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32.本日は決戦日より

《納屋32》


 師匠の特訓とパブロックとの商談も済んだし、ディメトレーヤさんにシャンプーも渡した。これから日本へ戻る。


 街を出る前からつけられている。街から200mほど離れたところで奴らもゲートから出てきた。赤い点が5つ。馬鹿5人組だ。熊スプレーをくらって仲間2人が死に損ねたから、青だった2人もついに赤になったようだ。

 決戦だな。

 こっちも準備はしている。回復ポーションは特級2本、上級3本、並12本。それに加えて毒消し3本と小魔石が大量にある。


 どういうわけか、他には誰も歩いていない。雲で空が薄暗くなってきた。まるで決戦の場が整えられたかのようだ。Cランク5人が相手だ。すでに手に冷や汗をかいて少し震えている。これじゃ普通の魔法は到底使えない。振り切るのは簡単だが、逃げはしない。人目が無いのはオレにとっても絶好の機会だ。ここで全員仕留めてやる。


 ぽつぽつと大粒の雨が降り出した。なるほど、だから他には誰も歩いてないのか。

 街からだいぶ離れた。そろそろ来るか。

 雨脚が強くなり、近くの木に雷が落ちたのを合図に敵2人が草原に入って走り出した。そんなのはマップで丸見えだが、気がつかないふりをして歩き続ける。


 草原を走る2人は速い。道から左右に50mほど離れて並走し、オレを追い抜いていく。まだこの辺りの草は背丈が低いが、まばらに背が高い草も生えている。それにこの雨だ。50mも離れたら普通は気づかないだろう。

 前で待ち伏せして、後方の3人と挟み撃ちか。今回はウサギさんの助けは期待できないだろうなあ。


 オレは草原に入ると身を屈めて右側の敵を追いかけた。前から雨が吹き付けてくる。走り出してすぐに後ろの3人がマップ上で見えなくなった。どうやら草と雨で探知距離が短くなっているようだ。オレが草原に入ったのは後ろの3人も気づいているはずだ。追ってくるだろうが、十分離れている。オレが前の敵を仕留める方が早い。


 うおっ!ウォーターボールで出した水球がでかい。

 雨のせいだな。敵を追って走りながら風上へ水球を飛ばして霧を発生させた。濃霧が後ろへ流れ、追ってくる3人の視界を塞ぐ。


 苦しい。

 全力疾走に近いから、自動詠唱で口が勝手に呪文を唱えるのがきつ過ぎる。酸欠になる。もう無理だ。水球を飛ばすのは2発でやめた。


 追われていると気づかない右側の敵はすごい速さで待ち伏せ地点へ向かっている。後ろの3人が何か怒鳴っているが、オレが追っている敵の動きは変わらない。

 敵が道の近くで止まった。

 待ち伏せ体勢に入ったな。道の反対側でも待ち伏せしているのがマップで見える。


 もうすぐ射程に入る。

 オレは完全に息が上がっている。歩きながら呼吸を整えて、2.4倍ウインドカッター詠唱開始。革鎧程度なら余裕で切り裂けると思うが、狙うのは頭だ。


 風の刃が唸りを上げ、土砂降りの雨に一瞬の軌跡を引いて飛んだ。命中と同時に敵が明るく光り、パキーンという音が聞こえた。

 なにっ!?

 くそっ!オタク知識なめんな。石投げてやる。

 四つん這いに伏せてストーンバレット詠唱。一発玉だ。


「やられたーっ!!バレてるぞーっ!!」

 怒鳴り声を聞いて道の反対側にいた敵がこちらへ走り始めた。


 ストーンバレットが詠唱完了する直前に上半身を起こし、ワンドを敵へ向けた。左手にはポリカ盾を構えている。敵がオレを見つけて弓を引き絞った。

 バガッ!という音と衝撃と共に敵の矢が盾に突き刺さった。くっ、ゴブリンの矢とは威力が段違いだ。矢の先は防刃ベストまで届いている。


 矢を受ける直前に飛んでいた石弾が、ズドッ!と鈍い音を響かせて敵を後ろへ吹き飛ばした。これなら肋骨を潰したはずだ。魔法で出した石だが、本物の石だ。対魔法障壁など関係ない。

 盾を消し、また伏せてストーンバレット詠唱。2人目の敵はまだこちらを見つけていないようだが、おおよそこちらの方向へ向かってくる。背後から来る3人もマップ上で見えるようになった。


 起き上がるのと同時に盾を出してワンドを敵へ向ける。敵も弓を引き絞るがこっちが早い。

 石弾が発射された。これも安物のメロンサイズの一発玉だ。

 敵は弓を引きながらも反応し、すんでのところで上半身をのけぞらせた。石弾は弓を持つ左腕に当たり、腕がぐにゃりと変な曲がり方をして握っていた弓が吹っ飛んだ。そいつは骨折の激痛に顔をしかながらも右手で腰のショートソードを抜き、オレに向かって走りだした。

 オレは3人組へ向かって走りながらストーンバレットを詠唱する。後ろからは左腕をへし折られた敵が追ってくる。

 

 サン、ニ、イチ


 上半身を後ろへねじり、追ってくる敵へワンドを向けて散弾発射。握りこぶし大の石が数発、10m近い距離をほぼ水平に飛ぶ。

 ボトトトッ!

 一発は顔面に当たり、敵は走る勢いのまま転がった。まだ赤い点は消えていない。えらく頑丈だな。地球人なら即死する威力のはずだ。


 剣や槍を構えて向かって来る3人の表情が分かる距離まで接近した。


 必殺、マンドラ爆弾!!


 すでに叫び始めているマンドラをアイテムボックスから取り出して敵の頭上へ放り投げた。直後に反転してマンドラから遠ざかる。


 ギョワーーーーーン!!!


 神経に突き刺さる大音響が草原に響き渡る。オレだけは回復ネックレスの効果で多少は耐えられるはずだ。できれば日本に戻って耳栓と防音イヤーマフも準備しておきたかった。


 あれ?視界が傾く。

 足がもつれて転がってしまった。平衡感覚をやられたらしい。全身に走る激烈な不快感がすぐに刺すような痛みに変わった。

「うがが...」


 敵は!?

 上体を起こして見回すと3人とも転がっていた。

 頭がくらくらする。視界が赤くなってきた。上級ポーションを飲み、少し余裕が出来たところで3人へ向けてストーンバレットを撃ち込んだ。拡散させて3人とも範囲に入れたので威力は落ちているが、頭にヒビくらいは入るだろう。


 少しでもマンドラから離れるために地面を這った。腰を上げて走ろうとしたらまた転んだ。土砂降りの中、泥だらけになりながら地面を這う。効果が切れる前に2本目の上級ポーションを飲み、回復ネックレスにも魔石を補充した。もっとマンドラから離れないと。


 足が何かに引っかかって前へ進めない。

 うひっ!ゾンビだ。

 顔の真ん中が陥没して血だらけの男に足をつかまれていた。陥没しているところにゲシゲシとカカト蹴りを食らわせてゾンビを引きはがした。やっと死んだか。


 自分の目から流れる血で前が良く見えない。鼻血で呼吸し辛い。

 マンドラの威力がこれほどとは。

 もはや音というより、刺すような痛みが放射されているとしか思えない。

 出し惜しみは無しだ。特級ポーション!

 金貨20枚する小瓶を一気に飲み干した。その効果は劇的で、すうっと痛みが引いて耐えられる程度になった。視界の赤みも薄れた。手早く魔石を補充して、今度は転ばないように腰を低めに、猿のような姿勢で走る。


 ぜい、ぜい呼吸しながら転がって耳を塞いだ。ここまでくれば回復ネックレスだけでも耐えられる。


 3人組の方を見ると1人が小瓶を投げ捨てて立ち上がるところだった。剣を片手に目と鼻から血を流しながらこっちへ向かってくる。やはりポーションくらい持っていたか。だがそこまでだ。寝転がって敵が接近するのを待ち、一発玉にしたストーンバレットを顔面に直撃させた。

 ドバっと赤い血が飛び散った。頭がはじけたようだ。Cランク冒険者がいくら頑丈でも所詮(しょせん)人間だな。オークよりはだいぶ柔らかい。


 音が止まってからも、魔石を補充してしばらくダメージが回復するのを待った。


 確認に戻ると2人は転がった場所でムンクのようなすごい形相で顔から血を流して死んでいた。マップ上でも敵を示す点は消えているが、念のためウインドカッターで首を落とした。最初に肋骨を潰した奴はまだ生きていたので、そいつの首も落とした。頭がはじけた奴と、顔面が陥没した奴は十分死んでいる。トドメは不要と判断した。


 敵の武器と防具は回収した。腐ってもCランク、それなりにいい装備だ。下の服も切って剥がして食べやすくする。一夜明ければ、魔物や獣に食われて原型は残っていないだろう。


 オロロロロ...

 くそっ、慣れないな。自分へ殺意を向けてくる相手を殺るのに迷いも同情も無いが、生理的反応は別の話だ。首無し死体が今夜の夢に出そうだ。


 待ち伏せしようとした2人の胴装備の内側には魔法陣が書かれた羊皮紙が貼られていた。これで対魔法障壁を発生させたのだろうか。後でアゼリーナさんに見せたら、それは一定のダメージしか吸収できない使い捨てアイテムで、2つともすでに使用済みになっていた。買えばそれなりの値段だが、残念ながら再利用はできないそうだ。

 オレの足をつかんだゾンビは、これのおかげであの地獄の中でも動けたんだな。


 泥だらけになった防具を脱ぐ。自分の血を吸って前が赤くなったシャツも脱ぐ。雨の中でパンツ一丁になると、ウォーターボールで出した水球を自分の頭にかぶせて静止させ、わしゃわしゃと汚れを落とした。さらに2個水球を出して体の汚れもあらかた落とした。


 軽トラックに乗って巨木の森を目指せばすぐに日本だ。


 ***


 馬に乗った護衛AとBがぼやく。

「エドさん、なんだってこんな雨の日に出かけるんだ」

「そこの5人組もな」


 2人の護衛は5人組の後ろ50mくらいの位置でエドを追っている。この前、自転車で走り去るエドを見てから徒歩ではきついと思って、今回は馬を用意したのだ。馬だと小回りが利かなくなるのだが。


 ピシャーッ!!

 ガラガラガラ...

「「 うおっ! 」」

 近くに雷が落ちた。


「あれ、前に5人いたと思ったが」

「3人しかいないな」


「あ、エドさんも消えたぞ」

 3人組が走りながら怒鳴っている。

「おい、これって」

「行くぞ!」

 護衛2人は馬を走らせた。

「うわっ、何だこの霧は!?」

「前が見えん!」

「とにかくあの3人組に追い付け!」

 土砂降りの雨に加えて濃霧が発生した。視界は数メートルしかない。

「くそっ、一体何が起きている!?」


 ギョワーーーーーン!!

 ヒヒーン!

「あがっ!」「ぐわっ!」


 マンドラの叫び声を聞いた馬が護衛を振り落として街の方へ走り去ってしまった。2人は耳を塞いで叫び声が止まるまで耐えた。目から多少の血が流れたりはするが、この2人も回復ネックレスを装備しているので大事には至らない。


 伯爵邸へ戻りギルバートに報告する2人。

「どうやらマンドラを使って5人の敵を倒してしまったようです。我々は濃霧のせいであまり接近できなかったのが幸いでした」

「うむ、分かった。まさかそんな戦い方をするとはな」

「それに、おそらくですが、霧を発生させたのもエド殿かと」

「くっくっく、思ったよりやるな。面白い御仁だ」

 ギルバートも驚いているが、エドが意外と戦えると分かって楽しそうだ。


 ***


 パタン。

 うちの納屋へ入り、異世界への扉にカギをかけた。

 ふい~~~っ、六日ぶりの日本だ。今回はすごく長かった。


 ふっふっふ、敵も倒したし、いろいろ調子よく回りだしたし、これからが冒険本番だな。


 マンドラを投げても自分へのダメージが減るように耳栓と防音イヤーマフが必要だ。どっちも密林通販で買える。音を敵へ向けるための反射板も欲しい。パラボラにして指向性を持たせれば、それはもう音響兵器だ。適当な既製品は思いつかないので鉄板溶接で作ることにした。

 早速ホームセンターで材料を買ってきた。今夜中には完成するだろう。


 ウイスキーと鬼を殺す焼酎も買ってきた。チョコレートも大量に補充した。ケーキのレシピも調べないと。新しい盾もいるな。


 矢が刺さった盾を出してみた。頑丈なポリカーボネート板を見事に貫通している。ハンマーで叩いても割れないのに。今回射抜かれたのは3.5mmだ。すぐに買えそうなやつでは最大5mm厚なのでそれを注文した。5万円近くする大型の盾だ。重くなるが、使う直前までアイテムボックスに入れてるので平気だろう。

 クロエとマリーが使ってた小さい木の盾の代わりになりそうなサイズも4枚注文した。


 矢が刺さった穴は1mm厚の鉄板で塞ぎ、持ち手の部分も射抜かれないように補強した。


 金貨は177枚ある。

 消耗品の残数をチェック。さっき使った分は後で補充しよう。


 小魔石        55

 (特)回復ポーション  1

 (上)回復ポーション  1

 (並)回復ポーション 12

    解毒ポーション  3

    マンドラゴラ   0


 アイテムボックスから出したソフトクリームをなめつつ、パソコンで次回持ち込む物のリストを作成した。手がふさがってるだろうって?キーを叩くときは消せるから問題ない。


 スマホで撮影した英雄たちの動画をパソコンに転送してから見ると、すごく予算のかかった映画のようだった。


 怖い魔女でもやっぱりエルフは美しいな...


《納屋32》

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