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13.屋敷に住むことになった

《納屋13》


 朝半(朝二)の鐘を待ってくっころさん、もといエレジーナと合流して伯爵の屋敷まで案内してもらった。並んでみると身長はオレの方がちょっとだけ高いな。てことは170cmくらいか。髪を後ろにまとめて、某サーバントのセ〇バーさんみたいな雰囲気だ。


 ショコラで餌付けできないだろうか。歩きながらショコラを差し出すと凛々(りり)しい顔がちょっと緩んだ。

「おひとついかが?」

「いや、残念ながら今は仕事中なのだ」


 緩んだのは一瞬だけで、本当に残念そうな顔になった。これはショコラの味を知ってるな。


「ショコラの中にはピーナッツという豆が入っていまして、実はそれ以外の黒い部分をショコラと言うのですよ」


「ほう、そうだったのか。あの豆と甘いショコラは実にいい組み合わせだな」

「ですよね。当然ながら豆が入っていないショコラもあります」

「うむ。それはそれで興味を引かれるな」

 ゴクリとしたな。


「今日はその、豆入りではない純粋なショコラも持ってきたのですが、お嬢様に献上する前に味見などしていただけると助かるのですが..」


「な、なるほど。そういう事情ならやむを得ないな。これも仕事のうちだ」

「では、これを」

 ピーナッツ入りと、何も入ってない普通のミルクチョコを差し出した。一口サイズを一個ずつだ。


 エレジーナはショコラを口に入れて平静を保とうとしているようだが、顔がにやけてしまっている。このまま餌付けしてやる。


「豆入りと比べてどうでしょう?」

「む、それは難題だ。どちらも最高に美味しいぞ。これに優劣をつけるなどあまりにも不遜と言えよう」


「仕方ないですね。ではもう一つ違うショコラを。この中にはアーモンドという豆が入っていまして、ピーナッツより少し高級品です。お嬢様に気に入っていただけますかね?」


「なんと、さらに高級なショコラがあるというのか!?」

「ショコラ自体は同じですよ。高いのは中の豆です。これとなら違いが分かりやすいかと。順番を付けるとすればどれが一番でしょう?」


「むむむ、これもまた..あまりにも美味しすぎる。確かに、同じではないが、順位を付けるなどあまりにも無理難題」

「なるほど。一個ずつで判断するのは難しいですよね。ではもう一個ずつ」


 あーあ、凛々しかった顔が緩みまくりだ。もう味見の建前なんか完全に忘れてるな。

「つまり、どれを出してもお嬢様に気に入っていただけると?」

「もちろんだ!この私が保証する」

「それはよかった。次もまた頼みますね」

「うむ。いつでも頼まれよう!」


 チョロいな。くっころ言わせる日は案外近いかも。


 屋敷に到着した。

 豪華だが品のいい屋敷だ。思ったより小さくて少しだけほっとしている。玄関を通ると、なんと白いドレスの少女直々のお出迎えである。左右には侍女が2人ずつ立っている。その後ろには伯爵本人と思われる、いかにも貴族なオヤジが立っていた。横にはアゼリーナさんもいた。知り合いがいて安心する。


「よくぞ参られた、フリントロック卿よ!」

 オレ、すごく歓迎されてないか?お嬢様が満面の笑みだぞ。これも、この前のショコラの威力かな。

 今日の衣装は白基調に少し黒が入った、ほぼゴスロリだ。


「この度は一介の冒険者である私ごときをお招きいただき恐悦至極」

「何を申されるか、フリントロック卿。是非ともショコラの礼を言わせてくれ。妾はジゼルマイン。このリューズライト伯の姪じゃ。ジゼルと呼んでくれてかまわんぞ」


「私のことはエドとお呼びください。ただの冒険者ですので」

「ふむ。ここで冒険者の振りなど必要ないと思うが、そう言われるのならば承知した」


「マキナス・リューズライトである。貴殿を歓迎する」

 マキナ..なるほど名は体を表すか。機械好きのマキナス伯爵と。


 伯爵は、髪を後ろで縛って首には白いひらひらのスカーフ?みたいなのを巻いているイメージ通りの貴族服だ。身長はオレより高く、175~6cmか?40歳くらいでレイピアとかを構えたら似合いそうな、なかなかにカッコいいオヤジだ。


 8人掛けの長方形のテーブルがある部屋に通された。

 案内された席は伯爵と向い合せの、いわゆる誕生日席だ。メイドさんが椅子を引いてくれて、お茶とお菓子も出してくれた。お嬢様は真ん中よりはこちら側に座って、その斜め向かいの席はアゼリーナさんだ。


「エド殿、姪がショコラを大層気に入っておってな、私からも礼を言う」

「大層気に入っておるのは伯父上ではないか?」


「気に入ってもらえてこちらも嬉しいです。まずはこれを。この前とは違う豆が入ったものと、豆が入っていない純粋なショコラです」


 アーモンドチョコ20個入りと、普通のチョコ20個入りの小袋をそれぞれ2つずつ出した。


「純粋なショコラじゃと!?」

「はい。ショコラというのは豆以外の黒い部分のことなのですよ。こちらの豆入りは前回のより高級なアーモンドという豆を使っています」

「それは重ね重ねかたじけない」


 この雰囲気ならオレから用件に入っても平気そうだ。

「この機会に一つお伺いしたいのですが、フリントロックとは何なのでしょう?」

「うん?今更とぼける意味があるとは思えないが」


「いえ、そういう意味ではなく、あなた方にとってのフリントロックが何なのか教えていただきたいと思いまして」


「ふむ。知らぬ者に語ることはないか。我らが知るフリントロックとは...古代エンダリル帝国の科学を受け継ぐ者。それも当時最先端とされた雷力(らいりょく)の技術を研究する一族」


「雷力とは?」

「魔力を、ああ、もちろん科学者を名乗る者達が魔という言葉を嫌っていたのは知っている。雷力は雷属性とほぼ同義ではあるが、帝国では金属を伝わる状態での利用方法を特に雷力(らいりょく)と呼称して研究していた」


 うん、電力(でんりょく)だな。あまり試すのもどうかと思うが、貴重な機会だ。もう少し喋ってもらおう。


「それにはこういう物も含まれますか?」

 LEDライトのスイッチを入れて見せた。


「それは、照明の魔道具では」

「この中には魔力ではなく雷力(らいりょく)が蓄積されています。どうぞ手に取ってよくご覧を」


「なんと洗練された形状。それにこの小ささ。さすがはフリントロック...」

 思いのほかLEDライトに感心している。


「確かに魔力干渉を受けないようだが..。雷力を蓄積できるものなのか?」

「雷力の蓄積は少量なら難しくありません。これはこれで便利ですが、光るだけなら魔石を使えば済むことですよね」


「確かに。しかし、物を動かすのなら魔力では効率が悪い。実際、発掘された魔導機械を私が調査したところでは、その多くが雷力を使用していた。例えばこれのように」


 伯爵が合図するとメイドさんが部屋の端に置かれていた何かの布を取り払った。


「見よ!私が発掘した帝国の動力装置だ!」


 伯爵がスイッチを入れると回り出したそれは、どう見ても電気モーターだった。それにつながる箱が魔力を電力に変換しているのだろう。エアコンや冷蔵庫の電源に使えないだろうか。


「私はこれを複製したいと思っている。この雷力発生装置は簡単に作れるが、肝心の回転機構が良く分からんのだ。これを作れるようになれば、馬車や粉ひき機やあらゆる機械に使えるのだが」


 好都合だ。電力の使い方は理解してないな。ここまで分かれば十分だ。

「その回転機構ならどういう原理か知ってます。私は魔道具にはうといので、伯爵の知識と交換しませんか?」


「おおお、やはり貴殿は正真正銘、フリントロック卿であるな。是非ともお願いする」

「冒険者のエドです」


 こうしてオレと伯爵は技術交換することになった。この世界で実用になるモーターを作るのは簡単ではないと思うが、そこは伯爵の財力でなんとかしてもらおう。まあ、成行き次第では工作機械を提供するのもやぶさかではない。


「伯父上、そろそろ本題に戻らぬか」

「うん?ずっと本題だったではないか」


「もう一つの本題じゃ!ショコラを忘れてもらっては困るぞ」

「おお、そうであったな。エド殿、貴殿のパーティには回復役がいないと聞いた。そこでショコラの礼としてこの回復のペンダントを用意した」


 それは凝ったデザインの大きめのペンダントヘッドが付いたチェーンネックレスだった。

「これも遺跡から発掘した物で、魔石を消費して強力な回復効果を発揮するアイテムだ。もし、すでに同様の物を持っているのであれば違う物もあるが」


 すごいアイテムだ。

「これは願ってもないです。しかし、食べ物の謝礼としては、あまりにも高価なのでは?」


「心配には及ばぬ。これも貴殿との縁をつなぎたいがためだ。今となっては死なれては困るしの」


 しびれを切らしたかのようにお嬢様が話し始めた。

「エド殿、ショコラの取引をしたい。定期的に売ってもらうことは可能か?」

「今のところは可能ですよ。ただ、時間要塞での実験結果次第では調達できなくなるかもしれません」


「「どういうこか?」」

「2日前に要塞で発生した、衝撃を伴う魔法陣を見た直後に私の能力が一時使えなくなりました。その能力無しではショコラを調達できないのです」


「あれは要塞の起動実験だが...。我々としても、ショコラが入手できなくなるのは困る。魔力干渉だとすれば、離れていれば大丈夫だとは思うが」


 もう一押しするべきか。オレはドローンをテーブルの上に出した。

「ショコラだけではなく、このような機械も入手できなくなります」

「虫のような、なんとも珍妙な機械であるな」

「これには、その回転機構を小型化したものが4つ組み込まれています」


 4つのローターがうなりを上げて、ドローンが天井近くまで垂直に上昇した。


「なっ!」

 伯爵が口を開いたまま固まった。お嬢様は面白がるように目を丸くしている。アゼリーナさんも驚いてる?


 伯爵の反応が面白かったので、オレはドローンを部屋の中で縦横無尽に飛び回らせた。撮影機能があることは教えない。


「と、このように自在に操ることもできます」

 伯爵があんぐりしている。お嬢様は目をキラキラさせて自分でも触ってみたそうだ。アゼリーナさんも言葉が出ないようだ。やりすぎたか?


「信じられん。このような物まであるのか...」

「これも雷力の応用です」


 さらに中学生レベルの電気の知識を披露した。電磁気力やオームの法則の説明を聞いた伯爵は、長年探し求めた何かを見つけたかのように感動していた。


「おおおお...エンダリルの英知がそこまで...いいのか?そこまで教えてしまって?」


「構いませんよ。伯爵の知識となら交換する価値があると思っています」

 必要以上に驚かせたおかげでオレは最重要人物扱いになってしまった。


「要塞の起動実験は一時中断する。まず、フリントロック卿に何が影響しているか慎重に確認せねばならん」

「ありがとうございます。それに、私は冒険者のエドです」


「すまぬ。そうであったな。エド殿、安宿に泊まっているそうではないか。この屋敷に住んでもらえぬか?護衛も付けよう。アゼリーナ、街の外ではお主が護衛してくれたら安心なのだが」


 いきなり過保護オヤジになったな。護衛なんて付けられたら窮屈この上ない。

「伯爵、落ち着いてください。私は冒険者です。四六時中護衛など付けられては、もはや冒険者を名乗れません」


「ぬ、これは失敬した。そうであるな。ではこの屋敷には住んでもらうこととして、護衛は目立たぬよう離れて付かせよう」


「いや、そういうことでもなく、護衛自体を無しで」

「だが、護衛も無しで冒険とは危険すぎるであろう」

「いや、だから、それだともはや冒険者とは言えなくなって..」


「ならば、妾が冒険者として同行してもよいぞ。オークの集団程度なら軽く吹き飛ばしてくれよう」


「はい?お嬢様が出るのはまずいのでは?」

「ジゼルじゃ」

「ジゼル様」

「様はいらん」


 常時護衛を付けたがる伯爵と、この機会を利用して遊び回りたいジゼルマインを交えたぐだぐだの攻防の末、オレは屋敷に住むことになった。屋敷の外で護衛は付けないことになったが、おそらく隠れた護衛が付くのだろう。気分がげんなりしてきた。街から出たら振り切ってやる。


「紹介しよう、普段はこの者達が屋敷を管理しておる」

 伯爵がこの屋敷を使うのは月1回ほどで、いない間も4人の使用人が住み込みで管理しているらしい。


「エド様、私はこの屋敷を管理するギルバートと申します。何なりとお申し付けを」

 セバスじゃなかったか。


「リディアです」

「イングリットです。身の回りのお世話は我々にお任せください」


 メイドさんが2人。他の2人はジゼルの専属っぽいな。本物にお帰りなさい言われるのは悪くないかも。


「庭師のランドです。雑用は私めに」

「4人とも腕利きだ。護衛を兼ねている」

 てことは、戦闘メイド!


「やはり、そうですか。皆さんとても強いのでしょうね」

 4人とも自信ありげな顔になって執事のギルバートが頷いた。さすが冒険者街の貴族屋敷だ。このメイドさん達もオレより強いんだろうなあ。


 メイドの2人がオレを見てニコニコしていた。その理由は、オレが来て仕事が増えるので給金も増えるのが嬉しかったようだ。しかも護衛任務を兼ねるので、オレがいれば日当が割増になる。


 またショコラの話に戻った。

 ショコラは伯爵の属する国では伯爵以外には売らない独占契約になった。もちろん出元は秘密にしてもらう。


 伯爵への卸値は、ピーナッツチョコ3個で小銀貨1枚、150個だと金貨1枚。1個700円近い。うん、我ながら阿漕(あこぎ)だ。アーモンドチョコとただのチョコは3割増しだ。


 この日はショコラ200個入りを5袋の1000個売って、計算より少し多めの金貨7枚を支払ってもらった。これでオレの懐に入っているのは金貨67枚と小銭が金貨約1枚分になった。


「それでは伯爵、またショコラを仕入れたら5日後に街へ戻ります」

「うむ。私はいないがギルバートにあるだけ買い取らせる。可能な限り大量に頼むぞ」


「伯父上、エドのことは妾に任せるがよい。エド、参ろうぞ」

 当たり前のようオレと一緒に屋敷を出ようとしたジゼルマインがエレジーナに首根っこをつかまれて引き戻された。


《納屋13》

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