23.ゴブリン砦
2022年7月22日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。
《納屋23》
砦の正面が見える位置まで来た。
攻城戦だが、しょせんは木造だ。楽勝だろう。
柵の中央付近に開閉できそうな構造がある。全体の骨組みには細めの丸太が使われている。例えるなら、せいぜいオレの腕くらいの太さだ。骨組みの間は細い枝と草でよく燃えそうだ。向こう側は見えない。三重の柵の奥には、左右に櫓が立っている。その上には弓を持ったゴブリンが2体ずつ。
弓を持ったザック、アドル、リニャータが隠れながら柵へ接近した。
ロンセルとケイトには背後を突かれないように後方警戒を頼んだ。ロンセルと2人になれてケイトがちょっと嬉しそうだった。
ドローンで敵の注意を引きつつ、3人が同時に矢を放って櫓の上にいた見張り4体のうち3体を倒した。残った1体もキョロキョロしだしたところに3本の矢が刺さって倒れた。
砦の中が一気にギャーギャー騒がしくなった。穴から敵がぞろぞろ出てくるのが脳内マップで見える。
ドローンで覗いた状況を説明する。
「武器を持った奴らが穴から出てきて柵の向こう側は30匹くらいになった。弓持ちが10匹いるから、突撃はやめた方が良くないか?」
ミシャーナ「奴らの弓矢は粗末で弱い上に当たらん。あたしらなら突入すれば蹂躙できるぞ」
ケイト 「それでも、まぐれ当たりはあるかもよ」
マリー 「私たちなら柵越しに魔法で削るところね」
ザック 「俺達はこの規模の砦攻めは初めてだが、柵をぶっ壊せばどうとでもなると思うぞ」
攻略の段取りが決まった。
ごり押しだ。突入できさえすれば勝ち、という事なので魔法で柵の中央を破壊する。そこから前衛達がなだれ込む。うん、作戦でも何でもない、本当にただのごり押しだ。
これじゃあまりにも芸が無いので、オレの提案で柵の両端に火をつけることになった。多少なりとも敵の注意を逸らせるだろう。
穴の前を制圧したら中の掃討だが、オレに考えがある。
「突入したらゴブリンを1匹生け捕りにしてほしい。巣穴の攻略に使おうと思ってるから、あまり怪我させないで捕まえられるか?」
「ぶん殴るくらいはかまわないか?」
「不自由なく歩ける程度に五体満足なら十分だ」
「うん、了解した」
火をつけたり突破口を作るのはMP回復が早いオレの仕事だ。
アゼリーナさんに借りた杖は風属性なら2.4倍、その他は1.5倍の威力にする性能がある。この杖ならウインドカッター1発で柵の骨組み数本を切断できるだろう。
「あ、アレ」
またゴブリンが櫓に登ろうとしていた。柵の上に顔を出した奴もいる。そういうのはいいカモだ。ザックとアドルが即座に弓で射落とした。
柵の向こう側から斜め上に連続で矢が打ち上げられた。お互い相手が見えないのにな。エリカやリニャータは、わざわざ矢が降ってくる位置まで移動して剣で切り払っている。その動きが、高い球を打ち返すときのバトミントンみたいだ。
地面に刺さった矢を引き抜いてみると、骨の矢じりが付いていた。
こっちは楽しい破壊工作の時間だ。
「これはとても良く燃える油だ。柵にぶっかけてくる」
「待てエド。そういうのは俺達に任せろ」
ザックとリニャータが灯油入りポリタンクを持って柵まで走った。中央は燃やさないように両側にだけ油をかけてもらう。
どうせ柵の向こうからは見えないのだから、オレがやっても危険は無いと思うのだが。
「ご苦労さん。そいじゃ点火だ」
ファイヤーボールが三重の柵を貫通して、ゴブリンの悲鳴が聞こえてきた。灯油をかけた部分は一気に燃え上がる。
「おーおー、なんかゴブリンどもが焦ってるな」
「突入前にオレが少し魔法で倒してもいいか?」
「エド、あたしらの楽しみも残しとけよ?」
「ほどほどにしとくよ」
「さーて、この杖の威力はどんなもんかな」
骨組みの間を通すように縦向きのウインドカッターを放った。柵を貫通した直後に横向きになって幅を広げるようイメージしている。
燃える柵を貫通すると風圧で火の粉が舞い散り、次の瞬間にはマップ上に見える赤い点が5個消えた。
「よっしゃ!上手くいった。5匹倒したぞ。うげっ」
猫姐さんが後ろから腕を回して首を絞めてきた。足には尻尾が絡められている。
「エ~ド~、そこまでだ。後は任せろ」
「お、おう。任せる」
適度に火が回ったし、そろそろ突破口を作ろう。
「敵が来るぞ!オークだ!!」
後方警戒に回っていたロンセルがトランシーバーを通して叫んでいる。ゴブリンがオーク数体を引き連れて向かって来るらしい。
「え~?あいつら仲良かったのか?」
「そんな話聞いたことないぞ」
背後はちゃんと警戒していた、とはいえオークを連れて来るとは想定外だ。まあ、柵の中からは見えないので、中の連中がタイミングを合わせて出てくることはないだろう。適当に牽制しておけば背後の敵に専念できる。
こちらへ走ってくるゴブリンとオークが見えた。
「「「「 あ 」」」」
先頭を走っていたゴブリンがオークの棍棒で叩き潰された。なるほど、オークを挑発して引っ張って来たのか。ゴブリンのくせにMPK狙いとはやりおる。
ゴブリンは倒れたが、すでにオーク6頭はオレ達を見ている。武器は棍棒、木の槍、石斧。木の盾を持ってるやつも2頭いる。オーク文明は石器時代のようだ。
「ゴフッ」
「ウゴッ」
「ブゴッ」
「おれたちゃ、ゴブリンの仲間じゃねーぞ」
ザックの言葉が通じたのかオーク達は武器を振り上げて雄たけびを上げた。
ミシャーナは嬉しそうだ。
「肉だ!晩飯が来たぞ。目つぶし頼む」
魔法で目つぶしするわけだが、まず射程が長い弓から攻撃開始だ。ザックとリニャータとアドルが弓を射る。敵は真っすぐ突進してくるのでまず外さない。2頭に2~3本ずつ矢が刺さったところで4人がまだ無傷の敵を狙って一斉に魔法を放った。
オレだけまだ詠唱中だ。あと3秒。
クロエのウインドカッターが木の盾を上半分切り落として、敵の首から派手に血しぶきが上がる。
マリーとミャナーシャのストーンバレットが敵2体の顔面を捉えて血が飛び、肉を叩く音がここまで聞こえる。
アドルのファイヤボールが木の盾を貫通すると敵は悲鳴のような怒号をあげた。
矢を受けた2頭は遅れている。
前の4頭も魔法を受けてふらついている。
オレも詠唱完了。くらえ2.4倍の威力!
横幅を広げたウインドカッターが頭の高さで飛んだ。
ウインドカッターは風圧を伴う。4頭の顔面を切り裂くと、血が飛ぶのと同時に一瞬肉がめくれ上がるのが見えた。魔法を2発ずつ顔に食らった4頭は雄叫びこそ上げるものの、突進が歩きになってしまった。
自分でやっといてなんだが、気の毒になる。早く楽にしてあげたい。
長剣や短剣を持つエリカ、ザック、アドル、リニャータが瀕死の敵4頭に切りかかった。敵はまともに応戦できていない。もはやトドメを刺すだけの簡単な作業だ。
ミシャーナ、ロンセル、ケイトが残り2頭に向かった。足に矢を受けているとはいえ敵の戦意に微塵の陰りも見えない。
ケイトが敵の短槍を巻き取るように払い、自分の長槍を敵の心臓付近に深く突き刺した。それでも敵は倒れずに槍を振り上げる。すかさずロンセルが踏み込み、大剣で敵の首を貫いた。残り1頭。
最後の1頭は突っ込んでくるミシャーナと目が合うと、足を止めて棍棒を持つ右手を振り上げた。ミシャーナも大斧を振りかぶった。半歩左へずれながら斧を振り下ろし、上半身をひねって紙一重で棍棒を躱す。棍棒は地面を叩き、大斧は敵の頭をたたき割った。
あっけなくオーク6頭を倒した。死んだオークはただの豚肉だ。獲物6頭をアイテムボックスに収納しながら自分でつけた傷の程度を確認する。毎度ながらこれ重要。4頭同時だったにもかかわらず、どれも骨まで切れ込んでいた。さすが2.4倍だ。
今の状況から、ミシャーナが敵戦力を分析する。
「頭のいいヤツがいるな。命がけでオークを連れて来る作戦が実行されるくらいには統率が取れている。背後からまた別動隊が来るぞ。右側にまだ見つけていない出口があるはずだ」
斥候のザックとリニャータが索敵に出ることになった。2人とも弓持ちで、接近戦用に刃物も持っている。
ゴブリン砦はまだ燃え続けている。もう懲りたのか、顔を出す奴もいない。索敵を待つ間、アドルの弓だけで抑えておけるだろう。
柵を越えて光る点が飛んできた。エクスプロージョンだ。
「両側に散れーっ!!」
指示されるまでもなく、全員が反射的に走り出した。歩きながらの試し撃ちで一番評判が良かった魔法がこれだったからな。Dランクではあまり見ない魔法らしいので、見せてなかったら光点を目で追い続けるやつがいたかもしれない。
空中で爆発が起き、倒れそうなほどの衝撃を受けた。数メートル離れたら飛ばされるほどではないが、熱いと感じる程度の熱はある。何より耳に悪い。
「耳が、耳がぁ~!」
と、目ではないが某大佐の真似をしてみた。
耳元で手を叩いて確認すると音は聞こえた。鼓膜は無事だが難聴になりそうだ。
もちろん、耳は軽く塞いで口を半開きにしていた。戦場の常識だ。後でみんなにも説明しよう。
ミシャーナが叫びながら柵の中央を指さして、手刀で切るジェスチャーをする。
了解した。
ウインドカッター詠唱開始。
また敵側から光点が飛んできた。皆の反応がさっきより早い。
「ストーンバレット!」
クロエがとっさに迎撃した。
エクスプロージョンの光点は飛ぶのが遅いので、速い魔法なら十分迎撃できる。
ドーン!
「うひゃっ!」
爆発は遠かったが、爆風で飛ばされた石が2個ほどこっちへ飛んできた。さすがに空中爆発じゃ丸石は砕けないようだ。破片が散らなくてよかった。
こんな状況でもオレの詠唱は中断していない。さすが自動詠唱。
詠唱完了。
風の刃が唸りをあげて地面すれすれに草を刈りながら飛ぶ。扉の両側の柱を根元から切断した。さらに、その向こうにいたゴブリンの足首でも切断したのだろう。敵の悲鳴が聞こえたが赤い点は消えなかった。
ドーン!
またクロエが光点を迎撃した。爆風で柵が大きくたわむ。準備していたのだろう。光点が見えた直後にストーンバレットを放っていた。
オレもさらに2発、縦向きのウインドカッターを放った。横に通る骨組みを切断すると、その奥の赤い点が3個消えた。支えを全て失った、跳ね上げ式らしい扉が支柱ごと倒れた。
「突っ込むぞ!続けー!!」
大斧を振り上げるミシャーナと、大剣を右上に構えならも冷静なロンセルを先頭に前衛達が突入していった。
ミャナーシャは魔法使いだが、二番手で突入する。離れた場所にいる弓持ちゴブリンを魔法で倒すのが彼女の役目だ。ついでに近くの敵は大型ナイフで切り刻む。猫の魔法使いは中衛っぽい役回りだ。
オレも左手に盾、右手に手斧を持って最後尾を走る。中ではゴブリン共が阿鼻叫喚で切り刻まれていた。
...みんな強いな。やめとこう。
手斧をしまって杖に戻した。
索敵に出ていたザックからトランシーバーに連絡が入った。もう耳鳴りは治っていて普通に聞こえる。回復ネックレスの効果だな。
「意外と近くに穴があっぞ。ゴブリンが30匹ほど列になってそっちへ向かってる。5匹が弓持ちだ。爆音が聞こえたが大丈夫か?オーバー」
「敵の爆裂魔法だが全員無事だ。こっちは突入して戦闘を開始した。魔法使い3人が待機中だから、向かって来る敵は魔法で迎え撃つ。オーバー」
ザックとリニャータにはこちらの攻撃開始に合わせて敵の列の最後尾から挟撃してもらうことになった。こちらからはオレ、クロエ、マリーの3人が魔法で迎え撃つ。なので大急ぎで後ろへ走って戻る。
「敵の列が伸びているうちに攻撃しよう!」
2人の返事を待たずに、盾を構えて走り出した。クロエとマリーも後に続いたが「お先」とばかりに追い抜かれてしまった。
「え~...」
オレ、カッコ悪い。
もう息が上がってるし、無理に追い付こうとは思わないが。
敵が足を止めて弓を引き始めた。だが、ミシャーナが言っていた通り大きく外れる矢が多い。クロエとマリーはまるで敵の矢を意に介さないかのように突っ込んでいく。当たる矢はちゃんと見分けて盾で受けているようだ。
2人は十分すぎるほど接近すると、交互に魔法を連射した。クロエがウインドカッターを3発、マリーがストーンバレットを3発。
敵の列が前からばたばた倒れていく。ウインドカッターは1発で2~3体の首を飛ばし、ストーンバレットは大粒の散弾で1~3体ずつなぎ倒している。倒れても動いている奴がいるが、半分くらいが戦闘から脱落した。
オレが「はあ、はあ」息をつきながら追い付くと、彼女たちは「さあどうぞ」とばかりに後続の獲物をオレに譲ってくれた。近くの敵は倒されてしまったので、次の敵はちょっと離れている。また敵へ向かって走りながらウインドカッターを詠唱する。
ポリカ盾はちゃんと敵の矢をはじいている。
高密度に収束するよう意識して、ウインドカッター発射!
敵の列に沿ってゆるやかに軌道を曲げるウインドカッターがバシュ、バシュ、バシュと連続で8体の首や顎から上を切り落とした。さすが2.4倍の威力だ。
しかし、酸欠ぎみだ。オレも倒れそう。息が上がってるのに勝手に口が動くのはきつい。自動詠唱の注意点を1つ見つけたと思っておこう。
「エドさんお見事です!」
「凄い威力ね~。でも大丈夫?そんな苦しそうに息して」
「はあ、はあ。大丈夫だ」
ぐっと親指を立てた。
「「 ? 」」
通用しないジェスチャーだった。
残り数体は敵の後ろから来たザックとリニャータがサクッと片付けた。
《納屋23》
ミシャーナ:大斧を使う猫姐さん
今回の11人の中では腕力最強の白猫。身長はエドよりちょっと高く、髪はワイルドなセミロング。一見すると耳と尻尾だけつけたコスプレみたいな猫獣人だが、背中側には猫毛が生えている。
ミャナーシャ(魔法使い)と紛らわしい名前ですね。名前は覚えなくてもいいように書いてるつもりです。




