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34.エミリー商会

試験勉強する気にならんです

追い詰められて10倍の敵を前にした気分

《納屋34》


 イーム達に酒を売った後でディメトレーヤさんにお持ち帰りされた。また押し倒されて精霊との融合にはMPを消費することがはっきりした。どうせ中断する気はないのだ。融合がさっさと終わるよう今夜は異世界側に泊ろう。


 解毒ポーションで酔いを醒ました。無粋だと言うなかれ。酒飲みの心意気など知らん。まだパブロックとの話が終わっていないのだ。


「お待たせー。遅くなって悪いね。あの後ディメトレーヤさんと飲むことになって逃げられなかったんだ」

「お察しします。私も危ない目に遭ったことはありますが、本当に心臓が止まりそうになったのは初めてですよ」

「あの人は比喩じゃなく本当に眼力で人を殺せるからね。さっきので気が変わったりしてないよね?」


「ご心配なく。覚悟は決めています。こんなチャンスを逃すものですか!」

 英雄達と直接取引できるのは上級貴族を相手にするのと同じくらい凄いことだとパブロックが力説する。よし、もう完全に巻き込めたな。


 二人で今後の計画を練る。

 酒の販売は既得権と衝突するだろう。この街では専売や許可制ではないので誰にも文句を言われる筋合いはないのだが、大金が絡むのでいつか揉め事が起きるはずだ。


「オーガ殺しはパブロックさんの好きな相手に売ってもらって構わないんだけど、どの辺から妨害を受けるか見当はつく?」

「値段が最高級のワイン以上ですから、まず高級ワインの卸元が良くは思わないでしょうね」

「なるほど。そりゃ競合するよな。オーガ殺しとワインじゃ好みが別れるとは思うけど、最高級のさらに上に食い込むわけだし」


 この世界の醸造技術は未熟だ。日本で普通程度に美味い酒なら何を持ち込んでも市場荒らしになるだろう。

 誰が敵か分かっている方が危険が少ない。

 なので、オレ達はあえてワインにぶつける方針でいくことにした。


 酒の保管場所に商業ギルドの倉庫を借りた。大倉庫の中へ入ると中央通路の左右に多数の扉が並んでいる。オレ達が借りたのは8畳間くらいの部屋で、料金は1年分、金貨18枚を前払いだ。住居に比べるとだいぶ高いが、値段相応の警備体制はあるように見える。


 部屋の中へ入って扉を閉めると軽トラックを出した。やっぱり驚くよな、パブロックに見せるのは初めてだし。

「なんですかこの荷車は!?いやいや、それよりもこんな大きな物が入るアイテムボックスなんて商人になったら大成功間違いなしじゃないですか!!」

「はっはっは。冒険者としても重宝しているよ。獲物を大量に持ち帰れるからね」

「うう、たしかに」

「今後もオレの本業は冒険者だよ」


 軽トラの荷台には4リットル・ペットボトルの残り86本が載っている。

「これの販売はパブロックさんの仕事だ」

「はい、お任せを!」

「ウイスキーは35本残ってるけど、次回イーム達に売るのは10本だけにしておく。本当に樽に入れてまとめて売っちゃうのはやりすぎだと思うんだ。ウイスキーだけで金貨560枚分になっちゃうし」


 パブロックが一瞬ぽかんとした顔になった。

「え、560枚」

「オーガ殺しも入れると700枚分くらいになるし」

「700って...」


 ぱっと見て大雑把な暗算はできていなかったのか。金額を聞いてショックだったらしい。ついこの前まで金貨には縁がなかった行商人だし、気持ちは分かる。


「そうだ。はいこれ。パブロックさんの取り分」

 小袋の中で鳴る金貨を渡そうとする手を押し留められた。


「だめです。今回私はエドさんに言われた通りに話しただけで、とても金貨を受け取れるような仕事はしていません」

「え~、そんなこと言われると出した手の行き場がないよ」

「その代わり、この透明な入れ物をいただけないでしょうか」

 ペットボトルか。

「う~ん、これかあ。これ何だと思う?」

「あ!失礼しました。そうですよね、これだってどれほどの価値があるか」

「そういう意味じゃないけど、もし売ればこれだって商売のネタにはなると思うよ。でもこれを売る気は無い。軽くて丈夫な水入れならもっといい物を持ってくるから」


 ペットボトルの数百個くらい売ってもいいだろうか?

 やっぱりゴミとしてその辺に捨てられているところを想像すると気持ち悪い。オレは別にグリーンな原理主義者ではないが、面倒じゃない限りはプラスチックの拡散は防ぎたい。


「次もまた陶器を何個も持って行くのは面倒くさいな。小さめの樽って無いかな?」

「ありますよ。酒樽はたしかに大きいですけど、水樽なら大小揃ってます」


 水樽の中でも特に品質がいい、有名な工房の焼印が入った樽を3個購入した。中身がすごく高価だから樽代など問題にならないのだ。


<次回売る予定>

 ウイスキー 40L      金貨160枚

 オーガ殺し(25%) 60L  金貨60枚

 オーガ殺し(15%) 140L 金貨84枚

------------------

 合計 金貨304枚


 二人でボトルの中身を次々と樽に流し込む。部屋の中が酒臭くなってしまった。近くをドワーフが通りかからなければいいが。

「最初からこうすれば良かったよ。これなら詰め替えも楽でいいや。次の配達は頼んだよ。あ、確かにお使いみたいな仕事ばっかり頼んでるね」


 作業する手を止め、う~んと考える。


「倉庫も借りたし、もうオレ達二人の商会として登録してもいいんじゃないかな?」

「たしかに...その方が都合がよさそうですね」

「代表はD級商人のパブロックさんに任せたい。当面は酒とショコラと砂糖が主力だ」

 砂糖にパブロックがぴくっと反応した。

「うん、砂糖もあるんだ。最初に少しだけ売ったでしょ。あれと同じ品質のを数日中に大樽半分くらい持ってくるよ」


 砂糖は1Kgで金貨1枚になる。

 パブロックが金額を計算しようとしてして目が虚空を見る。

「はあ、さすがとしか言いようがないですね。あの時は塩も売ってもらいましたけど、塩はもう無いのですか?」

「あるよ。でも塩は売らない。砂糖や酒と違って塩は必需品でしょ。必需品の供給に責任なんて持ちたくないからね。もし塩不足にでもなったら、その時だけは塩と一緒に恩も売るよ」


 なんかツボにはまったらしい。パブロックがひとしきり笑って涙目になっている。

「あはははは、はあ。エドさん、やっぱり商売人に向いてますよ。代表の件ですが、エドさんが伯爵家所縁の者として登録した方が格は上になりますけど」

「それはやめとく。これはオレ達二人の商売だ。誰かの威光を借りたくない」


 パブロックが納得したようにフッと笑い、頷いた。

 こうしてオレ達の『エミリー商会』が設立されることになった。出資金額は金貨10枚ずつで、二人が対等の権利を持つ。金貨20枚程度の資金では大量の酒を扱えないが、売った後で清算するから問題ない。

 唐突に出てきた『エミリー』とはパブロックの相棒である駄馬の名前だ。看板には馬の意匠を入れよう。


「それじゃ当面は忙しくせず、英雄達やその他上客への限定販売ってことで」

「はい。私もまだ行商人としての仕事が残ってますから」


「あ、今思い出したけど香辛料もあるんだった」

「えっ」


 ***


 -武器屋-


「そろそろ出来てる頃かと思って来てみたんだが」

「おう、完成したぞ」

 渡されたそれはまさしく日本刀だった。トラックの板バネを素材にドワーフが打った刀だ。鞘や柄もちゃんと見本通りにできている。刃の付け方も注文通り『ハマグリ刃』だ。


「どうじゃ、気に入ったか」

「ああ、完璧だ。打ってもらった礼にまたオーガ殺しを持ってきたよ。それに、ちょっと珍しい酒もある」

 現地で買った陶器に詰め替えたオーガ殺し(4L)とウイスキー(2L)を出すと、普段は強面の鍛冶屋『ベーリング』がニコニコ顔になった。


「おお~っ!こりゃすまんな」

「さすがに、本当にタダじゃ気が引けるからな。ところで、オヤジさんの銘は入ってないのか?」

「入れとるぞ。柄に隠れて見えんがな。ワシもまだまだ未熟じゃから、目立たんでいいわ」

「そっか。実はこれの名前は『オーガ殺し』に決めたんだ。この辺に入れてもらってもいいかな?」

「そいつはいいな。ワシも気に入った。実は同じ剣をもう1本作ったんじゃが、そいつにもオーガ殺しと入れて構わんか?」

「もちろんいいさ」


 少し待たされて、刀身に現地語で『オーガ殺し』と銘が入った刀を受け取って店を出た。

 直後にベーリングの叫び声が聞こえた。

「ぬお!!

 お~い、待て待て!ちょっと待てーっ!!」


 ドシャン、ガシャンと何かをひっくり返しながらベーリングが飛び出してきた。


「おい、なんじゃこの酒は!?まだあるのか?あるんじゃろ!?あるはずじゃ!!」

 ドワーフだし、こうなると予想はしていた。

「外で話すのもなんだし、店に入ろうか」


「金貨か?ミスリル剣か?何を出せばいい!?」

「ちょっと落ち着いてくれ。想像は付くと思うけど、その琥珀色の酒『ウイスキー』は遥かな遠国から運ばれてきた貴重品だ」

「ああ、そうじゃろうな。こんなうまい酒があるとは夢にも思わなんだ。この世のものとは思えんぞ」

「オレはこの剣の出来栄えが気に入ったから、一本おまけで出したんだ。つまり、ウイスキーにはこの剣と同じくらいの価値があるというわけだ」

「う、うむ。たしかに、それくらいの価値はあるはずじゃ」


 ウイスキーと同等というのは結構な誉め言葉になったらしい。かなり嬉しそうだ。


「オレが出せるのはその容器の2倍の量が入ったのをあと1個だ。それを売ってもいいけど、何か面白い物と交換とかどうかな?」

「うぬぬぬぬ...なら、お前さんのオーガ殺しを魔法剣にするのはどうじゃ?」

「魔剣も打てるのか。すごいな」

「魔剣じゃのうて魔法剣じゃ。ワシの師匠に頼んでやってもらう。こう見えてワシはボルソルンの弟子じゃ。あの偏屈ジジイは腕を認めた客の注文しか受けんからな。今のお主じゃ相手にされんじゃろ。じゃが、ワシがこの剣を見せて頼み込むのなら話は別じゃ」


 あ~、英雄たちのアジトに来たドワーフか。英雄の御用達ならさぞかし腕利きに違いない。


「なるほど。して、その魔法剣の能力は?」

「そうじゃな、風の斬撃はどうじゃ?気合を込めて剣を振れば斬撃が飛ぶぞ」

「おお、いいな。いや、でも、魔法のウインドカッターなら使えるしなあ..似たようなもんだろ?」

「使い方次第じゃろうが、魔法のことはよう分からん。比べられんな」


 ゲーム知識を総動員して考えてみた。できれば魔法と被らなくて使い勝手がいい効果にしたい。

「それじゃ雷撃を付けられるかな?斬りつけるたびに敵の動きを一瞬止められるといいんだが」

「ふむ。できるじゃろ」

 連続で行動阻害できればかなり強いはずだ。とあるMMOではスタンの使い勝手が良すぎてすぐに弱体化されてしまったくらいだし。


 カウンターにドン!と追加のウイスキー4L入りを乗せた。

「よし頼んだ!酒は前払いだ」

「おう、まかせろ!この酒を師匠に少しばかり分けてやれば真っ先に仕上げてくれるじゃろ。明日の昼過ぎに取りに来い」


 喜色満面で酒を抱えたベーリングは、オレが出るのと同時に店を閉めてしまった。この時間から飲む気かよ。師匠に分ける分が残るかも怪しいな。心配になったオレは店を叩いて開けさせて、おせっかいながらも空のとっくりを渡してきた。


 -伯爵邸-


 今夜は伯爵邸に泊る。ここの住人になって数日経つが泊まるのは初めてだ。中に入ると今回もメイドのイングリットとリディアが出迎えてくれた。


「「 エド様、お帰りなさいませ! 」」


 ニヘラと緩みそうになる顔をキリっと引き締める。


「ただいま。今夜は泊っていくよ」

「やっとですね。エド様は冒険者ですし仕方ないとは思いますけど、もう少し頻繁に帰ってきていただけると嬉しいです」

「うん、できるだけそうするよ。それじゃちょうどいい時間だし一緒にお茶しよう。これ、また全員分持ってきたから」


 紙箱をテーブルに乗せ、蓋を開けて中身を見せる。ショコラケーキとクッキーに二人が「キャーッ!!」と耳をつんざく歓声を上げた。

「「はいっ!すぐに準備しますね」」

 ギルバードが何か言いかけたが、イングリットが眼力で黙らせた。仕事の途中だったのかな?許せ、お茶しながら仕事の話もするから。


「これがショコラの原料になる木の実の絵なんだけど」

 カカオの実と豆の写真をカラーでプリントアウトした紙をギルバートに渡した。すごい緻密な絵だとか上質な紙だとか驚くのはスルーして話を進める。

「どう?見たことある?」

「ふむ、記憶にはありませんね」

「見たことないです」

「わたしもないです」


 まあそうだろうな。気候から推測してこの地方は日本と同じくらいの緯度だ。カカオの産地があるとしても数千キロ離れているだろう。


「年中暑い地方じゃないと育たないらしいので、近くには無いと思うよ」

「ふ~む、遥か南方へ行けば暑くなると聞いたことがありますから、そっちの方ですかね」

「カカオの入手は難しいと思うから、はいこれ、ショコラの現物を金貨16枚分ね」

「おお、これはありがとうございます。すでにリューズライト家を中心に大好評となっておりまして、倍の値段でも構わないのでもっと仕入れたいとのことです」

「残念ながら値段の問題じゃないんだ。値上げはしないよ。その代わり、ある分だけしか持って来れない」

「やはりそうですか。承知しました」


「今回はショコラケーキも売ろうと思って切り分ける前のを持ってきたよ」

 有名店で買ってきた丸いケーキを見た3人が息をのむ。できるだけ豪華で品がいいのを選んだつもりだ。

「すごい...」

「もしこれを独り占めにできたら、もう何も思い残すことは無いわ」

「これはまた見事ですな。おいくらで?」

「1個あたり金貨3枚。4個あるけどどうします?」


「全部いただきます!これを送れば領地のお嬢様方がさぞかしお喜びになるでしょう。先日、ショコラケーキの試食後に報告をしたのですが、本当にそのようなものが存在するのなら今すぐ送れと、ジゼルマイン様が催促されております」


「領都まで馬車で数日かかるんでしょ?そんなに日持ちしないですよ」

「ご心配なく。この屋敷にも魔法鞄がありますので」


 ギルバートが革製のでかい旅行鞄みたいなのを持ってきた。その中に収められたショコラの箱と丸ケーキ4個分の箱は闇に消えるように見えなくなってしまった。

 本物の魔法鞄だ。入口よりでかいものは入らないっぽいな。


「ふふっ、お嬢様方の反応が楽しみです」

「奥方様のご機嫌も取れますしね」

「ケーキのためと言えば伯爵様のお出かけにも文句を言われずに済むでしょう」

 伯爵の家庭内事情が聞こえてくるがオレは無関心を装う。女性陣が強いらしいのはしっかり覚えた。


「ショコラケーキのレシピも手に入ったんだけど、これを見るだけで作るのは無理かもしれないので、実演するための材料と道具一式を持ってきたよ」

「それは願ってもない。イングリット、リディア、頼みますよ」

「「は~い」」


 お茶の時間が終わってぞろぞろと厨房へ移動する。

 薪かよ。てっきりガスコンロと比べても遜色ないような魔導コンロがあると思ってたのに。それでも何とかなるとは思うが...

 イングリットに顔色を読まれたらしい。

「エド様、ご安心を。火の管理は私たちが完璧にこなしますので」


 ちなみに、厨房の端には魔石で動くコンロとオーブンもちゃんとあった。それでも普段は薪を燃料にかまどや石窯で調理しているらしい。その理由は、薪で本物の火を使って料理した方が味が良くなると信じられているから、だそうだ。便利道具を使わず手間をかけるのは貴族の贅沢というやつか。


「それじゃ、イングリットとリディアは助手をお願いね。ギルバートさんは記録係を」

 ケーキ用のスポンジとクリームの作り方は動画を見て覚えてきた。普段は料理なんてしないが、できないわけじゃない。


 魔法鞄ということにしているただの鞄から次々と材料を取り出して並べて見せる。

「はい、これがかき混ぜ機ね。混ぜるのがすごく大変だからこれでぐるぐるやるんだ」

 ハンドルをぐるぐる回すタイプの泡だて器を2個出してイングリットとリディアに渡す。


「すご~い。こんな便利な道具があるのね」

「これは他の料理にも使えそうね」

「頑張ってくれ。スポンジもクリームもとにかくかき混ぜるんだ」


 後で現地調達の材料だけで作れないと困るので、持ってきた材料が何なのか詳細に説明する。ここでは小麦粉は単に小麦粉で、強力粉か薄力粉かといった区別がなかった。バターと卵はあった。牛乳は必要なら入手可能だそうだ。成分無調整なのは間違いないのでそのまま使えるだろう。食用ゼラチンは存在が知られていなかったので今回は使わないレシピにする。


「小麦粉は品種が違っても多少食感が変わる程度で使えなくはないはずだ」

「材料を揃えるのも大変ですね」

「伯爵様の発明があったからよかったものの、普通は氷なんてそう簡単に手に入りませんよ」

「だからこそ真似するのが困難で我々には好都合です」


 製氷機はあった。それも一瞬で水が氷になる超高性能なやつが。しかもアイスランスの応用で水を入れなくても氷を出せるらしい。ただし、それをやると魔石の消費が激しい。


 石窯に火が入ると、吸い込まれた風が薪に吹き付けてあっという間に火力が上がった。こっちも魔道具だったか。着火機能と送風機能があるとは、ちょっと感心した。


「こんなに大変な料理は初めてですよ」

「このぐるぐる機のおかげで助かりました」

「まだ終わりじゃないぞ。焼き上がるのを待つ間にクリームを作るんだ。ほらここまでは簡単なもんだろ。さあ、これも思う存分混ぜてくれ」

「は~い先生。ぐるぐるしま~す」


 クリームがいい感じに空気を含んで流れなくなってきた。味見だ。

「うん、こんなもんかな」

「んんーっ、美味しい!」

「素晴らしいです!苦労の甲斐がありました」


 ちらっと後ろを見たら、ギルバートが物欲しそうな顔から一瞬で真顔に戻った。

「はいどうぞ。ギルバートさんの意見も必要です。甘さの加減はどうでしょう?」

 ちょっと照れた顔でギルバートも味見をする。

「ふむ、先ほどのショコラケーキと同じくらいですね。私はこれくらいが好みです」


 焼き上がったスポンジにクリームをペタペタと塗りつけて一応完成だ。白とショコラの二種類を作った。何の飾りもないただの丸ケーキだが味見には十分だ。

「これってもしかして、白い方が基本ですか?」

「その通り。白い方は味にくせがないから、いろんな果物と合わせやすいんだ」

「ふむふむ。うまく飾り付けたらきっと果物の色が映えて綺麗ですね」


 味見でまたケーキを食う。オレはすぐに飽きた。ギルバートももう飽きたっぽい。屋敷の全員に配って余った分はイングリットとリディアがペロッと片付けた。さすがだ。これが女子力というやつか。

「今日は素敵な日だったわあ」

「もし売られていたとして、今食べた分を支払ったらいくらになるのかしら?」

「ちょっと、怖いこと言わないでよー」


「初めてだし、やっぱり職人が作ったのにはだいぶ劣るな。あとは二人で工夫してくれ」

「はい。一回教えたら伯爵家の筆頭料理人が何とかしてくれるはずです」

「私たちはここで食べる分を作れたら満足です~」


「何甘いこと言ってるんですか。お前達もこの屋敷への来客に出せる程度の腕前になってもらわないと困ります」

「それくらいはやりますよ~。ああ、これから毎日ケーキを味見できると思うと幸せです」

「ええ、これもエド様のおかげです」

「なんなら、ギルバートさんにも味見させてあげますよ?砂糖その他の予算はお願いしますね」

「はいはい、練習用の材料費は確保しますよ」


 いいタイミングなので砂糖も扱っているエミリー商会を売り込んでおいた。

「ギルバートさん、この砂糖、間違いなくここで使っているのより品質がいいですよ。これで同じ値段なら絶対お買い得です」

「そうなのですか。それではケーキ用にはエミリー商会から仕入れることにしましょう」


 設立当日からさっそくエミリー商会は伯爵家御用達だ。


《納屋34》

魔剣は、魔法剣よりすごいやつ

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ケンベン(?_?)は、辛い [気になる点]  確かに、ケンベン(?_?)は、辛い [一言]  慎重に準備を。 ケンベン =試験勉強
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