベッドに押し倒すフェレーナさんはいつもより優しかった。


《納屋40》

2種類の超強力な回復薬:よくわからない効果もあるかもだけど、超強力なのは本当


「酔わせて連れ込むくらいは当たり前よ」

「それ、身近にもいたような気がするなあ」

「あら、危ないわね。できるだけ近づかないようにしないさいよ」

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