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35.爆裂魔法の使い手

《納屋35》


 初めてだったが、どうにか食用になるショコラケーキを作れた。


「エド様、ご指導ありがとうございました。指導料と材料費に金貨5枚、レシピに金貨50枚でいかがでしょう?」

「十分すぎるくらいです」

「できれば、今日使った道具も買い取りたいのですが」

「それくらいは差し上げますよ」


「それは助かります。ケーキは今後、リューズライト領の特産品として莫大な利益をもたらすはずです。ですのでレシピの流出を防ぐために独占契約したいのですが」


「う~ん、自分で考えたレシピってわけじゃないからなあ」

「では、作った職人を呼ぶことは可能でしょうか?」

「それは無理。生産されている場所は遠いんだ。馬で何か月どころじゃない距離だと言って信じてもらえるかな?」


「....」

 ギルバートが無言で考える。リディアとイングリットも黙ってオレ達を見ている。

 ギルバートの目がきらんと光った。


「それはつまり、この地でレシピを知る者はエド様だけというわけですね?」

「ちょ、ちょっとギルバートさん?早まらないでくださいよ」


 何を思ったのか、リディアが焦った様子でギルバートの袖を引っ張る。


「何を勘違いしているのですか。そのようなことは考えていません」

 失敬な、とリディアを軽くあしらってギルバートがオレに向き直る。


「エド様と契約すれば秘密は守られるわけですよね」

「それはまあ、確かに。他には誰もあちら側から物や情報を持ち込めないしね」


 遥か遠くから持ち込んでいるという話を信じてはいるようだ。ということは、この世界には物を瞬間転送する手段があるのかもしれない。


「ならば、この地においては『あちら側』に関する唯一の権利者はエド様となり、契約には何の問題もないかと思いますが」

「まあ、確かに。こちらとしても『あちら側』の誰かをかませるつもりはないし。分かりました、契約しましょう」


 次に伯爵がここへ来たら契約魔法を使ってレシピ独占のための契約をすることになった。独占を認める代わりに利益の一部が支払われるのだ。


「契約魔法とは、」

「この場合は相互に精神的な縛りをかけるやつかな?」

「そこまでご存じとはさすがです」


 貴族相手に支払いが確約されるのは破格の条件と言えるだろう。

 ただ、転送手段を持つかもしれないオレの脅威度は上方修正されたはずだ。今後の言動にはより慎重になる必要がある。




「本日の夕食はここでとられますか?」

「はい。ぜひご一緒させてください」

「いえ、我々は使用人ですので控えておりますが」


 そうなるのか。この屋敷はそこまで堅苦しくないと思っていた。


「ギルバートさん、この屋敷なら伯爵の不在時にはオレもみんなと一緒のテーブルで問題無いでしょ?」


「そうご希望されるのなら問題はありません。お気づきのようですが、実際、この屋敷でのマナーは本領などより緩くなっております。伯爵の奥方様がいらっしゃらない場合に限りですが」


「あ~、察した。もし奥方様が一緒される予定があったら教えて。冒険者のオレとしては、失礼が無いようにその間は旅に出てるから」


 メイド二人がクスクス笑っている。


「はい。承知いたしました。ですが、奥方様はお優しい方ですし、エド様でしたら普段通りで大丈夫でしょう。できれば屋敷にいていただけると気がそれ、、話相手が増えてきっとお喜びになります」


 なんか言い直したね。うん、やっぱりオレは旅に出るよ。



 夕食に出てきた料理は大皿に盛られらた肉、野菜、スープ、パンだった。自分の分は自分で取る方式だ。


 肉はやはりオークか。適当に塩味つけるだけでうまいからな。塩に加えて胡椒っぽい香辛料と柑橘類も使われている。ワインの味は普通。


 野菜はよく煮込まれている。苦みがあるのは品種改良されていないせいだろう。それでも犬肉亭で食ったのよりましなのは高級品だからか。味付けは薄く、シンプルな塩と香辛料だ。


 素材の味が薄いな。聞いてみるか。

「さすが、野菜がよく煮込まれてすっきりした味になってるね」

 リディアが説明してくれた。

「はい。それはもう、よく煮込んでから流していますので」


 もったいない。異世界転生もので読んだ通りだ。素材の味や水溶性ビタミンがアクと一緒に捨てられている。


「煮汁を捨てるのは一般庶民でも同じなのかな?」

「そのはずですよ。よほど横着でなければ一回は流すはずです。ああ、冒険者の皆さんは外だと水が貴重ですよね」


「そこは水魔法一発で大鍋一杯分出せるから平気だけど、オレの故郷では流さない理由が二つあるんだ」

「それはどのような?」

「まず素材の味を残すために」

「え?煮汁を残したら不味くなると思いますが?」

「煮込んだら何か浮いてくるでしょ。それだけ掬って捨てれば平気だよ」

「そういうものですか。それも冒険者の知恵なのですね。では、もう一つは?」


 水を節約するためだと思ってるな。

 もう一つはどう説明しよう?ビタミンとか言っても翻訳されないよな。病名なら大丈夫か?


「もう一つの理由は病気の予防。野菜をまったく摂らなかったら病気になるとか言われてるでしょ。野菜の煮汁を捨ててしまったら予防効果が半減どころか激減だよ。運が悪いと脚気になるし、長期間野菜が手に入らないと壊血病にもなるよ」


 ギルバートが興味を示した。

「脚気も壊血病も原因不明とされていますが、それは確かなのですか?」

「確かです。誰かそれらしい病気にでも?」

「幸い身近にはいませんが。いえ、身近でなくとも公言は出来ない情報です。場合によっては後で相談させていただくかもしれません」


 ***


 -領都の屋敷-


 エドが売ったショコラと丸ケーキ4個は瞬時に遠く離れた伯爵家領都の屋敷へ届いていた。こちらも午後のお茶の時間である。


 ショコラケーキがテーブルの上で料理長の手によって切り分けられていく。さしものベテランもこの状況では手が震える。テーブルには伯爵夫人をはじめとした女性陣が勢ぞろいしているのだ。すでにショコラの味を知っている彼女らは直感でソレ(・・)がとんでもない代物だと気付いていた。『私に小さいのをよこしたらコロス』と彼女らの視線が言っている。


 伯爵から真っ先に分けてもらい、味見した料理長はその味に驚嘆した。失敗は絶対に許されない。


 大きさを完璧に揃えなければならない。だが、目が笑っていない笑顔から放たれる多数の視線が彼の神経を削る。手の震えを必死に抑えながらも熟練の技によってケーキは完璧に切り分けられた。伯爵が貸したミスリルナイフのおかげで型崩れもない。


 貴族女性お得意の、顔は笑って目が笑っていない、なんてのは見慣れている伯爵家の男達ですら触りたくないと思う殺気を感じていた。


 伯爵は思った。

(量産が始まるまで秘密にしておけばよかった。早く料理長が同じ味を出せるようになってくれんと私に矛先が向くではないか)


「いいかお前達、ここにショコラケーキのオリジナルが存在することは我が伯爵家の最重要機密だ。これはショコラ以上に希少である。もし秘密が漏れたら今後の自分の取り分が減ると思え」


 女性陣全員が真剣な顔で頷いた。


 *


 ブルグンド邸では平和な夕食が終わり、ギルバートが伯爵へ報告の手紙を書いていた。その内容はエドとの契約のことやエドについて新たに得られた情報である。

 その手紙も魔法鞄に入れる。


 *


 執務室に戻った伯爵はそこにある魔法鞄にギルバートからの手紙が入っていることに気づいた。


 今回は重要な情報が多い。エドが遠隔地から物を転送しているらしいことや、それによる遠国との流通の独占、さらには脚気と壊血病に関する知識を持っているらしいことも。


「むう、これは...予想を上回る重要人物ではないか。こうなるとあの酔狂さがますます理解できん。何ゆえ冒険者なのだ??直接聞くべきか。いや、しかし、詮索が過ぎるのもまずいか」


 伯爵は机の上から紙を手に取り再度唸った。他では見たこともない上質な紙に描かれた、まるで本物を閉じ込めたかのように異様に緻密なカカオなる豆の絵だ。


「フリントロックがというよりも、背後にはこちらより高度な文明国があると見るべきか」

 すぐさまギルバートへの返信を書いた。



『エドの扱いは基本これまで通り。

 イングリットとリディアの接触はより慎重に。

 二人で不足なら増援も送る。


 追伸:ケーキもあるだけ買い取れ』



 執務机には自分用として余計に確保したケーキが一切れ乗っている。それは見た目も味も職人の腕という域を超えている。より進歩し洗練された文化の証と見るべきシロモノだ。エドと関わる利益と脅威を推し量るかのようにケーキを味わう伯爵であった。


 ***


 その夜は伯爵邸の風呂を使った。


「何を恥ずかしがる必要があるのですか?私たちはメイドですよ」

「勘弁してくれ。オレの地元では風呂には一人で入るものなんだ。使い方だけ説明してくれたらいいから」


「メイド相手に何も隠す必要などありません!」


 聞いちゃいねえ。絶対面白がってるだろ。リディアは隠す気もなくニヤニヤしてるし、イングリットも真面目な顔して口元がにやけてるぞ。使用人達と一緒の夕食を希望してからは一層距離感が近くなっている。


 所詮風呂だ。説明など無用。風呂場に逃げ込んで扉を閉めた。

 やはり給湯の魔道具らしき物がある。風呂場の片側には龍の頭が二つあり、片方の口からは温水が、もう片方からは水が出た。どっかの温泉にもありそうな造形だ。


 とりあえず日本の温泉式マナーで問題ないはずだ。お湯の使い回しはしていないと思うが、一応湯船に入る前に体を洗う。


 石鹸はあえて備え付けを使ってみた。グニュッと柔らかく泡立ちがいまいちだ。今のところ伯爵家には日本から持ち込んだ石鹸やシャンプーを見せる気は無い。定期的に売る物が増えると面倒だから。


 水中で放つファイヤーボールは10cm程度進んだら消えてしまう。局所的に激しく沸騰するのが面白い。発射したらサッと手を引っ込めないと熱湯で火傷しそうになる。

 やりすぎたか。広い風呂だが10発も撃ち込んだら熱くて入ってられなくなったのでウォーターボールで冷やした。


 MPが空っぽだし、そろそろ上がろう。


 オレの部屋として二階の一室を貸りている。天井が高く、広さは12畳以上ありそうだ。天蓋付きのベッドと机、テーブルとソファーがある。洋風のクラシックな高級ホテルみたいだ。ただ、ソファーもベッドもあまり弾力がない。この時代でも可能な方法でもっといいクッションを作れないだろうか。


 コンコンとドアがノックされた。

「どうぞー」

「エド様、明日の朝食もご一緒されますか?」


 イングリットが質問しながらトレイに乗ったコップと、やかんのようなポットのような水差しをテーブルに乗せる。アンティークな銅製品だ。


「お願いするよ。時間は日の出くらいかな?」

「朝一の鐘が聞こえてからゆっくりいらしてください」

 ゆっくりの基準が分からない。


「もし寝坊されても起こして差し上げますのでご安心を」

「うん、それなら安心だ」


「では失礼して」

「え?あの、ちょっと」

 イングリットがオレの服を脱がしにかかる。


 いつの間にか背後にいたリディアが優しくも力強くオレをベッドへ誘導する。抵抗は無意味らしい。ベッドにはさっきまでは無かった厚手の布が敷かれていた。


「マッサージのお時間です。今度は逃げられませんよ」

「お、おう」

 香油を刷り込みながら全身をマッサージされた。


「はうっ」

 内ももを滑る手が妙にゆっくりだ。いかん、反応するな。大トカゲにくらった火炎放射を思い出せ。火傷の痛みに比べたらこれくらい、無だ。何も感じないぞ。


「エド様~、もっと力を抜いてくださいねぇ」

「くっ、はっ」

 精霊が鮮明に記憶している痛かったり死にかけた場面を脳内再生で追体験しながらマッサージに耐えきった。


 ここでの待遇の良さに何も裏が無いと思うほどオレはおめでたくないんだ。


 * *


 翌朝、目が覚めるのと同時に理解した。昨日までのオレとは違う。精霊との融合が終わって意識と感覚が拡張されている。

 記憶も統合され、いろいろと分かってしまった。


 脳内投影はMPだけを残して消した。わざわざ視界に重ねて『見る』必要がなくなったのだ。MPを残したのは正確な残量が分かった方が便利だからだ。


 アイテムボックスその他がゲームと同じ表示方式だったのは、精霊がオレの記憶に合わせて画像を作っていたからだ。おかげでアイテムボックスに余計な制限がかかっていた。ゲーム式の表示をやめてからは5行6列の区切りが消えて、一つの巨大空間にいくらでも放り込めるようになった。


 精霊──オレの中にいたのはエドワード・フリントロックを元に作られたエーテル化思念体。こいつは特別性だ。時空を超えるために神代のオリジナルの中でも特に貴重な、時空間操作能力を持つ精霊核が使われている。未知の異世界で生き残るために戦闘力も高い。


 あれ?

 危機には精霊核が反応するはずなのに、トカゲに苦戦したときには何も反応しなかったな。まだオレが絶望していなかったせいか?

 大猪の時はウインドカッターの威力が上乗せされていたとか?

 わからん。あてにしない方が良さそうだな。元々ブラックボックス扱いだし。


 ここ最近、時間要塞の起動実験が行われていたのも偶然ではない。実験では短時間ながら要塞のエーテル機関を駆動できたはずだ。そのおかげで莫大な魔力が発生して地球側のアンカーとこちら側の次元ゲートがつながったと考えると全ての説明が付く。


 フリントロックの計画通り、精霊をあちら側、地球へ転移させることに成功した。しかし魔力が回復しないため、地球側のアンカーを作った後は帰ってくる余力がなかった。魔力が存在しない世界など全くの想定外だったのだ。


 ついでながら伯爵達の努力が徒労であることも分かる。いくら莫大な魔力をぶっこんでも要塞のエーテル機関が自律駆動に至ることはない。点火プラグの配線を切った状態ではエンジンを始動できないのと同じだ。あんまり無茶して制御装置を壊されても困るから、実験を再開する前に仕組みを教えるべきか。


 エドワード・フリントロックだった頃にこの地域の要塞群は調査している。どの要塞も中核には神代のエーテル機関と制御装置がそのまま使われている。今となってはそれを再起動できるのはオレだけかもしれない。




 エドワード・フリントロック──エドワード1世にして当時最高(自称)の魔導科学者。エーテル化で彼の感情がそぎ落とされたのはオレにとっては幸いだった。なにせ時空を超えるために自分を精霊の素材にするようなマッドサイエンティストなのだから。


 精霊との融合で異世界の常識も付いてくるかと思っていたが、残念ながらエドには常識などなかった。おまけにだいぶ昔の人間だ。専門知識は、魔法関連はすごいが科学だと思っていた分野は地球人から見ると大したことがない。魔法が便利すぎるせいだ。


 精霊の感覚はすごいな。

 魔力操作が自由自在だ。

 部屋の照明からの微弱な魔力漏れまでも感知できる。



 クックックック、ふははははは!



 これは怪我の功名か。エーテル化思念体を人間に浸透融合させるのは画期的な使い方かもしれない。これをさらに進めて、全身の神経系に浸透させたら面白いことになるぞ。今すぐいろいろ試したい。くそっ、フリントロックの実験設備が使えたら。


 落ち着けオレ。

 深呼吸だ。

 今の能力を把握するのが先だ。


 *


 庭師のランドさんに頼んで魔法を試し撃ちできる場所を借りた。右手を前に出し、魔力を集中。もはや失敗する気がしない。


「炎弾!」


 ボヒュッと飛んだ火球が丸太を焼いて貫いた。効率が上がった分、威力も上がっている。体感で2割増しといったところか。

 さらに続けて、


「炎弾(微)」

「炎弾(弱)」

「炎弾(強)」


 威力の調整も自在だ。消費MP1(微)、2(弱)、8(強)でも発動できた。

 燃えている丸太は水球(小)で消化っと。

 

「風刃、風刃、風刃......風刃!」


 収束をかけた風刃の連射で大量の薪を割った。以前より収束率を上げらるので、風刃(弱)でも薪割り程度は余裕だ。


「はい、ランドさん。薪割りできました」

「いや~、見事な腕前ですな。これなら伯爵やジゼルマイン様ともいい勝負ができるかもしれませんね」

「あはは、そのうち一緒に狩りにでも行ってみたいですね」


 今すぐ外で試したい。


「ギルバートさん、ちょっと出かけます。次は2~3日で戻ると思います」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「「 エド様、行ってらっしゃいませ! 」」

「ケーキを作ってお待ちしていますね」


 アレを試したい。

 できるはずだ。気が(はや)るオレは街の外へ急いだ。

 MP回復が早くなっている。これなら少し街を離れた頃には満タンだろう。


 草原に入り、近くに人がいないことを確認。

 右手で杖を構えて、ひと息吸う。


「エクスプローーージョン!!」


 全MP(59)が込められた、通常よりはるかに明るい光点が斜め上へ登っていく。

 起爆。



 キュドーン!



 うわっ!

 吹き飛ばされて転がってしまった。全身が痛い。

 うげ、この嫌な感覚は...やってしまったな。大火傷だ。主に顔と手が。

 

 ヤケドの痛みに呻きながらもオレはニヤけていた。紅魔族の大先輩にはまだまだ及ばないが、ついにオレも爆裂魔法の使い手だ。


 通常の消費MPは12だから、59はほぼ5倍。

 素の威力は最初の頃と比べて体感で1.5倍。

 杖の倍率は風属性以外だと1.5倍。


 つまり、初期の杖無しで撃つ威力の10倍以上だ。

 自動詠唱で古代魔法を使えばさらにこの2倍くらいになる。


 さらに火属性特化の杖なら...くふふ


 回復ネックレスの効果が切れた。だが、まだ手を動かすのも痛い。魔石を補充するよりポーションのふたを開ける方が楽そうだ。左手の中に回復ポーション(並)を出して口でコルク栓を引き抜いた。これを顔と手にかけて残りを飲む。さらに二本飲んでだいぶ楽になった。


 ひと息ついて少し待ち、回復したMPを使って自分にヒール。

 最後に魔石を補充。


 ふう、ひどい目に遭った。焦げた髪の毛をザカザカこすって落とす。だいぶ短くなってしまったな。短髪は趣味じゃないのに。防具と服も焦げて全身ひどい見た目になっている。


 落とした杖を拾って点検する。大丈夫だ。杖が吹き飛ばされないように地面に着くのと同時くらいに手を離したからな。


 もう一回だ。

 こんな楽しいこと、この程度で懲りるわけがない。

 懲りて辞めるのは無能。

 失敗から得た情報を次に生かすのが研究者だ。


 今度は古代魔法を使って消費MPは30に抑える。

 詠唱開始。


「’&%##&()(’&&$”{‘@」


 自動詠唱が意味不明なのは相変わらずで、詠唱時間も同じ。ただ、気味が悪いくらい魔力の流れに揺らぎがないのが分かる。効率がいいわけだ。


 通常よりかなり明るい光点が飛んだ。普段の倍の距離でもまだ自分の制御下にあるのが分かる。

 起爆。


 キュドーン!


 両手でポリカ盾を抑えて、ドンッと吹き付ける爆風の衝撃に耐えきった。

 今回は無傷だ。

 威力はたぶん、一発目と同じくらい出ている。


 ふむ、そのうちポーションを自力で飲めない状況もあり得るよな。手を使わずに飲めるか試してみよう。空のポーション容器に水を入れてふたをせずにアイテムボックスに入れる。上を向いて口に入る位置で容器を出す。


 ゲホッ、ゲホッ。


 水が勢いよくのどに流れ込んだ。

 ちょっと練習したら、すぐにうまく飲めるようになった。常備しているポーションのうち、並5本、特1本、上1本のふたを外して収納し直す。これで大怪我してもそうそう手詰まりにはならないだろう。


 MPが回復したら次は全MPを使った古代魔法だ。

 さっきの倍の威力になるはずだが射程限界で起爆するまで飛ばせば十分安全だろう。


 詠唱開始。

「’&%##&()(’&&$”{‘@」


 キュドーン!!


 うん~、素晴らしい。

 この熱と光と、空まで震わせる爆圧がたまらん。

 感動的ですらある。

 爆裂魔法の良さが理解できた。


 次はストーンバレットだ。

 やはり、杖を使わなくても収束して一発玉にできた。しかもラグビーボールのような楕円になって少し速度が上がっている。


 収束効果があるワンドを使ってさらに圧縮したら、より細めの楕円になった。足元に撃ち込めば土中に深くめり込む。空気抵抗が減って射程はかなり伸びている。


 左手にワンド、右手に杖を持ち、幅を広げたウインドカッターを二発同時に発射。ブオンッという唸りに続いて刈り取られた草が舞い散る。芝刈りした後のように広範囲が平らになってしまった。

 もちろん、ウサギとかの動物は巻き込まないように気を使っている。


 MP量は大して増えていないが、強さを自在に調整できるようになったことと、収束率の向上で戦闘力が大幅に上がった。たぶん、昨日までの倍は強い。




 そんなことより、時空間魔法だ。


 何で使えないんだよ!

 持ってるのに。

 相対性理論を理解しろってか?

 こっち側じゃ概念すらなかったぞ。


 いやまあ、たったの59で空間転移や重力制御なんて出来るわけないのだが。それでも、このMPの少なさは何かが間違っている。


《納屋35》

空間共有の魔法鞄は一国に数セットしか存在しない

2個でワンセット

3個以上で空間共有できる鞄は存在が知られていない

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