22.神代から来た者?
《納屋22》
夕暮れに野営地までたどり着き、ビールと花火で大騒ぎして夜が更けた。もう見張り役以外は眠っている。
オレとロンセルが見張りに立つ番になった。星が良く見える。双眼鏡を月へ向けてみた。クレーターは少なく、自然にできるはずもない直線や曲線が見える。
「いつも同じ模様だな」
「それはそうだろう。満ち欠けはしても模様が変わることなどない」
ここの月も常に同じ面をこちらへ向けているわけだ。
偶然だろうか?
違う惑星があったし、パラレルワールドじゃないとは思うが。
「そうだな。ところで、この世界の果てはどうなっていると思う?」
「藪から棒だな。聞いた話だが、大地の果ては大量の水に囲まれていて、さらにそのはるか彼方にある世界の果ては水が落ちないように絶壁で囲まれているらしい」
やはり平面説か。
「その話はみんな信じてるのか?」
「信じるかどうか以前にあんまり興味ないだろうな」
「まあ、確かめようもないしな」
「もしかして、エドは世界の果てのことを知っているのか?」
どう答えたものか。
月は球体に見える。それなら、たぶんこの地面も球体の惑星だろう。でも、いきなり「オレだけが知っている真実」を話しても胡散臭いだけだしな。コペルニクスだって当時の一般人に地動説の話をする気は無かったみたいだし、それに倣おう。
「本当のところは知らないが、少し違う話を聞いたことがある。どの話が本当か、いつか世界の果てを見に行きたいな」
「恐ろしいことを考えるんだな。本当に最果てなら、この世が終わる場所かもしれないんだぞ」
-朝-
完全に日が昇ってからゴブリン砦の近くまで移動する。ゴブリンは基本、夜行性だから攻撃は明るくなってからの方がいいのだ。
移動前に防具を装着する。
今回は大トカゲに焼かれた革鎧の代わりとして、密林通販で買った防刃シャツに防刃ベストを重ねている。両手、両足、頭は革鎧とセットだったやつが残っている。
最初は異世界に来た嬉しさと現地人と同じ格好をするために、つい高級革鎧(耐火)フルセットを買ってしまった。そいつは金貨23枚もしたのだ。
対して、地球製の防刃装備は約3万円だ。金貨1枚にもならない。
ただ、革鎧と比べると見た目がいまいち頼りない。
「そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。まあ見てみろ。ほら、切れないだろ。前面は槍も通さないと思うぞ」
「エドよ、やる気なのはいいことだが今回は戦力に余裕がある。お前は魔法使いらしく、なるべく後ろにいろよ」
「そうだぞ。俺達を頼れ」
「お、おう。任せた」
チッ。反論の余地もない。今回はスコップで突撃するチャンスは無いかもな。
ザックとリニャータが偵察から戻って来た。
「周辺はどうってことないけど、砦は警戒厳重だにゃ」
「正面の守りがやたら強化されていたぞ。柵が厚くなって櫓が2本に増えてる。上からも中の様子はよく見えなかった」
「なら、こいつを飛ばして偵察しよう」
4ローター・ドローンを飛ばした。うちの3人以外に見せるのは初めてなので、軽く曲芸飛行を披露してからゴブリン砦へ向かわせた。
「ちょっと、何よそれ!」
「えっ、虫使いですか?」
いい驚きっぷりだ。
猫耳さん達が反射的に武器を構えたのにはちょっと焦った。弓で射落とされなくてよかった。
遠く離れて見えなくなっても、手元のスマホでカメラ画像を見ながら操作できる。ドローンを初めて見た7人がオレの回りに集まってきて、食い入るように手元の画面をぞき込んでいる。
「この小窓はさっき飛んで行った奴の目を通して見てるんだ。似た物で、例えば遠見の水晶玉とかないのか?」
クロエ 「それを使うのはインチキ魔法使いですね。でも、まさか本当にあったなんて...」
ミャナーシャ「エドの千里眼」
マリー 「目の前にあるのに信じられない...」
魔法で何ができるかを理解しているだけに、余計信じ難いらしい。
音に気付いたゴブリンが見上げている。頭上で往復させたら矢を射かけてきたが、大きく後ろにそれて当たりそうにない。偏差を取らず、現在位置を狙っているだけのようだ。
ドローンを回収した後、スマホの録画を見る。
砦の構造は、巣穴の前に横長の三重の柵がある。柵から穴までの奥行きは10mくらいあり、左右に見張り櫓が立っている。
柵の横へ回り込めば侵入は可能だが、障害物として幅の短い柵や柱が多数立っている。柵の中央を破壊して最短距離で突入するのが一番攻めやすそうだ。
「これで敵の布陣も分った。作戦を変更する必要はないよな。おい?聞いてるか?」
クロエ「すごい..まさか、神代の道具とかでは。旧帝国時代にもこんな道具があったなんて聞かないですよ。それにあの呪文とアイテムボックス...」
マリー「時間が、戻った...ありえない....
....エド君、本当はどこから来たの?」
録画の概念自体無いらしい。時間を戻したと思われてしまった。それに遠隔操作と遠隔視だ。これは3つの不可能を同時に実現した、ありえない道具に見えるわけか。
魔法に詳しい者にとっては衝撃だったようだ。
ザックが楽しげに追い打ちをかける。
「お前ら、驚くのはまだ早いぞ。離れた相手と話ができる道具も使うんだからな」
「それじゃ、説明はザックとリニャータに任せるよ。これがその道具だ」
偵察にトランシーバーと双眼鏡を持って行ったので、リニャータも使い方はザックから聞いている。
「ザック、聞こえるかにゃー?オーバー」
「聞こえてるぞ。猫耳よりいいだろ?オーバー」
「「「「....」」」」
ケイト 「はー、何て便利な。これならゴブリンなんて一網打尽でしょ」
ミシャーナ「戦争でも勝てるな」
ミャナーシャ「さすが。エドは何でもあり」
驚いた上に情報過多。何人かは口が半開きの間抜け面になっている。使い方を説明するどころではない。ここは消化不良が解消されるのを待つべきか。
あんまり考えない連中の方が素直に便利そうだと受け入れている。
「ダメだなこいつら。固まってやがる。エド、休憩にしようぜ」
「それがいいな」
気分が落ち着くよう、甘めの紅茶を配った。
「ありがとう...」
紅茶を飲み終わったのでザックが双眼鏡の説明をする。
「ようし。お前ら、これが最後の道具だ。びっくりしろよ」
「何でも出しなさいよ。もう驚かないわよ」
マリーが感情が抜け落ちた目をして平坦な口調で言った。
「良く言った。そいじゃ、この2本の筒から向こう側を除いてみな」
「....え?」
双眼鏡を除いたり、直接目で見たりを交互に3回繰り返してから、双眼鏡をじ~っと見つめ出した。レンズを覗いているのではなく、レンズを見ている。何か小声でぶつぶつ言ってるようだ。
「マリーの気が済むまでそっとしといてやろう」
猫達が双眼鏡とトランシーバーに遊び飽きた頃にマリーの意識がこちら側に戻って来た。悟りでも開いたのだろうか?
「別の世界から来たっていう話、本当なのね」
「本当だぞ。そこには魔物がいなくて、いろいろ便利な道具がある。何百人も乗せて空を飛ぶ乗り物だったり、空を超えて月まで人を送り込んだ国もある」
クロエ 「ああ、やっぱり神代の話でしたか」
クロエが胸の前で手を組んでキラキラした目でオレを見る。
マリー 「あはは。神代..時間を操作できるんだから、そうよね」
オレ 「誤解はあるが、時空を超えてきたとは言えるかもな」
クロエ 「それじゃ、エドさんは人間ではなく..」
エリカ 「.....」
言い淀むクロエ。その先を察したのか、何人かがオレを見たまま固まった。時間が凍り付いたようだ。究極の誤解だ。
エリカなんて青ざめてプルプルしてる。
「えっ、えっ、エド、エド様?こ、こっ、このまめ(前)は申し訳ございませんでしたっ!!」
「待て待て!誤解だから!いや、この前のことじゃなくて、今、この場で誤解が起きてるって言いたいんだ」
まずい。これを放置したら距離を置かれてしまいそうだ。
だが幸いなことに頭上に「?」を浮かべている奴もいる。リニャータにミシャーナ、この雰囲気をぶち壊してくれ。
猫にもすがる思いで2人を見た。
「エドっち、何やらかしたにゃ?」
「このあたしが聞いてやるから、とりあえず話してみろ」
「オレがここに来れたのは奇跡かもしれない。だがその奇跡を起こしたのはオレじゃない。オレはただの人間だ。神など見たこともないし、信じてもいない普通の人間だ」
「私は人間だ!」と主張するばかりで証拠は出せなかった。一応はオレの主張が認められたらしいが、この場の雰囲気にぎこちなさが残る。いっそのことオレが適度に偉そうにして、貫禄のある見た目だったら皆との関係が落ち着くのだろう。
こんな世界だし、オレが思っている以上にみんな迷信深い、じゃなくて、魔法があるんだがら、真実と迷信の区別が難しいのだろうな。
「オレはエドが人間かどうかなんて気にしないからな。エドは『エド』ってことでいいじゃねえか」
エドは種族名じゃねえ。ザックが助けているつもりで人外扱いする。
「もうそれでいいよ」
人外が混じっている疑惑は棚上げにして作戦会議に戻った。
「作戦を確認するぞ。まず、外にいるゴブリンを片付ける。次に裏口を塞ぐ。そして正面を魔法で破壊して切り込む。巣穴には飛び込むなよ。巣穴の前を制圧したら勝ったようなもんだ。じっくり攻めればいい」
11人が2人ずつ5組に分かれて各班1つずつトランシーバーを持った。
11割る2で1余る。
オレの班だけザックとロンセルが一緒の3人組だ。できればケイトをロンセルと一緒にしてやろうと思ったが、残念ながらどちらも遠隔攻撃がない。
オレの班は敵を見つけたら主にザックの弓で攻撃する。強弓から放たれた矢はゴブリンの頭を貫通して矢羽根近くまで刺さっている。敵が2体なら魔法が届く距離まで接近して弓との同時攻撃。もし重なって見える位置だったらウインドカッター1発でまとめて倒せる。
「ちょっと待ってくれ。あれ見てみたい」
獲物を狙うミャナーシャに双眼鏡を向けた。杖は背負って手には大型ナイフを持っている。彼女は静かに素早くゴブリンに忍び寄り2匹を瞬殺した。背後からゴブリンの肩を叩いて振り返らせる余裕っぷりだ。
「すげ~。のんびりしてるように見えてもやっぱり猫だな」
「まあな。ありゃ、マネできねえ」
猫耳さん達3人はお揃いのごっついナイフを持っていて、今は楽しい狩りの時間らしい。なので、彼女らと組んだクロエ、マリー、ケイトは通信担当だ。
トランシーバーで連絡を取り合いながら包囲網を縮めていく。
「は~い、こちらマリーです。先へ進むわよ。リニャータが全部片付けるから楽だわ。おーばー」
「こちらエド。そっちは早いなあ。こっちは今、敵の死角へ回り込んでるところだから、仕留めたらまた連絡する。オーバー」
危なげなく周囲のゴブリンを片付けた。前回もそうだったが、退屈な見張りをまじめにやっているゴブリンはいない。寝ていたり、何か食っていたり、ぼ~っと立っているだけだ。
アイテムボックスで運んだ大岩を出して巣穴の「裏口」を2つ塞いだ。把握していない裏口もあるかもしれないが、逃げられたら仕方がない。ゴブリンはどこにでもいるのだから、ここで無理して殲滅する意味はあまりない。
《納屋22》




