24.マンドラ爆弾
《納屋24》
背後から挟み撃ちを狙ってきたゴブリンの別動隊も返り討ちにした。
敵が出てきた穴は急斜面にあり、草木で下からは見えにくい場所だった。脳内マップでは穴の中に赤い点が8個見える。あと少しだが下から接近するのは危険だ。
「穴の出口付近に8匹いる」
「なんで分るにゃ?」
「そういう能力を持ってるんだよ」
「さすがエドっち」
一言で納得してくれて助かる。
「うちが殺るにゃ」
「穴の奥までは分らんから、もっといるかもしれんぞ」
リニャータが任せろと言うが、敵が多いのでザックとオレが反対した。
「魔法で吹き飛ばそう。下からでも撃ち込める。狭い穴の中での爆発は効果絶大だぞ」
土砂をかぶらないように斜め横に移動した。
「そいじゃいくぞ」
猫耳がぺたんと伏せた。
エクスプロージョンの光点はゆっくり飛ぶので急角度に曲げることができる。魔法が発動し、白い光点がすい~~っと飛んで穴の中に入った。
この辺かな。
直接中は見えないが、勘で敵の真ん中付近に落とせたと思う。
ドォーン!
穴から爆風が噴き出し、土砂と一緒に肉片が飛ぶ。小さい子供が斜面を転がり落ちて来た。一瞬人間の子供に見えて背筋が凍ったが、それは小さいゴブリンだった。
ザックが敵の状況を推測する。
「おそらく、出口がここしかないと分かって集まってたんだろうな」
「出陣した父ちゃんの帰りを待っていたのかもにゃ」
「...」
そういう表現はやめてほしい。
穴の中にも瀕死の子ゴブリンや、動いている成体がいたので即座に始末した。慈悲は無い。無いのだが...嫌なことに、子ゴブリンは成体より見た目が人間に近い。
この穴も塞いで、残るは正面玄関だけだ。
柵の中へ突入したメンバーと合流した。そこら中死体だらけで、1匹だけ手足を縛って転がされていた。
ミシャーナの姐さんは、敵が弱すぎて物足りなそうだ。
「何匹か穴に逃げたが、あらかた倒したぞ。真っ先に逃げたやつがシャーマンだろう。呪術師みたいな恰好だった」
柵の中に転がっているゴブリンは31体。後方で倒したのは30体。さっき穴で倒したのが8体。最初に砦の外で倒したのが14体。合計83体倒した。
「予想よりだいぶ多いな」
「だな。この前オークをけしかけてだいぶ減らしたのに」
「シャーマンまでいたし、他の群れと合わさっていると思う」
「それでも、もう残り少ないでしょ。敵も全力だったはずよ」
「シャーマンがどんな魔法を使うか分らんのは厄介だな」
「あたしらに任せな。穴の中でもゴブリンより目が効くぜ。入り口を塞いで暗くすればこっちの方が有利だ」
なるほど、本物のキャッツアイだな。
「しかしな、追い詰めると穴の中で爆裂魔法を使うかもしれんぞ。そうなれば共倒れだ」
「まず大丈夫だと思うがな。気づかれる前に仕留めるさ」
「考えがある。そのためにこいつを生け捕りにしてもらったんだ。準備を手伝ってくれ」
生け捕りにしたゴブリンの両足にロープで石をつなげる。奴隷の足に鎖で重りをつなぐのと同じだ。そして、首には水が入った黒いビニールのゴミ袋をぶら下げる。
足の重りはザックとアドルに任せた。オレの作業中は捕獲したゴブリンがこっちを見ないように押さえていてもらう。
ウォーターボールで出した水球を黒いゴミ袋に入れる。かなり重いので袋を二重にして、口をミシャーナとロンセルの2人に持ってもらった。
「この中に生きてるマンドラを入れるからな。しっかり持っててくれよ」
「「「 うにゃ!? 」」」
お、リニャータ以外も「にゃ」って言ったぞ。ちょっと得した気分だ。3人ともすごく嫌そうな顔をして猫耳を伏せてしまった。
「ダイジョブ、ダイジョブ。まだ失敗したことないから」
オレ達3人を残して他の全員が離れてしまった。ザックとアドルはちゃんとゴブリンも引きずって行った。ミシャーナとロンセルは水が入ったゴミ袋を両側から支えて動けず、「お前ら見捨てるのかよ」って顔でおろおろしている。
「....」
ミシャーナが何とも言えないしかめっ面だ。耳を伏せて尻尾を丸める猫姐さんなんて貴重だ。
「えっ、エド、俺は信じているぞ」
ロンセルはいいヤツだな。いつも冷静な男だが今はやせ我慢しているらしい。
「フフッ、オレ達、逝くときは一緒だな」
「エド~...」
ミシャーナの長く整った眉がへの字に曲がった。
もちろん、ここで失敗などしない。
マンドラは無事水の中に入った。このままだと重すぎるので、水を減らしてゴブリンの首に下げても歩けるよう調節する。ゴミ袋の口をねじって曲げ、細い紐でぐるぐるにきつく縛ったらマンドラ爆弾の完成だ。
ぱんぱんになった水袋が衝撃を吸収するので、途中で暴発する可能性は低いだろう。
「はは~、なるほどな。こいつを持ち帰らせて、仲間が無理に外そうとしたら叫ぶマンドラで周囲のゴブリンも巻き添えか」
「エドっち、恐ろしいにゃ」
「それなら、どうして足に石なんかつなぐの?」
「エリカさん、いい質問です。腕を縛られて、首に妙な袋をぶら下げた仲間が戻ってきたらどう見えるかな?」
「そりゃ怪しいわね。ゴブリンでも罠だって気づくかもね」
「だろ?そこで足の重りに加えてこの水袋も首が軽く締まるようにぶら下げる。こうしたら重りが3個で、ただの嫌がらせに見えないか」
「そうねえ。暗い中でこれなら、ゴブリンじゃなくても何だか分からないかも?」
両足に石、首に黒い水袋を下げ、後ろ手に縛られたゴブリンを穴に戻してやった。石を引きずりながら奥へ消えたのを見届けると正面玄関も岩で塞いだ。
時間が長く感じる。
猫耳3人は耳を伏せたままだ。
もう、1分くらい経過しただろうか。
ギュオワーーーーーーーーン!!
「「「 ギニャッ!! 」」」
3匹の猫が飛びあがった。
隙間から漏れてくる音はとてつもなく不快だ。全身に鳥肌が立つ。音量だけなら「うるさい」で済むが、明らかにただの音じゃない。すりガラスを自分の爪で引っ掻いたような不快感の激烈なやつが全身の神経を逆なでする。
全員が耳を押さえている。猫の尻尾は毛が逆立って倍の太さになっている。周囲の木からは鳥が一斉に飛びたった。
穴の中では音が反響して地獄だろう。
長い。いつまで続くんだ。
不快を通り越して体中に長い針を通されるような痛みが走る。
ギュオオオォォ.ォ..ン....ン.........ン
3分よりは長かったと思う。音が止まった。
耳を伏せて、しかめっ面のままでミシャーナが言った。
「こりゃ、全滅だろ」
「生きてるわけないにゃ」
「うわっ。すまん。こんなにひどいとは思わなかった」
皆の目が真っ赤に充血していた。ケイト、エリカ、ザック、ロンセルの症状がとくに酷い。鼻血が出たり、目から血が流れている。
オレだけは回復ネックレスのおかげで「痛い」だけで済んだ。
「師匠、ここはオレが。回復魔法を使えるようになったんです」
「え?はい。それじゃお願いしますね」
クロエが目をぱちくり、長い耳をピクッっとさせた。
4人とも深いダメージではなく、魔法1回ずつで治ったようだ。目から赤みが取れ、自覚症状も無いと言っている。
「おおう、回復魔法もか!これでもう、俺達隙無しじゃねーか」
「さすがはエド。この短期間で2つも魔法を覚えるとは」
「エドさん、どうやって覚えたんですか?後で話してくださいね」
師匠としては気になるようだ。
穴の中は全滅だろうが、一応用心して3つの裏口から猫耳さん達を先頭に、それぞれ2人組で入ってもらった。正面からは短槍を持ったロンセルを先頭に進んだ。ロンセルも槍は持っているがちょっと長いので、オレの予備武器から短槍を貸した。
「明かりは使うなよ」
暗がりに目を慣らしてから奥へ進む。途中に転がるゴブリンに槍を刺してもピクリともしない。念のため、死体にもトドメを刺しながら進んだ。
四方向から入った全員が合流して最奥と思われる場所まで来た。
「もう大丈夫だろ」
LEDライトを出した。さすがに、今更この程度の道具に驚く者はいない。それに、この世界にも照明の魔道具があって買えなくもない値段らしい。
最奥の少し広くなった場所には、ゴミ袋を下げたゴブリンが目と耳と鼻から血を流して死んでいた。ゴミ袋は破かれ、マンドラはその場に転がっていた。これは回収して後でギルドに売る。ビニールもちゃんと回収してこっちの世界には残さない。
「蛮族の呪術師」みたいな格好のシャーマンも同じように血を流して、すごい形相で死んでいた。結局、生きているゴブリンは一匹もいなかった。
「うん、やっぱりマンドラの叫び声は攻撃魔法」
「でしょうねえ」
「じゃあ魔力切れで止まったわけか」
「やっぱりエドの攻略法はえげつねえなあ」
「前回もゴブリンが気の毒に思えたしな」
「あたしですらブルったわあ」
「マンドラ使いは無慈悲」
また引かれてしまった。合理的で安全なのに。まあ、少しとばっちり食ったけど。次はもう少し離れてからやればいい。
ゴブリン砦を攻略した。
討伐数はシャーマン1を含むゴブリン98体。
***
ちょっと休憩だ。
前回と同じくポテチとコーラを出した。猫達が思いのほか資本主義の味を気に入ったようだ。
「黒いしゅわしゅわうまいにゃ!」
「おー、あの美味いエールと同じしゅわしゅわだな」
「エド、これ好き」
よかった。マンドラで一番引いていたのがこの3人だったからな。もうすっかり機嫌が良くなった。
エリカ達はやはり最初はコーラに変な顔をしたが、すぐに慣れたようだ。運動した後だし、冷たくて甘い炭酸飲料は正義だ。
ポテチをパリパリ食いながら次の話をする。
「これに比べたら遺跡のオークは楽勝だろうな」
「ボスは前回倒したしな」
「さっき6頭倒したし、残りは5頭くらいじゃないか?」
《納屋24》
マンドラゴラの叫び声:風属性の範囲攻撃
近くで聞くとまるで神経に刺さるような激痛が全身に走り、それが続くと目や耳から血を流して死ぬ。魔力切れになるまで叫び続ける。魔力が抜けた「使用済み」は買取価格が大幅に安い。動物だけを殺して物は壊さない、クリーンな中性子爆弾みたいなもの。




