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38.戦士の墓標(前編)

《納屋38》


 3つに分かれていたオークの小集団のうち、小さい方の2つを片付けた。残るは8頭の集団だけだ。


 臭いや音でばれないように慎重に接近し、端っこの個体を目視できるところまで来た。ここまで来れば集落全体がオレの索敵能力の範囲内だ。


オレ 「8頭じゃなかった。11頭いるぞ。しかもボスらしい強敵の気配もある」

ザック「森の中だしな。空からじゃ全部は見えないか」


 一応、視界外の気配を探れるボルフは解せない顔だ。

「そこまで正確に分かるのかよ」

「ああ、この距離なら敵の配置や強さがまる分かりだ。お前だって気配が分かるんだろ」

「そんな細かく分かるわけねーだろ。強い奴がいるのは俺にも分かるがな」


 さらに接近した。

 オークの集落には小屋と呼ぶにも粗末な、屋根だけの住居らしきものがある。その中心は広場になっている。

 敵の配置は5頭がこちら側に近く、残り6頭があちら側だ。遠いうちの3頭は死角になっていて見えない。


ザック「すでに警戒されてるな」

アドル「2~3頭あっち向いてくれたらいいのだがな」

オレ 「これじゃ1頭ずつ釣って順番に倒すのは無理だな」

 たぶん、釣ったらリンクして『全部来たw』って言うはめになる。

ボルフ「あんまりここにいると風向きが変わって気づかれるかもしれんぞ」


 戦力は十分だ。近い方から順番に処理すればいいだろう。

「また同じやり方でいいか?オレが前に進みながら魔法を一発ずつ当てる」


 魔法使いのアドルは今一つ信じられないようだ。

「待てエド。それは謎の呪文を使わずに連射するということだろう。本当に大丈夫か?」


「心配ない。敵に囲まれても威力の低下なしに連射できるようになったぞ」

「自信はありそうだが..」

「ああ。大丈夫だ。それにこの魔法剣もある。一対一なら弱らせていないオークでも相手にできる」


「エドよ、ほんの数日会わない間に何があった?人はそんなに急に強くなれるものではないぞ」

「ちょっとな。この数日で魔法が上達したんだよ。今からそれを見せる」


ザック「まあエドだしな。ストーンバレットの威力も見たし、信じよう。だが、1人で突っ込ませるわけにはいかん」

アドル「ああ、危険すぎる」


 オレの左右にロンセルとボルフが並び、3人が横並びで突撃することになった。ザックとアドルには前列の3人が通した敵を倒してもらう。


「射線はふさがないでくれよ」

ロンセル「分かってる」

ボルフ 「おうさ」


 すでにMPも回復して満タンだ。

 オレを先頭にオーク共にバレないようにできるだけ接近する。すぐ後ろには両手武器を持つボルフとロンセルが続いている。


 これ以上は隠れて接近できないところまで来た。

「近い方の5頭に一発ずつ当てたら、オレは一番奥にいる奴へ射線が通るまで走り続ける。トドメは頼んだぞ」

「おう」

「任せろ」


 全員一斉に立ち上がると敵に気づかれた。オレとボルフとロンセルの3人が横並びで突撃し、後ろには弓を構えたアドルとザックが続く。


 気づいた敵が何か叫び、集落全体が動き出したのが索敵で分かる。


 近いやつらへワンドを向け、一撃では殺さないよう手加減して散弾を放つ。

「石弾、石弾、石弾、石弾、石弾!」

 全弾命中。


 最後の一発だけは5頭のうち一番遠い奴を仕留めるつもりで放った。長楕円になり速度が上がった石弾は、これまでの丸玉では貫通できなかったオークの頭を易々と貫通する。

 首から上が赤い血しぶきと肉片となってはじけ飛んだ。

 軽く驚きの声が上がる。

「なっ...」

「ヒュー!」

 頭を無くした肉塊がゆっくり倒れた。


 もはや通常のオークなど敵ではなかった。雑魚10頭を蹂躙、と言っても魔法は適度に手加減して、5人が役割分担しつつ10頭の雑魚オークを倒しながら進んだ。


 最後尾にヌオッと、巨大な棍棒を持つでかい個体が現れた。

 こいつがボスか。

 自分で仕留めるか迷い、一瞬だけ後ろの状況を確認した。すぐに片付きそうだ。ラスボス戦を邪魔する雑魚はいないので、少しだけ弱らせて戦いたいやつに譲ることにした。


「石弾!」

 握りこぶし大の石(つぶて)の集団が飛んだ。

 残MP15。


 ボスオークが太い棍棒で顔をガードすると、『ドココココッ!』と木片を飛び散らせながら石が跳ね返った。2本の上向きの牙が生えたでかい顔が唸り声を出しながらオレを(にら)む。


 くそっ、迷ったせいか。

 やっぱり倒してしまおう。この杖で消費MPを10に増やしたウインドカッターの威力は4.8倍だ。防御ごと首を飛ばしてやる。


 ボスへ杖を向けたところでボルフが叫んだ。

「おい待て!!そいつは俺にやらせろ!」

 振り返るオレとすれ違いに、斧を構えるボルフがボスオークへ走り寄った。

「任せた!」

 こいつも、こういうの好きそうだもんな。


 さて、ボルフの勝負を観戦だ。

 撮影用にスマホを出す。

 ボスオークの身長はボルフの1.5倍よりちょっと高いくらいか。横幅は倍以上だ。そいつが両手持ちの馬鹿でかい棍棒を空振りして地面を叩くとズシンと地響きが伝わってくる。あんなのを人間が食らったらミンチだ。まあ、ボルフに当たるとは思えないが。


 実際、余裕そうなので注文を付ける。

「お~い、あんまり肉を痛めるなよ。きれいに仕留めたら金貨6枚にはなりそうだ」

「わあってらー!」


 棍棒の空振りでゴバッ!とオークの小屋が吹き飛ぶ。バラバラと飛んできた木材に観戦する四人が巻き込まれた。

「うわっ!」

「痛え!もういいから仕留めろ!」

「がはははは!ザマーねえな」


 スマホは守った。いい戦闘シーンが撮れるから、オレとしては長引かせてほしいのだが。


 巨大棍棒がゴウッと空を切り、地面を叩けば振動でスマホの画像も揺れる。大迫力だが、ボルフにはかすりもしない。おちょくる余裕まである。

 撮影しているとは知らないはずだが、素晴らしい立ち回りを演じてくれた。


 ボルフからの攻撃は一回だけだった。棍棒の空振りに合わせて、ボルフが全力で一回転させた斧が豚面の側頭部にめり込んだ。目玉が半分飛び出し、その一撃で即死だ。

 なるほど、お得意の回転技を決めやすい相手だったわけだ。


「「「お~」」」


 パチパチパチパチ


「やるな~、カッコよかったぞ」

「さすが自称一匹狼」


 これまでに見た中で最大のオークを仕留めた。通常の4倍は体重がありそうだ。ミシャーナ達が倒した、剣で斬撃を飛ばすオークの方が強かったとは思うが。

 この森で見たオークが持っている武器は今のところ棍棒だけだ。山のオークと違って、まだ石器時代にも入っていないのだろうか。


 あっという間に狩りが終わってしまった。まだ昼前後だし、もうちょっと何かやりたい。

「もうちょい先まで行ってみるか?」


 ボルフが反対した。

「あ~、やめとけ。すでに十分すぎる稼ぎだ。俺達ならもう少し進んでも大丈夫だろうが、この辺りもすでにDランクが来るような雰囲気じゃねえぞ」


 ボルフがそういうなら、と全員納得して戻ることになった。

 川岸まで戻って焼肉パーティだ。匂いに釣られたのか、ゴブリンが数匹接近してきた。ずっと茂みに隠れて出てこない。こっちは5人もいるしな。今更ゴブリンごときでは大した稼ぎにならないので見逃してやる。


 アドルが解せぬ顔で言う。

「ボルフは期待通りの強さだったな。だが、エドはこの前まで普通の魔法はろくに使えなかっただろう。それがなぜ敵陣に突っ込んで自在に発動できるんだ?そんなことが出来るのは高ランクの手練れか、戦闘狂だけだぞ」


 ロンセルがしようがない奴を見る目を向ける。

「どっちかというとエドは戦闘狂だろ。魔法使いなのにやたらと前に出たがるし」

 戦闘は好きだが、戦闘狂ではない。

「こんな知的な魔法使いをつかまえて戦闘狂とはひどいなあ。あっはっは」

 全員が胡散臭い奴を見る目になった。


 人のことをとやかく言いながらも、戦闘があっけなく終わったのでボルフ以外はもの足りなそうだ。

 こいつらも人のこと言えねーな。

 オレは魔法を存分にぶっ放せて楽しかったけど。


 炭火にあぶられる肉を眺めていたロンセルが言った。

「エド一人でも殲滅できたよな」

 全員がオレを見る。

「うん、まあ、やれるとは思うぞ。でも、あの数だと全く余裕がないから、やりたくはないな」


 肉が焼けた。

 みんな夢中で肉にかぶりついて缶ビールをあおっている。

「体を動かした後にこの、冷えたしゅわしゅわエールはたまんねーな」

「ああ、これ以上の物はないな」

 焼き肉うまい。



 ウォオオオオオォォ-----ッ.....



 森の奥から獣の雄たけびが響いてきた。それはオレの人生で初めて聞く、いわゆる『魂の叫び』というやつだった。

 本当に感情が伝わってくるのだ。

 胸が締め付けられる。


オレ  「オークか?」

ザック 「だろうな」

ボルフ 「ああ、さっき潰した集落の方向だ」


 現場には仲間の肉片と血が残っている。

 それに加えて人間の臭いも。


ロンセル「奴らは鼻が利く。オークならきっと追ってくる」

オレ  「数がいると思うか?」

ロンセル「多くても数体だな。たまたま出かけていた奴が戻ったのだろう」

ボルフ 「迎撃するぞ。さっきより手強いと思え」


 怒りに燃える復讐者か。

 気乗りしない。

 他人事なら敵を応援したいところだ。

 せめて苦しませないよう、一撃で仕留めてやる。


 臭いを追跡してくるのなら(だま)すのは簡単だろう。森の外へ向かったふりをして迂回して戻り、一度通った道の横に隠れて待ち伏せすればいい。


 森の外へ向かう途中の細道に(わな)として、脱いだばかりのオレの靴下と酒(オーガ殺し4L)を置いた。

「足布かよ...」

「いい考えだろ。絶対に立ち止まると思うぞ」

「ああ..」

「まあ、そうだろうな」

 皆微妙な顔でオレが正しいことは認める。鼻がいい犬獣人だけは露骨に嫌そうな顔だ。


 5人は少しばらけて、さっき通過した細道の片側に隠れた。片側とは森の奥を向いて左側だ。(わな)に一番近い位置がボルフで、一番後ろにオレがいる。全員が道の片側にいるのは風向きを考慮したのと、魔法や弓での同士討ちを避けるためだ。


 全員がトランシーバーを持っている。ただし、ボルフは慣れる時間がなかったので通信を聞くだけにしてもらった。


 敵が探知圏内に入った。

「3頭走って来たぞ。止まった。あれ?戻ったな...また走り出した。妙な動きだな」

 走ってる時は明らかにオレより速い。


ザック「走りながら臭いを追えるわけないからな。気が()いて、方角が分かったら走らずにはいられないんだろう」

オレ 「恨まれてれるな、オレ達」

ザック「ま、当然だな」


 こんな時こそ非情に徹しないと死ぬ。

 頭の中で再確認。


 風2.4倍杖でウインドカッター

 一発目だけは自動詠唱

 二発目から消費MPを3に減らして収束をかける

 全滅させるまで乱射


 近接戦闘になったら考えるな

 反応しろ


 MP満タン61

 よしOK


「もうそこの大木の裏まで来た」

 ボルフが片手を上げて応える。おそらくボルフは勝つ自信があるはずだ。それでも、この状況で遊ぶ気はないらしく、最初に強力な魔法で不意打ちする作戦には賛成している。


 大木の裏から3体の復讐鬼が現れた。普通サイズだ。人間程度の身長で筋肉はモリモリ、精悍な顔つきの若い個体に見える。

 持っている武器は先頭から木の槍、棍棒、石斧だ。特に石斧の目つきが鋭い。オレの頭の中ではやつらに敬意を払って『戦士たち』と呼ぶことにする。


 トランシーバーで伝える。

「全部強いぞ。中でも石斧が特に強い」


 石斧にはボス並みの脅威度を感じる。より小型で同じくらいの強さなら、よりやっかいだろう。


 大木から先は明らかに人が踏み均したような細道ができている。道を見つけたオーク戦士たちがまた走り出した。


 先頭の槍戦士が罠に反応したが、速すぎて止まれなかった。フゴッ!と声を上げて酒を飛び越し、着地してズザザザーッと滑る。

 次の棍棒戦士も軽くジャンプして避けた。

 石斧戦士は酒入りの陶器に蹴躓(けつまず)いてしまった。ドバッと破片ごと酒が飛び散り、前で止まっていた2体にぶっかかった。

 もう鼻は利かないのではないだろうか?


 戦士たちは立ち止まって怒鳴り合うように会話し始めた。

「ブガガーッ!!グガゴッ!」

「ブガッ、ゴッ、ガッ!!」

「グゴガッ!!」


 今だ。一発で全部仕留める。

 茂みから杖の頭だけ出し、声を抑えてMP量2倍でウインドカッターを詠唱開始。

 自動詠唱の威力がさらに4.8倍された、不可視に近い風の刃がブオンッと飛んだ。


 バシュッ! バシュッ! ブゴッ!!


 ドスドスッ!


 こちらへ背中を向けていた槍戦士と棍棒戦士の首が落ちた。一緒に切断された槍の先も跳ね飛ぶ。

 最後の石斧戦士は即座に反応して2体目の首が飛ぶ頃には地面に伏せていた。伏せた直後には横からザックとアドルが放った2本の矢が命中している。矢が深く刺さっても顔をしかめるだけで声を上げず、素早く横を見て前を見た。


 追撃だ。

 隠れたままで、つぶやくように『風刃』を繰り返すと、ブオン、ブオンと光を屈折させる透明な刃が乱舞する。消費MPを3に減らしているが十分にオークの胴体を両断する威力があるはずだ。


 石斧戦士は矢が来たのとは反対方向へ飛んで避け、木の間を走り出した。右脚と右肩には矢が刺さっている。

 誘導を利かせてウインドカッターを右へ曲げるが追尾しきれない。流れ弾が後ろの木を倒し、茂みを切り裂く。視界確保のために立ち上がり、右への偏差射撃で追撃する。木々を避けるために縦向きで放ったが、それでも障害物のせいで敵まで届かなかった。ザック達の矢は1本背中に命中した。

 敵は木の幹に隠れてしまった。


 なんて奴だ。

 初見でウインドカッターを(かわ)すのは、まず不可能のはずだ。

 音に反応しているのか?


 MP残量は36。

 次こそ仕留める。MP30を使った爆裂魔法をぶちこんでやる。


 放つ前に仲間へ警告する。

「まだ出るなよ。特大の爆裂魔法を使う」


 詠唱開始。

「’&%##&()(’&&$”{‘@」


 『フゴッ!』と声が2回聞こえ、そのたびに細い棒が投げられるのが見えた。

 矢を自分で引き抜いたのか。


 4秒の詠唱が完了すると、杖の前から白く輝く光点が斜め上へ飛んだ。光点が飛ぶ速度は遅いが、隠れた相手からは見えていない。高く上げ、左へ回り込ませて頭上から当てるつもりだ。


 顔を出した石斧戦士と目が合った。

 しまった!

 飛び出した敵がズームインで迫ってくる。遅いエクスプロージョンの光点では間に合わない。

 こいつは投棄する。


 一瞬迷った。

 ウインドカッターではまた(かわ)されるかもしれない。


 横から放たれた2本の矢が走る敵に命中せず、木の幹に刺さる。


 投棄した光点が敵の背後上方で大爆発を起こし、木の幹が粉砕された。輻射熱が周囲を焼き、爆風が吹き付ける。

 あちい。

 粉砕された位置から上側の木の幹が大量の枝と葉っぱを引きずりながら落ち始めた。


 さすがの石斧戦士も、爆風と熱にビクッと反応して突っ込んでくる勢いが削がれた。


「魔力切れだ!!ウォーターボール!」

 横の茂みからロンセルが飛び出し、ボルフが続く。怒声を上げる2人に気づき、石斧戦士は一瞬横を見た。


 杖の前で発生した、ふよふよして見るからに頼りない水球が斜め上へ飛んでいく。

 残MPは2だ。

 実質MP切れなので、杖を消してオーガ殺しに持ち替える。


 敵は上昇する水球を目で追った。しかし、刀を構えたオレのことも無視できずに視線が上下する。さらに、横から武器を振り上げ、叫びながら迫る2人も無視できない。


 粉砕された箇所から上だけでも20m以上ありそうな大木が敵の背後からこちらへ倒れ始めた。残念ながら、やつに直撃する角度ではない。


 ザックとアドルが立ち上がって矢を放った。2本とも命中。右大腿に1本、右腕に1本。


 奴は水球のことを完全に忘れている。

 水球を上から落として頭にかぶせ、ぐるぐる回転させた。鼻も耳もふさがれた上に、揺れる水面で視界も大きく乱れる。

 人間5人を相手にこれでは、さしもの石斧戦士も分が悪いだろう。敵は撤退を選び、武器を振り上げて迫る2人とは反対側へ逃げた。


 逃げた方向では爆発でへし折られた大木が倒れ終わる直前だった。幹の重さに引きずられて、周囲の木の葉とこすれあいながらザザザザザーッと音を立てて大量の枝葉が落ちてきた。その真ん中に石斧戦士が巻き込まれた。


 チッ。幹の下敷きにはならなかったか。


《納屋38》

連休で調子に乗って書いていたら、長くなりすぎたので2話に分けました。

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