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30.商人も巻き込もう

《納屋30》


 ドワーフと魔女がドラゴン素材まで出すというので、日本へ戻ってウイスキーを大量に仕入れることにした。

 早く日本へ戻りたいところだが、クロエのお誘いは全てに優先する。午前中はまた師匠のしごきで「普通の魔法」の特訓だ。もう、歩きながらでもほぼ成功するし、連射もできる。だが、敵を前にしたらどうだろう?


「エドさん、ここからは不思議道具も古代魔法も禁止です!」

「イエス・マム!」


 街から一番近い西の森だが、奥へ入って探せば昼でもゴブリンくらいいる。しかも、無防備な美しいエルフが1人ともなれば向こうからやってくる。


 敵は6匹か。茂みに隠れるオレの横をクロエが走り抜けた。立ち上がったオレを見たゴブリン共は一瞬驚いたようだが、弱そうな丸腰の男だと分かるとニヤつきながら向かってきた。

「石弾、石弾、石弾!!」

 大粒の散弾を三連射して3匹倒した。ちょっと狙いが雑で威力もだいぶ落ちているが、ゴブリン程度なら問題無い。


「石弾、石弾!!」

 くそっ、やっぱり不発か。刃物を持った敵に接近されるとまだ手が震える。こうなるともう普通の魔法は無理だ。


「ウラーーーッ!!」


 狂ったようにスコップを振り回して残り3匹を仕留めた。後ろにいるクロエを守るためだと思えば血が(たぎ)る。それに、神経を使う魔法と違い、スコップを持つと多少は落ち着きが戻る。まあ、防具もフル装備なので、そうそうゴブリン程度にやられはしないのだが。


「よくやりました。実戦での初使用としては悪くないですね」

「はっ、光栄であります!」


「....」

 クロエが遠くをじっと見ている。だれか戦っているみたいだ。マップ上には赤い点を取り囲む4個の青い点が見える。

「エドさん、助けに行きますよ。制限は解除です」


 駆けつけると14~5歳くらいの少年達がサハギンと戦っていた。川が近いから襲われたのだろう。2人が結構血濡れになっていて、戦意喪失に近いが逃げることもできないようだ。サハギンもそれなりに手傷を負っているが、倒れそうには見えない。相談している時間は無いな。だが、魔法を撃つには4人が邪魔だ。

「師匠、オレが突っ込みます!支援よろしく!」

 5m55cmの手製槍を構えて突撃した。

「加勢するぞーーっ!!お前らどけーーっ!!」


 邪魔になる1人が避けて、左右と背後から3人が武器を突き出してサハギンの動きを牽制してくれている。オレは怒声を上げて突っ込み、槍をサハギンの鳩尾から背中まで突き通した。だが、これくらいで倒れるような相手じゃない。

「3人ともどけっ!魔法の邪魔だっ!」

 3人が離れるのと同時にオレもしゃがむ。

「ストーンバレット!ウインドカッター!ウインドカッター!」


 クロエが魔法を三連射してトドメを刺した。石(つぶて)が頭を叩いて陥没させ、風刃2発で首を落とした。2発もいるとは見た目よりだいぶ頑丈だな。


 怪我人はそれなりの重傷だったが、オレとクロエの2人がかりで回復魔法を使ってなんとか治せた。

「「ありがとうござました~」」

 大した怪我じゃなかった方の2人が泣き出した。15歳から大人扱いといってもまだまだ子供だ。死にかけたら泣きもするだろう。


 やっぱり回復魔法が使えるのはいいなあ。ゲームでも行きずりで回復魔法かけてやるの楽しかったもんな。となると、杖は倍率重視の方がいいのかもな。でも、敵を倒せなかったら回復魔法を使う機会すらないわけだし迷うなあ。


「エドさん、カッコよかったですよ」

 うひひ。師匠に褒められた。

 こんな調子で昼近くまでゴブリン狩りを続けた。


 休憩中は鬼教官も美少女エルフに戻る。

「この世で一番美味しいものはこれに違いないですね」

 2人並んで川辺の石に座り、ソフトクリームを舐めている。

「実はこれ、氷があれば作るのはそんなに難しくないんですよ」

「え!?」

「師匠の魔法でどうにかなりません?」

「むむむ..とても、とても残念ですが、今はまだ無理ですねえ。冷やす魔法は難しいのですよ」

 まだ無理とか言いながらも、アイスを作れると聞いたクロエはどうにかしようと考えているように見えた。


 ***


 冒険者ギルド併設の酒場の端っこで行商人のパブロックと密談だ。英雄たちと定期的に取引することになりそうなので、この際パブロックを巻き込んでしまおうと思っている。


「はい、確かに」

 5日前に売ったショコラの残金、金貨10枚+大銀貨2枚を支払ってもらった。この前のショコラはすでにほぼ全て売り切ってしまったらしい。相当な利益が出たと顔に書いてある。

 頭を突き合わせて含み笑いするオレ達はさぞかし胡散臭いだろう。


「実は、ドワーフのイームに酒を売ることになってね、2回目からはパブロックさんに任せたいんだけど、どうかな?もちろん、あの(・・)イームだよ」

「あのって、あの(・・)イームですか!?」

「もちろん。それにエルフのディメトレーヤも」

「おお、まさかそんな話を私に回してもらえるなんて」

 驚いてるな。さすが英雄たちの知名度はすごいや。


「これがその酒なんだが、ここで出すのはまずいと思う」

 宝石に見えるのなら、こんなところで出すのはまずい。布をめくって少しだけウイスキーの小瓶(180ml)を見せた。

「こ、これは...商業ギルドへ移動しましょう。商談用の小部屋を借りられます」

 パブロックがぎょっとしている。実際、中身入りの角瓶は綺麗だからな。


 商業ギルドへ移動して話を続ける。

 瓶を見せるとパブロックが息をのんで凝視している。

「手に取っていいよ。これは『ウイスキー』といって、火酒の3倍くらい強い酒だ。味もイームのお墨付きだ。樽で欲しいと言われたがそんなには調達できない。今のところ英雄たち以外に売るつもりはないんだけど、これの販売をお願いできるかな?」


「分かりました。是非ともやらせてください!」

 パブロックは条件も聞かずに目を輝かせて引き受けた。

「値段だが...」


「金貨...本当にそんな値段で?」

 オレは不敵に笑って答えた。

「フッ、もし転売されたら末端ではこの数倍になると思うぞ。周辺国のどこにも出回ってない上に、味は極上だ」


 遥か彼方のジパングから運ばれてくるのですごく貴重で滅多に手に入らないという、口裏を合わせるための説明をした。といっても本当のことは教えてない。嘘をつくのはオレだけだ。


「それじゃ、味見してもらおうか。あ、ここで酒飲んでもいいのかな?」

「商談のための味見程度なら問題ないでしょう」

「それじゃ、これを。すごく強いから、そのつもりで」


 おちょこに半分くらい注いで差し出した。パブロックは少量を口に含むと一瞬驚いたようだが、舌の上で転がすとすぐにニッコリした。

「これ、すごいじゃないですか!強すぎる気もしますが、とんでもない上物ですね」

「だろ。3倍くらいに薄めてようやく火酒と同じくらいだからな」

「なるほど。そう考えると、エドさんの想定する値段では安いくらいですね。これで希少となると、もっと高く売るべきでしょう」

「そうかもしれないが、これでも十分利益になるんだ」


 パブロックは少し考える顔をしてから言った。

「あんまり安売りすると面倒なことになるかもしれませんよ。商人としての忠告です」

「うん、まあそれは分かってるつもりだよ。だからこれは英雄たちへの限定販売だ。滅多に手に入らないしね」

「そういう話でしたね。なら問題ないかと」


「それともう1種類『オーガ殺し』という酒も売ることになっている。これなんだが、強さは火酒と同じくらいかな。こっちはある程度の量を売れる」

「これもなかなか強いですね。その割に飲みやすいし美味しいです。私の好みとしては『ういすき』でしたか。それを薄めたのがよさそうです」

「だろ。ドワーフとかでもなければウイスキーは薄めて飲むものなんだよ」


「なるほど。ところで、この瓶だけでも相当な値段になると思いますが、これも売るのですか?」

「いや、瓶は売らない。適当な容器に詰め替えて売るつもりだけど、ちょうどよさそうなの知らない?」

「それならセベリヤ瓢箪(ひょうたん)でしょう」

「お、瓢箪があるのか」

「ちょっと高いですが、入れて寝かせておくと高級酒の風味がさらに良くなると言われています」


 中身に比べたら瓢箪の値段は大したことなかった。ウイスキーは瓢箪に入れて、オーガ殺しは大型のとっくりみたいな陶器に入れて売ることになった。


「パブロックさんに任せるのは10日後くらいの予定だ。取り分は利益の4割でどうかな?」

「えっ!」

「それに、支払いの一部はドラゴン素材になる予定だ」

「え...」

 パブロックの手が小刻みに震えている。もういっぱい、いっぱいだな。洗髪剤の話もしようと思っていたが次回にしよう。使い方の説明も必要だし。


「まあ、これでも飲んで落ち着いてくれ」

 もう一杯注いであげた。


「エドさん...これまでは数日かかって荷馬車を走らせても一回の利益なんてせいぜい大銀貨2~3枚でした。悪くすれば赤字ですよ。それがどうですか、今じゃ一回の取引で金貨の枚数を数えてるなんて。---エドさんと水の精霊に感謝を」


 苦労したんだろうなあ。しんみりしちゃったよ。

 行商人を卒業するかどうか、もうしばらく成行きを見て考えるという。オレとしてはこの街に店を持ってもらうと有難いのだが。

 ...よし、協力しよう。

 立ち上げ時期だけなら、日本から持ち込んだ現地調達できない物を使いまくっても構わないだろう。


「ああ、それに彼らもショコラを気に入ってたから、パブロックさんから買えるとなれば喜ぶと思うよ。これが今回のショコラだ。10枚分ある」

「おお!」

 どうせすぐ日本に戻るから、今持っているチョコを全て放出した。パブロックは中身を確認もせずに重さだけで納得すると、ギルドから現金を引き出してその場で金貨10枚を支払ってくれた。


 商業ギルドでウイスキーとオーガ殺し用に契約書を作成してもらった。別に書類なんてなくても構わないのだが、来たついでだし、パブロックがまた喜びそうだからオレから提案したのだ。

 前回と同じ公証人が出てきたのだが、彼の頭上に疑問符が浮いていた。契約書には酒とは書いていないし、金額も書いてない。「ウイスキー」と「オーガ殺し」という単語から想像するのはやはり武器だろうか。


 ドラゴン素材はさすがにパブロックでは扱えないと言うので、オレとパブロックの間では全額、現金取引することになった。


「商業ギルド経由でパブロックさんと連絡を取る方法をイーム達に教えてもいいかな?」

「もっ、もちろんです!」

 本物と会えるのも嬉しいのだろうけど、おそらくそれだけじゃない。英雄と取引があるとなれば商業ギルド内での扱いもまた違ってくるのだろう。


「残ったこれは帰ってからゆっくり飲んでよ。瓶は後で返してくれたらいいから」

「ありがとうございます!でも、これを持ち歩くのは怖いですね」

「大丈夫、大丈夫。ゴブリンを殴れるくらいには頑丈だから、石の上にでも落とさなきゃ割れたりしないって」

「あははは。例えが冒険者らしいですね」


《納屋30》

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