表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/77

25.やっぱり釣ってボコる

《納屋25》


 捕獲したゴブリンにマンドラ爆弾を運ばせて巣穴の中も全滅させた。ギルドの依頼は目標達成だ。せっかく来たので、近くの遺跡に住み着いているオークを狩りに行く。


 歩き出して間もなく、木々の向こうに弓を持って走る男が見えた。

「誰かオークに追われてるぞ」

「ん~、ありゃマーティンだな」


 その男はいわゆる「釣り役」だった。走る先には仲間が待ち構えていて、連れてきた獲物を取り囲んでボコるというゲームでは定番の戦術だ。

 途中に待ち構えていた誰かが、通り過ぎたオークの斜め後ろから弓を射た。なるほど、前からだと仲間に当たるもんな。ゲームと現実の違いだ。さらに、後ろからもう一発。これは下手したら釣り役に当たるが、まあ、オークは人間より幅があるし、大丈夫なのだろう。


「あたらしらも同じ狩り方するぞ」

「あいつらEランクだと思ったがなあ。大丈夫か?」

「近くで見ていよう」


 釣り役が仲間と合流すると、彼らは5人パーティだった。エーリカ達よりちょっと年上っぽい。18歳くらいか。

 オークの正面が長剣。後ろ側面からは2人が盾でオークの動きを圧迫しながら、片手剣でちくちく攻撃している。だが、後ろとはいえ安全ではない。オークが時々両腕を横に振り回すので弾き飛ばされそうになっている。オークの右足には矢が刺さり変な足運びになっているが、馬鹿力の両腕だけでも脅威だ。


「正面は盾を持たないんだな」

「あの棍棒を下手に受けたら手首が砕けかねん」

「ああいうのは両手武器で受け流した方がいいのよ」


 後衛には魔法使いと弓がいるが、仲間3人が囲んだ状態では手を出せない。その後衛2人にはふさふさの尻尾が生えて、頭にはでかい耳が付いている。狐っぽいな。


「あの耳いいな~」

 猫とどっちかいいか迷うくらいだ。

「む」

「いい度胸だな。女狐と浮気か?」

「にゃ~?」

「え?」

 なぜそうなる?

 両脇と後ろから猫に詰め寄られた。両腕に尻尾が絡みつくとかご褒美にしかならないんですけど。


「それよりほら、あの剣士勝てると思うか?」

 正面の剣士は攻撃を避けるか受け流すので精いっぱいのようだ。それなりに戦えてはいるが、危なっかしい。


 オークの動きは基本、単調だ。毎回、全力で棍棒を振り抜いてくる。だが馬鹿力のおかげで攻撃回数が多い。


「ブゴッ、ブフッ!」

 ブンブンと風切り音が聞こえてくる。


「あ」

「あちゃー」

「ダメか」


 棍棒を受け流しきれず、剣士が横になぎ倒された。追い打ちで振り下ろされる棍棒を転がりながら必死で(かわ)している。


「ブゴッ!ブゴッ!」

 ズシン、ズシンと地面から振動が伝わってくる。

「フゴーッ!!」

 振り下ろすと見せかけた横回転で盾持ちの2人も吹き飛ばされた。


 後衛が攻撃開始。弓を放ち左足も射抜いたが、まだ止まらない。焦っているのか、ファイヤーボールはまるで威力がない。


 ここまでだな。

 ぎりぎり勝てるのかもしれないが、見殺しにしたら寝ざめが悪い。


「加勢するぞーっ!!」

 ロンセルが叫んだのと同時に、こちらから矢が3本飛んでオークの足に刺さった。ふくらはぎに当たった1本は反対側まで貫通している。これで足には合計5本の矢が刺さっている。移動はほぼ止めたが、まだ馬鹿力で振り回す棍棒攻撃は健在だ。 


 すたすた歩いて接近したケイトが長槍で「ちくちく」「ザクザク」といじめるように棍棒を持つオークの右腕をつつく。

「ほら、あんたたち、もう少しよ。トドメ刺しなさい」

 起き上がった剣士が覚悟を決めたようにキッとオークを睨むと、身を屈めて突っ込んだ。肋骨を通して長剣を突き刺し、右手のひらを柄に当てて根元まで完全に押し込んだ。間もなくオークは倒れ、最後のあがきで素手の一発をもらった剣士も倒れた。


 倒れた剣士はすぐに目を覚ましてポーションを飲まされていた。

 さすがは異世界の冒険者。Eランクでもオレよりずっと頑丈そうだ。


「あ、ありがとう」

「ありがとうございます!助かりましたっ!」

 獲物を横取りしたとかいう話にはならず、全員素直に礼を言っている。


「それで、あの..」

「謝礼とかいらんぞ。俺達は最後にちょっと横やり入れただけだしな」

「惜しかったわね。もう少しに見えたけど、もし、またやる気ならひと工夫必要ね」

「精進するにゃ、少年」


 礼代わりに遺跡にオークが何頭いたか教えてもらった。残りは5頭で、およそ予想通りだ。

「それじゃ、残りは俺達が狩らせてもらうぜ」

「じゃあな。慎重にやれよー」


「あの、俺達も見てていいですか?邪魔にならないようにします」

「ん、ああ、いいんじゃねえか?」

「かまわんだろ」

「あたしのカッコいいところ見せてやるよ」


 狐少女2人を含む、ちょっとうらやましい構成のEランクパーティもオレ達のオーク狩りに付いてくることになった。倒したオークはどうするのかと思ったら、草や木の葉で手早く隠し、その周囲に何か撒いていた。

「何だありゃ?」

「虫よけだ。解体前ならあれで虫や獣から肉を守れる」

「なるほど。でも、すぐ血抜きした方がいいと思うがな」

「魔物の肉はしばらく生きてるから大丈夫だぞ」

「え?生きてるって..そんなの放っといて大丈夫か?」


 ミシャーナが、にひっと笑って答えた。

「ああ、それな。たまーに動き出すことがあるぞ。本人は死んでるのに肉が勝手に動くんだ」

「..え?や、やっぱり、そういうのいるのか?ちゃんとトドメ刺した方が良くないか?」


「....ぷっ」


「「「「あはははは!」」」」

「なんだよ??」

「エド、顔色が悪いぞ。本気にしたのか?」


 ゾンビの話かと思った。からかわれたようだが、肉が生きているというのは本当らしい。魔物の死体はしばらく体温を維持していて、ここじゃその状態を「肉が生きている」と言っている。ぴくっと動いたりもするらしいので、やっぱり危ないんじゃなかろうか?


 賢い猫魔のミャナーシャが説明してくれた。

「肉が生きてる間は痛まない。オークなら二刻くらい大丈夫。でも解体すれば肉も死ぬ。だから、血抜きの前に運んで距離を稼ぐこともある」

「さすが魔物だな。でも、本当に生き返って動き出したりしないのか?」

「エドは怖がり。オーク程度ならそれはない。損傷が少ないオーガの死体なら、丸一日放っておくと危険。トロールならすぐ再生して動き出す」


 この世界の魔物は少ししぶといようだ。1つ賢くなった。やはり、ゲームや小説で得た知識とはところどころ違う。さっきはゲームのレベル上げに近い戦闘を見たが、それだってゲームほどには効率が良くなかった。当たり前だが、前衛が獲物を取り囲むと後衛は攻撃できない。せめて状態異常を起こす魔法でもあればいいのにな。


「わたし、ファイヤフライ使えますよ」

「え?さすがお師匠」

 ファイヤフライ(蛍)という状態異常の魔法があるらしい。遺跡にいるオーク相手に使ってみせてもらうことになった。


 遺跡が見えてきたので偵察したいところだが、見物人にドローンは見せたくない。

 ザックとリニャータが偵察してくれた。

「このまま進むと、こちらから見える位置にオークが3頭いる。建物の向こう側にも2頭。確かに全部で5頭だな」

「1頭釣ったら、たぶん他の2頭が気づくにゃ」


 猫さんチームが近接でやり合いたいと言うので、2頭を引き受けてもらうことになった。釣り役はオレだ。1頭は一撃で倒して、2頭を連れて戻る。戻る途中で師匠のファイヤフライを使ってもらう。

 見えない位置の残り2頭はエリカ達とオレ達が分担する。


 懐かしすぎる。昔やりこんだゲームでは下手にオークを釣ると「リンク」していたな。敵集団が全部追ってきたりなんてこともあった。ここでもそれは同じだ。

 その経験が今役に立つ!!


「行ってくる!」

 師匠もオレに続く。

 風は横に吹いている。臭いで接近がバレることはないだろう。背中を向けている獲物へ接近しながら呪文を詠唱した。

 くらえ!2.4倍ウインドカッター!

 バシュン!と水平に血が飛び散り、頭の上部が飛んだ。傷を小さくするために、あえて首は避けたのだ。それを見た近くの2頭がすぐにオレを見つけた。


 師匠はオレの後方の中間地点で何か呪文を唱え始めた。迫る2頭を引き付けてから当てるつもりのようだ。

 杖の前から蛍の群れのような光点がぶわっと発生した。無数の光点がオークの1頭にまとわりつくとピギーッと悲鳴を上げ、全身から煙が出始めた。かなり痛いらしい。腰布に火が付いている。


 走って戻ると猫さんチームにバトンタッチだ。煙を出しながら向かってくるオークに、ミャナーシャがストーンバレットを当てる。倒さないように、わざと腹を狙ったようだ。引き受けたリニャータがオークの攻撃をひょいひょい(かわ)している。


 もう1頭の腹にもボトトトッ!とストーンバレットが当たり、腹の肉が波打つ。まるで百裂拳を食らったハート様のようだ。ミシャーナがそれを引き受け、正面から大斧でオークの石斧と打ち合っている。


 まとわりついた光点はまだ光り続けて全身から煙が出ている。状態異常というより、嫌らしい攻撃魔法だな。確かにオークの動きは鈍っているので目的は果たせているが。


 2頭の叫び声を聴いたのか、奥から残り2頭が出てきた。そいつらは長剣と両手斧を持っている。接近を待ち、片方の顔面にマリーがストーンバレットを当てた。肉を叩く音が聞こえ、血が飛び散った。さすがにオークは倒せないが、ふらつかせるには十分だ。視線が定まらないオークの正面からケイトが槍を突き刺し、エリカが横から長剣を刺して間もなく倒れた。


 もう片方も愚直にまっすぐ突っ込んでくる。これも十分引き付けて、ザックとアドルが足を矢で射抜いた。オレもほぼ同時にストーンバレット発射。ザックにもらったワンドを使って一発玉にした。小さめのメロンサイズの丸石が顔面を直撃するとべこっと陥没して血を吹き、目玉が飛び出した。走っていた勢いでそのまま転がって痙攣して動かなくなった。

「あ、すまん。弱らせるつもりだったんだが」

「かまわん。俺達は安全に倒せればそれでいい」


「オークのくせにいい武器使ってるな」

 そこそこの値段で売れそうな剣と斧だった。人間から奪ったのだろう。


 大型ナイフを使うリニャータが、まとわりつくような動きで次々とオークの関節の(すじ)を切っていく。オークは全身をファイヤフライで焼かれながらも棍棒をブンブン振り回しているが、その動きに合わせてリニャータが光る刃筋を走らせる。

 両腕が下がり、両足のアキレス腱も切られるとオークは崩れるように倒れた。


 ミシャーナがオークの石斧を受け流している。さすがの猫姐さんもオークほどの馬鹿力は無いようだ。だが、どんな角度の攻撃も猫のような柔らかさで受け流すか打撃力を吸収してしまっている。

 敵の攻撃の合間に柄で突いたり蹴りを入れたり、その気になればいつでも倒せそうだ。


「ミシャーナ、もう代わる」

 ミャナーシャが大型ナイフを持って横に立っている。

「うん?ああ...えいっ!!」

 ミシャーナは渋そうな顔をすると、渾身の力を込めてオークの頭に大斧を振り下ろしてしまった。

「バカ」

「お前は2発も魔法当てたからいいだろ」


 オーク5頭を仕留めた。ファイヤフライが付けた焦げ跡は深くはなく、オークの分厚い皮膚を貫通していない。この程度なら値段はあまり下がらないだろう。ただ、見た目がよろしくない。全身に焦げ跡の点々が付いている。


「姐さんたち、すごいなあ..」

「カッコよかったです!」

 狐が猫を憧れるような目で見ている。猫は得意満面だ。


「一発でオークの頭を潰すなんて、すごい威力ですね」

「まあな」

 オレも人間に褒められた。たまには見物人がいる戦闘も悪くない。


 ちなみに、新鮮なオーク1頭を丸ごとギルドへ持ち込めば金貨2枚ほどになる。血抜きして内臓を抜いて解体すれば、5人でほぼ丸ごと運べるのかもしれない。最大限甘く見積もると、1人当たりの取り分は大銀貨4枚(4万円)だ。実際には3枚くらいになると思うが。

 リスク込みでも悪くない稼ぎだろうか?


《納屋25》

ファイヤフライ:火属性の攻撃魔法

 蛍の群れのように無数の光点が飛ぶ。一個一個は超小型のファイヤーボール。本来は攻撃魔法だが、瞬間ダメージが低く持続時間が長いので、激痛で敵の動きを鈍らせる目的で使われる。ただ、激痛を与える方法は他にいくらでもあるので貴重なMPを消費する価値があるかどうかは微妙。「ファイヤフライ!」の一言では発動せず、数秒間の呪文詠唱が必要。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ミナーシャなのかミシャーナなのかハッキリして。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ