17.マンドラゴラを踏んだ
2022年7月23日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。
《納屋17》
大トカゲ2匹を倒したが、ブレスを浴びたり尻尾で叩かれて重傷を負ってしまった。だが、伯爵からもらった回復ネックレスのおかげで小魔石5個を消費して全快だ。高価な特級ポーションを使わずに済んだ。
軽トラに少年達3人を乗せて街まで戻ることになったが、目立ちたくないので草原を突っ切ることにした。
「エドさん、俺もそっちに乗っていいか?」
「ああ、かまわんぞ」
ロベルトが助手席に座って、エミルとエーリカは荷台に立っている。
「はーん、後ろの2人に気を遣ってるのか」
「ちげーよ!それじゃ、まるで俺が諦めてるみたいじゃないか。あ、いや」
言ってから、しまったという顔をするが今更遅い。
「エーリカ、可愛いもんな」
「当たり前だ」
「この乗り物すげーな」
「だろ」
長閑な風景が流れていく。
草原の中にも起伏はあるし、木が生えた小山もある。
「エドさん、助けに来てくれてほんとにありがとう。
...俺も本当は半分諦めていたんだ。血が止まらなくて、朝になったらエーリカの顔が真っ青だった。..もうだめかと思った」
「助かったのは、お前が傷を押さえて出血を減らしたおかげでもあるぞ。エミルも必死に走っていたし」
ロベルトが前を向いて話す。泣きそうな顔を後ろの2人には見られたくないようだ。
ギョワン!!!
「ぐひいぃ!」
「うおおおお、何の音だ!?」
小さな池の横を通り過ぎると、左側の足元から大音響が聞こえた。左側に座っているロベルトが変な声を上げた。オレも全身に鳥肌が立ち、頭がくらくらする。
後ろを見ると荷台の2人も卒倒しないように必死に耐えている。
オレ達は車を降りて音が聞こえた辺りを探してみた。
「あ~、やっぱり。マンドラゴラだったよ」
タイヤに踏まれて半分つぶれた野菜みたいなのをエミルが見つけた。
「ちょっ、おい待て!」
「大丈夫。もう死んでるよ」
焦るオレを無視してエミルがそいつを引き抜いたが、もう音は出なかった。さっきの音は車に踏みつぶされる断末魔だったようだ。
「ほお~、こいつがかの有名なマンドラかあ。初めて見たぜ」
それは大根のような二股の根菜だった。
「こいつらは叩き潰したり、剣を深く刺せば叫ばなくなるんだ」
「つまり、さっき叫んだのは、半分だけ踏んづけたからか。まともにアレを聞いたら死ぬって本当か?」
「こういう草原の中を迂闊に歩いて、踏んづけちゃって死んだ人がいるっていう話ならあるわね」
「そりゃ、まるで地雷だな」
「地雷?」
「ああいや、地面に埋めて使う兵器があるんだよ。そいつは踏んだら爆発するんだがな」
エーリカが注意を促す。
「みんな気を付けて。まだ生えてるよ。踏まないようにね」
付近をよく見ると、すぐに3本のマンドラが見つかった。
「今日の俺達はついてるぜ」
やはりマンドラは錬金術の素材としていい値段で売れるらしい。
「新鮮な方が高く売れるよな?」
「そうね。この乗り物ならすぐに着くだろうから新鮮なうちに売れるわ」
そう言ってマンドラに剣を刺そうとするエーリカをオレは止めた。
「待て。もっといい方法がある」
オレがそのマンドラに触れると、そいつは地面に穴を残して消えた。
「こうやってアイテムボックスに直接収納できるんだ。これなら傷ひとつ付けずに採集できるぞ」
「すごい。これなら、きっと高く売れるわ」
「なんていうか、ズルだよね」
「あはは、そうだな。オレの故郷ではこういうズルをチートって言うんだよ」
4人で手分けして探して、見つけたらオレが収納する。すぐに12本集まった。
「また見つけた!」
アイテムボックスの枠が残り少なくなってきた。
「ちょっと待ってくれ。一度出して袋にまとめたい」
1本取り出そうとして、危ないところで気が付いた。
「あ、出したら叫び始めるよな?」
「たぶん、そうじゃない?」
う~ん、困った。迂闊に取り出せないぞ。
「オレが思うに、引っこ抜かれたマンドラが叫ぶのは根っこが切れるとか、泥にこすれるとかの刺激がきっかけになっているはずだ」
「つまり?」
「アイテムボックスに直接収納したやつは、細い根っこの1本も切れてないんだよ」
「それなら取り出しても叫ばないかも?」
「ああ、たぶんそうだと思うので試してみたい」
「「「えええぇ....」」」
3人があきれた顔でオレを見る。だが大丈夫だと思うのでオレはやる。3人には車の中に入って、窓を閉めて耳を塞いでもらった。
車から少し離れてから、自分の手の中にマンドラを1本出した。もし叫び出しても一瞬で収納できる。
....ギュ..ギュ
「お?」
ギュウ...ギョワッ!!
「いぎっ!」
大音響で叫びだした直後に収納した。一瞬だったが目の前で叫ばれたらきつい。頭がくらくらする。倒れないようにべた足で踏ん張って耐えた。
「大丈夫?こんなことする人初めて見たわ」
「あ、ああ、大丈夫だ」
「ふらふらしてるよ?」
「エドさんって実は...」
慎重に扱えば数秒は大丈夫なようだが、袋にまとめるのは無理だ。あきらめて1本1枠消費で収納しておこう。この日は車で踏んだやつの他に、13本のマンドラゴラをアイテムボックスを使って集めた。
しかし、さっき叫び始めた1本は簡単には取り出せなくなってしまった。いつまでも貴重なアイテムボックスを1枠消費するのも困る。後でどうするか考えなければ。
「止まったついでに試したいことがある。もうちょっと待っててくれ」
半分黒焦げになった革鎧を取り出して地面に置いた。
「もう修理できないだろうから、こいつがどの程度のシロモノか試してみたい」
焦げていない背中側を鉈で斬りつけてみた。
「やはり角が当たると貫通するな。引いて切り裂くのは、オレの力じゃ無理か」
「その鉈すげー綺麗だな。業物でしょ」
「まあな。そこそこいいヤツだぞ」
こいつの鋼材は青紙二号だ。武器屋のドワーフに見せたら大喜びで買い取ってくれるだろうな。
「次はファイヤーボールだ」
「うわっ!」
「すごい」
「トカゲ革が一瞬で..」
普通サイズのファイヤーボールは火力が強すぎてテストにならなかった。
だが、拡散させたらどうだろう?
「次はちょっとでかいファイヤーボールだ」
直径1mくらいで撃ってみた。当然、拡散すれば温度は下がる。着弾してからの発熱も眩しい白ではなく、明るいオレンジ色だった。
「おー、意外と耐えるな。さすがの高級品だ」
火は付かなかったが煙が出ている。杖の先で強く押したらぽすっと穴が開いた。まあ、こんなもんか。トカゲに焼かれた側も同じような劣化具合だし。
「うわあ、一発で全面ボロボロだよ」
「やっぱりDランクの魔法じゃないわ。威力だけなら、お母さんの魔法より上かも。それに、呪文がカッコイイ!」
「おお?カッコいいって言われたのは初めてだな。嬉しいぞ」
これは中二病的なカッコよさかな?
確かに、誰も知らない呪文で高威力の魔法を放つとか、カッコイイかも。
「もし秘密じゃなければ教えて欲しいです」
エーリカもそういうの好きか。できれば教えてやりたい。
だが、自分でも分からんものを教えることはできない。
「これなあ、別に秘密ってことはないが、どうやって教えたらいいか分からん」
「やっぱり、外国語みたいな違う言葉ですよね。別の世界の?...でも3時間とか言ってたし..」
「今は諦めてくれ。たぶん教えるのは無理だ」
また車で走り出した。今度はエーリカが助手席だ。またマンドラを踏むかもと心配したエミルとロベルトが車に押し込んだのだ。
「お前らの親はBランク冒険者だったよな。今もどっかに出かけてるのか?」
「そのはずよ。お父さんとお母さんは5日前に、10日くらいで戻るって言って出発したから。2人とも筋金入りの冒険者よ。私たちが大人になってからは家にいないことが多いの」
「一緒に行かないのか?」
「たまには行くけど、強さが違いすぎて私達じゃあんまり役に立たないわ」
エーリカの親達の冒険譚を話してもらった。それはまるでファンタジー小説のようで、高ランクの冒険者になると人外の強さを発揮するらしいことが分かった。そしてなんと、空を飛ぶ巨大なドラゴンも存在する。オレも見たい。
「ふふっ、エドさん、子供みたいな目をしてるよ」
「あ、アハハハハ。男はいつまでたっても子供なんだよ」
大きめの湖に差し掛かった。いい景色なのでちょっと車を止める。対岸まで500mくらいだろうか?
人が歩けるくらいの細い道もある。あっち側の湖畔には木造の家と思われる建物があった。
「こんな場所に住んで大丈夫なのか?」
「Cランクくらいの強さなら、なんとかなるんじゃない?」
湖面に映る青い空と家。その横には背の高い木。
見た目だけなら素晴らしい景色だが、住むとなるとけっこう危険な場所のはずだ。あの家の主はツワモノか変人か。たぶんその両方だろう。
橋から街までの20km近くを草原地帯を突っ切ったおかげでマップの空白地帯がかなり更新された。小さな池や細い道も見えるようになった。
街が見えてきた。直前で車を降りて最後の数百メートルは歩く。
「なんだ、こっちに続く道もあるんだな」
「そりゃ、草原で狩りをする人もいるよ」
「ウサギ狩りか?」
「それに銀狼。夜ならゴブリンも。オークだって珍しくないよ」
「やっぱり、危険な場所なんだな」
街に入った。
-冒険者ギルド-
解体場で巨大トカゲ2匹を出した。普段は強面のおやっさんもニコニコだ。
「毎度景気がいいな。エドよ」
「オレ達4人で仕留めたんだ」
「おう?まじか」
エミル、ロベルト、エーリカの3人は嬉しそうではあるが、ドヤ顔になりきれない複雑な表情だ。
「うん、え~と、戦ったというか、エドさんに助けてもらったんだ」
トカゲと戦うことになった経緯をエミルがおやっさんに説明した。エーリカを助けた後、1階でゴブリンとの戦闘になった件になると、そこにいた全員が聞き入っていた。それに気づいたエミルは、2階と3階での戦闘もより詳細に順を追って話した。
「でも、エドさんが間一髪で放ったウインドカッターはトカゲの大口を切り裂いてトドメを刺していたんだ」
そう言って口から切り裂かれたトカゲを指差す。
皆が感心したような声を上げて、トカゲを見てからオレを見る。フェレーナさんだけは複雑な表情だ。
3階で、オレが巨大な尻尾に弾き飛ばされて火炎放射を浴びたと聞くと、いつの間にかオレの後ろに回っていたフェレーナさんがオレの腕を掴む手にぎゅっと力を入れる。
「エドさん、あんまり無茶しないでよ」
「...はい。仕方なかったんです」
心配させてしまった。でも、もうしませんとは言えない。ギルド職員たるフェレーナさんもその辺は分かっていて、オレにできない約束をさせようとはしない。
2匹目にトドメを刺す直前からオレが話を引き継いだ。3人の活躍もできるだけカッコよく話してやる。
「火炎が止まって前を見ると、エミルがトカゲの背中に飛びついて必死の形相で剣を突き立てていたんだ。ロベルトとエーリカは前側から首に剣を突き刺してさらに押し込もうとしていた。こうなってはもう火炎は吐けないだろう。さしもの巨大トカゲもすでに瀕死に見えたんだが、やつは最後の力を振り絞って3人を弾き飛ばした」
皆が息をのむ。
フェレーナさんは後ろからオレの左腕を自分の胸に抱くようにして握りしめている。爪が食い込んで痛い。
トカゲの頭を上半分斬り飛ばして戦闘が終わると拍手喝采だった。そして皆がトカゲの現物を見て、話に出てきた傷跡を確認しては感心している。
「いい話を聞かせてもらったぜ。今夜の酒の肴にちょうどいいや」
話に満足したギルド職員が仕事に戻っていく。
トカゲ2匹で金貨137枚。この前の大猪と比べて8割近い重量がありそうだが、値段は半分くらいだ。主に肉の値段の差らしい。
「トカゲの肉も十分うまいが、ブラックボアの方がずっと美味いし、入荷が少ないんだよ」
「たしかにあれは美味かったな」
「さて、分け前だが」
場数を踏んだのでオレもだいたい分かっている。戦闘での貢献、輸送手段の提供。さらに今回は助けに駆け付けた事情もあるので、冒険者の常識で計算するとエミル達の取り分がほとんどなくなってしまう。
「オレが半分で、残りはお前ら3人で分けてくれ」
案の定、そんなにもらえないとか言いだした。話を聞いていた解体場のおやっさんが介入する。
「お人好しのエドよ、お前の気持ちは分かる。だが、坊主共も大人だし、お前さんと同じDランクだろ。一人前の冒険者として扱ってやれや」
結局、オレが98枚で3人が残り39枚を分けて13枚ずつになった。
「助けてもらった上に、こんなにもらったら父ちゃん達に説明するのが難しいよ」
「お前らだって命がけで戦ったんだ。これ以上は負からん!」
「あはは、負からんの使い方が間違ってるよ」
何だかんだ言って嬉しそうではある。
3人が目配せし合ってから、ピシッと背筋を伸ばして頭を下げた。
「「「助けに来てくれて、ありがとうございました!!」」」
「お、おう。無事に帰れて良かったぜ」
生きたマンドラゴラは1本あたり大銀貨4枚で売れた。剣を刺してから採集した場合の2倍だ。どうやって渡したのかというと、出してすぐに水に漬けたのだ。そうすれば叫ばない。アイテムボックス持ちはオレだけじゃないので、同じようにして持ち込んだ前例はあるらしい。
マンドラの売り上げは均等に分けて1人当たり、金貨1枚とちょっとだ。
オレは2本だけ売らずに取っておいた。
こいつは武器として使えるだろう。
さらに、トカゲの魔石2個は売らないつもりだったので、清算の前にオレの取り分から金貨30枚引いてもらった。ゴブリンの魔石も残った3個はオレがもらう。今後、魔石はけっこう使いそうな気がするから。
今朝、うちを出てからギルドに来るまでの数時間で金貨約69枚を稼いだことになる。危険の代償と考えても悪くない。
これで異世界財産は金貨136枚と小銭が金貨1.4枚分になった。
3人とはいったん別れた。夕方、ギルドで血抜きが終わったトカゲの肉を受け取り、エーリカの家に集まって肉を食うことになった。まだ昼前なので、しばらくは暇だ。
解体場をフェレーナさんと一緒に出た。まだ左腕をぎゅっとつかまれている。
「あの、渡したい物があるのでちょっと失礼」
「あっ、ごめんなさい」
ポンプ付きガラス容器に詰め替えたシャンプーとリンス、石鹸を渡した。
「いい匂い。飲み物、ではなさそうね?」
「最近、ミシャーナ達3人組の見た目がちょっと変わったと思いません?主に髪の艶とか」
「...あっ!!!」
くわっと目を見開いたフェレーナさんがオレの腕をがしっと掴んだ。怖い。腕がすごく痛い。この人も見かけによらず強いぞ。
「あれ、あなたの仕業だったのね!?」
「お世話になってるフェレーナさんの髪がつやつやになったところを見たいなあとか思ったので持ってきました」
「これが、これがあの、魔法の...」
「はい、魔法じゃなくてもすごい効果の洗髪剤です」
「ありがとうっ!!とても嬉しいわ!」
ニコニコで左腕を抱え込まれた。左腕に当たる柔らかいものが気持ちいい。それにこの人、香水なんて付けてないのに素でいい匂いがするんだよな。
耳元で囁かれた。甘い声と吐息に心臓が高鳴る。
「もらってばかりだし、お礼がしたいわ。今日の仕事が終わったら一緒にディナーでもいかがかしら?」
クロエの顔が浮かぶが、これを断るのも失礼だろう。
「今日はあの3人組と一緒にトカゲを食う約束があるので明日なら」
「それなら仕方ないわね。それじゃ明日ね。楽しみにしてるわ」
「オレも楽しみです」
とても機嫌よく微笑んで、別れかけたところで彼女がどうでもいい用事を思い出したかのように言った。
「そうそう、アゼリーナが時間があるなら来て欲しいって言ってたわよ。ここしばらくはずっとギルドにいるからって」
-ギルドの受付窓口-
仕事に戻ったフェレーナは顔がニヤついていることに気づいていなかった。
「先輩、何かいいことあったんですか?顔が気持ち悪いですよ」
隣に座る新人はけっこう毒舌だ。
「うるさいわね。何でもないわよ」
そしてまた、いつの間にかニヤつき始めるのに気が付かない。
(決めた。エドウィン・フリントロック、絶対逃がさない。まだDランクなのにBランクに迫る威力の魔法が使えて、結構お人好し。極めつけは大容量アイテムボックス。他の連中に気づかれる前に捕獲しなきゃ。こんなおいしい獲...男性二度と現れないわ)
《納屋17》




