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15.エーリカを助けて!

《納屋15》


 日本に戻った翌日、仕事を辞めた。これでオレは自由の身だ。いつでも異世界へ行ける。


 異世界でのとりあえずの目標は、家電用に100V電源の確保だ。雷力発生器の調整を伯爵かアゼリーナさんに協力してもらえばそれほど難しくないと思っている。雷力発生器はエンジン発電機と違って無音なのがいい。しかも小型軽量で排気ガスも出さない。


 水曜日の朝。

 自由になったのが楽しくてつい早起きしてしまった。次にみんなと会うのは土曜の予定だが、もはや曜日など関係ない。持って行く予定の物がまだ全部揃ってないが、いつでも取りに戻れる。

 出発だ!


 3回目ともなれば慣れたものだ。難なく森を抜けて道まで出た。自由になって気が大きくなったオレは、そのまま電チャリに乗って街へ向かった。さすがにもう何時間も歩くのは嫌だ。


 街へ向かって走る冒険者?を発見。剣を下げてはいるが、町人の普段着みたいな服装だ。

 自転車で追い越しながら顔を見ると15~6歳くらい少年だった。必死の形相を見ればただ事ではないと分かる。

「慌ててどうした?」

「なっ、え?」

 変な乗り物を見て混乱しているようだ。

「この乗り物は気にすんな。何を急いでるんだ?」

「エーリカが!エーリカが死にそうなんだ!!」


 慌てていて要領を得ないが、一緒だった女の子が怪我をしていることは理解できた。オレは自転車を収納して軽トラックを出した。

「驚くのは後だ。そっち側に乗れ。こいつならすぐに助けに行ける。ほら、水でも飲んで落ち着け」


 水をすごい勢いで飲んでいる。少し落ち着いたようだ。

 少年に道案内をさせながら怪我の具合を聞くと、それなりに重症なようだ。車は街とは反対方向へ進み、この前サハギンが出た川を越えて右に曲がった。橋は荷馬車が通ると思われる頑丈そうな作りだったので強度は気にせず車で通過した。


 草原を先へ進むと草が減り、荒れ地に近くなってきた。


「止めて。そこに装備を隠してるんだ」

 少年が車から降りて革鎧と小さい丸盾を回収する。なるほど、鎧を着て長距離を走るのはつらいからな。ここから街まで歩くと4時間くらいかかるし。


 さらに数分走ると崩壊した遺跡が散在している場所に来た。自動車を見て逃げ出すゴブリンがいる。少年によると、行きでは敵に遭遇しなかったのに、帰り道でゴブリンと戦闘になったらしい。その時の状況を説明してもらった。


 前から現れたゴブリン5体と戦闘を開始するとすぐに後ろからも敵が来て、気が付くと20体くらいに囲まれていた。少年の側は3人。この少年、エミルが片手剣と丸盾。負傷した少女は魔法を使うが、まだ魔力が少ないこともあってゴブリン程度が相手なら剣でも戦う。もう一人は重戦士タイプで大きめの丸盾とロングソード。


 敵は殲滅したが、少女が矢を受けて目の前にいた敵に切られた。持っていたポーション2本を使ってだいぶ回復したが血は止まらない。街まで歩くのは無理そうなので近くの建物に隠れた。

 そこで長距離を走るのが得意なエミルが助けを呼びに走り、戦闘では強いが長距離走は苦手なもう1人の少年が護衛として残った。


「この辺にゴブリンの死体が散らばっていたはずだけど、残ってないな...」

「耳を回収し損ねたのか?」

「いや、そういうことじゃなくて、何が死体を食ったのかと思って」


 脳内マップにはぽつぽつ赤い点が見える。動きからしてゴブリンだろう。車に接近してくる様子はない。


「見えた!あの建物の3階だよ!!」

 その建物は3階部分が崩れていて、3階というより屋上に近い状態だった。1階と2階は開口部が広く、元からドアなどは付いてなさそうな構造だ。石造りでけっこう大きい。日本の民家の数倍のサイズだ。この建物の中は探知できるようだ。脳内マップに赤い点が3個と青い点が2個出ている。


「気持ちはわかるが、慌てるな。この辺に出るのはゴブリンだけか?」

「トカゲもいるはずだけど、ゴブリン以外は見てない」

 トカゲ?まあいいや。

「何かは分からんが、中に敵が3匹いる。オレは敵の気配を察知できるんだ」

「どうせゴブリンだ。それくらい俺1人でもやれる」

「そうか、あてにしてるぞ。だが突入する前に偵察するからちょっと待て」


 ドローンを飛ばして建物周辺を偵察した。少年は驚いた顔をしながらも質問はしてこなかった。見える場所に敵はいないようだ。天井が高い建物なので中にドローンを入れてみた。1階には確かにゴブリンが3体いた。確認できたらすぐにドローンを戻す。


「敵はゴブリン3匹で弓持ちはいない。まず、一番奥の1体をオレが魔法で仕留める。お前はそれと同時に突入して右側にいる敵2匹を倒してくれ」


 あっけなく敵3匹を倒した。

 エミルは迷わず一番近い敵へ走り寄ると、敵のナイフを盾で払いながら剣を首に突き刺した。そのまま次の敵へ向かうと、刺さったままの剣が敵の首を半分切り裂く。次の敵は単槍を突き出してくるが、剣で軽く受け流して、返す刀で首筋を袈裟切(けさぎ)りにした。流れるような動きだった。意外とやるな少年。まるで主人公のようだ。


「おおー、なかなかやるな。カッコよかったぜ」

 エミルは()められてちょっと嬉しそうだ。


 上の階へ向かう階段は丸太と崩れた石壁の素材で塞がれていた。

「敵が上へ行かないようにロベルトと協力して階段を(ふさ)いでおいたんだ」

「なるほど、周到だな」


 障害物をどけようとするエミルを制して、オレは一瞬でそれらを消して見せた。エミルが目を丸くして驚いている。

「...そっ、そうか、アイテムボックスを使ったのか!」

「その通り。さあ、行くぞ」


 ん?建物の周囲に赤い点が集まって来た。ゴブリンに囲まれたか。1階に爆薬を置こうかとも思ったが、まだテストしてないので適量が分からない。まあいいや。ゴブリンなら魔法でなんとかなるだろ。階段の入り口にはまた障害物を置いて(ふさ)いだ。


 3階まで登ると屋根が残っている部分に少女が寝かされていた。護衛で残った方の少年、ロベルトが悲壮な顔で少女の腹の傷を押さえている。少女は出血で顔色が悪いが、意識はあって痛みに耐えているのが分かる。


「ロベルト!俺だ。助けを呼んできた!」

「ポーションと回復アイテムを持っている。傷を見せてくれ」

 ロベルトが顔を上げ、(わら)にも縋るような顔で言った。

「頼む!血が止まらないんだ!」


 太ももの矢傷は塞がっていたが、剣で切られた腹の傷からは出血が続いていた。痛そうな傷口を見ていたらこっちも血の気が引いてきた。たぶん内臓も切れてるな。


 う~ん、ポーションでも流れた血までは回復しないよなあ。


 とりあえず傷薬を塗ろう。この前、ザックの怪我の治療をしてもらった時に回復魔法の効果が異様に高かったのは地球から持ってきた傷薬を塗っていたからだと思っている。


「傷が開かないように両側から押し付けていてくれ」

 こんな傷に傷薬なんて意味がないだろう、普通は。だが、魔法との相乗効果があるのなら、ポーションでも同じことが起きるかもしれない。

 

「これを飲ませてくれ。もう1本を傷にかける」

 血は止まったが表面の傷口はほとんど塞がらずに効果が切れた。傷が深いせいだろう。ポーション(並)は弱いな。伯爵からもらったアイテムを試してみよう。


「大丈夫だ。まだ回復アイテムがある」

 伯爵からもらったネックレスを外して少女の首にかけた。これはペンダントヘッドが肌に接触している必要があるので、服の首の隙間から中へ押し込む。

「すごい。傷が塞がっていく」

 エミルとロベルトが驚いている。実はオレも驚いているが顔には出さない。傷が塞がりながら、傷口から不自然にどす黒い血が流れ出る。余計なものが強制的に排出されているのか?

 はたして傷薬は効果があったのかどうか、比較対象がないと分からない。


 傷が塞がると痛みも引いたようだ。少女がほっとした顔で口を開いた。

「ありがとう。もう、あまり痛くないわ」

 よかった。もう大丈夫だな。少年2人もようやく安心した顔になった。


 しばらく待ってから聞いても、まだそれなりには痛いと言う。

「ちょっと失礼」

 ペンダントヘッドを取り出して蓋を開けてみると中の魔石が消滅していた。

「1個使い切ったな。これは魔石を消費する回復アイテムなんだ。エミル、小魔石を持ってないか?」

「それならある。これを使ってくれ」

 魔石を補充して少し待つと完全に痛みがなくなったようだ。

「ありがとう。もう大丈夫みたい。どこも痛くないし」


 エミルが涙目でエーリカの手を取る。

「エーリカ!!よかった。俺..走りながら悪いことばかり考えて、戻ってきても手遅れなんじゃないかって..」

「エミル、ありがとう。もう本当に大丈夫よ」

 ロベルトも泣きたいのをやせ我慢している顔だ。


「やっぱり出血で顔色は悪いままだな。薬じゃないが、これを飲めば多少はましになるかもしれない」

 ポカ〇スエッ〇を飲ませてみた。アク〇リア〇よりこっちの方がうまいから、家の冷蔵庫には常備している。

「これ、冷たくておいしい」

 エーリカは一気に1本飲んでしまった。

「そんなに喉が渇いてたのか。まだあるぞ、ほら」

 2本目もごくごく飲んでいる。


 顔色がずいぶん良くなった。回復アイテムとの相乗効果があると思って間違いなさそうだ。

「そんなに飲んで腹がたぽたぽにならないか?」

「不思議だけど、ぜんぜんおなかにたまらないの。気分もよくなったわ」

 2本目も飲み干すとエーリカは立ち上がった。さすがにちょっとふらつくようだ。ペンダントヘッドを見ると2個目の魔石も消滅していたのでさらに補充する。

「もう1本飲むか?」

「ありがとう。いただくわ」

 3本目も飲み干すと立っていても平気になったようだ。それ以上飲んでも腹にたまるだけで回復効果は感じられないということだった。


 適当な栄養と水分を与えてヒールすれば失血が回復することが判明した。地球産の物じゃなくても同様の効果があるかは確認が必要だ。


 エーリカが礼を言いながらネックレスを外そうとするのを止めた。

「そのネックレスは安全を確保するまで貸しておく。これから戦闘だ。オレ達がこの建物に入る前にゴブリンらしき敵が周囲に集まり始めていたんだが、そいつらがこの建物に入り込んでいる。数は18だ」


 ロベルトが質問する。

「どうして分るんだ?」

「オレは近くの敵の気配を察知できるんだ。まだ階段を塞いだ障害物は突破してないな」

「よく分からないけど、エドさんはすごいんだ。普通じゃないんだよ」

 エミルが援護してくれるが、普通じゃないは()め言葉じゃないぞ。


 戦闘開始だ。


「オレはこう見えても魔法使いだ。敵が多いところに一発ぶち込んだら2階まで戻ってくる」

 階段を下りて障害物を収納した。ウインドカッターを詠唱しながら身を(さら)すと敵が集まって来る。直線上に敵が一番多い方角へ向けて発射。杖も使った収束モードだ。敵を数体貫通して血しぶきが上がる。3体が即死。さらに2体の腕が飛んだり腹を深く抉られて戦意喪失だ。貫通力は余裕だった。これなら少し幅を広げた方が効率が良かったな。

 弓持ちがこちらへ狙いをつける。それと同時にオレは一歩下がり、階段へ引っ込んだ。直後に階段入り口の石壁に矢が3本連続で飛んできて跳ね返った。

 2階まで走って戻ると、また階段を塞ぐ障害物を出した。幅が広い階段だから、追ってきた敵全部が階段に収まってしまった。


「こりゃいい。一気に殲滅できるな。オレが魔法を唱え始めて、指で合図したら障害物を蹴り崩してくれ」

 ウインドカッターを詠唱開始。オレが障害物を指さすと、エミルとロベルトが思いっきり蹴った。丸太と分厚い石板が階段のゴブリン4匹をなぎ倒す。幅を広げて発射したウインドカッターが一番後ろの敵4匹をまとめて切り裂いた。弓持ちを3体とも倒したので、オレは杖を収納してスコップに持ち替える。

 いざ、突貫!


「ストーンバレット!ストーンバレット!」

 エーリカが大粒の散弾を連射して残りの敵をほとんど薙ぎ払ってしまった。まだ立っている敵もエミルとロベルトが素早く始末したので、結局スコップの出番はなかった。狭い場所に敵が密集すると魔法の効率が良すぎるな。


「エーリカやるなあ」

「エドさんのもすごい威力ね。私はもう魔力が残り少ないわ」


 敵を殲滅したと思って安心したら、赤い点がまた1個外から入ってきた。

「また敵が1体来るぞー」

 先行して階段を下りるエミルとロベルトに一応教えてやる。この2人なら大丈夫だろうが。


「「トカゲだー!!」」

 2人が慌てて戻って来た。

「やばい。大トカゲがゴブリンの死体を食ってる!」


 トカゲはまだ階段からは離れている。オレも1階へ下りて階段の出口から(のぞ)いてみると、そいつは巨大トカゲだった。この前の大猪よりは一回り小さいが、横幅が太く、トカゲと言うにはでかすぎる。もしかして、火を噴くタイプか?


《納屋15》

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