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37.教会が来た

《納屋37》


 魔法剣『オーガ殺し』の試し斬りも兼ねてボルフと二人でオークを狩ってみた。やつも宿代を稼げたと喜んでるし、オレも楽しかった。


 その夜はフェレーナさんの家に泊った。

 彼女はオレの背中にくっついて、焼け焦げて不揃いの短髪になってしまった頭を撫でまわしている。

「あ~、もう馬鹿ねえ。こんなになっちゃって。あなたには短髪より少し長い方が似合うのに」

「だよねえ。自分でもそう思ってるし」

「ほんとに、気を付けてよね」

「はい」


「まるで遠雷のような音だったわよ。そんなにすごい魔法を使えたの?」

「魔力を全部込めて放つ練習をしてたんだけど、突然成功するとは思ってなくてね、このザマだよ。その後はすぐに一発の魔力量を自在に加減できるようになったんだ」


 半分人間じゃなくなってることは秘密だ。彼女には少しづつ秘密を明かすつもりだが、あまり非常識なことはまだ教えない。付き合い始めたばかりで、まだ将来は見えないのだから。


「すごいわね。そんなのCランクでも無理よ。Dランクにしておくのはもったいないわ。やっぱりランクには興味ないの?」

「うん、ないかな。上がったら何かいいことあるの?」


「まず、いい仕事を回しやすくなるわ。腕利きで信用がある冒険者にしか依頼しない仕事もあるのよ」

「例えば?」

「たまにあるのが、緊急の採取依頼ね。倍以上の報酬もザラよ」

「へ~」


「興味無さそうね。Bランクにもなれば、いい条件で仕官の引き合いも多いわよ」

「そうなんだ」

「まあ、伯爵の屋敷に住んでるくらいだし、その程度じゃなびかないわよね」


「条件のいい仕事も悪くないけど、自由に狩りをしてる方が楽しいかな」

「Cランクまではそんな余裕がある冒険者は少ないのよ」


「その余裕で好きなことをやるよ。気ままに冒険したいから冒険者になったわけだし。次に伯爵達が来たら一緒に時間要塞へ行きたいと思ってるんだ」


「いいんじゃないの。あのお嬢様を連れて行くくらいだから、それほど危険はないと思うわよ。あなたが無茶さえしなければね」

 あのお嬢様はかなり強いんだけどね。


 オレの頭を撫でていた彼女の手が下に降りてきて体中を撫でまわす。そのまま押し倒されて、今夜も彼女の成すがままだ。もうすっかり弱点も知られてしまったし。


「あうっ」

「ねえ、Cランクまでは上げて」

「ええ~...ちょっ、あひっ」

「ねっ、いいでしょ?」

「あ...ちょっ、それずるい」

「あなたに依頼できると私も助かるの」

「わかったから。やる。成るから、Cランク」


 弱点を攻められて、もうどうでもよくなったオレはCランクまで上げる約束をしてしまった。仕方ない。今後は少し真面目にギルドの依頼をこなそう。


 ***


 -冒険者ギルド-


 朝一でボルフに剣術を習っていたらザックとアドルとロンセルも来た。

「なんだエド?ボロボロだな」

「一人で楽しいことでもやってたのか?」


 防具の見た目はボロボロだが表面が焼けただけで、機能には問題なさそうなのでそのまま使っている。後で買い直すつもりではいるが。

 ここでもエクスプロージョンでの自爆未遂をかくかくしかじか『ちゅどーん』と説明した。ただし、一発に全MPをつぎ込めるようになったことまでは教えない。


ザック「意外と馬鹿だな」

アドル「ああ、馬鹿で安心したぞ」

ロンセル「うん、悪くないと思うぞ」

「そりゃまた、嬉しい反応だねえ」


「今日からボルフに剣術を習ってるんだ。お前らも一緒にやるか?」

「おー、この前の軍用犬か」

「違う!狼だ」


 ザック達3人も剣は使うが、我流で少し手慣れただけの素人だ。いい機会なのでボルフをオレ達の剣術師範として雇うことになった。最初会った時には一匹狼だから云々言っていたが、師範待遇なら文句はないようだ。実質的にはパーティメンバーが増えたのと同じことなのだが。


 ザック達が稽古料金の相場を知っていた。

「そいじゃ師範殿には相場通り、一回につき4人分で銀貨2枚出そう」

「いいや、それより稽古後にあの酒を出してくれ。それとエドのアイテムボックスに便乗させてもらった方がありがたい」


「そんなもん、一緒に行動するならオマケだ。相場の料金くらい払う余裕はあるぞ」

「そのオマケがでかいんだろうが。まあ、払いたいってんなら断る理由もねえ。料金分しごいてやるから覚悟しろ」

「ツンデレかよ」

「あん?」


「あ、やっぱり酒は今後は全員平等に銅貨5枚で売ることにする」

 ビールの350ml缶なんて1本200円もしないのだが、こっちの価値でならその10倍以上になるはずだ。そんなものを大した理由もなく毎回タダで配るやつはどう見えるだろうか?

 少なくとも、対等な冒険者同士でやることじゃないだろう。


 ボルフが目を丸くした。

「たったの銅貨5枚かよ!?今この場で10本売ってくれ!!」

「オレは酒屋じゃない。あれを出すのは稽古後とか、狩りの後だけだ」

「ああ、そりゃそうか。残念だ」

 落胆した犬の尻尾が垂れる。耳もへにゃっとなった。

「ぷふっ」

 分かりやすいな。


 話はまとまったので、早速この場でボルフ先生の剣術教室の開始だ。

「素振りは剣の重さで落ちるに任せろ。力を込めようなんざ、まともに振れるようになってからだ」


「違う!右腕で持ち上げるんじゃねえ!こうだ!左を押し下げながら右腕を通して背筋を使え」


「振り終わりは前足に重さを伝えてピシッと止めろ。どの位置でも止められるようにしておけ。おら馬鹿。そうやって体が持ってかれると次の瞬間には斬られてるぞ」


「情けねえ。もうバテたか。あっという間に腕が萎えるのは貴様が下手糞だからだ。体力とは別の話だからな」


 いろいろダメ出しされているのは主にオレだ。

 やはりオレ達の中ではロンセルが一番それっぽくできている。


「よーし、いい具合にへばってきたな。それじゃ、一人ずつ俺様と勝負だ」

「チャンバラ稽古はまだやらないんじゃなかったのか?」

「無駄だとは言ったが、やらないとは言ってねえ。基礎稽古ばっかりじゃこっちも退屈なんだよ」

 確かに。やはり剣術だし、チャンバラごっこしたい。


 ザックが一番に名乗り出た。

「おう、これを待ってたぜ。俺からやらしてもらおう」

「好きに振り回していいぞ。どうせ正しくやろうなんぞ考えても無駄だ」


 ザックでは相手にならなかった。適当にあしらわれたあげく、最後は首を切るような動作で薙ぎ倒された。

 ロンセルはまあまあ正しい剣術をやっているように見えるが、ボルフ相手に歯が立たないのは同じだ。オレを含めた全員が犬の師範に一太刀も入れられずに地面に転がった。


 ちなみに稽古では今朝買ってきたばかりの木剣を使っている。ギルドから借りることもできるが、自分用を常備した方がいいと思ったのだ。防具はフル装備なので剣道よりも実戦に近い稽古ができる。


「今ので分かったと思うが、剣術と体術の境界は無い。鍔迫(つばぜ)りの間合いになったら、殴る蹴る投げるはもちろん、目つぶしや暗器には特に用心しろ」


 ごもっとも。実戦は何でもありだ。オレなら剣を振り回しながらでも魔法を放てるしな。普通の人間には近接戦闘中に魔力操作なんて出来ないから、やっぱりオレってかなり強くないか?


 稽古の後は5人で昨日見つけたオークの集団を狩りに行くことになった。獲物の数は10頭以上だが、魔法を連射できるようになった今ならオレ一人で殲滅するのも難しくないだろう。


 ギルドを出ると貴族が乗るような馬車が止まっていた。それを見たボルフが反応する。

「ケッ、教会の馬車じゃねーか」

「知り合いか?」

「俺がいた国のお偉いさんだ」


 その国『エバーデラント皇国』はブルグンドの東にある大国で、教会の勢力が強いらしい。ちなみに、リューズライト辺境伯領が属する王国はこの街の南側だ。


「何か依頼しに来たのかな?」

「さあな。とっとと離れようぜ。関わりたくねえ。いるかも分からねえ神の代理を名乗る連中なんざロクなもんじゃねえぞ」


 フリントロック時代の記憶でも宗教関連は胡散臭い。この世界では神よりも精霊信仰が一般的だ。精霊の存在は身近に感じられるのだから。

 この場合の精霊とはエーテル化思念体ではなく、一般的な意味での精霊だ。


 ギルドから偉そうなオッサンが3人出てきた。その向こうにはギルド長が見える。

「残念ですなあ。せっかくこの野蛮な街にも神の御心を広めるチャンスを与えてあげたというのに」

 ギルド長がげんなりした顔で答える。

「だから、我々は中立なのです。教会建設ならそちらの資金でご自由にどうぞ」


 ああ、そういう話か。やっぱりロクでもなさそうだ。歩きながらボルフに聞いてみると、一番偉そうで腹の出たオヤジが教会の枢機卿で、他の2人は護衛の大佐と将軍だった。


「あいつらが出てきたってことは、政変のゴタゴタが片付いたのか」

「何があったんだ?」

「皇帝が病死して、軍務大臣が自殺したんだと。実際はどっちも暗殺だろうよ」

「おお、いかにも中世だな」

「中世?」

「いや、現代っぽいと言うべきか」


 ***


 犬を加えて5人になったオレ達は街から3時間近く歩いて森まで来た。

 森の奥を目指して進む。


「止まれ!サハギンだ」

 川に潜む敵を探知した。川には丸太を二本束ねた橋がかかっていて、その真下にサハギンがいる。深い川底にカエルのような姿勢で伏せているサハギンは、揺れる水面を通して見ると胴体と手足が大小の魚の群れのように見える。


「そういえば、この川にもいるんだったな」

「水中に引き込まれたら勝ち目は無いぞ」

「エクスプロージョンなら一発だが」

「やめろ。橋がぶっ壊れる」


 3秒考えた。

「よし、ストーンバレットにしよう。以前より格段に貫通力が上がったんだ。こんな感じの楕円形の一発玉を高速で打ち出せるぞ」

 両手で楕円形を作って見せた。


 一発目は自動詠唱を使う。ザックにもらった収束効果があるワンドを使い、2倍のMPをつぎ込んでイメージによる収束も重ねる。

 4秒の呪文詠唱に続いて、長楕円になった一発玉が『ボチュン!』と水面に飛び込んだ。

 命中!

 出血しているのが見える。

 間を空けずに追撃だ。

「石弾、石弾!」

 ボチュン! ボチュン!

 追撃の2発は消費MPをさらに倍の20に増やして、自動詠唱の一発目とほぼ同じ威力にしている。


 索敵に反応がなくなった。

「死んだな。近くに浮いてくれればいいんだが」

 10mほど下流にサハギンの死体が浮かんだ。

ザック「ズタボロじゃねーか。すげー貫通力だな」

アドル「俺が知るストーンバレットじゃないぞ」

オレ 「これでも金貨1枚くらいにはなるかな?」

ロンセル「サハギンの鱗革はい防具になる。こんな状態でも半値にはなるだろう」


 獲物が戦闘でズタボロになるのは普通だし、それなりの金額にはなるはずだ。サハギンはアイテムボックスに放り込んで、全員が橋を渡った。


 あ、もっといい方法があった。

 橋をいったんアイテムボックスに収納してからエクスプロージョンを撃ち込めばよかったんだ。


 *


 オークの集落付近まで来た。

 オレの索敵範囲ぎりぎりに獲物が入る位置からドローンを飛ばして偵察する。周囲のどの木よりも高い位置まであっという間に上昇し、飛び去る点を犬が口を半開きにして見ている。

「おい、何だありゃ?」

「ゴーレムみたいなもんだ」


 木にもたれて地面に座り、送られてきた画像を見ながら操作するのを全員が上から覗き込んでいる。

「おい、何なんだそりゃ!?」

「遠見の魔法だ」


 ドローンを回収したら、スマホの録画を再生する。初めて見る不思議道具に犬は理解が追い付かないようだ。そんな犬は放置して話を進める。


 オーク共の配置を示す石を地面に並べてみた。

ザック「2、3、8か。離れている奴らを各個撃破したら、最後は集落に残っている8頭を全員で襲撃だな」

オレ 「ボルフなら1頭を瞬殺できるから、ボルフを入れた二人組で2頭に、3頭の方はオレの魔法で弱らせてから三人で仕留めるってのはどうだ?」


ボルフ「いいんじゃねーか」

 ようやく状況を飲み込めたらしいボルフが話に加わった。


「恐ろしい道具だな。まだ信じられねえ。もし敵軍が持っていたら、とは考えたくもねえぞ」

 元軍人のボルフは渋い顔だ。

「心配すんな。これを持っているのはオレだけだ。金貨10万枚でも売る気はない」

「10万枚でもか。へっ、そりゃよかった」

「いきなり金貨10万枚も手に入ったら、そこで話が終わるからな」

「何の話だ?」

「老後の話だ」

「は?」


「話を戻すが、ボルフが2人組に入って、残り3人が3頭に当たるということでみんな問題ないか?」

「ああ」

「それでいい」

「おう、任せろ!1頭は期待通り俺様が瞬殺してやるよ。3頭の方もお前の魔法なら問題ねえだろ」


「それならボルフとは俺が組もう。残りの1頭はファイヤーボールと弓で俺が引き付ける」

 アドルはボルフと組んで2頭を担当することになった。アドルがそっちへ行ったのは自分でも魔法を使いたいからだろう。


 3頭の集団はオレとザックとロンセルが担当する。

 ボルフ組の通信担当はアドルだが、一応ボルフにもトランシーバーで連絡を取り合うことを教えておく。


「お前ら...ズルイにもほどがあるだろ」

「これがオレ達のやり方だ。なーに、すぐに慣れるさ」

 ザックがトランシーバーを使って見せながらドヤ顔だ。


 ザックの号令で作戦開始。

「よし、行くぞっ!」

「「「「 おうっ!! 」」」」


 配置についてすぐにアドルから2頭を仕留めたと連絡が入った。

「ボルフは強いな。本当に一瞬で仕留めたぞ。負傷者無しだ」

「了解」


 こっちの番だ。本当はオークの3頭くらいオレの魔法で瞬殺できる。だが、三人いるのにそんな大人げない真似はしない。


 隠れながらぎりぎりまで接近した。もう見つかっても構わない。スタスタ歩いて接近しながら杖を向ける。獲物2頭はこっちを向いていて、1頭はあっち向きだ。


 妙なやつが接近してくるのを見たオーク2頭が困惑している。


 一発玉にならない程度に軽く収束したストーンバレットを三連射。これならぎりぎり殺さないはずだ。

「石弾、石弾、石弾!」

「ピギッ!」

「ブガッ!」

「ブゴッ...」バタン。


 後頭部に石をくらった1頭は昏倒してしまった。残り2頭は顔面がぼこぼこだ。

 立っている2頭に2人が即座に駆け寄った。ロンセルが大剣で片方の頭をかち割り、ザックがもう片方に後ろから組み付いて短剣で首を掻き切る。

 あの太い首を切るのはオレだと手間取りそうだな。


 オレは気絶して転がっている奴にトドメを刺す。首にオーガ殺しを突き刺してバチバチと強めに放電させるとすぐに索敵から反応が消えた。

ザック「うおっ、何だ!?」

ロンセル「まさか雷魔法か!?」

オレ 「いやいや、ただの魔法剣だ。雷撃を出せる奴な」

ザック「ただの(・・・)魔法剣なんてあるかよ」

ロンセル「エドだしな。驚かないぞ」

「はっはっは。いいだろ」

 ボルフには昨日見せたが、ザック達3人にオーガ殺しを見せるのは今日が初めてだ。


 5頭の獲物を回収し終えたら5人全員で慎重に残り8頭の集団へ接近する。


《納屋37》

下書きは2話分あるので次は数日以内に出せそう

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