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36.異次元ポケット

《納屋36》


 魔力の扱いが格段に自由になり戦闘力が上がった。MPは大して増えなかったが。


 まあ、強くはなったんだし、川まで行ってサハギンを狩ってみよう。草原を突っ切り、途中でマンドラを4本拾って東の川まで来た。


 川沿いに歩く。水中だと探知距離が短いのは予想通りだ。

 いた。

 水中に潜んでいるサハギンの頭上に少し弱めのエクスプロージョンを撃ち込んでみた。


 ドーン!


 周囲にザザーっと雨が降り、サハギンが浮いてきた。見た目には無傷だが、索敵の反応が消えたことから死んでいると分かる。消費MPを8に減らしても水中の敵に至近弾なら十分な威力だ。


 水中を向かって来る奴の頭上にもドーン。

 川サハギン2匹と、ついでにでかい魚も獲れた。




 街へ戻る途中でアンホ爆薬─自家製なので俗称『肥料爆弾』─の実験もやる。ネットの動画でおよその威力は分かっているつもりだが、実戦で使う前に体感で威力を把握しておかないと怖い。マンドラの時みたいに、やむを得ず自分もろともというのは避けたいし。


 大、中、小の三種類を爆発させてみる。


 アンホ爆薬の塊が入った袋を地面に置いて離れ、盾に隠れてエクスプロージョンを撃ち込む。この爆薬は雷管でも起爆できないくらい感度が鈍いので、起爆にはもっと強力な爆発が必要なのだ。


 袋に光点が命中するとエクスプロージョンだけの時よりかなり強力な爆発が起きた。爆風と一緒に土砂が吹き付け、盾にぶつかる小石がバシバシ音を立てる。透明なポリカ盾に白い傷跡が残ったが、小と中の爆発には十分耐えた。だが、これ以上強力になると怖い。


 大の実験ではアイテムボックスから出した大岩に隠れてエクスプロージョンを発射。命中直前に顔を引っ込める。軽く両耳を塞ぐが手は密着させない。鼓膜の内外の圧力差が大きくならないように口も閉じない。ズシンと来る振動が全身を突き抜け、視界が一瞬白くなった。ここまで衝撃波が届いたようだ。爆発跡には丸く浅いクレーターが残っていた。


 岩陰でならもう少し強力なのも使えるな。塹壕を掘ればさらに強力な爆発でも大丈夫だろう。鼓膜は耐えられないかもしれないが。


 消費MPを3に減らしたエクスプロージョンでも爆薬を起爆できることが分かった。エクスプロージョンは小さな光点から爆発するので、爆心の温度と圧力は通常の爆薬よりはるかに高い。つまり、こういう用途に向いているということだ。




 ギルドへ戻ってサハギンを換金した。

 サハギン2匹で金貨4枚。魔石2個は売らずに残しておく。ゴブリンの魔石より大きいが、ぎりぎり回復ネックレスに入りそうだ。


 爆発でボロボロになったオレを見たフェレーナさんには心配されてしまったが、何をやったか話したらあきれられた。


「ここまで聞こえてたわよ。外で試し撃ちする人はたまにいるけど、自分の魔法でボロボロになって戻って来る人なんて初めて見たわ」


 隣の窓口の子もバカを見るような目でオレを見ている。さっさと立ち去ろう。次の用事があるし。


「(ねえねえ、先輩。あの人って腕が立つバカなんですか?)」

「(あははは、ちょっと変な人かもね)」

「(でもさっき響いてきた音は、すごい威力の爆裂魔法ですよね)」

「(気になるの?)」

「(強い魔法使いならバカでも脳筋よりはずっとましかなと思って)」

「(あのね、バカはひどいと思うわよ。ちょっと変わった人ではあるけど)」

「(ふむ、そこまでおバカではないと。もしかして先輩的にはお勧めですか?)」

「(え、お勧めは...しないわよ?)」

 (特上物件よ。無駄に勘のいい子ね)


 *


 またディメトレーヤさんの家に来ている。

 英雄たちは明日から街を離れて隣国の王都へ行くので、その前に必ずもう一回顔を出せと言われていたのだ。今頃はパブロックもイーム達に金貨300枚相当の酒を届けているはずだ。


 くっ、魔女のくせにコルセットスカートとは予想外だ。普通の美少女に見えるぞ。怖い魔女だと知っていても胸が高鳴る。

 おまけにシャンプーとリンスを使うようになった金髪縦ロールがつやつやに美しい。


「そういうことはちゃんと声に出しなさい」

「読まれた!?」

「惚れてもいいのよ」


 ふふんと笑いながらずいっと半歩迫られた。

 オレも引かずに応じる。


「一目惚れでしたよ」

「その舌、引っこ抜いてあげましょうか?」

「いやその、惚れたのは二回目くらいでした」


 精霊の力を得た今となっては前ほど怖くない。もう目を合わせただけで心臓が止まりそうになることもないだろう。試すのは怖いが。


「まあいいわ。それで、具合はどうなの?」

「もう完全に融合してしまいました」

 すっと目が合い、感情を殺した声で質問された。

「そうみたいね。今ここにいるあなたは誰?」


「我が名はエドウィン・フリントロック。魔導を極めし者にして世界最高の科学者である!」

 しまった。雰囲気に引きずれてマッドサイエンティストの癖が出た。


「ぷっ...あははははははは!もし大真面目だったらごめんなさい。でも、その恰好で言われても笑うしかないもの」

 ディメトレーヤさんは大笑いしながら焼け焦げて不揃いの短髪になってしまったオレの頭を撫でまわす。


「そのボロボロの恰好はどうしたの?」

 かくかくしかじか『ちゅどーん』と説明した。

「ああ、なるほど。分かるわ~。試し撃ちしたくなるわよね。火傷くらいでめげないのはさすが私の弟子ね。いい子だわ」

 いえ、()弟子です。


 頭を撫で回していた手で額をつかまれ、グイっと押し倒された。両肩を押さえられて、真上から彼女の視線が脳の奥底まで突き刺さってくる。


「魔導を極めし科学者ってどういうことからしら?」

 あ、やっぱりまだ無理。今のオレでもこの魔女には太刀打ちできない。


 いろいろ白状した。

 ただし、地球の情報は漏らさず嘘もつかず、勝手な誤解はご自由にというやつだ。さすが最高を自認する魔導科学者の頭脳だ。この魔女とかろうじて渡り合えている。


「&~#|$$&&&~#%%~*+*+」


 む、旧帝国語か。

 それくらい謎翻訳抜きでも話せるぞ。


「本物なのね...ふふふふっ..すごいわ!あなたすごいわ!!」

 オレを抱きしめて大喜びしている。

「まさか初代フリントロックの知識だなんて。もちろん、時間要塞の調査には協力してくれるのよね?」

「望むところです」

「んっ」


 上に乗る彼女にキスされた。この意味は分からない。だが、頭の奥底がしびれるくらい気持ちいい。

 もう何も考えられない。

 どうにでもなれだ。

 こっちから抱きしめてキスし返した。




 ゆっくり顔を離すとオレの真上から彼女が言う。

「理解してるわよね、アナタなら」

 さっぱりだ。何も考えてなかったし。

「もちろん」


「用意しておいてよかったわ。これを持って行きなさい」

 二枚の革を張り合わせた、四角いポケットのような袋を渡された。

「何です、これ?」

「異次元ポケットよ」

「え?」

「異次元ポケット」

「...際どい名前ですね」


 それは二個で空間共有する魔法鞄のポケット版だった。ただし容量は極小で、用途は主に手紙のやり取りだ。値段は安く、ワンセットで金貨300枚くらい。貧乏貴族でも領民を軽く絞れば買えるかもしれない。


 初代フリントロックだった頃には魔法鞄を作って小銭を稼いでいたが、このアイデアは無かった。ちょっと悔しい。


「何か面白いことがあったら手紙を書きなさい。そして、毎日朝夕の二回はこの中身を確認すること。いいわね?」

「はい。了解です」


「服に縫い付けておくといいわよ。前に縫い付けておけば忘れたりもしないでしょ」

 それじゃ四次元ポケットだ。

 青だぬきの声真似なんてできないぞ。

「あはは。それはまずいかも。戦闘で壊したりしないよう、どうするか後でよく考えます」


 理解できないことも起きたが、今日から魔女のヒモ付きになったことは理解した。携帯できる通信手段は便利であり、うざくもある。スマホアプリの既読が相手に分かるやつが特に嫌いだ。


 -武器屋-


 魔法剣となったオレの刀を受け取りに来た。

 ベーリングの後ろにはもう一人ドワーフがいた。ベーリングより貫禄があってさらに頑固そうだ。彼が師匠だろうか。


「来たな。受け取るがいい。ワシの師匠が強化して雷撃剣となったオーガ殺しじゃ。これなら、うぃすきーにも劣らぬはずじゃ」

 受け取った刀を抜いてみると刀身に薄く模様が浮き出ていた。カッコよさ5割増しだ。

「...なんかすごいな」


 もう一人のドワーフが言った。

「試してみるがいい」

 軽く振ってみた。

「...何も起きないんだけど?」

「気合を入れんか!」


 ふんっ!と力んで振ってもうんともすんとも言わない。

「もしかして、達人じゃないと雷撃を出せないとか?」

「貸してみい。ふんっ!!」


 ドバンッ!!

「おわっ!!」

 バリバリバリ ジジジジジ...


「おい師匠、加減せんか!危なかろうが」

 すごい放電に目がくらんで破裂音で耳鳴りがする。スタンどころじゃない、これだけで敵を殺せそうだ。


「多少の熟達はいるが、こいつは達人でなくとも使えるぞ」

 う~ん....なんかこう、記憶に引っかかる。

 あ、分かった。きっと非線形なんちゃらだ。科学と魔導、両方の知識を持つオレには分かる。魔力波の急激な立ち上がりで発動させる仕組みに違いない。


 剣の腕はずぶの素人。昨日までのオレなら魔法剣の発動にはそれなりの訓練が必要だっただろう。だが、自在な魔力制御が可能となった今ならできるはずだ。


「ふんっ!」


 バチッ ジジジジジ...


「む、思ったよりできるな」


 刀身に沿って太い紫電が走り、細かい無数の放電に分かれて消えた。紫から青への色の変化も綺麗だ。


 脳筋達が気を飛ばすとか斬撃波とか呼ぶものの正体が魔力だということは広く知られている。だが、普通の魔法使いが真似しようとしてもできない。なぜなら魔力供給の瞬発力を鍛えていないからだ。


 ボルソルンが説明してくれた。

「こいつは鉄剣を元に作った魔法剣としては最強じゃ。頑丈にもなっとるからそう簡単には刃こぼれせん。この鉄もお主が持ち込んだと聞いたぞ。ワシもこれほどの鉄は初めて見た。そいつを、うぃすきーを飲んだこのワシが強化したんじゃ。鉄の刃物としては間違いなく最強じゃ」


「調子に乗りすぎじゃろ、師匠よ。鉄剣に龍雷石まで使うなんざ聞いたことも無いわ」

「上手くいったではないか。この鉄とワシとうぃすきーなら魔剣にも手が届こうというものじゃ」


「予想以上に高価なものになったみたいなので、お礼にこれを」

 オーガ殺し4L入りを1個出した。


「うむ。気が利く坊主じゃ。龍雷石と言ってもちいっとばかり粉を使っただけじゃし、値段は気にせんでいいぞ」


 オレの肩に乗るボルソルンの腕が重い。握力もすごい。

「エドといったか。分かるぞ。お主には才能がある。ワシの剣を託すのにふさわしい男じゃ」


「....」

 ベーリングが白けた目でボルソルンを見ている。


「そう言われるのは嬉しいけど剣は素人なんだよなあ」


「わっはっは、謙遜するな。ワシの目に狂いは無い!ただの素人がうぃすきーなんぞ持ってこれるわけがなかろう。お主はじきに達人となり、世に名を残す男じゃ。うぃすきーさえあれば、どんな武器でもお主にふさわしいシロモノを作ってやれるぞ。うん、どうじゃ?他に欲しい武器はあるか?」


 あー、やっぱりドワーフだよ。酒が欲しいだけか。しかしまあ、ボルソルンに武器を作ってもらえるのは素直にありがたい。ウイスキーを用意できたらベーリング経由でまた何か発注する約束をした。


 二人のドワーフが満面の笑みで答える。

「「 待っておるぞ 」」

 酒をだろ。


 余談だが、刀身に入れた現地語の「オーガ殺し」の下に漢字で「雷」を追加してもらった。

「カンジとは恰好のいい文字じゃの。複雑でわけが分からんところが実にいい」

「彫るのは10倍苦労したがの」


 『オーガ殺し 雷』

 うん、イイ。


 パチパチ放電させて遊んみたらすごく燃費がいいことが分かった。敵をスタンさせる程度ならMP残量を気にせずに使える。MPを2~3消費する勢いで流せば、さっきボルソルンがやったようなすごい放電が出る。


 放電が電気の極性を無視して常に前方に放射されるのはさすが魔法としか言いようがない。


 試しに刀身を指でつまんで弱く放電させてみた。

「あぐっ..」

 ヤバイ。死ねる。うかつに触ると心臓が止まりかねん。


 刀とくれば居合だが、オレには虚空抜刀術があるしな。とりあえず、刀でも千回くらい練習しておこう。得物が変われば慣れが必要だ。紫電を(まと)う刀を振り抜けば、目に光の軌跡が残る。

 おお、これは、控えめに言ってカッコよすぎる。


 原理を理解したうえでコツをつかめば刀を振らなくても雷撃を発動できる。気合を込めて振るものだと思い込んでいる剣士にはまず無理だろう。

 魔力衝撃波を流せればもっと威力が上がるはずだが、今のオレでもちょっと難しい。


 試し斬りしたい。

 一人で近接戦闘はまだ怖いので、知り合いと合流したいところだが誰も電話を持ってない。なんて不便な世界だ。


 だが、それがいい。


 さてどうすっか。

 中央広場の屋台で串焼きを買ってみた。薄い塩味のウサギ肉だ。普通にうまい。自前の塩コショウをかけるとさらにうまい。


 誰か野良パーティの募集でもしてないかな。魔法使い枠でなら低ランクパーティには参加しやすいはずだ。ギルドへ行ってみるか、と思ったところで声をかけられた。


「お!お前はこの前の」

「ん?犬のボルフじゃん。もうこっちに引っ越したのか?」


「俺様は一匹狼だっつってるだろ。こっちには二日前からいるぞ。そんなことより、どの店にもあの酒も、同じ味の焼き肉も無いのはどういうことだ?」


「忘れたのかよ。よそじゃ食えないってミシャーナが言ってただろ」

「そんなもん、猫共が大袈裟に言ってると思うに決まってるじゃねーか」


「いや、残念ながら本当のことだ。なあ、暇なら一緒にオークでも狩りに行かないか?終ってからあの酒出すから」

「おう、乗った!」


 一番近い西の森へ向かう。近いが、昼から歩いて往復したら日が暮れるので電チャリを出した。


「何だそりゃ?」

「ジテンシャという乗り物だ。平地なら自分の足で走るより速くてずっと楽だ」

「そんなのでよく倒れないな」

「慣れたら難しくないぞ。もうちょっとゆっくりたのむ」

 電チャリでも不整地を獣人と同じ速さで走るのは無理だ。


 森に入ったら真っすぐ奥を目指して進み、川を越えてさらに奥へ進む。

「いた。あっちの方にオークが二頭いる」


 もうマップを見なくても自分の感覚として同じ情報を得られる。マップと違って上下の感覚もあり、脅威度も感じ取れる。


「この距離から数が分かるのかよ。俺でもぎりぎり気配が分かる程度だぞ」

「なんだ、お前も気付いてたのか。やっぱり臭いか?」

「気配だ。この風向きじゃ、まだ臭いは分からん」


 風向きに注意しながら接近して、二頭の獲物が見えたところで襲撃方法を打ち合わせる。二人で同時に斬りかかることになった。


「新しい剣の試し斬りをしたいから、オレが大丈夫そうだったら加勢はいらん」

「おう、了解した」


 ストーンバレットを拡散させて発射。二頭のオークに小石の雨が横殴りに吹き付ける。

「ブゴッ!?」

「ブガッ!?」

 オーク共は何が起きたか理解していないようだ。

「こっちだ、豚野郎!」

 さらにボルフが挑発するとようやくこちらに気付き、怒り狂いながら突進してきた。


 ボルフは両手斧を、オレは刀を構えて向かってくるオークへ突撃する。少しだけ先行したボルフが斧の柄でオークの棍棒を受け流して背後を取り、ぶおんっと半回転して後ろから頸椎(けいつい)を断ち切った。


 オレの頭へ向かって振り下ろされる棍棒の木目と表面の汚れまではっきりと見える。上半身をねじってそれを(かわ)し、オークの脇腹に刀を軽く滑らせた。


 バチッ!

「ブキッ!」


 放電を食らったオークがビクンとなって動きが一瞬止まる。そこへ峰打ちを連続で入れる。


 バチッ! バチッ! バチッ!

「ブキッ!、ブキッ!、ピギッ!」


 はっはっは!

 ずっとオレのターンだ。オークはビクンビクンするだけで全く反撃出来ない。トドメは心臓に刃先を突き込んで強雷撃だ。


 ドバババッ!!


 体を硬直させ、白目をむいてオークが倒れた。肉はほぼ無傷だ。


「おお、魔法剣かよ。にしてもすげー威力だな」

「いいだろ。街の武器屋で作ってもらって、ボルソルンに強化してもらった雷撃剣だ」

「あのボルソルンか!アイテムボックスといい、実はお前ただもんじゃねーな」


「おう、これでもDランクだ!」

「あん?そんなんでボルソルンに注文できるのか?」

「普通は無理だろうな。オレは特別だ。ボルソルンが言うには、オレには一流の剣士になる才能があるらしい」


「そうなのか??」

「さあな。オレにも分からん」

 あからさまに納得できない顔だな。当然だろう。飲んだくれのドワーフが酒欲しさに言っただけだし。


 次に見つけた獲物は単独のオークなのでオレがやることになった。今回もストーンバレットを撃ち込んで挑発する。


 やはり敵の攻撃が良く見える。ぶおんっと横薙ぎに空を切る棍棒が目の前を通過する。大きく後ろへのけぞったオレはその体勢のまま刀を突きだして、かろうじてオークに当てた。バチッと一発入れたら後はオレのターンだ。


 あはははは!

 バチッ、バチッ、バチッ!

 お前のターンは無い!


 二回目も楽勝だった。しかし、まだ敵の最初の一撃を確実に(かわ)す自信はない。まともに食らうことは無いと思うが、下手な受け方をしたらなぎ倒されて追い詰められるかもしれない。やはり一人の時は接近戦は避けよう。


「お前、妙な動きしてるな。敵の攻撃はよく見てるようだが動きはど素人じゃねえか」

「おう、その通りだ。だからこうやって練習してるんだよ」


 ボルフは一瞬だけ考える顔をしてから言った。

「この俺様が、ボルソルンが見込んだお前に直々に剣を教えてやってもいいぞ」

「そいつはありがたい。是非頼む」


 その日はオークを4頭狩って川岸まで戻った。

 10頭以上だと思われる集団も索敵に引っかかったが、二人だけでは全力の戦闘になってしまい、肉の価値が落ちないようにきれいに仕留めるのは無理だ。なので、次回のために残した。


 まず、バーベキューセットを出して火を起こす。

 次に刀の手入れだ。食器用洗剤で血のりを洗い落としたら清潔なタオルで拭いて乾かす。肉を狩る用途が多いはずなので、刀も包丁と同じ扱いにすることにした。


「ほお~、改めて見るとすげー業物だな」

「ああ。鉄剣としては最強だとか言ってたぞ、ボルソルンが。ついでだからその斧も拭いてやるよ」

「おう、ありがとよ」

「敵、じゃなくて肉を狩るんなら清潔にしとかないとな」

「がはははは!たしかに、オーク共は歩く肉だな」


「肉は切ったのがあるから、そいつでいいよな?血抜きからやるのは時間がかかりすぎる」

「ああ、その方がありがたい」


 缶ビールを飲みながら肉が焼けるの待つ。

「ほら、この前と同じ酒だ」

「おおっ!!こいつをどれほど探したことか。マジでお前しか持ってないのかよ」

「ああ。その辺じゃ売ってないぞ。オレも売らないが、こういう機会があれば出すぞ。剣を教えてくれるのなら酒で半分前払いだ」


 二人してデンッと缶をぶつける。

 プシュッ

 プシュッ

「かーっ!うめーっ!」

「ふう、うまい」


「ほら焼けたぞ。味付けもこの前と同じだ」

「おお、これだこれ!」


 焼き肉を食ってひと息ついたら、その場で剣術を教えてもらう。

「対人用と魔物用のどっちがいい?」

「対人用で頼む」


 頭の悪い魔物より人間相手の方が厄介に決まっている。盗賊やタチの悪いゴロツキは索敵で敵の反応が出るが、それだけで攻撃するわけにもいかないし。


 戦利品の真剣を二本出した。

「今は真剣しか持ってないからやさしくしてくれよ」

「お、分かってるじゃねえか。多少怪我するくらいが覚えが早いんだぜ」

「そうじゃなくて、今は木剣持ってないから仕方なく真剣出したんだよ。稽古で怪我は嫌だぞ」


 本当は日本刀用の剣術を習いたいところだが、これも直刀とはいえ両手剣だし共通点は多いだろう。


 ボルフは顔に似合わず理論派だった。なぜそう動くのかちゃんと説明してくれるので助かる。

「案外分かりやすいな。さすが元軍人」

「新兵の教育もやってたからな。剣術も中級までなら教えてやれるぜ」


 何度も倒されて泥にまみれるような稽古を想像していたが全然違った。少なくとも最初の段階ではそういう稽古はしないようだ。


 まず必要なのは間合いと、敵の攻撃意図の把握。決して腰を浮かさない、動きと呼吸を合わせる、等々、覚えることが想像以上に多い。そういうのをすっ飛ばしていきなりチャンバラ稽古をしても効率が悪いらしい。


「基本の基本だからな。頭で覚えるんじゃなくて癖になるまで体に染み込ませろ。できるまでには時間がかかるから技の稽古も並行してやっていくぞ」

「おう」


 そろそろ日が落ちる。

「今日はここまでだ。帰ってから素振りやっとけよ」

「サー、イエス、サー!」


 意外と教えるのが上手いボルフの初級剣術訓練を終わり、夕焼けを背に自転車と人型犬が街を目指して走る。


 ギルドでオーク4頭を換金して、一人当たり金貨4枚と小銀貨4枚の稼ぎになった。魔石4個はオレがもらった。

「お前が運んでくれたおかげで稼げたぜ。恩に着る。これだけありゃあ当分、宿の心配はいらねえ」

「そりゃよかった。オレの稽古もまた頼むぜ」

 金貨4枚は犬肉亭なら100泊できる金額だ。


 明日の朝は冒険者ギルドの訓練場で剣術の続きだ。


《納屋36》

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