11.業火の少女
2022年7月23日 微修正、誤字脱字修正のみ。内容変更なし。
《納屋11》
何回か意識を飛ばされたが、クロエに手伝ってもらって普通の魔法も使えるようになった。まだ自動詠唱より時間がかかるが、すぐに慣れるだろう。
女子達がアイスクリーム・ショックから正気に戻って、出発しようとしていた矢先だった。
???「あいつ、ギルドでフェレーナにちょっかいかけてた新人じゃないか?」
???「チッ、エルフといちゃついてやがる。調子ん乗りやがって」
???「ここで野営か。ならちょうどいい。挨拶の仕方を教えてやる」
通りすがりかと思った5人組がこっちへ来る。
あ、ギルドにいたお約束イベントの悪役連中じゃん。
頭上には名前が見える。オレにだけだが。
スターグ「よう、隣邪魔するぞ。俺達も今夜はここで野営だ」
ザック 「おう、勝手にやってくれ」
スターグ「お、そこにいるのは新人君じゃねーか。フェレーナに振られて今度はエルフにちょっかいか?」
面倒くさい奴だな。ギルドでもずっとこっち睨んでたし。
「気にしないでいいぞ。どっちも成行きで仲良くなっただけだ」
とか言いながら、まだクロエと手をつないだままだった。
「テメー、馬鹿にしてるだろ」
「はあ?何言ってんだ?まあいい。こっちはすぐに発つから、この場所はお前達が好きに使えるぞ」
「無視しようってか?新人のくせに挨拶も無しにでかい顔すんじゃねーぞ」
「お前が何を言いたいのか理解できん」
パーティメンバーですらない冒険者間に上下関係などない。それぞれが自分の命を賭けているのだ。地球にも上下関係を作るのが大好きな連中はいるが、そういうのとは言葉が通じない。同じ言語のはずなのに不思議だ。
エリカがオレに耳打ちする。
「こいつら嫌いよ。嫌だって言ってもしつこいんだから」
聞こえたのか、内容を想像できたのか、奴らの表情が明らかに変わった。
オレ 「お前らの相手してるほど暇じゃないんだ。じゃーな」
ザック「そういうことだ。スターグよ、またな」
奴らが引くに行けなくなったのは理解している。だが、こういう馬鹿を穏便にあしらう方法など知らない。5人が怒り心頭の顔になっているが、こっちは8人もいるし、さすがに女子の前であんまり理不尽な真似はできないらしい。手出しできずに、ただ睨みつけている---主にオレを。
スターグの点が赤になった。それが感染したのかすぐに赤が2つ増えた。思い通りにならなかったのがそんなに悔しいのか。理解できない人種だ。
次に会ったら戦闘だな。
準備しとこう。
十分離れたところで軽トラックを出した。
「よし、これに乗って帰るぞ。ウマ無し馬車だ。何を言っているのか分からんと思うが、乗ってみれば分かる」
でかい物を出したので女子4人がアイテムボックスの容量に驚いている。だが、軽トラにはどう反応したらいいか分からないらしい。
ザック 「また出たな」
ロンセル「今まで出した物では一番大きいな」
アドル 「これも魔道具なのか」
「よーし、師匠はここに座ってくれ。後の6人は後ろな。風が気持ちいいぞ」
どさくさ紛れにクロエを助手席に座らせる。
街までは徒歩数時間だから、時速15Kmなら2時間くらいか。ガタゴト道だし、後ろに人を乗せているのでゆっくり走る。それでも馬車よりはだいぶ早い。
「「「 うお!! 」」」
「「 動いた! 」」
「 あわわ、勝手に走ってるよ.. 」
車の中でクロエと2人っきりだ。
マリー「わたしもそっち乗ってみたいんですけどー」
エリカ「次は私ね」
ケイト「私も乗るからね」
オレ 「わかった、わかった。少し走ったら交代だな」
どうやら2人きりの時間は短いようだ。
「不思議な魔道具ですね。座り心地が素晴らしいです。ありえないくらい美味しい食べ物に、この乗り物です。エドさんは、身分を詮索してはいけない方だということは理解しました。でも、あの呪文が何なのか、師匠である私には教えてもらえますよね?」
「そんな大層な身分じゃないんだが..」
別の世界が遠い国とかじゃなく、文字通りの別の世界であることや、そこには魔法が存在しないことを説明した。
「呪文の意味は自分でも分からないけど、興味があるなら何回でも見せるさ。こっちもまだまだ師匠には魔法を教わりたいし。だから、その、おっ、オレと時々会ってくれるよな?」
「いいですよ~。もしかしなくても、それは口実で本当は..」
「あっ、いやっ、そうじゃなくて、いやそうなんだけど」
「ふふっ、最初から分ってますよ。池のほとりではまるで魔法にかかったみたいに呆けて、『は~い、時間です。次は私の番になりした!』
くっ、なんたるお邪魔虫。いいところだったのに。
次はマリーが助手席に座る番らしい。
「はーい、お邪魔しまーす。おお~、柔らかーい」
「いいだろう。普通の馬車はすぐ尻が痛くなるもんな」
「うん、この馬車?でならどこまでも行けるよ。こんな不思議な乗り物まで持ってるなんて只者じゃないよね。エド君って、やっぱりどこかの貴族?」
マリーは遠慮なく切り込んでくるな。別にいいけど。
「そんな大層な者じゃないぞ。特に金持ちでもないし、って言っても信じられないか。オレが住んでいた世界とここでは物の価値が違うだけなんだが」
「別の世界とか言ってたよね。エド君と一緒になら別の世界へでも行けるかな、なんて思ってるよ。もちろん連れてってくれるよね?」
「お前は食べ物に釣られてるだけだろ」
マリーは可愛い系の美人だ。魔法使い帽子が良く似合ってるし、すごく好みではある。だが、しかし、エルフじゃない。
「うん~?否定はしない。あんな美味しいもの出されたら逆らえないよ。でも、それだけじゃないし。エド君、いい感じだよ。クロエに一目ぼれだったみたいだけど、あんなのノーカンよ。迂闊にエルフと見つめ合ったらダメだよ?」
「なんで?」
「あんたみたいな惚れっぽい男なら簡単に魂持って行かれるんだから」
「それと甘物に釣られるのも似たようなもんだろ」
「ちーがーうー。エルフを見たのが初めてなら、目に魔力が籠ってるの知らないでしょ。あんなに綺麗な上に目から魔力なんてずるいわ。イカサマよ」
「そんなのどうでもいいさ。綺麗なのは本当だし」
「ああ~、やっぱり魅入られてる。正気に戻ったら、絶対に私の方がいいって思うから」
エリカにも同じようなことを言われた。
「いい、エルフの目には魔力が籠ってるのよ。あの子に一目惚れしたとか思ってるかもしれないけど、それ勘違いだから」
「魔力なんて関係ないね。運命を感じたんだ。奇跡の出会いなんだ」
「あんたチョロすぎよ」
「お前こそ誰を好きだか思い出したか?酒に釣られて手のひら返すとか安いにもほどがあるだろ」
「うっ、うるさい!あれはっ..仕方ないだろ。冷えててあんなに美味しいエールや甘い氷菓まで出すなんて、あんたもずるい..」
「で、お前が好きなのは誰なんだ?」
「そっ、それは...ごにょごにょ、あーもうっ!」
ズドッ!
「おごっ!...だから、それやめろって」
ケイトだけは正気っぽい。もしかして、うちのロンセルみたいな役回りか。
「はい、私の番ね。あ、私の大切な槍どうしよう?」
「貸してみな。街に着くまで預かっといてやるから」
槍は虚空に消えた。
「うん、やっぱり便利ね。こんな旦那さん欲しいわ」
「おいおい、お前まで。ロンセル狙いじゃなかったのかよ」
「なっ、何故それを!?」
「いや、バレバレだから。エリカが正気を無くしてるから、今がチャンスだぞ」
「そっ、そうね。でも、もしまだショコラがたくさんあったらどうしようとか考えると、自分でも何言ってるのか分からないわ」
「ちょっと落ち着け。いいか、お前は食い物に釣られるような安い女じゃない。わたしは安くないって3回唱えるんだ」
「うん、やってみる」
「落ち着いたか?」
「うん、たぶん大丈夫」
「ショコラくらいときどき持ってくるから、そんなもんに釣られるなよ?オレとしちゃロンセルが誰とくっつこうがどうでもいい。お前がその気ならいくらでも協力するからな」
「うっ、うん。でも、あの、冷たくて甘いのもあるんでしょ。私どうすればいいの?」
「あー、分かった。今は考えるな。2~3日頭を冷やせば正気に戻るだろ」
ハーレムなんていらない。そんな甲斐性はないからな。一番気に入った相手1人だけでいい。目に魔力とか関係ない。少しでも可能性があるのなら全力でいく。奇跡的に本物のエルフと知り合えたのに他に選択肢なんてない。
助手席に交代で座る女子4人と話しながら巨木の森の近くまで来た。前方に護衛付きの馬車が見えた。くっころさん一行だな。月明かりで十分見えるからヘッドライトは点けてない。向こうには気づかれてないだろう。車を止めて双眼鏡で見ると馬車が大型犬に囲まれていた。たぶん狼なのだろう。
オレ 「前にいる馬車が狼みたいなのに囲まれてるな」
ケイト「ちょっと私にも見せて。お~、すごい近くに見える。うん、銀狼と貴族の馬車ね。これは美味しいかも。銀狼の毛皮は高く売れるし、貴族に恩は売れるし」
-リューズライト家の馬車-
「伯父上は手出し無用じゃ」
「好きにするがよい」
「アゼリーナはそっち側を頼んだぞ」
「まかせて」
「ふっふっふ、飛んで火にいる犬っころ共じゃ」
エレジーナがぼやく。
「ジゼルマイン様、護衛の意味がありません」
***
オレ達が狸の皮算用をしていると、馬車の左側からどこかで見たような女の人が出てきた。右からはこの前見た白いドレスの少女が出てきた。まさか、あの2人が戦うのか。護衛がいるのに?
馬車の右側に出た少女が火球を放ち始めた。着弾と同時にナパーム弾のように炎が広がる。オレのファイヤーボールとは少し違うようだ。ここまで聞こえないが、少女は高笑いが聞こえてきそうなオーバーアクションで次々と火球を放ち、道の右側は地獄の業火に覆われてしまった。
あれは絶対高笑いしてるだろ。
それも雑魚を痛ぶる魔王のような顔で。
可憐な美少女などいなかった。
オレが見たのは幻覚だったのだ。
馬車の左側では空気中に舞う何かが月明かりを反射してキラキラ光った。そしてすぐ霧に覆われたように見えなくなった。もやが晴れると狼は全滅していた。
彼らは獲物には興味が無いらしく、戦闘が終わるとすぐに去ってしまった。道の右側には黒焦げの狼が転がり、左側には綺麗な死体が転がっている。
マリー「ああ~、なんてもったいない。銀狼の毛皮が」
ケイト「こっち側のは綺麗ね。これなら売れるわ。冷たっ!凍ってるわよ、これ」
クロエ「すごいですね。あれが噂の機械好き伯爵ご一行ですか」
オレ 「なるほどなあ。護衛が少ない理由はそういうことか。あれじゃ護衛なんてお飾りだ」
アドル「遺跡から出た魔法陣もあの2人がやったのかもな」
ケイト「貴族に恩は売れなかったけど、これはこれで美味しいわね」
凍死した銀狼13匹をアイテムボックスに収納した。売り上げは山分けだ。ばらで入れたので13枠消費してアイテムボックスの余裕がなくなってきた。次は犬10匹くらい余裕で入るコンテナでも持ってくるか。
このまま走るとまたすぐ馬車に追いついてしまう。この先は道が左にゆるくカーブしているので、草原を突っ切ってショートカットすることにした。
脳内マップの空白地帯が更新されていく。
30分も走らず道に戻った。
伯爵ご一行の馬車は、5分か10分くらい引き離したはずだ。街まではもうすぐだ。まだ日が沈んで2時間程度なので、街へ戻る冒険者が他にもいる。
猫耳3人組が歩いていたので合流した。
ミシャーナ(斧猫) 「なあなあ、エド、この4人の誰が好きなんだ?」
こいつ、ニヤニヤしやがって。
ザック 「エドはなあ、エルフに魂を抜かれたみたいだぞ」
リニャータ(弓猫) 「あちゃ~、後でうちがまたたびあげるにゃ。
そしたら正気に戻るにゃ」
ミャナーシャ(魔猫)「むむ。わたしと手をつなげば、きっとすぐ正気に戻る」
クロエ 「みなさん、酷くないですか?人のことを悪い魔女みたいに」
街のゲートはすでに閉まっていたが、見張りに声をかけたら横のドアを開けてくれた。今日はここで解散だ。
エリカ達は4人で家を借りている。やはりパーティに回復役がいると収入が安定して小さな一軒家くらいは余裕で借りられるらしい。
オレ達は犬肉亭へ、猫耳3人組も今回は同じく犬肉亭に泊る。
《納屋11》




