12.くっころさんが待っていた
《納屋12》
無事ゴブリンの巣を潰して、昨夜街に戻ってきた。依頼達成だ。
今朝は達成報告と獲物の換金でギルドに来たのだが、オレは今、エリカ達4人に捕まって引きずられている。どうしてこうなったのかというと、今から約1分前。
オレ達4人と猫耳3人組は犬肉亭に泊っていたので、ギルドまで来るのも一緒だった。エリカ達4人はすでにギルドに来ていた。
「よー、エリカ、おはよう。クロエとケイトとマリーも」
「おはよー、って、ん?」
マリーがピクっと反応した。
マリーがミシャーナ達をじーっと見ている。つかつか歩み寄ったかと思ったら、リニャータの両肩をがしっと掴んだ。
「あう、何するにゃ」
「何、この髪は!?しかも3人とも!いったいどういうこと?」
しまった、迂闊だった。後で話すつもりだったが先に気づかれたか。
エリカ達全員が猫耳3人の髪の艶に気付いて、すぐにこっちへ来た。4人に詰め寄られた3人が一斉にオレを指さす。
「やっぱり、あんたの仕業か!」
「私たちを差し置いてこの子達とイイことしてたわけ?」
「師匠である私にまだ何か隠していますね」
「これは隠していいことじゃないわね」
4人はオレを取り囲むとずるずる引きずってギルドの外に連れ出した。女の秘密ってやつだし、中にいる他の女達には聞かせたくないのだろう。
「シャンプーとリンス」
「「「「「 は? 」」」」
「シャンプーとリンスなる洗髪剤の効果だ。隠していたわけじゃないぞ。話す機会が無かっただけだ。知り合ったのはミシャーナ達が先だったし」
髪が艶々になる魔法のような洗髪剤が存在することを話した。
「つまり、その液体で髪を洗うとああなるわけね」
「そうだ。もちろん、君達4人にも渡すぞ。ただ、今は4人分は持ってない。とりあえず1セット渡すからみんなで使ってくれ」
「えっ、いえ別に強請るつもりじゃないわよ。白状させようとしただけで」
「気にすんな、どうせ後で渡すつもりだったんだ。数日後に4人分持ってくるから楽しみにしていてくれ」
「なんだか、悪いわね。タカったみたいで」
「この際だから家に招待しようよ。どうせならエド君直々に使い方を教えてもらいたいし」
後でエリカ達の家へ行って使い方を説明することになった。
ギルドへ来た本来の目的を果たさねば。ゴブリン討伐の報告はザックに任せて、オレは賊討伐の報告をする。
「フェレーナさん、賊を倒したので報奨金が出るか確認してもらいたいんですけど」
「え..てことは、アレ持ってきたのね?」
「ああ、ご心配なく。現物は持ってきてないですから。代わりにこの絵を」
スマホで賊5人の写真を見せた。
「うっ!どっ、どうやってこんな小さくしたの?」
「違いますって。これは絵です。ほら、逆さにしても落ちてきたりしないでしょ。これは本物そっくりの絵を作る魔道具です」
「そう。そっくりすぎて気持ち悪いわね。見てると呪われそう。まさかとは思うけど...」
「その心配も無用です。何も閉じ込めてませんよ。ただの絵ですって。本物を持ち込むよりましでしょ。これで討伐の証拠になります?」
写真は証拠として認められた。やはり賊共は冒険者崩れだった。ボスっぽい大男は金貨3枚、手下の2人は金貨1枚ずつの賞金首だった。残りの2人は情報無しで報奨金もなし。
「登録証も確認できたわ。ほら、3人は元冒険者だから対になるカードがあるの。そこに貼ってある手配書も剥がしてもらえる?」
死亡した3人のカードを見せてもらうと、周囲が黒く変色していた。
「あなたにお客さんだけど、その前に用事を先に済ませた方がいいわよね。解体所、行くでしょ?」
「もちろん。大漁ですよ。前回に比べたら大したことないですけど」
オレ達全員で解体所へ向かった。
「お、またお前さんか。今日はどんな大物だ?」
「ほい、オーク、オーク、サハギン。それに銀狼が13匹。これで全部です」
「うおい!大量だな。すまんが査定が済んだら夕方まで預かってもらっていいか?商人を呼び出しとくから」
「ええ、かまいませんよ」
「助かる。よし、まずはこのでかいオークだな。ジェネラルってほどでもないが、その候補ってところか。しかしまた今回もきれいに仕留めたな。いったいどうやったんだ?」
水球を使ったことを説明した。
「ほう、そんな便利な魔法があるのか。やられる側にしたら嫌な魔法だな」
「エドは敵には全く容赦がないからな。今回はゴブリンの巣も潰したんだが..」
アドルが「混ぜるな危険作戦」を話したら、解体所の親方を含めて初耳だった全員が引き気味だ。ウインドカッターで賊を倒した話もしたが、そっちは普通に感心された。
ボスオークの肉2Kgを取り分けてもらって他は売却した。斧と盾は武器屋に持ち込んだ方がいいと言われたので、この後武器屋へ行った。今回の収入は以下の通りである。
賊3人 金貨5枚
ゴブリンの巣 大銀貨6枚
ゴブリン32匹 小銀貨16枚
川サハギン 金貨2枚
普通のオーク 金貨2枚+小銀貨2枚
ボスオーク 金貨5枚+小銀貨4枚
大斧 金貨4枚
曲がった盾 大銀貨2枚
銀狼 大銀貨2+小3枚
13匹のうち7匹がオレ達4人の取り分で、7匹の合計は大銀貨18+小銀貨1枚
-------------
合計 金貨20+大銀貨8+小銀貨3
これを4人で分けると、金貨5枚と大銀貨2枚ずつだ。端数の小銀貨3枚はオレがもらった。
「運搬やら、不思議道具の数々を考えると等分はすっきりしないんだがなあ」
「気にすんな。オレもみんなと一緒で楽しいから、これでいい」
今回の収入に残金の金貨51枚を足すと、金貨56枚と小銭が少々の、およそ金貨57枚になる。やはり大猪を狩れたのはラッキーだったな。あんな大金はしばらく稼げそうにない。
オークに意外といい値段が付いたが、普通は運ぶのが大変だからな。ボスオークは200Kgくらい、普通のオークでも150Kgくらいある。
「エドがいるとすげー稼ぎになるな」
「俺達だけじゃ、倒せても運べないからな」
「慣れてしまうのが怖いな」
「普通のパーティは大物の運搬とかどうやるんだ?」
「その場で血抜きと解体して、高値が付く部分だけ運ぶことが多いな」
「自信がある連中なら、商人に荷馬車で来てもらったりもするぞ。もし獲物を仕留められなくても商人に往復料金は払うことになるが」
ミシャーナに誘われた。
「エド、次はあたしらと一緒に行く番だよな」
「ああ、いいぞ」
「む、エドさんは私の弟子なんですけど?」
「魔法使い同士、友達になったのはわたしが先」
面倒くさい争いが起きる前にオレから提案した。
「数日後でもいいなら、全員でゴブリン砦を潰しに行かないか?昨日、ゴブリンの数がだいぶ減ったがオレ達以外はまだ知らないと思う」
「そりゃいいな」
「まあ、この人数なら楽勝ね」
ミシャーナもエリカも賛成のようだ。
「そのついでに、砦近くの遺跡にいるオークを安全に狩る方法も考えたぞ」
「あれを使うんだな」
「ああ、そうだ」
うちの3人には分かったようだ。
「何のこと?もったいぶらずに言いなさいよ」
「説明は難しいので、後で実物を見せる。オレは明日からちょっと用事があるから、ゴブリン砦に行くのは5日後でいいか?」
「仕方ないわね。どうせあの依頼は当分誰も取らないだろし」
「別世界へ行ってくるんですね」
「ずいぶん近い別世界ね」
大きい巣の討伐は依頼を受けたがるパーティが少なく、数か月放置されるのも珍しくないらしい。
「ここでの用事は済んだかしら。お客さんはギルド長の部屋よ」
フェレーナさんに案内されてギルド長の部屋へ向かっている。
「ずいぶん大勢の女の子と仲良くなったのね。この街にも馴染んでくれたようで嬉しいわ」
言葉にトゲを感じる。
「あははは、おかげさまでどうにか上手くやれてます」
オレの腕を取って耳元で声を低くして言われた。
「あなた担当の私とも、もっと上手くやれると思わない?」
「もちろんですとも。もう慣れてきたし、たくさん依頼をこなしますよ」
オレの声が上ずっている。フェレーナさんはどこまで本気で、どこまでからかっているのか分からない。これ、恋愛経験値の低い男が下手に突撃したらダメなやつだろ。
ギルド長の部屋に入ると、そこにはくっころさんがいた。やっぱり面倒ごとだったか。
「私はリューズライト家の家臣、エレジーナと申す。お見知りおきを」
「これはご丁寧に。エドウィンです」
「フリントロック卿とお呼びするべきか?」
卿って誰だよ。フェレーナさんとギルド長が「そうなの?」って顔してるぞ。
「いえ、Dランク冒険者のエドウィンです。エドで結構」
「事情がおありか。ならばそのように」
2人が納得した顔になったよ。完全に誤解されたじゃないか。
「ショコラの謝礼にぜひとも貴殿をリューズライト家、ブルグンド邸へ招待したい」
関わりたくはないが、遺跡での実験が気になる。何が脳内投影に影響しているのか知りたい。相手は機械好きとの噂だ。ならば、地球製の機械には興味を示すはずだ。オレは招待を受けることにした。
「屋敷はすぐ近くだ。今日ならいつでも構わないのだが、そちらはいかがか?」
「では、朝半の鐘が鳴ったらでいかがでしょう?」
「うむ。承知した」
この街に正確な時計は無い。日の出から日の入りまでを8等分して午前なら朝一、朝二、朝三、朝四で、午後なら昼一、昼二、昼三、昼四と呼ぶ。朝半とは日の出から正午までの半分で朝二のことだ。
待ち合わせ時間は通常、鐘が鳴ってからだ。鐘が鳴る前ではない。狭い街なのでそれで十分なのだろう。今のところ、この街で急いでいる人を見たことがない。
ドワーフの武器屋へ来た。ここでボスオークの大斧と曲がった盾を売る。大斧はロンセル用でもいいのではと思ったが、大剣と一緒に持ち歩くのはちょっと無理だし、いつ使うか分からないので売った方がいいと言われた。
「今日は買取をお願いしたい」
「おう、お前さんか。待ってたぞ」
「ああ、例の鉄だろ。それもあるが、今日はまずオークから奪った斧と盾を見てもらいたい」
「オーガ殺しじゃ」
オヤジがいきなりドスの利いた声で、こちらでの焼酎の名前を言った。
「さすがドワーフ。酒の噂は聞き逃さないんだな」
「噂を聞いてからお前さんが来るのをずっと待っておったぞ」
「ふっ、あるぞ」
オヤジの目つきが鋭くなる。オレも負けじと不敵に笑う。そしてとっくりを一本出した。小さいおちょこと一緒に。
とくとくついでから差し出す。
「味見しなきゃ始まらんよな」
「うむ」
何が始まらないのか分からないが、気に入ってくれたらいい取引材料になるだろう。オヤジは軽く匂いをかいでからぐいっとあおった。
味わっている。
「...うまい。火酒にも劣らぬ強さだ」
「強けりゃ何でもいいのか?」
「そんなわけなかろう。こいつは強いだけじゃなく、うまい。上物の火酒以上かもしれん」
感想はうまい、か。まあ、どうみても饒舌なタイプじゃないからな。
「火酒ってのが一番強い酒なのか?」
「そうじゃ。それとこの酒もだな。さすが、オーガ殺しと呼ばれるだけはある」
「だが、『ドワーフは殺せない』だろ?」
「ぬはは。その通りじゃ。こいつはいい酒だ。樽で売ってくれ」
「よし、これでどうだ」
3L入りのミニ樽を出した。
「小さい樽じゃのー。こんな小さいのは初めて見たわ」
「そうは言ってもな、気に入ってもらえるか分からなかったからな」
「仕方ないの。値段じゃが」
ドワーフなら火酒と比較すると予想してあらかじめ調べてある。
「値段は金貨1枚だ」
「なんじゃと!?安すぎんか?」
樽代を入れても原価は6000円にならない。金貨1枚なら十分ぼったくりである。
「オレは酒屋じゃないし、本業は冒険者だからな。この店で融通を利かせてくれたらそれでいいよ。こっちは味見用だから全部飲んでくれ」
とっくりの残りを飲み干して、樽を抱えてニコニコしてやがる。どんだけ酒好きなんだ、ドワーフめ。
「さて、鉄だが、今回持ってきたのはこれだ。この前の斧より質がいいと思うぞ」
トラックの板バネを持ってきた。廃車から抜き取られた中古パーツだが、現代科学で作られたバネは、硬さと弾力を兼ね備える、とても高性能な鋼材だ。
「見てくれこの弾力」
角材を2つ出してその間にバネを乗せてから、足で踏んで見せた。
「ぬう、こいつは...。どこでこんなシロモノを手に入れた!?」
「それを聞くのか?」
「いや、秘密なら聞かん。大方、遺跡から出たのじゃろ。こいつはまだあるのか?」
1mくらいの板バネを4本出した。
「売るのは3本で、1本は剣にしてもらいたい。こういう剣だが、作れるか?」
日本刀の模造刀を見せた。
鋼材は、本当は玉鋼とか青紙二号にしたかったが、個人で購入する方法が分からなかった。まあ、どんな名刀でも刃物同士で打ち合えば刃こぼれする。実用には板バネくらいでちょうどいいのかもしれない。
「珍しい剣じゃな。微妙な反りが付いた曲刀か」
「その反り具合が重要なんだ。この見本と同じくらいにして欲しい。オレも詳しくは知らんが、反りを付けるのは叩いて曲げるとかじゃなく、冷やすときの温度差らしい。泥を塗って刃と背の冷え具合を変えるんだそうだ。ドワーフなら分かるんじゃないか」
「まかせろ。見本まであるのなら、完璧に注文通りに仕上げてやる。じゃが、この鉄を扱うには慣れがいるじゃろう。20日くらい待ってもらえるか」
「分かった」
板バネ1本が金貨1枚で売れた。同じ品質の鋼材はドワーフでも作れないらしい。
「こいつは鉄としては最上じゃろう。ミスリルには及ばんが、あれと比べてもな。酒とこの鉄じゃ、剣の1本ならタダで打ってやる。楽しみにしておれ」
最後に大斧と折れ曲がった大盾を見せた。
「ほう、いい斧だ。鉄の質は普通じゃな。金貨4枚じゃ。この盾はまた、酷い有様じゃな。お前さん達がやったのか?」
「アドルがファイヤーボールで穴を空けて、同じ場所にオレの収束ストーンバレットを撃ち込んだらこうなった。前回ここで買った杖が役に立ったよ」
「お主、思ったよりいい腕じゃな。この盾は使える状態なら金貨2枚ってところじゃが、これじゃただの鉄じゃ。大銀貨2枚でいいか?」
ザック達も文句は無いようだ。これでオレの異世界財産は小銭も合わせて金貨約61枚分になった。さて、次はギルドに戻ってくっころさんと合流か。
《納屋12》




